特集

短観でみる北陸・富山県経済の現状

日本銀行富山事務所長 佐子裕厚

1 はじめに

 北陸の経済は、全体としては持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースが緩やかになっています(2011年12月、北陸の金融経済月報<日本銀行金沢支店>)。

 昨年(2011年)1年間の富山県の経済を振り返りますと、リーマンショックからようやく脱しつつあるところからスタートしましたが、3月の東日本大震災のダメージにより(個人消費や観光に関する自粛ムードの広がりや、電気機械や自動車部品等での部材調達難による生産調整等)、夏場にかけて、停滞感がみられる状況になりました。ただ、こうした停滞感は、1当地の化学・一般機械産業には震災の影響が余り及ばなかったこと、2仮設住宅建設の動きが当地の金属製品産業の生産を押し上げたこと等から、比較的早期に払しょくされ、生産も最終需要も震災前の状況に復して秋口を迎えました。「一部に厳しさが残るものの、全体としては持ち直しの動きが続いている」(2011年11月、富山県経済クォータリー<日本銀行富山事務所>)と判断していたところです。

 昨年12月15日に「企業短期経済観測調査」(短観)の最新結果を公表しました。これをみますと、為替円高、海外経済の減速、タイの洪水等の懸念材料を反映し、足許の経済状況は、持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースは緩やかになっているとみられます。

 富山県は、第二次産業のウエイトが高いうえに業種の幅が広く、勤勉な県民性や共働き夫婦が多いこと等も相俟って、経済の「厚み」となっているように思います。

 今年の富山県経済をみていく際には、こうした当地経済の「厚み」と円高等の懸念材料のバランスがどうなっていくのかがポイントだと思います。

 本稿では、このような北陸および富山県の経済の動きについて、短観のデータに基づいて検証してみたいと思います。

(注)短観(「企業短期経済観測調査」)は、資本金2千万円以上の民間企業を対象に、毎年3、6、9、12月に調査を実施。全国では約1万1千社、北陸地域では、富山、石川、福井の三県の約350社が対象。北陸短観では、北陸三県の対象先を日本銀行金沢支店が集計し、公表しています。なお、北陸短観では、各県別の「業況判断D.I.」を公表していますが、サンプル数が不足しており、統計精度は必ずしも高いとは言い難いため、参考値となっています。

2 北陸短観(2011年12月調査)の概要

 今回の調査は352社(うち製造業147社、非製造業205社)を対象に行い、調査先の皆様にご協力をいただき、全社から回答を得ることが出来ました。回答期間は11月14日〜12月14日で、回答期間中の円/ドル相場は76.73円〜78.01円(9月調査では、76.35円〜77.55円)、日経平均株価は8,722.17円〜8,160.01円(同、9,060.80円〜8,374.13円)、WTI原油スポット価格は1バレル当たり102.59ドル〜94.95ドル(同、90.21ドル〜79.20ドル)でした。

(1)業況判断D.I.

 北陸(全産業)における企業の業況判断(図表1)をみますと、2011年9月調査に比べて緩やかながら改善しており(9月▲7%ポイント→12月▲5%ポイント。以下D.I.では「%ポイント」を省略)、9月調査に続き2期連続の改善となりました。

 これを製造業、非製造業別にみますと、製造業では9月▲5→12月+4と9ポイントの改善となり、2010年9月(+1)以来1年3か月振りにプラスとなりました。他方、非製造業では9月▲8→12月▲11と3ポイントの悪化となりました。

 これは、東日本大震災に関する復興需要や為替円高による輸入原材料価格の低下等を背景として、素材業種の業況感が改善する一方、海外景気の減速や観光面の動意薄等を背景として、加工業種や一部の非製造業の業況感が悪化したことによるものです。

 なお、先行きに関する回答をみますと、製造業(▲7)、非製造業(▲19)、全産業(▲14)とも最近に比べて悪化する結果となっており、総じて、景気の先行きに対する企業の慎重な見方を窺わせました。

(図表1)業況判断(北陸/全国) (D.I.・%ポイント、社数構成比・%)


