平成22年度富山県民経済計算の推計結果による
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1 はじめに富山県民経済計算は、本県の1年間(年度)の経済活動の結果を、生産・分配・支出の三面から総合的・体系的にとらえ、本県経済の規模や成長率、さらには産業構造などを明らかにする加工統計で、直近の平成22年度富山県民経済計算は、本年3月19日に公表しました。 その概要は、平成22年度富山県民経済計算報告書(以下、「本県報告書」という。)又はホームページ「とやま統計ワールド( |
(表1)県内総生産(名目)の経済成長率![]() ※上記は、各基準で最後の遡及改定値となったものから、最大値と最小値を選んだもの(S50年度の値は無し)。 |
また、本県報告書やホームページでもご案内しておりますが、平成22年度富山県民経済計算では、国民経済計算にあわせて、基準年次をこれまでの「平成12年基準」から「平成17年基準」に改定し、推計に用いる産業連関表等を変更するとともに、金融仲介サービスの推計方法の変更や政府関係諸機関の分類の見直しなどの概念の変更も行い、推計対象期間を平成13年度以降とする基準改定を実施しましたので、基準改定の県内総生産への影響についても、名目値をベースに平成21年度県民経済計算と比較してご紹介いたします。 なお、ご紹介する分量が多いことから、「生産」と「分配、支出」を分け、本号では「生産」に関してご紹介いたします。 |
2 富山県の県内総生産(名目)と全国シェア図1は、県内総生産(名目)とその国内総生産(名目)に占める比率の推移図です。リーマンショックのあった平成20年度と翌21年度に、県内総生産が大きく減少していますが、特に第2次産業の減少が大きくなっています。 また、対国内総生産シェアの折れ線グラフをみると、平成21年度に大幅にシェアを落としていますので、本県経済は全国と比較してリーマンショックの翌年度により大きく影響が現われたことと、平成22年度にかなり回復したものの、回復水準はようやく全国に追い付いてきた状況にあることを示しています。つまり、前掲の表1の平成22年度の経済成長率(名目)4.3%はバブル景気末期と同水準の高い率ですが、富山県民経済計算等で経済成長率の推計結果が残る昭和31年度以降、平成21年度の経済成長率(名目)▲7.8%が最も低い率、平成20年度の▲5.4%が2番目に低い率という急激な経済悪化からの回復過程にあるが、回復しきれていないという面にも留意が必要です。 |
図2は、本県の年度別経済成長率(名目)に係る第1次・2次・3次産業別の寄与度(この場合、全体の経済成長率にどれだけの影響を与えているかを示し、その合計は経済成長率と一致します)の図です。平成20年度から22年度の本県経済において、第2次産業の生産水準の落ち込みや回復が大きな影響を与えていることを示しています。 |
3 特化係数からみた富山県経済経済活動別県内総生産(名目)の各産業別構成比の円グラフ(図3)では、本県では製造業が大きな割合を占めていますが、この経済構造の特徴をより示すものに特化係数の図があります。特化係数の図は、本県の産業別構成比を全国の産業別構成比で除すること(本県の特定産業の構成比÷全国の特定産業の構成比)によって、本県の産業構造が全国平均と比較してどの産業に特化しているかを示しています。 平成22年度の特化係数の図4では、平成22年国勢調査による全就業者に占める割合が24.1%で全国第4位である製造業や、多くの水力発電所を有する電気・ガス・水道業が、全国平均より特化の度合いが強いことを示しています。 |
基準改定により平成17年度から産業分類の変更がありましたので、産業の概念が同じである平成17年度以降の特化係数の図を並べてみると、若干の変化はありますが、やはり製造業と電気・ガス・水道業に特化しているということができます(図5)。 また、建設業については、北陸新幹線整備事業が寄与し、徐々に特化係数の増加がみられます。 |
ところで、鉱業は、平成17年度や19年度に特化の度合いが著しく強く、その他の年度は平均的になっていますが、これは、総生産の規模が小さいため、年度による生産規模のバラツキが構成比に大きく反映(例.0.1%→0.2%でも、2倍の変化)することがあるためです。 なお、特化係数だけでなく、経済活動別県内総生産(名目)の構成比の推移図(図6)もあわせてみると、平成17年度まではわずかずつ増加していた製造業が、平成18年度からは逆に少しずつ減少し、リーマンショックで大幅に下がり、平成22年度にはかなり増加したが、まだ平成19年度以前の水準には回復していない動きについて、多角的に把握することができます。 |
