韓国における日本酒の流通事情富山県 国際・日本海政策課
(財)自治体国際化協会ソウル事務所派遣職員 山元 真弓 |
1 低アルコール酒の人気と日本酒ブーム近年、韓国では、女性の飲酒人口の増加と、家庭での低アルコール酒の消費増加などから、低アルコール飲料の消費量が増加傾向にあります。韓国といえば、主に焼酎(注)が中心に飲まれていますが、その焼酎についても、当初アルコール度数25度ぐらいだったのが、ここ数年、新しい商品が発売される度に度数が下がり、現在は20度をきる焼酎が大勢を占めています。2009年の夏には、夏バージョンということで、さらにアルコール度数を低くして爽やかさを売りにした16.8度の焼酎がお目見えしました。 以前は、お酒を飲むのは男性が中心で、職場の同僚や友人たちとの飲み会のイメージしかありませんでしたが、最近は女性の社会進出も進んで、女性がお酒を飲む機会が多くなり、女性が好むアルコールがそのまま韓国のトレンドになっているようです。夜の飲み屋街でも、洋風の建物にジャズミュージックを流すお店や、西洋のイメージでお酒を飲ませるバーなど、女性や若者が好む雰囲気のあるおしゃれなお店が増え、カップルや女性同士でお酒を飲んでいる姿もよく見かけます。 特にここ数年は、女性を中心に健康志向を意味する「ウェルビーイング」が流行しており、そのイメージを打ち出した輸入ワインの積極的なマーケティングが功を奏してか、韓国ではワインブームが起きています。2006年の韓国のワイン消費量は27,000klで、対2002年比では1.6倍に増加し、すでに輸入ワインはワイン消費市場の80.4%を占有しています(日本貿易振興機構(JETRO)資料)。日本でもワインをテーマとした漫画「神の雫」が人気のようですが、韓国でも発売されてから250万部を売る大ヒットで、韓国でのワインブームの火付け役とも言われているほどです。 韓国の日本酒輸入量の推移
![]() 〔韓国貿易協会データベースより引用〕 そうした中で、ここ最近はそのワインを上回るほどの勢いで日本酒のブームが起きています。日本酒は、1994年1月に韓国への輸入が開放されて以来堅調な増加を続けていましたが、特に2004年からは急激な増加傾向にあります。韓国貿易協会によると、2006年、2007年の日本酒の輸入は、数量および金額とも前年比50%以上増加しており、2008年については、世界的な金融危機で経済が落ち込んでいる中でも、輸入量が増加し続けました。 訪日旅行者数
![]() 〔日本政府観光局(JNTO)資料から作成〕 このような日本酒ブームが起きた原因としては、日本へ旅行に行く韓国人が増えたことや、日本の文化が開放されたことで、若者を中心として、日本のファッションや文化が流行し、それに伴って日本食や日本のお酒に対する関心が高まったことが考えられます。事実、近年韓国から日本への訪日旅行者の数は倍増し、ソウルでは、これまで日式という形で存在していた日本風のレストランに替わって、より日本のイメージを強くした日本式居酒屋やレストランが増えています。ソウルで最も賑やかでトレンドな街といわれる芸術大学の弘益(ホンイク)大学周辺に広がる繁華街には、日本の赤提灯を下げた居酒屋はもちろん、ラーメン、お好み焼き、どんぶり店など、日本風のお店が多く集まっており、特にラーメン店は超激戦地区と言われているほどです。 注)韓国の焼酎の大部分は希釈式焼酎。希釈式焼酎とは、高濃度(95度)のアルコール・酒精を水で薄め(加水調整)、約20度ぐらいに度数を下げ、その他添加(深層水、天然水、オリゴ糖、竹エキスなど)したものをさす。 |
2 日本酒の流通構造についてところで、韓国では、お酒の種類によって購入と販売の方法が法律によって厳しく決められています。販売チャネルごとに免許制度を採用しており、流通段階ごとに酒類輸入業免許、酒類卸売業免許、酒類小売業免許が必要になります。酒類の輸入業免許を取得し活動している業者のうち、日本酒の輸入業者は20社程度あり、そのうち3社が全体の約8割程度のシェアを占めています。 このように酒類の販売にはそれぞれ免許が必要になりますが、例えば酒類輸入業の免許を持つ業者は輸入した酒類の小売販売をすることは禁じられており、逆に酒の小売業免許を持つ業者は輸入取引を直接行うことができません。このため、日本酒の流通には、輸入業者(→卸業者)→小売業者→消費者という流通構造をとります。 