(注)判断項目において、「最近」は回答時点を、「先行き」は3か月先までを示す。
「最近」の変化幅は、前回調査の「最近」との対比。
「先行き」の変化幅は、今回調査の「最近」との対比(以下同じ)。

 これを、富山県(図表2)についてみますと、製造業では9月▲9→12月▲2と7ポイントの改善となる一方、非製造業では9月▲8→12月▲22と14ポイントの悪化となり、全産業でも9月▲8→12月▲14と6ポイントの悪化となりました。北陸全体に比べて、非製造業での悪化幅が大きく、全産業でも悪化したのが特徴です。

(図表2)業況判断の推移(富山県) (「良い」−「悪い」・%ポイント)
業況判断の推移(富山県)

(注)社数は、2011/12月調査における回答企業数(以下同じ)。

(2)業種別の業況判断

 北陸企業の業種別業況判断(図表3)をみますと、製造業では、改善が7業種、悪化が3業種、不変が4業種と、多くの業種で改善しています。内容としては、東日本大震災関連の復興需要や足許の自動車生産の回復(繊維、木材・木製品、窯業・土石、金属製品)、為替円高等による原材料価格の低下(鉄鋼、非鉄金属)等により、主に素材業種において改善しています。

 一方、非製造業では、改善が2業種、悪化が5業種、不変が3業種となっており、悪化と回答する業種の方が多くなっています。内容としては、競合店との競争激化や欧州危機等による消費マインドの悪化懸念(不動産、卸売、小売)、観光面の不冴えや原油価格高止まりによる収益悪化(運輸・通信、電気・ガス)等が挙げられています。

 なお、富山県の業種別データはありませんが、概ね同様の状況にあると考えられます。ただ、北陸全体に比べて、非製造業のマイナス要因がより強く出ているとみられます。

(図表3)主要業種別の業況判断推移(北陸) (「良い」−「悪い」・%ポイント) 主要業種別の業況判断推移(北陸)

(3)売上・収益

 北陸企業の2011年度事業計画(図表4)をみますと、9月調査に比べて、製造業で下方修正される一方、非製造業では上方修正となり、全産業では増収・増益を維持するかたちとなっています(増収は2年連続、増益は3年連続)。

 これは、このところの為替円高や海外からの需要減少を背景に、製造業が、輸出関連産業を中心に事業計画を慎重化させる一方、非製造業では、東日本大震災関連の復興需要にも支えられて増収・増益方向に振れていることによるものです。

 より具体的にお示しすれば、製造業では、化学、電気機械、輸送用機械といった業種で減益を見込む一方、木材・木製品、紙・パルプ、窯業・土石、はん用・生産用・業務用機械といった業種では増益を見込んでいます。非製造業についてみますと、建設、卸売、小売、サービスといった業種で増益を見込む一方、物品賃貸、運輸・通信、鉱業・採石業・砂利採取業といった業種では減益を見込んでいます。

 なお、富山県においても、ほぼ北陸と同様の動きとみられますが、ヒアリング情報では、非製造業において、収益を厳しく見込む先が多いようです。

(図表4)事業計画(北陸/全国)
  10年度実績 11年度計画
売上高 経常利益 売上高
経常利益率
売上高 経常利益 売上高
経常利益率
北陸 製造業 12.8 2.1倍 4.24 1.4 ▲0.6 4.16
非製造業 0.6 24.1 2.49 2.4 6.6 2.60
全産業 7.5 73.3 3.50 1.8 1.5 3.50
全国 製造業 6.8 67.5 4.31 2.2 ▲5.2 4.00
非製造業 3.4 24.2 3.27 1.7 ▲4.6 3.06
全産業 4.5 38.3 3.61 1.9 ▲4.8 3.37

(注1)北陸は石油製品、電気・ガスを除く。

(注2)売上高、経常利益は前年度比(%)。100%以上のときは「倍」で表示。
売上高経常利益率は実数(%)。

(4)設備投資

 北陸企業の設備投資計画額(図表5)をみますと、9月調査に比べて、製造業、非製造業とも下方修正となりました。ただ、前年比でみますと、製造業が前年を上回る計画を維持する結果、全産業でも前年を上回る計画となっています。

