特集
■平成17年国勢調査の集計結果等からみる富山県の高齢化
■平成16年度県民経済計算推計結果にみる県内経済

平成16年度県民経済計算推計結果にみる県内経済

統計調査課  大門 俊之


1.はじめに


平成19年3月、内閣府から「平成16年度県民経済計算について」が公表されました。

毎年、内閣府において「国民経済計算」の推計を行い、GDP(国内総生産)や国民所得等を公表していますが、県民経済計算は、その都道府県版といったところで、各都道府県において推計しています。内閣府では、各都道府県の公表数値がそろったところでとりまとめて公表しています。

富山県の平成16年度の概要は下記のとおりですが、今回はこの内容について検証していきたいと思います。



2.日本経済及び富山県経済の概況


平成16年度の日本経済は、当初は家計消費の増加やIT関連分野を中心とした製造業の設備投資の増加に加え、家電製品などの輸出が増加するなど、前年度からの好調さを維持しました。また、薄型テレビなどのデジタル家電については、アテネオリンピック(平成16年8月)特需もあったようです。

しかし、年度途中から、IT分野において在庫調整を伴う減退期に入る一方、原油や原材料価格の上昇が一部の製造業の業績を圧迫しました。この結果、平成16年度のGDP(国内総生産)は名目496兆1970億円、実質526兆3780億円となり、対前年度経済成長率は名目0.5%増、実質1.7%増になりました。

こうした中、平成16年度の富山県の県内総生産は名目で4兆6722億円、実質で4兆9694億円となり、対前年度経済成長率(県内総生産の対前年度伸び率)は名目で0.3%増、実質で1.4%増と、名目、実質とも3年連続のプラス成長を達成しました。


表1
図1


3.総生産について


県民経済計算というのは、この項目とあの項目の数値が一致したら正解、というものがないので、算出した結果が妥当なものであるか、検証する必要があります。

このため、各種資料により当年度の各産業の業況を確認するとともに、近県との比較や全国での位置づけ、国民経済計算における成長率との比較などを行います。

産業の中でも製造業は各県とも構成比が高いこと、各県がそれぞれ調査している「工業統計」を利用して推計していることから、今回は製造業を中心に検証してみます。



(1) 名目値

まずは、名目値についての検証を行ってみます。

名目値について他県や国民経済計算との比較したものが表2です。比較対象として、石川県と三重県(16年度の県民経済計算の成長率全国第1位)を掲載しました。


表2や工業統計などから次のようなことが読み取れます。

1 富山県

富山県は全国平均よりも製造業の構成比が高い。(16年度 31.7%、全国第7位)。中でも電気機械、金属製品、化学の構成比が高く、3業種で製造業の総生産全体の過半を占める。(富山県の金属製品はアルミ製品(住宅用・ビル用サッシ)が出荷額の大半を占め、化学は医薬品が出荷額の大半を占める)

15年度好調であった電気機械が減少に転じ、金属製品も前年度に引き続き減少したが、化学や一般機械が増加したことにより製造業全体では1.4%増となった。

化学については、他県や全国値が減少しているが、富山県は前年度比2.8%と増加している。(富山県の場合、医薬品の占める割合が大きいことが理由と考えられる。)


2 石川県

製造業の構成比は全国平均程度(16年度 21.2%)であるが、食料品、一般機械が高い。

電気機械は減少したが、食料品や一般機械が増加したことから、製造業全体では前年度比0.5%増となった。


3 三重県

本県同様、全国平均よりも製造業の構成比が高く(16年度 35.4%、全国第4位)、その中でも電気機械や輸送用機械の構成比が高い。

自動車関連産業が好調なことに加え、電気機械が増加したことから、製造業全体では前年度比12.8%の増となった。(電気機械については大手企業が進出し、平成16年以降本格生産に入っていることが影響している模様)

