特集

短観でみる北陸・富山県経済の特徴

日本銀行富山事務所
所長 野村 幸司


1.はじめに


北陸および富山県経済は、一部に弱めな動きがみられるものの、生産の増加、堅調な設備投資および雇用・所得の改善を映じた個人消費の持ち直しの動きがみられるなど、全体として「緩やかな回復を続けている」。


富山県経済について昨年1年間の動きを振り返ると、年央にかけて、個人消費の一部で弱い動きがみられたこと、すなわち、天候不順などから百貨店・スーパー売上高が前年比減少したこと、新設住宅着工戸数が改正建築基準法施行の影響などを主因に前年比大幅に減少したこと、さらに素原材料価格の高騰、為替や株価の不安定な値動きもあって、企業経営者の業況判断(マインド)に慎重さがみられるようになったこと、などから、景気判断をそれまでの「回復している(続けている)」から「緩やかに回復している」とする表現に下方修正した。さらに、年末にかけて一部に弱めな動きがみられるようになった。


本稿では、昨年来のこうした動き、および足もとの状況を日本銀行が年4回実施している「企業短期経済観測調査」(以下「短観」という)(注1)から眺めていくこととする。


(注1)短観は、資本金2千万円以上の民間企業を対象に、毎年3、6、9、12月に調査を実施。全国では約1万社、北陸地域では、富山、石川、福井の3県の約360社を対象としている(「北陸短観」は金沢支店が集計し、公表)。なお、北陸の各県別には「業況判断」等を公表しているが、サンプル数が不足しており、統計精度は必ずしも高いとは言い難いため、参考値として利用している。
(注2)本稿で使用している北陸、富山県分の短観データ類は金沢支店が作成。詳細は以下のホームページでご覧いただけます。
金沢支店ホームページ
http://www3.boj.or.jp/kanazawa/


富山事務所ホームページ
http://www3.boj.or.jp/toyama/



2.短観でみる北陸・富山県経済の特徴


(1)業況判断

北陸(全産業)における企業の景況感(業況判断)の推移(図表1)をみると、今回の景気回復局面(02/1月〜)において02/3月調査の▲56%ポイントをボトムに、04年から05年頃までの横這い時期を経ながら、06/12月調査の+5%ポイントまで上昇。その後、07/3月からは緩やかに低下し、12月調査では前回(9月)調査と同水準の▲7%ポイントとなった。

このように07年に入り業況判断が慎重に転じた背景には、3月に発生した能登半島地震や天候不順などの影響から個人消費の一部で伸び悩んだこと、素原材料価格の高騰、さらに改正建築基準法施行などに伴う住宅着工の大幅な減少といった複数の要因が重なったと考えられる。


うち、富山県の企業(図表2)についてみると、基調としては北陸全体と同様の動きを示し、07/3月以降マイナスで推移。12月調査まで3期連続で▲5%ポイントの横這いとなった。さらに、先行きは一段と慎重な見方にある。


図表1 業況判断の推移(北陸:全産業)
図表2 業況判断の推移(富山県)

(2)業種別の業況判断

北陸企業の景況感を業種別(図表3)にみると、製造業ではプラスを維持しているものの、直近の12月調査で+5%ポイントとなるなど、緩やかながらプラス幅が縮小してきている。内訳では、主力産業である電気機械、一般機械、化学等の「加工業種」が建設機械やデジタル家電向けの電子部品の好調などから良好な判断を維持している一方、需要の減少、素原材料価格の高騰・販売価格への転嫁の遅れなどを映じて木材・木製品、紙・パルプ、石油・石炭、窯業・土石等の「素材業種」では弱い状況が続いている。また、足もとでは住宅着工戸数の減少から窯業・土石、鉄鋼、金属製品等で一段のマイナス幅拡大、またはプラス幅縮小といった動きがみられる。

一方、非製造業では12月調査で▲14%ポイントとなり、前回(9月)に比べ+1%ポイント改善したが、製造業に比べて弱さが目立つ。内訳では、需要の減少、競合激化等を受けて建設、卸売、小売など多くの業種で弱い。


なお、業種別の県別データは集計していないが、富山県の企業でも概ね同等の状況にあると予想される。ちなみに、ヒアリング情報も参考にすると、当県の主力産業の1つであるアルミ建材が含まれる「金属製品」では住宅着工戸数の減少から弱めとなっていること、また医薬品が含まれる「化学」では後発医薬品市場の拡大や大手医薬品メーカーからの受託生産の増加を受けて良好な水準にあることなどが他2県とは異なる当県の特徴として推測できる。


図表3 主要業種における業況判断の推移(北陸)


(3)売上高・収益

北陸(全産業)の07年度事業計画(図表4)をみると、売上高では前年度比+1.0%と6年連続の増収となったほか、経常利益でも同+0.2%と6年連続の増益となった。もっとも、何れも前回(9月)調査から下方修正されており、住宅着工戸数の減少を含む需要の減少や燃料等のコスト上昇を反映したものと思われる。


うち、富山県(全産業)では、売上高は前年度並みとなったものの、経常利益では前年度比▲6.5%と前回調査時の増益(前年度比+0.2%)から一転し減益計画となった。これは、製造業が前回調査比で大きく下方修正され、減益に転じたことが主因であり、特に主力産業の1つである金属製品(アルミ建材)の需要減、素原材料高騰が影響しているものと推測される。


製造業(北陸)における「価格判断の推移」(図表5)をみると、素原材料価格の高騰から引続き「仕入価格が上昇している」と回答する企業が多い(12月+54%ポイント)中にあって、依然として販売価格の上昇の動きが弱い(同±0%ポイント)のが特徴であり、利益率維持のためにコスト吸収・削減が経営上の課題となっている先が少なくないと予想される。


図表4 事業計画(07/12月調査)

図表5 価格判断の推移(北陸・製造業)


(4)設備投資計画

北陸(全産業)の07年度の設備投資計画(図表6)をみると、製造業を中心に前年度比1割強の増加となるなど、積極姿勢が続いている。内容では、受注増に対応した能力増強投資、合理化・効率化投資などが中心になっていると思われる。

うち、富山県(全産業)でも同様に製造業を中心に前年度比2割弱の増加を見込んでいる。


こうした中、「生産・営業用設備判断の推移(北陸)」(図表7)をみると、足もとでは小幅ながらマイナス(「設備不足超」)に転じている。


図表6 設備投資計画(07/12月調査)

図表7 生産・営業用設備判断の推移(北陸)


(5)雇用

北陸の「雇用者数の推移」(図表8)をみると、全産業で07/9月末前年比+1.7%となるなど、緩やかな増加が続いている。また、「雇用人員判断」(図表9)では、足もと、先行きともに「不足超」の状況となっており、雇用の改善傾向は今後とも続くものと予想される。


図表8 雇用者数の推移

図表9 雇用人員判断


3.結び


今年の北陸および富山県経済については、主力産業である電気機械、一般機械、化学(医薬品)等における生産の増加とともに、旺盛な設備投資、個人消費の持ち直しなどにも支えられて引続き「緩やかな回復をたどる」可能性が高いと思われる。ただ、足もとでは内外の需要動向、素原材料価格の高騰、住宅着工の減少等が収益計画を慎重化させるなど、少なからず企業経営に影響を及ぼしている印象である。今年の経済を眺める場合にはこうした動きと企業の対応、消費者の行動を注意深く見ていくことが重要と思われる。また、業種、企業規模によりそれぞれの状況がかなり異なる面があるのも事実であり、一段ときめ細かな調査・分析に努めていきたい。

とやま経済月報
平成20年1月号