特集

ウラジオストク女性のファッションと買い物事情

国際・日本海政策課ロシア連邦沿海地方派遣職員 澤木有紀


<はじめに>

 私は、今年(2005年)の4月から1年の予定でロシア沿海地方ウラジオストクへ派遣されている県職員です。こちらでは、ロシア語の語学研修を中心に、日本語スピーチコンテストの開催や、富山県からウラジオストクに来訪する団体の随行などをしております。今回、ウラジオストク女性の買い物事情について、自分なりの視点で紹介します。


<ウラジオストクのファッション>

[写真1]
[写真1]
 ウラジオストクの街を歩いて気がつくのは、ロシア人女性の華やかさです。ほぼ全ての女性が、ファッションに気を遣っているのが分かります。ある学生は言いました。
 「ロシア人女性は、外見に大変気を遣います。例えばアメリカの学生は格好をあまり気にせず、Tシャツにジーンズ、スニーカーという砕けたスタイルで歩きますが、ロシアの学生は違います。ミニスカートを穿き、ハイヒールで歩きます。」と。
 確かに、街を歩く女性たちを見ると、圧倒的にハイヒールを履いている女性が多く、またその半数がピンヒールです。今、ウラジオストクの歩道には雪が積もっていますが、そんなことは構いもせず、ピンヒールで歩く女性をよく見かけます。実際、滑って転んで怪我をする女性も少なくないと聞きますが、危険とおしゃれを天秤に掛けると、やはりおしゃれが優先されるようです。またこれが、ウラジオストクの特徴とも言えるようです。モスクワやペテルブルグなどの大都市と比べても、ウラジオストクの女性の方が、動きやすさよりも見た目の美しさを優先する傾向にあるそうです。
 流行に関してどうかと言うと、ウラジオストクは広大なロシアの東の端に位置することもあり、モスクワやペテルブルグに入ってきたヨーロッパの流行が、当地に到達するまでには大変時間がかかるようです。例えば、今冬の流行は、毛皮が外についているブーツなのですが、ウラジオストクでこのブーツを履いている人を見たのは、私は2回しかありません。ところが、ペテルブルグに最近まで旅行に行っていたロシア人の話しでは、ペテルブルグの中心であるネフスキー大通りを歩けば、街行く女性の多くがこのブーツを履いており、すぐに今年の流行が何か分かるというのです。ウラジオストクではそうはいきません。オケアンスキー通り[写真1]を歩いても、スヴェトランスカヤ通りを歩いても、道行く人の服装から流行を見て取ることは難しいでしょう。そういう点では、ウラジオストクの女性は非常におしゃれですが、流行からは少し離れた位置にあると言えます。また、こうした流行に左右されない状況にあるため、独自のおしゃれを楽しんでいるように見えるのかもしれません。


<買い物事情>

 ウラジオストクに住む、私たち日本人の目から見て、ウラジオストクのお店はあまり魅力的ではありません。価格に品質が伴っていない店が圧倒的に多いからです。日本では2,000〜3,000円で買える服が、8,000円くらいで売られていますし、同じ中国製の服でも、日本で買う中国製よりも明らかに質が劣ります。なので、ウラジオストクに住む日本人たちは口々にこう言います。「日本に帰って買い物に行きたい!」と。
 また、ロシア人の所得から考えても、店で売られている服は決して安くはありません。参考までに、11月30日付けの地元新聞「コムサモーリナヤ・プラヴダ」によれば、ウラジオストクの平均所得は9,300R(R=ルーブル)で、約37,200円です。ちなみに、私が通うロシア語学校の先生の月給は7,000〜8,000Rで、極東国立大学の現地採用外国語教師(ALT(学校へ派遣される外国語指導助手)のようなもの)の月給は、約7,000R(28,000円)です。また、学生は勉強に忙しく、アルバイトに割く時間が十分ではないと言います。バイト料は、例えばチラシ配りや新しい商品のプロモーションのバイトだと、1時間100R(400円)くらいだそうです。つまり、彼女たちが衣類に当てられる金額は、決して多くないことが分かります。
 それでは、彼女たちはこうした家計を背景に、一体どこで買い物をしているのでしょうか。今回私は、ロシア人へのインタビューや、4月からウラジオストクで生活してきた中で見聞きしたことを中心に、彼女たちの買い物事情について探ってみたいと思います。


