特集

女性がいきいきと働き続けるために
−個人・管理職・企業の視点から−

高岡市男女平等推進センター所長 野村 乙美


プロフィール
高岡市出身
1962年 カネボウ化粧品富山販売(株)に美容部員として入社
1989年 同社 代表取締役支配人 就任
1996年 カネボウ(株)化粧品事業本部 副本部長兼教育開発室長として全国の販売会社・支社の人材育成・職能教育を担当
東京に単身赴任
2004年 現職 就任


あけましておめでとうございます。

私は、民間企業に勤めたあと、現在、高岡市男女平等推進センターの所長として勤務しております。

女性がいきいきと働き続けるために必要なことについて、自分のキャリアと経験をもとに「個人」・「管理職」・「企業」の3つの立場から述べさせていただきたいと思います。


○個人としての仕事の取り組み方


組織の中でいきいきと働き続けるためには、自らの「職業観」を明確に持つことが大切でしょう。何故なら、自分の職業人生を振り返ってみても、「何のために働くのか」と自らに問いかけることが多かったからです。軸足が明確だと常に初心にかえり、迷わずに済みます。また、「職業観」にもとづいて、ある時は、自分自身の成長を喜び、ある時は、自分をおだて、明るく前向きにスパイラルしていくことができます。

私の場合は、二つの価値観を心に刻みました。

1.社会人として経済的自立を目的に働く。
2.仕事を通して自己実現し、理想とする人格を目指すために働く。

第一に、人間として経済的に自立をすることは、社会的な存在価値につながると意識できます。

第二は、自由な環境で好きな人間同士、つまり仲良しグループの中にいるのとは違う人間的成長が期待できます。職場は様々な価値観を持つ人達で構成されています。そのため、仕事を取り巻く環境は、人としての磨かれ方を大きくします。

職場を取り巻く環境は男性が作った社会ですから、そこで働く女性にとって不利益なことが多々あります。私は、働く価値観が明確だったので、そのような現状を受け入れ、たとえ小さな事でも、女性としての自分らしい実績を重ねることで、上司からの期待に確実に応える努力をしてきました。

また、多くの後輩女性たちのために改善できることがあれば、雇用機会均等法を学び、それを活用し、たとえば女性が昇格試験にチャレンジできるようにするなど、男性のみ優遇の対象になりがちな環境を整えることにも力を注ぎました。


それでは、自分らしい生き方を貫くにはどうあるべきか、考えを述べたいと思います。

一回限りの自分主役の人生。私は、結婚・出産・子育て・仕事と全てに欲張って生きることが夢でした。その私が現在もこだわり続けていることが三点あります。


1. ビューティフルライフ
どんなに忙しくても、外見的には髪振り乱し的な働き方はしたくない。
2. ハートフルライフ
内面的には、豊かに輝いて仕事を誠実にこなす女性でありたい。
3. クオリティライフ
子供と遊んだり、ゴルフをしたり等、家族と暮らしを愉しむバランスのとれた生き方がしたい。

振り返ると、昭和30年代は、男性が外で働き、女性が家庭の中で家事や育児の役割を担うという分業が一般的な時代でした。そのような時代に、仕事と家庭を両立させる生き方をするためには、どんなことが障害になるのでしょうか。

独身時代は現実味のない分、「まあ、その時々で考え、歩めば何とかなるのだろう。」と楽観的に考えてしまいがちです。ところが、仕事が忙しくなるにつれ、帰宅時間が遅くなったり、不規則になったりしてきます。結婚生活では、独身時代には何でもなかったことが問題になってきます。さらに出産後は、子育ての忙しい時に夫や家族の協力を自分が期待していたほど得られない等、仕事と家庭の両立の難しさに疲れてしまうことも多くなりました。このままでは、私の理想(ライフスタイル)は足元から音を立てて崩れていくといった感じでした。「自分自身の生き方に合点がいかなければ気が済まない自分はどこへ行ってしまったのか。自分を取り戻すためにここはじっくり腰をすえて、家族と話し合おう。そして、仕事も子育ても家事も卒なくこなしたいと思う自分をかなぐり捨てよう。」と決心しました。

