特集

物価から見る韓国の生活
国際・日本海政策課 (財)自治体国際化協会ソウル事務所派遣職員
上田 明美


1.はじめに


みなさんは、韓国と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。日本人にとって韓国は、2002年のサッカーワールドカップの共同開催、韓国ドラマブームなどを契機として親しみを感じる国となりつつあり、韓国語を学び、映画・ドラマなど韓国文化に親しむ人々は増えています。また、富山県と韓国は、週3便の航空路線(富山−仁川)でソウルと結ばれており、また、富山県と韓国江原道は、1993年より「文化芸術・スポーツ分野における交流協力議定書」を取り交わし、以来、数多くの交流事業を行っています。



2.韓国の概要


総面積99,538ku(日本の約1/4)、人口48,294千人(日本の約1/3)で、人口の約21%がソウル特別市に集中しており、首都圏(ソウル市、仁川市、京畿道)には全人口の約48%が集中しています。韓国の平均年齢は35.5才、25歳〜49歳に人口が非常に多く集まっている若い国です。しかしその一方で、教育費の高さなどから2005年の合計特殊出生率が1.08と急激な少子化が進んでいます。

参考: 日本の合計特殊出生率 2005年 1.26 厚生労働省資料

行政区分は、ソウル特別市をはじめ、6つの広域市(釜山、大邱、仁川、光州、大田、蔚山)、8つの道(京畿、江原、忠清北、忠清南、全羅北、全羅南、慶尚北、慶尚南)と済州特別自治道から成り立っています。このうち済州特別自治道は、2006年7月から軍事・外交・司法以外の高度な自治権を付与された特別自治道として新たなスタートを切りました。

気候についてですが、年平均気温は6〜16℃の分布で地域差は大きいです。最も暑い8月の平均気温は18〜25℃、最も寒い1月の平均気温は零下6〜7℃程度(ソウルでは零下20℃となることがあります。)となり、四季がはっきりしています。今年の冬は12月から1月までの平均気温が1.7℃と例年に比べて暖かいです。1993年以来、毎年凍っていた漢江(ソウル市内を南北に流れる川)も14年ぶりに凍らなかったそうです。

参考: 富山県の年平均気温は13.7℃、全国は14.8℃ 。平年値(昭和46〜平成12年平均)「気象庁年報」より

かつての韓国旅行というと安く買い物やエステが楽しめるところというイメージがありましたが、最近はウォン高(1997年の通貨危機以降100円=1,000ウォン前後を維持していましたが、2005年10月に100円=900ウォン、2007年1月現在で100円=780ウォン前後で推移)の進行によりかつてのような割安なイメージは薄れつつあります。本稿では、韓国の物価について、実際に生活しながら感じることを紹介したいと思いますが、少々個人的な所感を交えたものであることをあらかじめご了承ください。



3.衣食住


(1)衣

衣料品は、商店街や大型スーパー、デパート、アウトレット(注1)などデザイン、品質ともに多種多様なものが手に入ります。商店街は、日本の旅行客がよく訪れる東大門市場や南大門市場だけでなく地下鉄の駅にも地下商店街が発展しており、手頃な値段で買うことができます。しかし、中には縫製が雑なものもあるので、店員さんの言葉に乗せられて、よく確認せずに買うとあとで後悔することになります。デザインだけを見ると、商店街の激安品からデパートの高級品まで非常によく似ているというのが正直な感想です。韓国人は日本人に比べると非常に派手なデザインや色を好みます。韓国ブランドの服は大半が、レースやフリルがたっぷり使ってあり色も緑、赤、ピンク、紫といった原色のものが多いです。また、外国ブランドでも、韓国人の嗜好に合わせて華やかな品揃えになっています。一見地味な顔立ちの男性でも、赤やピンク、紫といった鮮やかなジャケットやポロシャツを好んで着ており、赴任当初は少々驚きました。また、韓国人は金のアクセサリーを身につけることを好み、男性が金のネックレスや指輪をはめているのもよく見かけます。若い男性でもそうなので最初に見たときにはびっくりしたのですが、聞いてみると大抵、軍隊(注2)に行く際に母が贈ってくれたという答えが返ってきます。


(注1)アウトレット: 百貨店などで売れ残ったり多少傷のあるブランドメーカーの衣料品やアクセサリーなどを低価格で販売する店。日本各地にも巨大なアウトレットモールがあるが、韓国にあるものは日本よりは小規模なものが多い。
(注2)軍隊: 20歳を超えた男子は原則として兵役の義務がある。陸軍24ヶ月、海軍26ヶ月、空軍27ヶ月

