特集

2010年、私が見たリアル中国
−4つのキーワードとともに−

国際・日本海政策課 上海市派遣職員 中村香菜恵

 2010年5月1日、史上最大級といわれる「上海万博」が開幕しました。中国が経済中心地として更に大きく成長するチャンスが与えられたのだと私は確信しています。 

 国際的に着々と実力をつけてきているここ上海から、私が常日頃感じている中国の興味深い観点を4点取り上げて、皆さんにお話ししてみたいと思います。


上海万博での中国バビリオン

1.中国人「富裕層」について

 近年、中国人富裕層の訪日旅行での“ゴージャス”な購買力が報道されているのは有名だと思います。銀座のブランド店や、秋葉原の電気街、各地のアウトレットではキャッシュ(現金)で、何百万円も買い物をする中国人の武勇伝が繰り広げられているそうです。

 2009年7月、米大手コンサルティング会社「McKinsey & Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー)」は、2015年には中国の富裕層[※年収25万元(約325万円)以上]が440万世帯を超え、米国、日本、英国に次いで世界4位の規模になるとの見通しを示しました。

 さらに同社の報告書によれば、「中国では世界経済の低迷を考慮し少なく見積もっても、今後5〜7年は、毎年約16%ずつ富裕層が増加していく」とのこと。これに比べて、先進国における富裕層の伸びは、国内総生産(GDP)の成長率とほぼ一致したものになると予測しています。

 もちろん、富裕層が増えることによって、プラスの面は多々あると思います。単純に人々の暮らしが豊かになっていると言えば、間違いないでしょう。しかしながら、中国の場合、富裕層は“お金持ち”ならではの悩みを抱えているという現状があります。

 たとえば、急激な経済成長による貧富の差が大きな社会問題の一つとなっています。富裕層が増える一方で、内陸では、平均給与が月給2000元(約2万6千円)程度という現状。近年インフレが続いていますので、この傾向は貧困層が増々生活に困る状況となる一方、富裕層に対しても中国での生活に大きな不安をもたらしているようなのです。

 具体的に例を挙げますと、昨今、富裕層の子どもを狙った人質事件などが発生しており、安全に対する不安から、マイホームを持たずに場所を転々としながら暮らしているケースがあります。本来ならば、何一つ不自由なく生活がおくれるハズの財産を持っていたとしても、そのことが「イコール幸福」というわけでもないようです。

 そのような不安を抱えた中国の富裕層の中には、移民願望が強く、可能なら自分たちの資産を海外に移したいと考えている人が少なくありません。中国人富裕層の間には、まだまだ未成熟である市場現状を見据えると、投資に不安を抱いている人が少なからずおり、また、中国で一番お金持ちが多いといわれている浙江省温州の企業家のうち、30%以上が外国でのグリーンカードを取得しており、子どもは海外で教育したいとも考えています。万が一に備え、海外への移民を考え、準備をはじめているというわけです。

 また、中国で事業を成功させるには、国や公共関係部門との「調整」も欠かせません。つまり、官と民の必要以上の密着がみられるということです。中国では、官公庁の力が非常に大きく、大卒の一番人気の職業は公務員ということで、公務員試験では何百倍の倍率の戦いが繰り広げられています。民間企業の社長たちの中には、法律等で明確になっておらず調整で決まるような「グレーゾーン」が多い中国の制度の現実に嫌気をさしてきた人たちも出てきており、国が自分の財産をとりあげてしまうのではないかと心配している人たちも沢山います。

 急激な経済成長は、社会が安定化していくという表の面もありますが、逆に歪みを生み出してしまう原因にもなりかねないのかもしれません。しかし、中国でも今年の5月から「累進課税」の比率を上げたり、低所得者向けの補助金政策の実施を強化するなど持続可能な発展を成し遂げることが出来るように政策を打ち出しています。

 まとめてみますと、私個人としては、現在の中国の富裕層は、日本の高度経済成長を経て富を築きあげた方によく似ているのではないかと思います。1978年のケ小平の改革開放以来、自分の努力によって社会的身分を得ることができたのです。そのせいかお金持ちであっても、無駄遣いをしたり、賭博をする人は少ないように思います。中国は儒教発信の地。近年は「教養を高める」運動も普及しており、2008年の四川大地震、さらには2010年の青海大地震の際は、多くの富裕層が莫大な義捐金を出費したことは中国の目指す「平和と協力に満ちた社会」の最初の一歩であると感じました。

2.中国の「コピー文化」について

 昨今、やたら「山寨」という言葉が流行しております。「山寨(ShanZhai)」とは広東語が由来となっており、日本語訳にすると、「真似、コピー商品」という意味です。

