特集

3年目を迎 える富山県大連事務所の活動紹介と
中国経済事情


富山県大連事務所 副所長 田中 雄一


富山県と永年、友好県省の関係にある遼寧省の大連市に県の唯一の海外事務所として2004年春に富山県大連事務所が開設され、今年で3年目を迎えます。(*1)

そこで当事務所の活動紹介と中国経済事情について簡単に述べます。




1 富山県大連事務所の活動紹介


(1) 富山県と中国との各種交流促進

富山県関連企業が中国に数多く進出しておられます。大連市だけでも二十数社を数えますが、これら進出済みの企業は勿論、今後中国で業務展開を検討中の方への支援等を通して両国の経済交流促進を図っています。具体的には年4回、大連富山企業会を開催し、各種セミナーや各社工場見学等を実施しております。県内企業同士という事もあり、他では得にくい情報の交換や相談の場としてご好評を得ています。他には顧問契約を締結している法律事務所と会計事務所による無料相談サービス等がありますので県内企業や個人の皆様にも是非ご利用して下さい。

企業進出のみならず、貿易相手探しや委託加工先の紹介なども行っております。最初から独資で工場を建設するとなるとリスクも大きくなりますので、当初は委託加工からという選択肢もあるかと思います。(*2)

また、経済面以外では学術・文化等多方面の交流のお手伝いもやっております。大学間の交流等や環境分野交流への支援等があります。加えて長期的な課題として中国大陸からの観光客誘致にも取組中ですが、正直のところ富山の知名度は東京方面等に比べ、まだ高くない状況です。今後は特産品も含め富山ブランドが中国で周知されるよう努力をしていく予定です。


(2) 富山ファン倶楽部について

他県にない取組みとして「富山ファン倶楽部」があり、当事務所に事務局を置いています。これは留学や研修で富山県に滞在経験のある中国人により構成する組織で、富山県と中国各方面との交流促進の橋渡し役となってもらっています。同倶楽部には中国帰国後に官界・実業界で活躍される方や医療・科学・環境保護・港湾・農漁業等の専門分野に多くの逸材がおられ、富山県にとって交流事業を考える場合、非常に意義のある組織となっています。(現在会員数は約2百名)(*3)


(3) 当事務所の今後の課題

遼寧省を中心に各地の市政府や開発区との連絡を密にしておりますので、遼寧省等への企業進出に当たっての情報提供や政府機関等の紹介のできる体制は整ってきましたが、逆に中国から富山県への企業誘致となると、活動自体が時期尚早ということもあり困難な状況にあります。一昨年大連で開催された「北陸国際投資交流促進会議」において、大連企業に対する北陸地区への企業誘致セミナーのお手伝いをしましたが、中国製造業の誘致は当面は相当難しいと実感しました。むしろ第3次産業分野での中国企業の富山県進出が考えられますが、中国企業の成長を前提にいまのうちから先行投資的に富山県のPRに努めるつもりです。



中国経済事情(バブルと過熱の反動に注意が必要か?)


(1) 加速する経済成長と所得等の二極化の問題

中国経済の「適正」とされるGDP成長率は9%前後と言われており、昨年実績及び今年の予想ともほぼ同水準ですが、中身を吟味すると分野によっては過熱と言わざるを得ません。以下、過熱現象の内容について列挙します。