また、日本酒の輸入にあたり、日本での販売価格に関税、酒税、教育税、付加価値税が価格の7割程度で課税され、さらに韓国への輸送料、輸入業者、卸業者、小売業者の各段階でのマージンも付加されるため、消費者の手に渡る段階になると日本酒の価格は日本での価格と比較して少なくとも2〜3倍以上になっています。このため、日本酒がブームとはいっても、あくまでも高級なお酒としてのイメージが強く、韓国において日本酒がより一般化するには、この価格がネックになっているようです。 ただし、日本酒は分類上、韓国国産の清酒と同様に扱われ、家庭用、大型小売店用などの用途区分表示を廃止するなどしているため、ワインに比べると規制がゆるいほうだと言われています。また、日本の焼酎の酒税率は72%ですが、日本酒は30%の関税だけが適用されるので、飲みやすく、ウェルビーイングな料理にもよく合うことから、今後は、価格の低下が進み、日本酒の味が普及することで、より一層日本酒の流通が期待できるのではないかと思われます。 |
《酒類の関連法律規制・市場参入留意事項》
(日本貿易振興機構(JETRO)資料より) ※酒類輸出入免許には、酒類輸出入免許(カ)と(ナ)がある。酒類輸出入免許(カ)は輸出を専門にする免許で、酒類輸出入免許(ナ)は輸入を専門にする免許である。なお、(カ)(ナ)自体の意味は、日本の「イ」「ロ」「ハ」と同様の意味。 |
3 日本酒フェア![]() オープニングの鏡割り さて、こうした流れを受けて、2008年10月22日(水)から24日(金)にかけて、在大韓民国日本国大使館が、クレアソウル事務所、日本貿易振興機構(JETRO)、日本政府観光局(JNTO)、国際交流基金とともに、韓国で初めて日本酒フェア(日本酒・和食プロモーション企画「ホンモノ志向:日本酒・和食」)を実施しました。初日のロッテホテルでのオープニングレセプションでは、日本全国の酒造メーカー約70社から125銘柄が出品され、市内のレストラン関係者や報道関係者ら約240人が招待されました。富山県からも、桝田酒造店、富美菊酒造、若鶴酒造、本江酒造、銀盤酒造の5社の日本酒が出品され、多くの人が富山のお酒を味わっていました。 |
![]() 出品された日本酒の数々 |
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日本でも人気の韓国ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」で皇后を演じたアナウンサーで韓国外交安保研究院兼任教授の朴正淑(パク チョンスク)さんが「一日日本酒・和食大使」に任命されるなど、盛大なオープニングイベントが催され、2日目には、日本国大使館公報文化院で観光業社や流通業者、レストラン業者を招待して、日本酒に関する講演会と試飲を兼ねたビジネス交流も行われました。 今回のフェアは、本場の日本酒や和食を広く知ってもらい、販売促進に結びつけようと企画されたものですが、韓国ではなかなか味わえない地酒のほか、本ワサビと本格的な刺し身を試食するコーナーなどが設けられ、好評を得ていました。 |
4 終わりにこのように、イベントの成功やマスコミの取材等を通しても、日本酒や和食に対する韓国人の関心が高いことがわかります。日本酒に関しては、味の良さや、ウェルビーイング食(日本食)との相性の良さなど、高級感以外のイメージを浸透させ普及させることで、適正なより低価格の日本酒の流通にもつながると思われます。また、日本酒だけではなく、日本の地域の特産物などを日本から輸出しているというケースも出てきていることから、これから韓国において、日本の地方の食品等が流通する可能性も十分に感じられます。これからは、国、自治体の役割としても、地酒や地域経済の活性化に大きく貢献できる、地元産品の海外販路を開拓するような事業も求められてくるのではないでしょうか。韓国はせっかちな国で、変化も早く好みもはっきりしているので、良いと思うものはすぐに取り入れて実現させる力を持っています。これから韓国で、どのような日本酒や日本食、また、日本の文化が浸透していくのか、とても楽しみです。 |
〔参考〕 財団法人自治体国際化協会「自治体国際化フォーラム234号2009年4月号」海外事務所だより(ソウル事務所) 日本貿易振興機構(JETRO)ソウルセンター資料 日本政府観光局(JNTO)ソウル事務所資料 |
平成21年11月号