<買い物の場所及び手段>

 ウラジオストクで女性たちが買い物をする場所及び手段は、大きく分けて3つあります。(1)店、(2)市場、(3)ショッピングツアーです。それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。

(1)店
 一概に店と言ってもいろいろあり、主に4つに分類できます。1)「タルゴーヴィー・ツェントル(商業センター)」と呼ばれるショッピングセンター、2)日本で言うところのデパート、3)小売店、4)ブランド専門店です。
1)タルゴーヴィー・ツェントル(商業センター)
[写真2]
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[写真3]
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 商業センターは街の至る所にあります。街の中心に限らず、主要なバス停の近くや市場の周りなどにも建っています。例えば私は、街の中心からさほど遠くないところに住んでいるのですが、徒歩20分圏内に、「ガリレヤ」[写真2]「BGN」「ザラトイ・ロック」「ロージナ」「ジェニファー」「EL-LE」と少なくとも6軒の商業センターがあります。
 これらセンターの中には、小売店がショップモールのように並んでいるのですが、写真[写真3]にあるように、個々の店がアクリル板のようなもので仕切られているため、センター全体からは窮屈な印象を受けます。また、ウィンドーディスプレイに全く気を遣っていないため、店は雑多な雰囲気に包まれています。店内のディスプレイよりも、いかに品数を多くするかに重きを置いているように感じます。そして、これらの店で売られている服は、市場で売られているものと同じ服が多いそうです。一つのブランドなりメーカーなりに絞って服を置いているという店は、特にありません。私が見る限りでも、大体、どこの店でも同じような服を売っています。そうした場合、市場で買った方が安く買えるため、ショッピングに詳しい女性たちは、ここで買うことは少ないそうです。ただ、若者の中には、市場が怖いという人も少なくありません。市場では様々な人種が入り混じっており落ち着かず、また実際スリが多発しており治安も良いとは言えないからです。それに、試着なども露店の市場では思うようにしづらいと言います。そのため、同じような服でも、幾分安い市場ではなく商業センターで買う人がいます。

2)デパート
[写真4]
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[写真5]
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 デパートと商業センターの何が違うのかと聞かれると回答に困るのですが、今回私は、入っている店舗の違いと、エスカレーターがあるかないかで区別しました。そして、この条件に当てはまるのは、ウラジオストクでは今のところ「イグナット」[写真4、5]、
[写真6]
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[写真7]
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[写真8]
[写真8]
[写真9]
[写真9]
「ツェントラーリヌィー」[写真6、7、8]の2つだけです。(現在アレウツカヤ通り、「ザラトイ・ロック」迎え側に、建設中のものが一つあります。)名称そのものが「グム(国立デパ ート)」[写真9]というデパートもあるのですが、そこは旧ソ連時代からのデパートで大変古く、1階の化粧品売り場や2階のお土産店を利用している人はよく目にするものの、3、4階で服を買う人は見たことがありません。服売り場は薄暗く、デパート側の売ろうという姿勢が全く感じられません。
 「イグナット」は3年ほど前にできたデパートですが、ロシア人が「イグナットはミュージアムよ。」というくらい、大概の店の商品は値段が高く、一般の人は手が出せません。以前、子ども用シューズを探しにいったら、2万円近くもしてびっくりしました。品質が値段に見合っているのかというと、そうでもありません。買うときはセール品のみ、と答えた学生もいましたが、セール品にしてもかなりの値段です。イグナットで買うというのは、金持ちのステイタス・シンボルなのかもしれません。
[写真10]
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 もう一つのデパートは、今年の秋にオープンした、オケアンスキー通りの「ツェントラーリニー」デパートです。ここには、「SELA(セーラ)」[写真10](http://www.sela.ru)「TBOE(トゥヴァヨー:君のもの)」[写真11](http://www.tvoe.ru)「WoolStreet」などの固定ブランド(「SELA」と「TBOE」はロシアブランド)が入っており、商業センターなどの小売店と異なります。雑多な店も入っていますが、全体的に日本のデパートに近い感じがします。こちらの方が、イグナットよりも客の入りが多いです。 極端に値段の高い店が少なく、比較的リーズナブルな店が入っているからだと思います。ちなみに、私は「SELA」でフリースジャンパーを買いましたが、500R(約2,000円)と手頃で、品質もそう悪くありませんでした。