@経済の過熱現象
中国の場合、投資が経済成長を牽引しており、GDPに占める投資の割合も極めて大です。国内個人消費主導の成長にシフトしたいところですが、当面インフラ整備や不動産開発等を中心に固定資産投資増加率は20%台後半で推移しそうです。(2008年の北京五輪・2010年の上海万博をひかえているほか、鉄道や港湾インフラ等の整備途上でもあるため)
中国の国有大手銀行の銀行改革が進み、一部は香港市場にも上場。結果、抑え気味の貸出傾向を反転・拡大しており、銀行貸出急増中。特に地方政府間のインフラ整備競争といえる状況下、一部中国系銀行が果敢に資金需要に応じており、上海ではなく地方の動きが活発になっている模様です。(*4)
上海こそ不動産価格の上昇は一息つきましたが、大連・北京等では価格上昇が加速しています。結果、マンション不動産利回りはかっての10%台から物件によっては3〜5%に低下。一方の貸出金利は6%前後であり、「逆鞘」状態。仮需を支えているのは五輪・万博まで下落なしとする幻想と人民元切り上げ期待でしょうか。(因みに国内・海外の投資(機)資金のウェイト高い)(*5)
不動産バブルを横目に低迷していた中国内地の株式市場が息を吹き返し、個人投資家も急増。株式と不動産双方が上昇する局面になりつつあり、海外のホットマネーも短期勝負と割り切って大量に流入中です。
鉄鋼等の大増産が始まっている他、電力設備への投資積極化もあり、電力不足から一転電力余剰時代の到来も予測されます。自動車製造企業も百社以上あるとも言われますが、セメント業界も半数以上が過剰生産で赤字となっており、盲目的な生産拡大による収益の悪化が今後より顕在化する可能性は大きいと思われます。不採算企業や中小企業の資金難もあり、過度の金融引き締めはできないため、結果、経済が一部バブル化しています。

A二極化の問題

一方、所得や資産等の項目での二極化が進行しており、それは都市と地方、都市内部の二極化に加え、地方(農村)での二極化ともなっています。全体的に貧しい西部地域でも、ジニ係数(*6)は0.4を超えており、収入額で同地域農村家庭を5階層に分類した場合、最高位の2割の家庭の年収は最低位の2割の平均家庭の約12倍以上となっています。さすがに政府中央も格差是正に取組み始めています。化学肥料や燃料価格上昇による農民へのマイナス面が出てくるなか、農村の余剰労働力対策も喫緊の課題となっています。

労働集約型企業より高付加価値の技術集約型・設備集約型企業へ関心が移る地域もありますが、中国全体では依然労働集約型産業による雇用確保が重要との意見もあります。



(2)

人民元切り上げ問題 (以下は個人的見解であり、かつ相場変動に責任負いかねます)

結論から言うと、中国の一部経済学者も元は割安と認めていますが、低賃金労働者雇用確保(*7)・賃金上昇と人民元の急な切り上げは両立できない関係にあり、中国当局は社会の安定のためにも人民元の急激な上昇はさせるつもりなしと見るべきでしょうか。

最近では高等教育入学者数が10年前の5倍の500万人になっており、高学歴労働力吸収も課題になるなか、ソフト開発等が注目されています。この分野ではインドと競合するのですが、中国はソフト開発の組織力や人材育成の面も含め、ソフト技術レベルではインドにやや劣るため、インドより安い単価でないと勝てないのが現状です。インドはモノの貿易収支が恒常的に赤字であり、通貨の切り上げ圧力は少ないため、インドの存在を考えると人民元切り上げは非常に緩慢なスピードでしかできないのではないでしょうか。

また多額の外貨の蓄積もあり、米国債券を大量に保有する中国としては米国長期債利率の5%前後であることからすれば、年間の為替の「目減り」がそれ以下でないと正直痛いことも事実であり、2005年7月の人民元改革時の切り上げ分とそれ以降の上昇分はこの数字内に収まる微調整にとどまっています。(最近、瞬間的に1米ドル8人民元を切った)(*8)

但し、米中貿易摩擦は激化することは必至であり、航空機やソフトウェア等の大規模な調達や牛肉輸入再開といった方法で摩擦を回避する一方、日本と違うのは政治・軍事の面での大国としてのパワーを背景に通貨政策を運営できる点があります。日本円の大変動の歴史を反面教師にして漸進的な通貨改革(切り上げ)は継続する可能性が大きいと思われます。(過去の日米貿易摩擦とアメリカからの日本円の切り上げ圧力の動きにやや類似するところもあり、現在の中国はかつての日本の通貨・金融政策研究を重視している筈です)