そこで、私は一日24時間という限られた時間の中で、良い意味で手抜きできることを見つけることにしました。その上で、次の三つの視点で行動を分類し、家族と話し合いました。


絶対に自分でなければできないこと(1/4)
 ・子どもとのスキンシップ、幼稚園・学校の事
ある程度は家族に任せられること(1/4)
 ・夫婦の部屋の整理整頓、洗濯
自分が関わらなくても良いこと(1/2)
 ・食事の準備と後片付け、オムツの洗濯と仕上げ

私が悩みや苦しみを持っていることを素直に伝え、また、話し合えた事の感謝を表した結果、家族は理解してくれ、協力を得ることができました。そして、その後も月半ばの休日に、暮らしの改善を図る目的で家族会議をする事になりました。

それからの私達家族は、話し合うことを大事にすることで、家族各々が「尊い自分」に気付き、相手に感謝できるようにと家族関係が好転していったのです。

女性が自分だけで頑張りすぎてイライラしたり家族を恨んだりしては、結果として良い母にも良い妻にもなれないし、人としての魅力も損なうことでしょう。花は温かい太陽の下で咲くように、子供も温かい家族の優しさに包まれて育つものです。温かな家族関係には、家族間のコミュケーションが大切だと言えるでしょう。

さらに職場では家庭を忘れ、家庭では職場の問題を忘れるというように上手くギアチェンジすることも大切です。

私はこうして職業人生を歩みながら、ひとつひとつ自分の生き方を丁寧に探り、選択し、時間を管理することにより自分らしい生き方を充実させることができました。



○管理職としての仕事の取り組み方


管理職として、「売上計画を期限つきで達成する」という仕事の責任を果たすには、どうすればよいのでしょうか。又、「継続して達成する」には、どのような組織活動を行えばよいのでしょうか。

私は、課長になるための必要条件である「課長登用試験」に合格し、マネージメントスクールで1ヶ月間の合宿訓練を受講し、管理職としてのあるべき理想像を描いて居りました。

マーケットが激しく変化し続けるだろう21世紀には、従来のような上から下への指揮命令系統が強力な組織ではなく、環境適応性の高い組織、すなわち、マーケットの変化に応じて、迅速かつ柔軟に変化していく組織にしなければと思い描いていたのです。

そのためには管理職自身が、マーケットの変化を真っ先に察知できなければなりません。もちろん、組織づくりは現場のメンバーの能力や力量にかかっている訳ですが、組織としてより成長するには管理職の現場感覚が不可欠と考えました。

市場及び消費者の行動や価値観をつぶさに見定め、「現場」の変化にいち早く気づき、対応できるよう、毎日店頭に足を運びました。


また、部下育成策として、次の2本を柱に「セルフ管理プログラム」も作成しました。

1.個々の自発性や自律性を生み出す人材マネージメント
2.プロフェッショナルな顧客サービスの追求



この図は、自分の仕事を考える際の枠組みとして、Skill(知識・技術)を縦軸に、Mind (姿勢・行動)を横軸にとっています。たとえば、美容部員が美容のプロフェッショナルとして、お客様に提供するサービスの質をあげるために、化粧品の使い方・コミュニケーションのとり方などSkill(知識・技術)を学ぶことが必要です。そして、学んだことは、実際にお客様にしてさしあげる(行動する)ことで、成果が出ます。

学ぶことの蓄積と学んだことの実践こそが自己成長につながります。それを『人間力』と位置づけ、人間力を一辺として成る二等辺三角形の大きさを、人としての『魅力の器』すなわち『仕事の成果』としました。

このプログラムは、それまでの社員教育でのキャリアで得た検証を基に、「営業成果」は「人間的魅力の器」に匹敵するということを明文化し、自己を明確に定義できるものです。

また、私は、プロフェッショナルとしての強い自覚を持ち、自己成長を願うメンバーを心から愛し、大切にしたいと思いました。現場に行って、市場や消費者の動きを知るとともに、部下の活動情報を入手し、週一回の朝礼で「行動の事実」に「感謝の言葉」を添えて社内全体に発表しました。