3)小売店
[写真12]
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[写真13]
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 商業センターに入っているのと同じような店(一軒のみ)が、街のところどころにあります。こうした店は、4)のブランド専門店とは異なり、人目を惹くようなものは何もありません。そのため、全く流行っていないと言っても過言ではありません。ただ、住んでいる場所によっては、近くに商業センターがなく小売店だけという地域もあり、そうした場合、小売店を利用する人がいるようです。中心街の小売店は、はっきり言って人が入っていません。

4)ブランド専門店
 ブランド専門店というよりも、メーカー専門店と言った方が正しいかもしれません。グッチやシャネルといった高級ブランド店のことではなく、ベネトンやアディダスといったメーカーの専門店のことです。ウラジオストクには今、「ベネトン」「アディダス」[写真12]「MEXX」「NAFNAF」[写真13]「Morgan」といった専門店があります。中でもベネトンは、若者を中心に大変人気があります。色の鮮やかさもロシア人好みと言えます。これらの店のディスプレイは日本と似ており、私たちが入っても違和感がありません。ただやはり専門店のため、値段も決して安くはなく、日本と同じくらいの価格です。誰でも簡単に買えるかというとそういうわけにもいかず、気軽に利用できる店ではありません。

(2)市場
[写真14]
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[写真15]
[写真15]
[写真16]
[写真16]
  ウラジオストクには10以上の市場があり、少なくともその内5つの市場で服が買えます[写真14、15、16]。上記の1)でも触れたとおり、同じ服でも市場で買う方が安いということが多々あります。そのため、自由に使えるお金の少ない若者の中には、市場で服を買う人もいます。ただ、彼らは「お金のない人が市場に買いに行く」と言い、市場で服を買うことに対して幾分抵抗感を持っているようです。それに、市場で売っている服は、ウラジオストクのあらゆる市場で買えるため、同じ服を着ている人によく出会う、という状況に陥ります。今年の夏によく見かけたのは、ギャザーの入ったノースリーブでした。どこの市場でも見かけたため、街を歩いていると、「あ、あれ、市場で売ってた服だ。」とすぐ分かるのです。約5人に1人がこのノースリーブを着用していたので、色は様々なものがあったのですが形が全く同じだったため、かなり目立っていました。このように、同じ服を着ている人によく出くわすので、市場で服を買うのは好きではないという若者が多くいます。更に、治安の悪さから、市場を怖がる人も少なくありません。

(3)ショッピングツアー
 (1)、(2)のようにウラジオストクで買い物する他に、中国やトルコへ行くショッピングツアーがあります。ロシア人は毛皮が大好きなので、どちらの国にも、毛皮の購入を目的として行くロシア人が多いといいます。ロシアで買うよりも数段安く買えるそうです。品質でいうと、トルコ産の方が中国産よりも良いということですが、さすがにトルコへ行くには旅費がかさむため、最近ではもっぱら中国へ行くロシア人が増えてきています。中でもウラジオストクから近い「スイフンヘ(=綏芬河、ソイフェンホー)」へ買い物に行く人は多く、ショッピングツアーに参加したことのある学生も多くいます。スイフンヘへは、車なら4時間弱、バスなら6時間くらいで行けるそうです。今やスイフンヘでは、中国人よりもロシア人の方が多く見られ、ロシア人向けの食堂などもあるそうです。ただし、こうした人気を背景に、最近では物価が少し高くなってきており、治安も悪化しているようです。また、同じ中国内でも、スイフンヘとハルピンでは、商品の質が異なり、ハルピンの方が品質が良いと言います。
 スイフンヘへ行くツアーの中には、おもしろいシステムが一つあります。それは、「パマガイカ(お手伝いさん)」というシステムで、これを使うと700R(3,000円弱)でスイフンヘに買い物に行くことができます。(昔は無料で行けたそうです。)どういうシステムかというと、中国へ服を買い付けに行っているバイヤーを手伝い、彼の購入した服(商品)の一部をウラジオストクに運び込むというものです。スイフンヘからロシアへ入る時は、50キログラムまでなら無料で持ち込めるため、パマガイカと呼ばれる人たちは、自分たちの買った服の他に、50キログラムまでの荷物を引き受けるのです。このシステムを利用してスイフンヘへ行く学生たちが結構います。
 こうした「パマガイカ」システムを旅行会社が公に宣伝しているわけはないと思い、どうやってパマガイカを募っているのか気になりました。もちろん口コミもありますが、テレビなどで、「スイフンヘへ、3日間600Rで行けます。ご希望の方はこちらまで。(→電話番号)」というコマーシャルが流れたりするそうです。そうして電話を掛けると、パマガイカの説明を受ける、といった具合です。(現在、荷物の持ち込み制限を、政府が50キロから15キロに改正するかもしれないという話しが出ています。そうなった場合、このパマガイカシステムは無くなると思われます。)
 ところで、日本では韓国へショッピングに行く女性が多くいます。ウラジオストクも韓国に近いのだから、同じようにショッピングツアーがあってもよさそうなのに、と疑問に思いロシア人に聞いてみました。確かに、韓国は品質もサービスも良く、値段も安いのですが、一番の問題はビザ取得の難しさにあるそうです。日本のビザを取得する以上に難しいということです。不法滞在目的で入国するロシア人が後を絶たないため、韓国政府の取り締まりが年々厳しくなっているのです。


