特集

2年連続マイナス成長となった平成19年度富山県経済
−県民経済計算の生産系列からみた県内経済の特徴−

統計調査課 野川 晃

1.はじめに

 県では本年1月に平成19年度富山県民経済計算の結果を公表し、また3月には内閣府から全都道府県を取りまとめたものが公表された。

 平成20年にリーマンショックによる世界的不況という劇的な変化があったため、平成19年度というと何か相当昔のように感じてしまうが、サブプライムローン問題の発生等様々な経済的変化があり、注目すべき年である。

 手前味噌ながら、県民経済計算により毎年度の経済規模、動向をマクロ的に具体的データとして記録・分析することは必要なことである。本稿では、本県の平成19年度の県民経済計算結果の特徴について、生産系列に絞り、全国や石川県等と比較しながら見てみたいと思う。
(今回使用する県民経済計算の数値はすべて名目値によるものである。また、平成19年度推計にあたっては、平成8年度まで遡及修正している。)

2.平成19年度の日本経済 

 私も含め昨日の食事の内容さえ思い出せないのに、平成19年度のことなどよく覚えていないという多くの人のために、まず平成19年度の出来事を振り返ってみる。経済的影響等があった主なものとして、

6月改正建築基準法施行
三位一体改革による税源移譲により住民税アップ
7月中越沖地震
参議院議員選挙
8月サブプライム問題発生

等があげられる(富山では総曲輪フェリオがオープンした年といえば思い出す人も多いかもしれない)。この中でも特筆すべき事項は、経済に大きな影響を与えた改正建築基準法施行とサブプライム問題発生であろう。

 そのほか原油・穀物価格の上昇等もあげられ、こうした中我が国経済は、平成14年1月から続いた景気拡大にピリオドを打ち、平成19年10月が景気の山とされた。まさに景気の転換点にあった年であった。

 国や各都道府県の経済成長率をみると、国では名目成長率が1.0%とプラス成長であったものの平成18年度の1.5%から低下した。都道府県別では、成長率が低下した県は29道府県(平成18年度は19都府県)、マイナス成長となったのは本県も含め24道県(平成18年度は11道県)とともに大幅に増加し、各県の県民経済計算結果からも景気の転換点であったことが見て取れる。(図1)

図1 経済成長率がマイナスとなった都道府県が大幅に増加
― 平成19年度都道府県別経済成長率(名目) ―

3.平成19年度の県内経済

(1)経済成長率(名目) 〜2年連続マイナス成長となった本県経済〜

 次に、本県経済についてみてみると、経済成長率は▲0.8%と平成18年度の▲1.8%からはマイナス幅が縮小したものの、2年連続でマイナスとなり、北陸3県では3年連続最も低いものとなった(図2)(成長率の全国順位は高い順に第32位)。

図2 北陸各県の経済成長率の推移(名目)

(2)県内総生産 〜石川県を下回った県内総生産〜

 本県の平成19年度の県内総生産(名目)は、4兆6、543億円と遡及修正している平成8年度以降では最も低い水準となり、5年ぶりに本県が石川県を下回った。

 過去の動向をみると、平成9年度までは本県が上回って推移してきたと考えられるが、平成10年度〜平成14年度は石川県が上回っている。平成15年度以降は再び本県が上回っているものの、その差は除々に縮小し、平成19年度は548億円と僅差ではあるが本県が下回った。(図3)

 本県と石川県の県内総生産は、全国順位でも、本県29位、石川県28位と接近している。県民経済計算では、「経済成長率」や「一人当たり県民所得」といった指標に目が行きがちだが、県内総生産の水準そのものにも注目しておきたい。

図3 5年ぶりに石川県を下回った県内総生産
― 富山県、石川県の県内総生産の推移 ―

4.マイナス成長の要因となった主な産業の動向

 石川県が、食料品や主力の一般機械が好調であったこと等から、プラス成長となったのに対し、本県が総生産額で石川県を下回るような低い経済成長率となった要因について、ここでは、経済成長率全体に対する寄与度が低かった、「金属製品」「建設業」「電気・ガス・水道業」の3業種に絞りみてみる。(表1)