次に、製造業の各産業についての特化係数の図7をみると、平成17年度以降では、リーマンショック後の景気後退の影響が特に大きかった平成21年度を除けば、繊維、パルプ・紙、化学、非鉄金属、金属製品、一般機械、電気機械、その他の製造業において特化の度合いが強い数値を示しています。 これらの図にあわせて、本県報告書に掲載した図「製造業の中分類別総生産の推移(名目)」もみると、化学、非鉄金属、金属製品、一般機械、電気機械が、特化の度合いが強く、構成比も大きいという本県の経済構造の特徴が浮かびあがりますので、是非、ご覧ください。(「とやま統計ワールド( |
4 就業者1人当たり県(国)内総生産(名目)の推移前記の県内総生産(名目)の対国内総生産シェアの推移図(図1)からは、リーマンショク前からもシェアの減少がみられます。そこで、県(国)内総生産の動向に影響が大きい要素である人口(就業人口)や生産性に関する推移についてみてみます。 就業者1人当たり総生産(名目)を本県と国で対比すると、本県は全国を上回った水準でほぼ横ばいとなっています(図8)。一方、総人口と就業人口は国がほぼ横ばいになっていますが、本県では、平成22年国勢調査による老年人口割合(総人口に占める65歳以上人口の割合)が26.2%で全国第15位と高齢化の進展が早い状態にあることから、右肩下がりとなっています。この期間については、人口や就業人口の推移の傾向が対国内総生産シェアの低下に、より影響していると考えられます。 |
次に、各産業別の就業者1人当たり総生産(名目)についてみてみます。ここでは、特化係数により特化の度合いが強く示される産業でも、就業者1人当たり総生産(名目)は、必ずしも全国水準を上回るわけではないことにも、ご注意ください。 |
さて、図1や図2でみた、リーマンショック後の需要の減少とその本県経済構造上の影響が就業者1人当たり総生産(名目)でも色濃くみられる産業は、製造業と電気・ガス・水道業です。 特に、製造業では、リーマンショック後に就業者1人当たり総生産(名目)が全国を下回ったまま平成22年度においても回復していません。また、本県製造業では、平成18年度とリーマンショックの前年度である19年度に就業者1人当たり総生産(名目)の対国比の折れ線グラフが下降していますが、推計結果ではこの期間、(本県報告書掲載の統計表のとおり)本県製造業では全体の産出額が増加していますので、国内景気の拡張期ではありましたが厳しい競争環境にあったことを示しています(図10)。 電気・ガス・水道業については、平成17年度からリーマンショックの前年度である19年度に対国比の折れ線グラフは横ばいですが、就業者1人当たり総生産(名目)は、急上昇した燃料価格などの要因により、本県・全国ともに減少しています(図11)。 |
建設業とサービス業ついては、留意すべき特徴がありますので、ここでは、その点をご紹介いたします。 建設業の就業者1人当たり総生産(名目)の対国比の折れ線グラフについては、平成15年度と20年度に落ち込んでいますが、これは本県の建設業就業人口の変動推計に用いた統計値の増減幅が大きかったことによる影響です。なお、平成21年度及び22年度の就業者1人当たり総生産(名目)は、北陸新幹線整備事業が寄与し、全国を上回っています(図12)。 サービス業の就業者1人当たり総生産(名目)は、全国を上回ったまま横ばいで推移しています。これは、サービス業の中の公共サービス(教育、研究、医療・保健・介護 他)・対事業所サービス(広告業、業務用物品賃貸業、自動車・機械修理業 他)・対個人サービス(娯楽業、飲食店、旅館・その他の宿泊所、洗濯・理容・美容・浴場業 他)間の構成について、本県は全国と比較し対個人サービスが若干低いことによるものです(図13)。 |
政府サービスについては、就業者1人当たり総生産(名目)の対国比の折れ線グラフが、下降傾向となっています(図14)。政府サービスを構成する主なものは固定資本減耗と県(国)内雇用者報酬ですので、分解した図も用意してみると、この期間では、 |
卸売・小売業、金融・保険業、対家計民間非営利サービスは就業者1人当たり総生産(名目)は増減又は横ばいと違いがありますが、対国比の折れ線グラフでは全国の水準を下回った水準で横ばいに近い状態で推移しています(図17〜19)。 |
5 基準改定による推計値の変化平成22年度県民経済計算(平成17年基準)(以下、「17年基準」という。)と平成21年度県民経済計算(平成12年基準)(以下、「12年基準」という。)とを比べると、同じ年度の推計値でも大きく異なる場合があります。そこで、同じ年度の推計値がそろっている平成13年度から21年度までの値を、項目別に比較してみます。 売上げにあたる産出額は、すべての年度において、17年基準値が12年基準値を上回っています(図20)。特に平成13年度から18年度においてはその差が大きく、平成19年度から21年度については、平成13年度から18年度の数値の約半分にその差が小さくなっています。(本県報告書掲載の統計表により)産業別にみてみると、卸売・小売業で17年基準値が12年基準値を大きく上回っています。また逆に、サービス業、金融・保険業で17年基準値が12年基準値を下回っています。 中間投入額の17年基準値と12年基準値には大きな差がありませんでした(図21)。 |