<まとめ>

 今回はっきりと分かったことは、私たち日本人が感じているように、ロシア人女性たちも、ウラジオストクの買い物事情に全く満足していないということです。おしゃれに大変気を遣う彼女たちが、価格と品質に満足できるような店はここにはありません。品質がそれなりに良いものだと、値段が非常に高くなってしまうのです。彼女たちが求めているのは、例えば次のような店です。
(1)安くて品質の良い、ファッショナブルな店
(2)メーカー、ブランドのしっかりしている店(高級ブランドは必要ない。)
(3)シーズン毎のセール、アウトレットセールのあるブランド店
 (1)については、言わずもがな、といったところでしょう。(2)については、ベネトン、アディダスといった信頼できるメーカーの専門店が多くなればいいということでした。今、商業センターなどに入っている店では、服のブランドが混ざり合っており、また服についているタグも信用できません。というのも、生地店や市場などで、「GAP」「adidas」といったメーカー名のタグを買うことができ、好きな服にそれらを縫い付けて売ることができるからです。「イタリア製」と書いてあっても中国製である可能性が大きいのです。彼女たちは、安心して服を買えるお店を必要としています。
 (3)については、ウラジオストクではセール品が少ないと言います。去年の服でも同じ値段で売られている、と。ただし、これにはロシア人特有の見栄っ張りな性格も影響を与えているようです。ロシア人はお金がないと思われることを非常に嫌います。そのため、「セール」という文字を見ても、日本人のように売り場に押し掛けたりはしません。そんなことをしようものなら、「あの人、お金がないのね…」と思われてしまうと心配するからです。また、店自体も、おおっぴらにセール開催中と宣伝している店は少なく、やる気なさそうに「распродажа(ラスプラダージャ)=セール」と白黒で印刷された紙が入り口に1枚貼ってあるだけ、という店もみかけました。このような小売店に比べ、ブランド店では割合オープンに宣伝しています。ドイツのメーカー「WoolStreet」の店では、日本のように赤い文字で「SALE30%〜70%」と書かれた看板が立っていましたし、ベネトンでも、○%OFFといった文字が目立つように貼ってありました。ロシア人が、もう少し恥ずかしがらずにセール品を買うようになれば、シーズン毎のセールやアウトレットセールも、今よりは多くなるのではないかと思います。
 最後に、冒頭でも述べたように、ウラジオストクへは流行がかなり遅れて入ってきます。逆に、日本から流行を取り入れた方が絶対に速いはずです。そして、富山県は他県の間でも、「セレクトショップがいろいろあり、おもしろい県だ」という評判を聞きます。ファッションの富山を掲げ、ウラジオストクに流行を発信してみるのもおもしろいかもしれません。ウラジオストクの流行は富山が発信地。そうなる日が、もしかしたら将来やって来るかもしれません。

とやま経済月報
平成18年1月号