※寄与度とは、各項目の増減が全体の増減にどれだけ影響を与えているかを示す指標で次の式により求められる。
なお、各項目の寄与度の合計は、全体の増加率と一致する。
寄与度(%) = 当該項目の対前年度増加率 × 前期の当該項目値/前期の全体値

表1 平成19年度県内総生産における産業別構成比、対前年度増加率、寄与度

(単位:億円、%)

(1)金属製品 〜増加率は5年連続のマイナス〜

 平成19年度の金属製品の生産額は、196,986百万円、対前年度増加率は▲6.6%と5年連続マイナスとなり、寄与度は▲0.3%と建設業に次ぎ低調なものとなった。

 生産額は、平成8年度の479,900百万円の41%まで減少しており、また、県内総生産に占める割合は4.2%と、金属製品としての推計データがある最も古い年度である平成2年度に10.2%であったことを考えると、減少の大きさが分かる。(注:県民経済計算は現在平成8年度まで遡及修正しており、平成2年度のデータはあくまで参考である。)

 この原因として、

1 住宅着工の不振等にみられるサッシ需要の低迷
2 アルミニウム地金価格等の高騰
3 競争の激化

等が考えられ、販売、費用両面からの厳しい状況が窺える。

 特に、平成19年度は前述したとおり、改正建築基準法の影響により、全国の新設住宅着工戸数が、▲19.4%と大幅に減少した。全国の住宅着工戸数の動向と本県の金属製品生産額の動きは、必ずしも強い相関関係があるわけではないが、県内大手企業の決算をみると、売上高は、ビル用建材部門▲0.3%に対し住宅用建材部門は▲17.0%となっており、法改正の影響はかなり大きかったと考えられる。(図4)

 本県はアルミサッシ・ドアの全国シェアが29.9%と全国1位(工業統計表(経済産業省))であり、やはりアルミは本県を代表する重要な産業である。県内総生産に占める割合が低下しているとはいえ、県経済への影響力は大きく、今後の動向が本県の経済成長へのポイントであろう。

図4 低下する金属製品生産額と大きく落ち込んだ新設住宅着工戸数
― 金属製品の生産額及び新設住宅着工戸数の対前年度伸び率の推移 ―

資料:建築着工統計調査(国土交通省)

(2)建設業 〜マイナス成長の最大の要因となった建設業〜

 近年は公共工事の減少が続いており、全国的にも建設業の生産額は低下傾向にある。こうしたところに、くどいようだが建築基準法の改正による住宅着工戸数の低下という要因が重なり多くの県で生産額が大幅に減少した。実に42都道府県で増加率がマイナスとなり、うち23道県が2桁のマイナスとこれまでにない厳しい状況であった。

図5 全国的に大きく減少した建設業生産額
― 都道府県別建設業生産額の対前年度増加率 ―
※表をクリックすると大きく表示されます

 平成19年度の本県の状況を見る前に、建設業のこれまでの動向を見てみる。

 建設業は内訳として土木工事と建築工事に分けることができる(その他補修工事があるがここでは省略する)。工事種別ごとに生産額(=付加価値)は算定していないため、産出額(=建設業では出来高)により、工事種別の動きを平成8年度=100とした指数でみると、建築工事はほぼ一貫して低下傾向にあり、土木工事は平成13年度以降急激に低下し、平成19年度は、土木工事48、建設工事50と共に半減している。(図6)
(付加価値である生産額でも、建設業全体で平成19年度は平成8年度の47.3%とやはり半減している。)

※県民経済計算では、売上高等を産出額、原材料費等の費用を中間投入額、付加価値を生産額といい、次の式が成り立つ。
産出額−中間投入額=生産額

図6 減少が続く建設業産出額 ― 工事別建設業の動向 ―

注 工事種別産出額は公表していないため指数で表した。

 次に平成19年度の本県の状況を見ると、生産額は232,084百万円、対前年度増加率は▲15.4%、寄与度は▲0.9%と厳しいものとなっている。

 本県の平成19年度の新設住宅着工戸数は、平成18年度に全国第2位の増加率となるなど大きく増加した反動もあり、対前年度増加率が▲21.6%と低下し、過去10年間で最低の水準となった。他の都道府県と比較すると、減少率が大きい順に全国第9位と地方の中では大きなものとなっている。公共工事の減少の影響が言われてきた建設業だが、平成19年度はそれに加え建築基準法改正の影響も大きかった。