このため、県内総生産の17年基準値と12年基準値を比較した図は、産出額と同じ傾向を示します(図22)。 |
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付加価値である県内総生産の内訳は、生産要素に対して支払われた費用として、固定資本減耗、県内雇用者報酬、営業余剰・混合所得など(注を参照)によっても表されます。 結果として、基準改定による時価評価の導入推計を行った固定資本減耗や、県内雇用者報酬では、本県の推計結果では17年基準値と12年基準値には大きな差がありませんでした(図23、24)。このため、差し引きで推計される営業余剰(企業の営業利益に相当)・混合所得(個人企業の所得に相当)に産出額で生じた17年基準値と12年基準値との差がみられます(図25)。 |
次に、産業別に県内総生産の17年基準値と12年基準値をみてみます。 まず、17年基準値が12年基準値を全ての推計年度で大きく上回っている産業は、卸売・小売業でした(図26)。これは、今回の基準改定に伴い推計に用いる統計を、「商工業実態基本調査報告書(経済産業省)」から「商業統計表」に変更したことに伴うものです。 製造業については、あとでより詳細な中分類によりその変化をみてみます(図27)。 |
17年基準値が12年基準値を下回っているのは、製造業の他では、林業、金融・保険業、運輸・通信業(運輸業、情報通信業)、サービス業でした。 林業は、基準改定による政府関係諸機関の分類の見直しにより、国有林野事業特別会計が産業から中央政府に格付け変更したことに伴い、国有林の産出額を林業から除外したため、総生産も減少したことによるものです(図28)。なお、12年基準値で林業の総生産は、政府サービスの1%程度ですので、上記の基準改定により政府サービスの総生産が目に見えて増加することはありません。 金融・保険業については、基準改定により、それまでの帰属利子からFISIM(間接的に計測される金融仲介サービス)を導入したことによるものです(図29)。金融・保険業では、17年基準値は12年基準値から1割程度減少(全産業の5%程度が4.5%程度に減少)しましたが、平成12年基準値では、金融・保険業の7割程度の額を帰属利子として全産業合計から控除(全産業の3〜4%を控除)していたものがなくなりましたので、FISIMの導入は県内総生産全体でみれば、FISIM消費で中間投入が増加する分も考慮する必要はありますが、額を押し上げる効果がありました。 |
運輸・通信業とサービス業については、平成17年度以降の値に大きな差があります。運輸・通信業は大きく増加し、サービス業は大きく減少しています(図30、31)。これは、主に産業分類変更に関する改定によるものです。国(県)民経済計算の産業分類の運輸・通信業が、運輸業と情報通信業に分割し、それまで、国(県)民経済計算上サービス業として扱われていた放送業、情報サービス、映像・文字情報製作業が情報通信業に分類の変更があったためです(サービス業以外の産業からの分類の変更も有り)。この産業分類の変更については、平成17年度以降の適用になるため、17年度以降の値について運輸・通信業が増加し、サービス業が減少しています。このため、図32のように、運輸・通信業とサービス業を合計して比較すると、概ね一致します。なお、若干17年基準において下回っている部分は、サービス業の推計において、従業者1人当たり現金給与の対全国比も用いたことの影響です。 |
そのほかの、農業、水産業、鉱業、建設業、電気・ガス・水道業、不動産業、政府サービス、対家計民間非営利サービスについては、総生産は、12年基準値と17年基準値では大きな差が生じませんでした。(例として第1次産業の水産業、第2次産業の建設業、第3次産業の電気・ガス・水道業の12年基準値と17年基準値の比較グラフは以下の図33〜35のとおりです。) |
次に、製造業について、より詳細な産業分類でみていきます。 製造業は、 化学、金属製品、電気機械は、間接費を推計する統計の変化によるもので、化学は、中間投入額が減少し、総生産が増加、一方で金属製品と電気機械は、中間投入額が増加し、総生産が減少しています。 |
一次金属で生じている差は、推計に用いる工業統計値(暦年値)を年度値に転換するための指数を12年基準値から17年基準値に変更した影響によるものです(図39)。 さまざまな細業種を推計後合算して表すその他の製造業についても、図のとおり17年基準値が12年基準値をすべての年度において下回っています(図40)。 |
その他の中分類の産業については、基準改定があったものの、12年基準値と17年基準値では総生産においては、大きな差が生じませんでした。(例として、パルプ・紙、一般機械の12年基準値と17年基準値の比較グラフは以下の図41、42のとおりです。) |