特集

低い経済成長率にとどまった平成17年度県内経済
― 製造業、電気・ガス・水道業の動向にみる県民経済計算 ―

統計調査課 野川 晃


1.はじめに


私事で恐縮だが、今回19年ぶりに県民経済計算の業務に携わることとなった。若い頃の仕事というものはよく憶えているもので、頭の中には当時の経済情勢などがこびりついており、これを洗い落とし、今の経済に頭を切り替えていくのはなかなか大変である。

世の中が変化していることはわかっているつもりでも、実際数値で示されると想像を超えるものも多く、きっちりとデータで把握しておくことの重要性を痛感する。

本稿では、平成20年2月に内閣府が公表した、「平成17年度の県民経済計算について」から、本県経済について、新鮮な気持ちで考えてみたいと思う。

(今回使用する県民経済計算の数値はすべて名目値によるものである。また、平成17年度推計にあたっては、平成8年度まで遡及修正しており、本稿中の平成7年度以前の数値は当該年度の最終推計値によるもので、あくまで参考指標として使用した点に留意願いたい。)



2.平成17年度の県内経済


(1)経済成長率(名目) 〜底堅いものの低調だった本県経済〜

平成17年度の日本経済は、前半は情報化関連部門の在庫調整や輸出の鈍化等を主因とする踊り場的な状況にあった。しかし、後半には、アジアやアメリカ向けを中心に輸出が持ち直し、雇用情勢の改善により個人消費も緩やかな増加を続けるなど、民間需要を中心とした回復が続いた。

こうした中、平成17年度の本県経済は、経済成長率は4年連続でプラスの0.4%と底堅いものとなった。しかしながら、北陸、東海各県と比較すると、各県が輸出産業等に支えられ好調だったのに対し、本県の経済成長率は、最も低位なものとなった(全国では第33位)。(図1)


図1 北陸・東海各県の経済成長率の推移(名目)

(2)県内総生産 〜総生産が同水準の富山県と石川県〜

次に、県内総生産について、北陸3県で比較する。

本県の平成17年度の県内総生産は、4兆6、807億円と北陸3県では最も大きい。石川県と比較すると、平成10年度までは本県が上回って推移してきたと考えられるが、その差は序々に縮小し、平成11年度〜平成13年度は石川県が上回ったことが特筆される。平成14年度以降は再び本県が上回っているものの、平成17年度は、本県が低成長となった結果、その差はわずか678億円となった。(図2)

また、北陸での3県のシェアをみると、本県は37.0%と平成16年度に比べ0.5ポイント低下し、石川県、福井県は上昇となった。昭和50年代からの長いスパンでみると、本県は低下、石川県、福井県は上昇といった傾向が伺える。(図3)

県民経済計算においては、経済成長率や一人当たり県民所得といった指標の注目度が高いが、県内総生産の水準も注目する必要があると感じている。


図2 北陸3県の県内総生産(名目)の推移

図3 北陸3県の県内総生産(名目)のシェアの推移


3.キーとなった製造業、電気・ガス・水道業の動向


なぜ本県の経済成長率が低いものとなったか、あるいは、なぜ、北陸3県でのシェアが低下したか。ここでは、

経済成長率が低い要因として、県内総生産に占める割合が最も高く、経済成長率に対する寄与度(以下寄与度)が▲0.2%と低調だった製造業
北陸3県でのシェアの低下要因として、寄与度の3県の差が最も大きい電気・ガス・水道業

に焦点を絞り、これまでの動向などを含め考えてみる。(表1)


※表をクリックすると大きく表示されます 表1 平成17年度県内総生産における産業別構成比、対前年度増加率、寄与度


(1)製造業 〜増加率は4年ぶりのマイナス〜

経済のサービス化に伴い、本県においても、サービス業の県内総生産に占める割合は年々増加している。一方で、製造業は低下しているかというとそれほどではなく、昭和50年代から概ね30%台前半で推移しており、本県経済を左右する主要産業であることは昔も今も変わりがない。

しかしながら、業種別にみた場合、金属製品の割合が低下する一方、化学、電気機械が上昇するなど、製造業全体の構成比は大きく変化している。(図4)


図4 様変わりする製造業 ― 県内総生産に占める製造業の割合 ―

こうした中、平成17年度の製造業は、対前年度増加率が▲0.4%と4年ぶりのマイナスとなり、経済成長率が低調であった大きな要因となった。化学、一般機械が好調だったものの、本県の製造業の中で最もシェアを伸ばしてきた電気機械が大きく減少したことや、金属製品の落ち込みが強く影響している。



ア 化学 〜法改正等がビジネスチャンスに〜

平成17年度の対前年度増加率は13.1%と「3年連続」で「2年ぶりの2ケタ台の高い」増加率となった。この結果、寄与度は0.7%と全産業の中で最も高くなっている。これは、中心となる医薬品製造業が好調だったことによるものであるが、平成17年4月の薬事法改正により、医薬品の受託製造(OEM)が全面的に可能となったことや、医療費抑制のため、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用が推進されていることなどが要因と考えられる。

受託製造の本県の全国シェアは8.1%で全国第4位と高く、また、国はジェネリック医薬品のシェアを引き上げるための様々な施策を進めている。これらの法改正等は、本県にとって大きなビジネスチャンスとなっており、今後の生産の増加に繋がることが期待される。(表2)