(2)食

韓国の食べ物というと、キムチ、焼肉などを思い浮かべる人が多いでしょう。キムチはもちろん韓国の食卓に欠かせないものですが、焼肉(特にカルビなどの牛肉)はそれほど多くは食べません。韓国でもカルビ一人前(200g)が20,000〜30,000ウォン(2,564〜3,846円)と日本と同様に高級です。しかし、それ以外のいわゆる韓国人が普通に食べる韓国料理、ビビンバやキムチ鍋などは安いところでは3,500ウォン(448円)程度(1人分)から食べることができます。


韓国というとお酒、特に韓国焼酎が欠かせませんが、日本人のように「とりあえずビール」という習慣はあまりなく最初からアルコール度数20℃以上ある焼酎をぐいぐいと飲んでいます。Hite、OB Lager、CASSといった国産のビールもありますが、それは2次会以降に水代わりに飲むもののようです。近年は、ウェルビーイング(健康志向)ブームの影響もあり、従来の焼酎よりもアルコール度数が低めで口当たりも爽やかな焼酎も登場し、売上げを伸ばしています。

また、ワインもウェルビーイングブームの影響で売上げを伸ばしています。国内のワイン輸入市場は、約6900万ドルで、アルコールの消費量が減少傾向にある中で売り上げを伸ばしています。ワインの輸入国別では、フランス、チリ、米国、豪州が中心で、特に、チリは自由貿易協定(FTA)の締結による関税引き下げなどが要因となって輸入が増加しています。ワイン好きの日本人に言わせると、同じワインでも、日本で買うよりも韓国で買うほうが高いのだそうです。これは、税体系の違い(日本が従量税であるのに対し、韓国は従価税であるため、高いワインであればあるほど税額が大きくなる)や税率、酒類の販売証明を得た流通業者が酒類に付加する手数料などに原因があるといわれています。


(3)住

伝統的な韓国スタイルの瓦家は、あまり目にすることはなく、レンガ作りの洋風住宅やアパート(日本で言う高層マンション)に住む人が多いようです。全世帯の約半分がアパート等の共同住宅に居住し、特にソウルの場合は70%を超えます。韓国では一般的に住宅を投機対象として捉える人が多く、特に近年はその傾向が顕著で、ソウルを中心に不動産バブルといわれる状態が続いています。政府は2005年8月末に「不動産投機抑制のための不動産制度改革案」を発表するなど、不動産価格の安定化に力を注いでいます。

例えば、首都圏に住宅と宅地を円滑に供給するため、2006年から5年で150万戸を供給し、建物の高さ制限を緩和して超高層住宅の建築を可能にし、容積率(敷地面積における建築物各階の床面積の割合)も大幅に緩和されました。また、庶民が住居を得やすくするために、低所得層の住宅購入資金と伝貰(注3)資金の金利が引き下げられました。一方で、1世帯あたり2住宅以上を保有する場合には、長期保有による特別控除などの優遇措置をなくしました。しかし依然としてアパート価格は漢江の南側(江南区、陽川区、瑞草区)の地域を中心として上昇を続けています。ある不動産会社の調査によると、この1年でソウル地域のアパート価格は1戸当たり5,582万ウォン(715万円)、率にして約11%上昇したと言われています。

(注3)伝貰 チョンセ: 入居時に一定額の保証金を家主に支払うことで月々の家賃が発生しないという韓国の伝統的な不動産賃貸の形態である。家主は、保証金を銀行などで資金運用することで利息収入を得るのである。


4 娯楽・生活


手軽な娯楽である映画、カラオケ、ビリヤードなどは、日本と同様、もしくはもっと安い料金で楽しむことができます。

中でも映画は、チケットが大人7,000ウォン(897円)と日本よりも安い料金で楽しむことができます。週末ともなると人気映画のチケットは売り切れになることも多いので、あらかじめインターネットで予約購入しておくことが必須です。

ハリウッド映画、韓国映画、日本映画など幅広いジャンルの映画が上映されています。駅などにある映画広告を見ると、韓国映画の割合が意外に多いような気がしていたのですが、これには理由がありました。映画館には、一年間に一定日数以上の韓国映画上映を義務づけるスクリーンクォーター制が取り入れられており、また映画製作にも政府の資金援助が行われるなど、韓国映画の支援に非常に力を入れているためです。