たとえば、ある美容部員が異動したとき、そのお店の売上げが伸び、理由をたずねたところ、初めてご来店又はお買い上げになったお客様には必ず、フォローする葉書を出していたこと、また、別の美容部員は、マッサージパックのサービスで、パックの時間にハンドマッサージやネイルケアをして差し上げているといったことなどがありました。

朝礼で発表することで、ささやかなことでもお客様が喜んでくださるような工夫をほめると同時に、そんなやり方があったのかとみんなが参考にできるようにしました。こうした部下の努力を見つけることができたのは、自分に現場経験があり、また、現場に足を運んできたからだと思います。

人は期待されていると思えばそれに応えようと努力をします。こうしたことを通じて、モチベーションアップを図ることができます。部下が職場での自分の居場所が確立できると、それが自信となり、次なるチャレンジへと意欲的にスパイラルしていきます。その結果、組織としても更に強くなるという好循環を生んでいきます。

このようにして、自らの組織を「自らの成長の場」として位置づけ、仕事の環境改善を綿密にしながら、期待通りの成果を継続してあげられる組織づくりに成功しました。それはまさに、個人が自律的に活動しながら全体としての秩序を持つ、私の理想とした組織風土です。今日では当たり前の事なのでしょうが、当時としては画期的な事でした。



○企業の女性活用を考えるとき持っていたい姿勢


私が民間企業で働いていた頃の日本企業には、自立した女性、つまり企業戦力としての女性を採用するといった姿勢は少なく、女性の仕事といえば、専門的労働以外は男性の従属的な働き手、補助的労働でしかなかったように思います。

しかし、当時、私は女性達を高く評価していることがありました。それは、男性がモーレツサラリーマンをしていた時代において、生活者としてのパイオニア的存在である女性達の素晴しさを強く感じていたからです。大量生産大量販売の物中心の消費社会にあって、「モノより心の豊かさ」という今までになかった価値観を女性達が言葉にするようになりました。彼女達は新たな日本人の価値観として自分の足元から生じるものを端的に表現し、暮らしの軸足を「心の豊かさ」へと置き替えていったのです。

高度経済成長期も終わりを迎えた頃には、ビジネス社会の構造に女性達が創出した「モノより心の豊かさ」という価値観が日本の新しい風として吹き込まれました。思いも寄らないことに、あらゆるジャンルのマーケティングにそれを活かしたのは男性達でした。しかしながら、彼らはクリエイティブな発想やヒントを女性から得ながらも、職場では決して女性を認めることはなく、女性を補助的な存在としてしか見ていなかったのです。仕事上では、新たな暮らしの風を主張しながらも男性自身“仕事人間”から脱しきれず今日まで歩み続けている点では、男性に課せられた重荷を考えずにはいられません。

おそらく今後も、生活者としてのパイオニアである女性達はさまざまなニーズを生み続けることでしょう。今こそ企業戦力に女性を加えることを実行しましょう。それは、すなわち男女が共にその個性や能力を認め合い、発揮できる新しい日本企業に生まれ変われるチャンスでもあります。何故なら、ご承知の通り日本は、少子高齢化に伴う急激な労働人口減少社会を10年後に確実に迎えようとしているからです。これから先、積極的に女性を活かすことを本気で考え、真剣に戦力化へと取り組まなければ企業の存続も困難をきたすことでしょう。つまり、今まで以上に仕事と家庭生活のバランスを考える必要が出てきたと言えます。

それに対処するには、

現状の働き方を、男女共に正常な週40時間へと見直しを図ること
一段と多様化するであろう従業員の価値観やライフスタイルに柔軟に応えられるよう職場環境を整えること
改正男女雇用機会均等法に沿った真の男女平等人事制度を設けること

等がポイントではないでしょうか。

これらは、単に女性のためだけではなく、これからの企業に欠かせない命題であり、ひいては社会の強烈な要請でもあると思います。


以上、「個人」・「管理職」・「企業」の3つの立場から、女性がいきいきと働き続けるために必要なことを述べてきました。最後に、社会の中、家庭の中において、誰もがともにお互いを尊重しあい、いきいきと充実した人生を送ることができることを願いまして、終わりにしたいと思います。



とやま経済月報
平成19年1月号