 平成20年度以降の新設住宅着工戸数をみると、平成20年度は、全国は回復の動きが見られたものの、県は低下が続いた。また、平成21年も景気悪化の影響から大きく落ち込んでおり、現在もあまり回復の状況は見られず、本県の建設業を取り巻く状況は、新幹線建設という大きな事業があるとはいえ、厳しい状況が窺える。(表2、図7)

表2 減少率が大きかった本県の平成19年度新設住宅着工戸数

(単位:戸、%)

資料:建築着工統計調査(国土交通省)

図7 新設住宅着工戸数の対前年度(前年同月)増加率の推移 ※表をクリックすると大きく表示されます

資料:建築着工統計調査(国土交通省)

(3)電気・ガス・水道業 〜原油価格の上昇から生産額は減少〜

 平成19年度の生産額の対前年度増加率は、本県は▲4.6%、石川県が▲23.8%と両県ともマイナスとなっている。

 電気部門の生産額は発電電力量の大きさによるところが大きく、概ね、発電電力量が増加すれば生産額も増加してきた。石川県については、平成19年度は原子力発電所が稼動しなかった影響から発電電力量は▲23.8%と大幅に減少しており、このことが、生産額がマイナスとなった大きな要因となったと考えられる。

 一方、本県はどうか。本県の発電電力量は原発の稼動状況等に影響されることが多く、平成19年度の発電電力量は県全体では0.6%増だが、北陸電力分に限れば15.4%と大幅に増加している(県統計調査課「とやま経済月報」)。こうしたことから、生産額も増加することが期待されるところであったが、結果は▲4.6%となった。(表3)

表3 富山県、石川県の発電電力量と電気・ガス・水道業生産額の増加率

単位:千Kwh、%

資料出所 富山県:中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局(富山県勢要覧(県統計調査課)に掲載)
石川県:石川県統計書(石川県 県民交流課 統計情報室)

 産出額、中間投入額、生産額に分けてみると、売上に相当する産出額は発電電力量の増加等により期待どおり2.2%増加した一方、燃料費等の経費である中間投入額は14.6%大幅に増加している。図8のとおり、電気業等の中間投入比率(産出額に占める経費の割合)は大幅に上昇しており、産出額の増加を上回る経費の増加が生産額の減少として現れている。

 この理由としてあげられるのは、本県発電電力量の増加要因が火力発電の増加によるものだったことである。近年、原油価格が大きく上昇しており、水力発電の場合とは異なり、このことによる燃料費の増加が中間投入比率を引き上げている。火力発電量の増加により付加価値である生産額が低下するという結果となっており、このことは、原子力発電が減少し火力発電が増加した平成18年度の石川県でも見られる。(図8,9)

 このように、本県の電気・ガス・水道業は、原子力発電の動向、原油価格等が複雑にからみ県民経済計算結果に影響している。

図8 大幅にアップした中間投入比率
― 電気・ガス・水道業の総生産額と中間投入比率の推移 ―
図9 火力発電の増加が生産額の低下要因
― 富山県、石川県の火力発電発電電力量と生産額増加率の推移 ―
富山県 石川県

資料:北陸電力株式会社(とやま経済月報(県統計調査課)に掲載)
石川県統計書(石川県県民交流課統計情報室)

5.おわりに

 以上、はなはだ簡単ではあるが、平成19年度の県経済について生産系列に絞りみてみた。

 実は2年前にも、平成17年度県民経済計算結果について拙文を掲載した。当時、「生活の豊かさが感じられる推計結果を公表したい」と恥ずかしながらちょっと偉そうなことを書いたが、今回は成長率がマイナスの結果公表となったことから、前回以上にその思いが強いものとなった。

 現在、県民経済計算は平成20年度の推計作業中であるが、リーマンブラザーズ破綻による世界的不況や国民経済計算の結果から、更に悪化したものとなることが予想される。

 一方で、最近の経済指標は、景気が回復しつつあることを示すものが増加している。前回の景気回復期は、いざなぎ景気越えがいわれたものの国民には実感なき経済成長であった。今後、本格的に景気が回復し、今度こそ実感できる経済成長が実現して欲しいものである。

とやま経済月報
平成22年6月号