 皆さんのご存知の通り、中国では至るところに「真似て作られた商品」があります。中国人は、著作権、商標権という概念があまり無いというだけでなく、「素晴らしい商品は模倣すべき」といった少し間違ったプラス思考が混ざっていることも確かでしょう。驚くべきことには、最近では外観デザインが『そっくり』というだけでなく、さらに機能面ではいろいろ強化されていたりするのです。

 例を挙げてみますと、日本でも流行している「任天堂DS」の「山寨」もあります。この「山寨DS」ですが、スピーカーをつけて音響効果をパワーアップさせてみたり、機能が本来のものよりも効果的であったりなどニセモノなのに意外と優れているというのです。しかも、非常にオーダーメードしやすいというメリットもあり、客の要望をすんなりと実現してしまうのです。

 以前は「Made in China」は一種のマイナスイメージでした。私が10年前に中学の卒業祝い金で、初めて一人で洋服を買ったときに、家に帰ってから母に「この洋服、中国製だからすぐに色褪せるかもね」と怒られたことを思い出しました。しかし、最近では「山寨」の実力は、目を見張るものがあります。こうしたことができるようになったのも、中国の中小企業の工場がそれなりに実力をつけてきたためなのかもしれません。それでいて破格の安値。これは明らかに本物に対する挑戦です。

 世界の工場と言われている中国ですが、自分の国のブランドは少ないのが指摘されております。確かに中国の家電製品売り場で人気があるのは日本の「SONY」や「Panasonic」、韓国の「SAMSUNG」です。私はこの傾向がいつまでも続くとは思いません。おそらく10年後、値段もお手ごろで、機能も豊富な中国ブランドが台頭してくる時代がやってくるのではないかと思っています。実際に、アメリカの「IBM」が中国の「連想renovo」にM&Aされたのは、大きなスクープになりました。ただし、その時代がやってくる前に中国は「真似をする」だけでなく「自分だけの職人魂」を世界に見せ付ける必要があるのは有無を言わず必然となってくるでしょう。


どちらも「任天堂DS」の「山寨」

3.中国の「環境問題(省エネルギー)」について

 「ここ最近、中国人の環境意識がレベルUPして来ている」というフレーズは、国際会議でも話題に上るようになってきました。

 注目すべきプロジェクトとしては、環境保護とともに都市部の消費促進を狙いとした省エネ型製品普及政策、いわば中国版「エコポイント」制が挙げられるでしょう。

 具体的な内容は、2009年5月、国家発展改革委員会が定めた「省エネ製品普及プロジェクト」になります。これは、エアコン・冷蔵庫・フラットテレビ・洗濯機など10種類の高効率の省エネ製品に対して、メーカーに補助金を出すことで通常型製品に近い価格で省エネ型製品を販売し、普及させるというもの。これにより、年4000〜5000億元の需要を促進でき、2012年までに省エネ製品の市場シェアを30パーセント以上に引き上げ、年750億kwhの節電が可能となると見込まれています。また対象製品のリストも一部公表され、その中には、日系企業のPanasonic、三菱電機、日立の製品も対象とされました。この国策の他にも、上海など独自の省エネ製品普及の補助金制度を構築している地方もあります。

 日本でも「エコポイント制度」が定着してきており、ほぼ同時期にスタートした中日の政策が、省エネ、さらには景気回復の面でどれだけの成果をあげられるのか、こうした比較の意味でも、中国の省エネ製品普及策の動きから目が離せないところであります。

 昨今、日本のマスコミが報道する中国は、環境問題を省みずに、経済成長を目指しているというようなマイナスのイメージがありますが、実際はそれどころか、一般市民でも、エコバックは当たり前、新聞紙などの廃品回収も積極的にやっているのが現状です。

 中国という国は、順応性に長けており、「先進国の良い例を見習う」というのは、もはや彼らの中で常識となっているようです。さらに驚くべきことに、政策の「計画」から「実行」までのスパンがあっという間の短さで達成されるということです。まさしくスピード行政の見本であるかもしれません。

 上海万博のテーマである「Better City Better Life(よりよい都市、よりよい生活)」のとおり、未来に負の財産を残さないためにも、中国はこれからも環境保護への配慮をしながら、持続的な発展を目指していってほしいと思います。


中国版「エコポイント」制の成果は如何?