 設備投資は、企業の中期的な戦略を表すものですが、ここにきて、製造業、非製造業とも下方修正となったことは、景気の先行きに対する企業の慎重な見方を裏付けるものと言えます。

 ただ、こうした中にあっても、製造業が前年比でプラスを維持していることや、非製造業には前年に行った積極的な設備投資の反動減といった面があることを考えれば、あまり悲観的に考える必要はないと思います。

 より具体的にお示しすれば、製造業では、食料品、金属製品、電気機械といった業種で前年を上回る一方、木材・木製品、紙・パルプ、化学といった業種では前年を下回る計画となっています。非製造業では、物品賃貸、卸売といった業種で前年を上回る一方、不動産、運輸・通信、サービスといった業種では前年を下回る計画となっています。

 なお、富山県においても、ほぼ北陸と同様の動きとみられますが、ヒアリング情報では、前年の大型投資の反動減の影響がより大きく出ているようです。

(図表5)設備投資計画(北陸/全国)

設備投資額 (前年度比、前回比修正率・%)
設備投資計画(北陸/全国)

(注1)ソフトウェア投資額を除くベース。

(注2)北陸は石油製品、電気・ガスを除く。

(注3)2010年度から、リース会計対応ベース(2008年4月1日以降開始される事業年度から適用された「リース取引に関する会計基準」<企業会計基準第13号>および「リース取引に関する会計基準の適用指針」<企業会計基準適用指針第16号>に対応した設備投資関連指標)。このため、2009年度以前(リース会計対応前ベース)とは計数の不連続が発生。

生産・営業用設備判断

(「過剰」−「不足」・%ポイント)
生産・営業用設備判断

(5)雇用

 北陸企業の雇用面(図表6)をみますと、雇用者数は、2011年9月末時点で、製造業、非製造業とも前年比プラスとなり、全産業では、2年9か月振りにプラスとなりました。

 2011年度の新卒採用計画をみましても、製造業の積極的な採用計画の下、全産業で4年振りに前年比プラスとなっており、2012年度も増勢を維持する見込みとなっています。

 雇用判断D.I.をみますと、製造業の動きを受けて、足許の過剰感が幾分強まる結果となっていますが、先行きについては過剰感が縮小していく見通しです。

 景気の先行きに対する慎重な見方が強まる中にあっても、雇用面の緩やかな持ち直し状況は続いているとの評価が可能です。

 労働市場の流動化により、企業の中期的な経営スタンスをみる指標としての雇用の意味合いは薄れてきていますが、前向きな動きが継続している点は好材料と言えます。

(図表6)雇用(北陸/全国)

雇用者数 (前年同期比・%)
雇用者数

(注)北陸は石油製品、電気・ガスを除く。

新卒採用計画 (前年度比・%)
新卒採用計画

(注)北陸は石油製品、電気・ガスを除く。

雇用人員判断 (「過剰」−「不足」・%ポイント)
雇用人員判断

(参考)有効求人倍率の推移
  2011年8月  9月 10月 11月
北陸 0.91倍 0.92 0.93 0.93
 うち富山 0.90 0.88 0.88 0.89
全国 0.66 0.67 0.67 0.69

3 結び

 今回の短観結果をまとめますと、景気の持ち直し持続により、企業の景況感は、足許、改善しています。ただ、売上・収益見通しや設備投資計画が9月調査比下方修正される等、為替円高や海外経済の減速等を背景として、景気の先行きについては慎重な見方が強まっています。

 他方、売上・収益面で「増収・増益」が維持されていることや、雇用面での企業の前向きな姿勢が続いていることは、今年の景気をみていくうえで、心強い点です。

 日本銀行としては、こうしたプラス・マイナスの両面をしっかりとフォローしながら、景気の局面に応じた適切な金融政策運営に努めていく所存です。

 私ども富山事務所としましても、県内の皆さまのご意見をお聞きしながら、当県経済の適切な把握と皆さまへの情報提供に努めて参りたいと考えております。引続き、ご理解・ご協力をお願い致します。

とやま経済月報
平成24年1月号