等が読み取れます。



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表2


※ 寄与度

各項目の変化が全体の変化にどれだけの影響を与えているかを示す指標で、15年度から16年度への変化については、次の式により求められる。



寄与度(%)= 項目別増減値(H16年度値−H15年度値)÷ H15年度合計値 × 100


(2) 実質値

次に実質値についての検証を行います。

名目値の総生産が大きくても同時に物価が上昇していれば、経済活動が高まったとは必ずしもいえません。よって、物価の変動による影響を取り除いた実質値を使って経済活動の水準の変化を測ることが重要で、その名目値から実質値を算出するために用いられる価格指数を、デフレーター(以下DF)といいます。

これらの関係は 実質値 = 名目値 ÷ DF となり、インフレ傾向のとき、DFは大きくなり、名目値に比べ実質値は小さくなります。また、逆に、デフレ傾向のとき、DFは小さくなり名目値に比べ実質値は大きくなります。




また、近年のパソコンなどのように、価格自体は変わらなくても性能が向上している場合は、実質的な価格の下落ととらえますのでDFは下がります。(品質調整)

県民経済計算のDFは、国民経済計算のDFを各県が加工して作っています。国民経済計算のDF及びDFの増加率は表3、表4のとおりです。

この国民経済計算のDFを基に、各県が実質化した総生産額が表5のとおりです。


表3

表4


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表5
※平成16年度分推計から、実質値は連鎖方式で計算しています。詳しくはとやま統計ワールド「平成16年度富山県民経済計算の概要」をご覧ください。

表2の名目成長率と表5の実質成長率を比較してみます。表6をご覧ください。


 表6

さて、表6から、富山県と石川県では「名目成長率は富山県が高いが実質成長率では石川県が高い」という逆転現象が生じていることがわかります。

これは、産業構造によるものと説明できますので、それぞれの県の主力産業について調べてみましょう。


富山県の場合

1 電気機械

名目値は3,166億円で前年度比▲0.1%だが、この分野の製品は近年、性能向上が著しく、品質調整によりDF値は毎年下がる傾向にある。これに加え、16年度は製品価格の下落もあった。(表4参照)

これらのことから電気機械の名目値、国民経済計算DFなどにより実質値を計算した結果4,811億円、前年度比9.6%の増加となった。

 
2 金属製品

名目値は2,501億円で前年度比▲9.6%。この業種は、中間投入比率(原材料費など)が上昇している。このため、実質化することで物価上昇分を控除した結果、2,379億円で前年度比▲13.5%となった。(16年度の富山県民経済計算において名目値より実質値のほうが低くなったのは金属製品、一次金属などの数業種のみ)

つまり、富山県の場合、インフレ業種の構成比が比較的高く、実質化により生産額が減少した結果、デフレ業種の実質化による増加分があるものの、その増加分を相殺してしまったということが言えるようです。



石川県の場合

主力は、食料品、一般機械などだが、これらの業種のDF値は低下しており、実質化することで生産額は増加している。

食料品 名目値 2,229億円 実質値 2,294億円
一般機械 名目値 1,825億円 実質値 2,002億円

また、構成比の高い業種でDFが大きく上昇しているものはない。

これらの結果、表5のような成長率になり、総生産額での成長率の逆転につながったものと思われます。

富山県と石川県の関係については、このように、「産業構造の違い」で説明がつき、算出した数値は妥当なものであると判断できました。

このように他県や全国値、さまざまな資料を用いて、他の産業についても検証していくことになります。



4.県民所得について


県民経済計算で「成長率」に並んで注目されるのは「1人当たり県民所得」です。

「県民所得」というのは、生産活動によって発生した付加価値のうち、県民に分配される額のことで、下記のとおり算出します。

県民所得 = 県内総生産 固定資本減耗(減価償却費)
  (生産・輸入に課される税 − 補助金)
  県外への純所得

ただし、この県民所得は、実際に県民のサイフに入るお金でなく、下記のとおり企業所得等も含んでいるので注意してください。

県民所得 = 雇用者報酬(給与など) + 財産所得 + 企業所得


「1人当たり県民所得」は、「県民所得」を県内総人口で割って計算します。

1人当たり県民所得 = 県民所得 ÷ 県内総人口


もう1つ注意しなくてはいけないのは、「県民所得が同じでも人口が減少すれば、1人当たり県民所得は増加し、人口が増加すれば1人当たり県民所得は減少する」ということです。

