特集

生活交通の確保のための取り組み
〜NPOによる有償運送の事例から〜

富山県 知事政策室 総合交通政策課



1 はじめに 〜路線バスを取り巻く状況〜


路線バスは、通学、通勤、通院、買い物の足として、私たちの生活を支えています。高齢化の進む今日では、身近で手軽に利用できる交通手段として、その重要性は増しています。一方で、モータリゼーションの進展、少子高齢化の進展等に伴い、全国的にバス利用者は年々減少し、バス事業をとりまく状況は厳しいものとなっております。特に、大都市部以外の地域ではその傾向が顕著で、平成19年度の乗合バス事業者(保有車両数30両以上)の輸送人員は、前年度比0.7%減、収支状況は、85.2%が赤字となっています。

輸送人員の推移(大都市部・その他地域)

富山県の状況をみると、旅客輸送機関分担率が、自家用車の90.0%に対して、乗合バスは1.4%と、全国と比べて、自家用車への依存度が非常に高く、一方、乗合バスの割合は低くなっており、また乗合バスの輸送人員は平成8年は1,991万人でしたが、平成18年は1,027万人と10年でほぼ半減しています。

本県は1世帯あたりの自家用乗用車保有台数が全国第2位(1.73台)と極めて高いことなどもあり路線バスにとっては大変厳しい環境にあります。

旅客輸送機関分担率の比較(平成17年度)
富山県内の公共交通輸送人員の推移


2 市町村やNPO等による有償運送に対する支援


利用者数の減少、事業者の経営悪化がさらに進むと、バス路線の廃止やバス事業からの撤退に至るケースもあります。このため、交通空白地や不便地等、バス事業者によっては十分な運送サービスが確保できない場合は、市町村バスやNPO等による有償運送が地域交通を補完する役割を果たすようになり、国の制度面においても、これまで例外的に許可していた市町村バスやNPO等の有償運送が平成18年10月からは登録制となり、安全・安心な運送サービスの普及促進が図られているところです。

自家用自動車による有償旅客運送制度の創設

富山県では、こうした動きに対応し、これまでの市町村運行バスに対する補助に加え、平成19年度において、新たに、NPO等による自家用有償旅客運送(過疎地有償運送)に対する補助制度を創設しました。

NPO等による過疎地有償運送を支援する市町村に、@市町村の運送費に対する補助額、A運送欠損額、B運送費の9/20のうち、いずれか少ない額の1/2(通勤路線以外は1/3)を支援しています。



3 NPO等による過疎地有償運送の事例 〜氷見市八代地区〜


このNPO等による過疎地有償運送に対する補助制度の適用ケース第1号となったのが、氷見市八代地区のNPO法人八代地域活性化協議会が運営するコミュニティバスです。

24人乗り(うち車椅子2席)と15人乗りのマイクロバスが導入され、地元の山にちなんで「ますがた」と名づけられました。八代地区の全世帯(294世帯)と隣接地区の約300人が会員となり、地域によって異なりますが、1万円〜2万5千円の年会費を払い会員は無料で乗車できます。

八代地区と氷見駅とを結ぶ路線バスとして、平成17年10月に運行を開始し、1往復約51km、停留所29か所を平日5便、土日祝日3便で毎日運行されており、県内初のNPO法人が運営するコミュニティバスとして、注目を集めています。

 

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コミュニティバス ますがた

八代地区は、氷見市の北西部の山間に位置する、山の幸に恵まれた土地です。しかし、高齢化と人口の減少が進み、住民の足として重要な役割を担っていた民間事業者の路線バスは、平成12年に廃止となりました。これに対し、氷見市は、スクールバスを活用した市営バスを運行することで、住民の足を確保してきましたが、運行開始から5年、児童・生徒数の減少は続き、また、車両の更新時期を迎えたことから、あらためて地域の移動手段の確保について考え直す必要が生じました。そのような中で、住民による住民のためのバスを運行しようと設立されたのが、NPO法人八代地域活性化協議会です。八代地区では、それまでも、住民有志で結成された八代環境パトロール隊による、不法投棄の監視や、災害監視の活動など、安心・安全な地域づくりへの自主的な取り組みが活発に行われてきました。そうした住民主体の地域づくりの土壌が、NPO法人によるコミュニティバス運行の実現につながったのです。

 

コミュニティバスの導入後は、

  • ①年会費制を導入し、乗車時に会員証を提示するだけで運賃を気にせずに利用できるため、ちょっとした用事にも利用でき高齢者が自主的に外出する機会が増加した。
  • ②地域NPO法人が運行する公共交通ということもあり、地域交通を自主的に守っていこうという意識が強まった。
  • ③運転手等を地域内から雇用したことにより、不法投棄、防災等のパトロールも同時に行える。また、八代地区では携帯電話の不通地区が一部存在するが車載無線で消防署への緊急連絡が可能となった。
  • ④高齢者の移動手段が自家用車からバスへと変わり、交通事故の減少に寄与した。

ことなどが、メリットとしてあげられているところです。



4 おわりに


八代地区では、NPOにより定時定路線のバス運行が開始されましたが、全国各地で、デマンド交通や乗合タクシーなど、さまざまな運行形態の中から、地域の実情に応じたものを導入し、効率的な運行をすることで、生活交通を維持していこうという取り組みがなされているところです。

地域の生活交通を維持するには、八代地区のように地域自らが住民主体となって地域の生活の足の確保を図っていく取り組みが非常に大切であり、県としても今後ともこうした地域の取り組みについて積極的に支援を図っていくこととしております。

※デマンド交通 路線バスのような定時・定路線の運行形態とは異なり、利用者の需要に応じ、柔軟にバスやタクシーなどを運行するもので、迂回型、ピックアップ型、完全型などがあります。

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バス路線維持のための補助制度について


〔関連リンク〕

 

○富山県 知事政策室 総合交通政策課

トップページ

http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1003/index.html

「公共交通の維持・活性化」

公共交通維持活性化のための支援制度をご紹介しています。

http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1003/kj00000802.html

 

○国土交通省

「平成19年度乗合バス事業の収支状況について」

http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000020.html




とやま経済月報
平成20年12月号
図9 地方自治体のHP開設率の推移(%) 図8 情報消費量の推移(平成7年=100)