かつては韓国政府が自国文化の保護のため、また日本の植民地支配の影響で国民感情を害するとして、日本の大衆文化を規制していました。しかし、1998年から段階的に規制が緩和されており、現在では、映画、レコード、ゲーム、漫画、大衆歌謡、公演などすべてが開放されています。ケーブルテレビには、日本文化専用チャンネルもありますし、明洞には日本映画専用の映画館もあります。若者を中心に日本ドラマは人気があり、話していると私よりも詳しくてびっくりすることも多々あります。

また、韓国人に趣味を聞いてよく返ってくる答えが「登山」です。韓国は、国土の70%が山岳地帯で、多くの山があります。ソウル近郊でも登山コースがいくつもあるので、週末ともなると、地下鉄の駅では登山スタイルの中高年をよく見かけます。若者の間でも登山は人気で、大学生がMT(Membership Training)と称して近郊の山に出かけたり、登山クラブを作って登山を楽しんでいます。お金があまりかからない上に、健康にもよく、友人同士や家族同士で楽しめるとあって、日本人が考えている以上に日常的なレジャーとして登山をとらえていると言えるでしょう。逆に、スキーやゴルフなどは日本よりもお金のかかるスポーツと言われています。スキーの場合リフトの1日券が55,000ウォン(7,051円)程度、また人工雪のコースが多く、コースも日本に比べると小規模なものが多いです。



5 雇用


先ほど、韓国では韓国料理が安く食べられるといいましたが、それは低い人件費にも関連があります。私が友人に聞いて驚いたのが、韓国でのアルバイト賃金の安さです。飲食店の店員は時給3,100〜5,500ウォン(397〜705円)、ガソリンスタンド店員は時給3,100〜4,000ウォン(397〜512円)、コンビニ店員は2,500〜4,650ウォン(320〜596円)と非常に低いのです。塾講師や家庭教師なども4,000〜10,000ウォン(512〜1,282円)です。ちなみに2007年度の最低賃金は、時給3,450ウォン(442円)、日給(8時間基準)27,840ウォン(3,569円)、週給(44時間基準)153,120ウォン(19,630円)となっています。

また、若者の就職難も深刻な問題です。韓国全体の失業率は、3.7%(2005年 韓国統計庁 雇用動向)と日本の4.4%(2005年)よりも低い数字になっていますが、若者の失業率は8.0%と高くなっています。人気アイドルグループSHINHWAのエリックが出演した「新入社員」(2005年 MBC放映)というドラマがあるのですが、この中で主人公は、大学を卒業後何年も就職できずに家や友達の前で肩身の狭い思いをしています。(後に、ひょんな幸運で大企業に就職することになるのですが。)ここに描かれる就職難も韓国の多くの若者が経験しているものであると言えます。国や自治体でも雇用創出のための様々な取り組みを行っており、釜山広域市では、海外インターン(海外進出している韓国企業へ大学生をインターン研修として送り出し、往復航空券と滞在費、外国語教育費を支援する。)というユニークな取り組みを行っています。



6 おわりに


「冬のソナタ」がきっかけとなり、日本では韓流ブームが起きましたが、韓国では日本の様子がどのように受け止められているのでしょうか。韓国人に聞いてみると「韓流ブームのお陰で韓国を訪れる観光客も増え、韓国のイメージアップにつながったことはうれしい。」という反応がほとんどです。(韓流スターといわれる人たちが、韓国国内でよりもむしろ海外で人気が高いことには不思議だという意見も多いですが。)しかし、新聞報道によると、ここ数年間、韓流ブームに乗って上昇していた映画・ドラマの日本への輸出額は、最近大幅に減少しつつあり、ドラマの撮影地を訪れる観光客も激減していると言われています。私も赴任してからいつくつかのいわゆるドラマの撮影地に行ってみましたが、日本人観光客の姿はあまり見られませんでした。しかし、私の個人的な印象としては、一時のような爆発的なブームは去ったかもしれませんが、韓流ブームによって韓国に興味を感じる人の層が圧倒的に増えたことは確かだと思います。

最後に2007年の韓国の話題として第17代大統領選挙を挙げておきたいと思います。新聞やテレビなどでは連日各候補者の動向を伝えており、インターネット上では候補者のファンクラブが結成されるなど活発な動きを見せています。投票日は、12月19日、この1年は大統領選挙の動向から目の離せない1年となるでしょう。皆さんも飛行機で2時間あまりという近くにある外国・韓国にぜひ足を運んでみてください。




とやま経済月報
平成19年3月号