例えば、16年度県民経済計算の結果、東京都と沖縄県の1人当たり県(都)民所得の差は257万円となり、15年度の250万円よりも拡大しましたが、詳細は下記のとおりです。



※表をクリックすると大きく表示されます
表7

16年度の県(都)民所得を15年度の人口で、(つまり人口が変わらないと仮定して)割ってみると、表7の参考欄のようになります。

このように、沖縄県は県民所得自体が減少していることに加え、人口が増加していることも1人当たり県民所得を減少させている大きな要因であることがわかります。(一方、東京は人口の増加分を上回って都民所得が増加しているわけですが。)

逆に、富山県のように人口が減少している県は1人当たり県民所得が上がることになります。

なお、平成17年国勢調査の結果、平成13年から平成16年の県内総人口が遡及改定されると、1人当たり県民所得も変わってくることになりますので、17年度の県民経済計算が公表される際はこの点も注意してご覧ください。

それでは、「1人当たり県民所得」と産業構造の関係を確認します。表8をご覧ください。


表8

これを見ると、東京都、大阪府などは別として、愛知県、静岡県、富山県など、製造業の構成比が高い県が、1人当たり県民所得の上位を占めていることがわかります。これが何を意味しているのか考察してみます。



(1) 労働生産性

まず、労働生産性との関係です。

労働生産性というのは、簡単にいえば、生産額を投入した労働力で割って、労働力1単位当たりどれだけの付加価値を生み出したかを示したものです。ここでは労働力数値として県民経済計算の県内就業者数をとってみます。


労働生産性 = 県内(国内)総生産額 ÷ 県内就業者数

※表をクリックすると大きく表示されます
表9

表10


表9から、全国的に製造業の労働生産性は高い一方、サービス業や小売業などは低い傾向にあるということが言えます。

また、表10から、製造業の中でも業種によって、かなり差があり、富山県の製造業で大きなウェイトを占める電気機械や化学などは生産性が高いことが分かります。

これらのことから、富山県の製造業の労働生産性が全国値に比べ高いのは、電気機械や化学などの労働生産性の高い業種が大きなウェイトを占めているためと思われます。(なお、表10では金属製品の労働生産性が低いが、富山県の金属製品は大規模企業が多く1人当たり製造品出荷額も高いことから、必ずしもこの全国値はあてはまるものではないと考えられる。)

不動産業については、労働生産性が高くなっていますが、これは不動産業の生産額に「帰属家賃」が含まれるためと思われます。このため、持ち家率が高い富山県(平成17年国勢調査結果79.1%、全国第1位)、石川県(同69.7%、全国第21位)などは、労働生産性が高くなる傾向があるようです。


帰属家賃

持ち家について、借家や貸間と同様のサービスが生産されるものと仮定し、それを市場家賃で評価したもの



(2) 就業人口割合

つぎに就業人口割合を調べてみます。就業人口は県民経済計算の県内就業者数を使用します。表11をご覧ください。

就業人口割合 = 県内就業人口 ÷ 県内総人口 です。


表11

ごらんのとおり、富山県はこの割合が全国値よりも高くなっています。

これらのことから、富山県の1人当たり県民所得が高いのは、労働生産性の高い製造業(特に電気機械、化学など)のウェイトが高いという産業構造や、就業人口割合が高いことなどによるところが大きいと思われます。



5.おわりに


県民経済計算は各種統計資料をもとに推計するため、推計対象年度から1年半〜2年遅れとなり、速報性があるとは言えません。

しかし、県民経済計算の推計は、県民の経済活動の諸側面を、膨大な資料を使用して県民経済計算の概念に従って加工、組み立てて作成されており、推計結果は地域経済全体を表している唯一の指標といえます。

時系列での分析、他県との比較を通じて、経済実績の評価、県の経済の特徴等を把握し、各種施策を立案する際に利用することもできます。

今回は、製造業(名目値、実質値)や県民所得を中心に述べましたが、各分野について、さらに細かく分析すれば、おもしろい結果がでるかもしれません。興味のある方は分析してみてはいかがでしょうか。

とやま経済月報
平成19年4月号