4.中国の「80后(バーリンホゥ)」について

 中国では1980年以降に生まれた一人っ子政策新世代のことを「80后」と呼んでいます。1978年、ケ小平によって中国の「改革開放」がうたわれ外国との貿易が盛んになり、それまでの閉ざされた時代が終結し「社会主義資本経済」の政策がとられることになりました。そのような社会背景の中で育ってきた80后は(上の世代にはない)以下の4つの特徴を持っていると考えられます。

(1)市場経済とともに育った、消費文化が染みついた初めての中国人

(2)一人っ子のため、親からお金をかけられている

(3)大卒・ホワイトカラー率が高く、上の世代に比べて可処分所得が高い

(4)インターネットを使っているのは、ほとんどが80后

 このような特徴を持った80后は、今まで中国にいなかった消費者と言えると思います。

 80后より上の世代の消費者は、ベースに改革開放前の古い消費スタイルが染みついています。どことなく節約生活をするために切り詰めていますし、中国における老後の社会保障などの不整備を考えると、日本とは比べものにならないくらい大きな不安を抱えている人たちです。つまり、上の世代は、基本的には消費文化を受け入れられないのですが、一方で、あまりに急激な消費文化の浸透に、過度に魅了・翻弄されているとも言えます。そのため、消費が染みついた80后に比べると、消費に対する知識が欠如しています。

 例えば、「価格の高いモノは、価格の低いモノより良い」「知名度があるモノは良い」「老舗企業、ブランドのモノは良い」といったことを、盲目的に信じる消費者が多いです。きらびやかな商品、例えば車で言えばとにかく大きなものを求めます。そして「周りから『うらやましい』と言われ、社会的な地位を感じたい」というのが、彼らの消費における最大の見識と言えます。その結果、騙され、高級ブランドの偽物を、偽物と知らずに買い、周りに自慢しているといった不幸な人まで出てきています。

 その一方で、80后は、小さい頃から生活必需品がほぼ完備された家庭で育ってきましたから(少なくとも都市部では)、上の世代の消費者よりも、もう少し目が肥えています。必要なものを出来るだけ低コストで買うことができる、いらないものはいらないと判断できるのは彼らの消費の特徴です。普段の生活では出来るだけクーポンや優待券などを利用し、貯金したお金で海外へ旅行したり留学することも彼らの中ではステータスとなっています。

 また、一人っ子世代でもあるので、周囲からの溺愛とともに、親や親族や社会の過剰な期待を、一手に引き受けてきました。自分の親が「うちの子はよその子とは違う」と言える子供にならなければという、暗黙のプレッシャーを背負っています。

 そのために並ならぬ一種の社会的責任感を持っているのも80后の特徴でもあります。「自分の努力によって、将来の人生が決まってくる」と信じている80后は目標のために学校や社会で奮闘し続けています。日本人よりも何倍のハングリー精神を持って、社会で戦っています。私も同じく80后ではありますが、日本で育った私にとっては「ここまで頑張るのか」と見習いたい一面があるのも事実です。

 また80后の彼らは友達や恋人を大切にしています。友達の誕生日パーティーにはプレゼントをし、外食やカラオケなどでお祝いします。そして、結婚式では、統計によりますと大体平均で20万元(約260万円)使うとのことです。中国人の結婚式はほぼ日本の一般的な結婚式と同じく、ケーキカットや指輪交換などがあるのですが、ひとつ変わったことがあります。それは結婚式の前に、花嫁と花婿が、何種類もの衣装を着て変わったポーズでユーモアに撮影した「結婚写真アルバム」を作ることです。このアルバムは大体1万元(約13万円)ほどするらしく、彼らは結婚後、この写真を等身大に引き伸ばしてマイホームに飾ったりしています(日本人的感覚からするとちょっと恥ずかしいかもしれません)。


中国人の結婚写真

 以上、4点に及んで、昨今の中国の様子を書き記してみました。隣国でありながら、中国は日本と異なる文化が様々あり、現地で生活してみて始めて実感できることが多々あります。まさに「百聞は一見にしかず」です。これからもこの「隣国」と、お互いがプラスのウィンウィンの関係が築けるよう、目を離さずに関心を持ち続けたいと思っています。

参考文献、書籍:

1McKinsey & Companyホームページ;
 『2015年中国的富裕家庭数量将位居全球第四位』
 (http://www.mckinsey.com/locations/chinasimplified

2『中国人に売る時代!』(日本経済新聞出版社)徐向東

3『中国ゴールドラッシュを狙え』(新潮社)財部誠一

4『世界の中国人ジョーク集』 (中公新書ラクレ) 鈴木 譲仁

5『徹底予測 中国ビジネス』 (日経BPムック) 日経ビジネス総力編集

とやま経済月報
平成22年8月号