対米貿易黒字は2年連続で一千億ドルに達する見込みであり、人民元の上昇圧力を減少させるための介入により人民元の流動性が増大する結果も想定されます。これはかつての日本の過剰流動性によるバブル発生の過程と類似しています。また海外の投資・投機資金にとり、じわじわですが確実に値上がりする通貨である人民元建ての資産は投資対象として理想的であり、資金流入は継続する方向にあり、これも不動産等のバブル要因となっています。

少なくも五輪までの期間は国内の二極化と人民元問題になんとか対応しつつ「絶好調」な経済状況と表面上見えると思いますが、五輪または万博後に経済面での調整局面或いは反動が来る可能性はあり、中期的には慎重な投資スタンスが必要かもしれません。(長期的には2020年まで老齢人口とこどもの割合が少ないという人口上のメリットも享受できる上、教育水準の向上・勤勉な民族性を勘案すると経済発展は継続すると思われますが・・・)



3 おわりに


大連は都市部から至近距離のところに切手の図柄にもなった美しい海岸線があり、夏から秋にかけて中国国内の他、ロシア等からも数多くのリゾート客・観光客が訪れます。週4便の富山・大連便もありますので是非、富山県の皆様この季節にお立ち寄り下さい。

なお、富山県大連事務所のメールアドレスは以下のとおりですので、ご相談等ございましたら、ご連絡の程お待ちしております。


E-mail : office01@toyama.com.cn
電話:86(国番号)-411-8368-7879


(*1) 日中国交回復後の両県省の密接な交流の結果、1984年5月に遼寧省の代表団を富山県に迎えて友好県省の締結を行っている。それからから20年目の2004年に大連事務所を開設。
(*2) 独資とは日本等外国企業が中国に現地子会社を設立する際に、中国側と組むことなく、100%自らが出資を行う形で進出する形態。中国側のパートナーも出資する場合、「合資」形態と言います。なお、委託加工は全く出資関係を伴わず、中国の企業に生産の工程の一部を発注する形態です。
(*3) 富山県の様々な訪問団が遼寧省に来訪の際、富山ファン倶楽部会員のなかから、関連する分野の方をピックアップの上、訪問団と引き合わせすることで、交流を新たに生んでいます。
(*4) 2000年前後から外国企業の上海進出ブームが発生、上海の不動産価格も上昇を続けたものですが、2004年の中央政府の経済運営方針のなかで過熱が問題とされ、不動産投資抑制のスタンスが打ち出されました。2005年以降、その効果に加え、そもそも急激な上昇の反動もあり、上海の不動産価格は下落。しかし、大都市と地方の二極化対策等から東北地方や中国の中西部の開発は奨励されたため、地方の不動産価格は上昇、地方のインフラ整備も急激に進んでいる。
(*5) 中国ではマイホームとは別に富裕層が自己資金ないしは銀行借入を行い、多くのマンションに投資する実態があります。実際に自分が使うわけでもなく、他人に貸すわけでもなく、高値で転売することが最大の目的で、まさに「仮需」ですが、なかには借入金利の負担を少しでも和らげるため、他人に物件を貸し出すこともあります。しかし家賃は思ったほど高くなく、不動産利回りが銀行金利より見劣りするケースも多々あります。
(*6) ジニ係数とは分布の集中度あるいは不平等度を表す係数で、平等であるほど0に近づき、不平等であるほど1に近づく。ジニ係数が大きいほど世帯相互の格差が大きい不平等社会ということになる。
(*7) 低賃金労働者の雇用確保の課題に関しては、平成17年3月号の「とやま経済月報」掲載の富山大学今村弘子教授の論文「中国の失業問題」が非常に参考になります。
(*8) 人民元切り上げ後の動き
2005年7月21日以前 1米ドル=8.28元程度
2005年7月21日   1米ドル=8.11元(約2%上昇)
2006年5月15日   1米ドル=7.9982元(計3.4%上昇)
その後、8元台に戻しています。

とやま経済月報
平成18年7月号