表2 シェアの高い医薬品受託製造 ― 平成17年医薬品生産金額 ―

イ 金属製品 〜減少傾向は止まらず〜

平成17年度の対前年度増加率は▲12.1%と「3年連続」で「5年ぶりの2桁台」の大幅な減少となった。この結果、寄与度は▲0.7%と低調なものとなっている。

金属製品の県内総生産に占める割合は、平成2年度には10.1%と製造業の中では最も高く、全産業で第4位に位置していたが、平成17年度は4.7%と製造業では第3位、全産業では第10位へと低下している。

原因として、

持家の新設着工の不振等にみられるサッシ需要の低迷
販売価格の低下
アルミニウム地金価格等の高騰
があげられ、販売、費用両面からの厳しい状況が伺える。

また、最近の状況として、建築基準法改正により持家以外の新設住宅着工戸数が大幅に減少しており、このところ元の水準へ回復しているものの、新たな懸念材料となっている。(図5、6)


図5 低迷する新設住宅着工戸数

図6 販売、費用両面から厳しいアルミニウム価格指標

ウ 電気機械 〜生産額は2年連続減少〜

電気機械は、平成11年度から15年度にかけて、デジタル家電の需要増を背景に高い成長率を示し、県内総生産に占める割合は、平成14年度に金属製品を抜き製造業では最も高い主力産業となった。しかしながら、平成17年度は対前年度増加率が▲10.1%と2年連続の減少、寄与度は▲0.7%と金属製品と並び低調なものとなった。

電気機械は、製造品出荷額等の43.4%を集積回路製造業が占めているが(平成17年工業統計)、集積回路の国内企業物価指数をみると、一貫して低下しており、この価格低下が、減少した1つの要因と考えられる。(図7)

今後については、本年1月、松下電器産業が砺波工場の生産能力を増強することを決定したことなどを含め、やはり、本県経済を牽引する産業として期待は大きいといえよう。


図7 国内企業物価指数(集積回路)の推移(17年1月〜19年3月)(17年=100)

(2)電気・ガス・水道業 〜ポイントとなる原発の稼動状況〜

平成17年度の対前年度増加率は、▲2.6%と4年ぶりの減少となった。この要因として、

電気料金の引き下げ(平成17年4月▲4.05%(北陸電力資料))
発電電力量の減少
原油、石炭、液化天然ガスの価格の高騰
があげられる。一方、石川、福井は両県とも、増加率、寄与度が本県に比べかなり高く、その理由としては、の発電電力量の増加と考えられる。

平成17年度の3県の県内発電電力量をみると、石川県は16.0%、福井県は8.6%と共に増加となったのに対し、本県は▲15.2%と大幅な減少となった。これは、石川県は平成18年3月15日に志賀原発2号機が稼動となったこと、福井県は休止していた大飯原発3号機が平成17年2月8日に稼動となったことなどから発電電力量が増加し、その一方で、本県の発電電力量は、他県の原発の稼働状況に影響を受けていると思われる。この原発の稼働状況が、3県の本産業の増加率、延いては経済成長率の差の一因として現れている。(表3)


表3 北陸3県の発電電力量の推移

補足だが、発電電力量と使用電力量の両者の動向をみると、本県の電気業の特徴が分かる。

表3のとおり、本県の発電電力量は3県で最も小さいものとなった。一方、使用電力量では、製造業のウエイトの高さなどを反映し大口電力契約の割合が高いことなどから、本県が最も大きいものとなっている。(表4)

北陸電力(株)の県内発電電力量と県内使用電力量の推移をみると、平成9年度までは発電電力量が使用電力量を上回っている。しかし、平成5年度の志賀原発の運転開始等により、県内の発電電力量は減少し、平成10年度以降は、使用電力量が発電電力量を上回っている。

県民経済計算では、電気業は「発電部門」と送電等の「その他部門」により推計しているが、本県の両部門の産出額の差は小さくなっており、製造業の景況等と密接な使用電力量の指標としての重要性も高くなっている。(図8)

また、志賀原発の再稼動により、相対的に本県の発電部門の低下や石川県の生産額の増加につながると思われる。


表4 北陸3県で最も大きい使用電力量

図8 低下した発電部門


4.おわりに


今回は、生産面から、製造業、電気・ガス・水道業(特に電気業)に絞り考えてみたが、県民経済計算は生産、分配、支出の三面から推計しており、多様な分析が可能な統計である。

我が国経済は平成14年1月を底に景気拡大を続けており、本県も平成14年度以降プラス成長となっている。しかし一方では、賃金は上昇せず、個人消費も経済を牽引するような状況がみられないことから、個人個人は必ずしも景気拡大を実感できないであろうことが、分配、支出面の推計結果から感じられる。

こうした中、原油価格の上昇等を背景に、株価や物価指数等最近の経済指標には悪化しているものが多く、食料品等生活必需品の値上げなどによる個人消費の落ち込みも懸念されるところである。(図9)

高い経済成長率を実現することはもちろん重要だが、同時に、県民がどうそれを享受できたかが重要なことである。景気減速の懸念を乗り越え、生活に豊かさを感じられるような県民経済計算結果を公表できることを望む次第であり、このことだけは、経済がどう変化していようと、19年前も今も変わらないのである。


図9 上昇する物価指数(平成19年) (平成17年=100)
とやま経済月報
平成20年4月号