特集

短観でみる北陸・富山県経済の特徴

日本銀行富山事務所長 野村幸司


1.はじめに

 日本銀行の公表統計の1つに「企業短期経済観測調査」(短観)があるが、これは「国内景気の実態把握」を主目的として、企業の業況等の現状・先行きに関する判断(判断項目)や事業計画に関する実績・予測(計数項目)など、企業活動全般に関する調査項目について、全国の調査先企業(約10,000社)に四半期ごとに実施する統計調査(ビジネスサーベイ)である。調査票の発送から集計結果の公表まで約1か月と、現在の企業の状況を早期に観測できるのが特徴の一つになっている。

 本稿では、金沢支店が公表している北陸(富山・石川・福井県)短観の結果(注)からその特徴点を解説していく。

(注)北陸短観については、05年6月調査より「県別の業況判断(DI)」を参考値として公表開始。


2.業種間格差を伴いながら緩やかな回復が続く

 05年12月短観(12/14日公表)では、全産業の業況判断(DI)が13年10か月振りにプラスに転化(92年2月以来)したほか、事業計画も前回調査を上方修正する内容となるなど、「北陸経済は緩やかな回復基調を辿っている」ことを示す結果となった。もっとも、先行きの予測では、高止まりしている原油・素材価格の動向や内外の需要に対する不安感などもあって、多くの業種で慎重な見方をしている。

 業況判断について業種別にみると、これまで製造業に比べ回復が遅れていた非製造業が13年7か月振りにプラスに転化(92年5月以来)したことが大きな特徴といえる。

 個別業種でみると、製造業では鉄鋼、非鉄金属、一般機械、電気機械、輸送用機械などで回復感が強まっている一方、繊維、紙・パルプ、金属製品などは「悪い」超の状態が長期化しており、改善が遅々としている。また、非製造業では不動産、卸売、情報通信などの好調業種が増えているが、建設、小売は引続き改善が遅れているなど、緩やかな回復が続く中で、好調と伸び悩みの業種が一段とはっきりとしてきた印象である。苦戦を強いられている業種は、総じて原油・素材価格の高騰や競合激化の影響などを映じたものと推測される。

 こうした中、「富山県の業況判断」をみると、公表を開始した05年6月調査以降、製造業、非製造業ともに順調な改善をみせており、調査先数の制約から統計精度の問題があり、単純な比較は難しいものの、北陸3県の中ではその水準の高さが目立っている。特に、製造業は12月に「+27」まで上昇したが、これは石川・福井の両県に比べ繊維産業のウエイトが低い一方で、一般機械、電気機械、輸送用機械などの好調業種を数多く擁している結果と思われる。さらに、05年の夏場から秋口にかけてIT関連分野の在庫調整が完了し、主力の電気機械を中心に生産の回復がみられたこともここへきて数値が続伸した背景になっているものと考えられる。もっとも、富山県においても、金属製品(アルミ)、建設、小売などで改善の遅れが目立つなど、業種間の格差は鮮明になっているとともに、好調業種でも先行きについては慎重な見方を崩していない。

図表1 業況判断(DI)の推移【全産業】
図表1 業況判断(DI)の推移【全産業】

図表2 業況判断(DI)の推移【製造業】
図表2 業況判断(DI)の推移【製造業】

図表3 業況判断(DI)の推移【非製造業】
図表3 業況判断の推移【非製造業】


図表4 業況判断(DI)の推移
(「良い」−「悪い」・%ポイント)
図表4 業況判断(DI)の推移


図表5 主な業種別の業況判断(DI)(05/12月:北陸全体)
図表5 主な業種別の業況判断(DI)(05/12月:北陸全体)


(参考)
 図表6「業況判断(DI)【地域別】」は、各地域等の業況判断(DI)について、製造業(縦軸)、非製造業(横軸)の水準(05/9月、12月調査)をプロットしたもの。各地域別の水準比較は統計精度の問題(注)から単純な比較は適切ではないことから、大雑把な傾向(参考)値としてご覧いただきたい。
 主な特徴点をあげると次のとおり。

今回の回復局面では、地方の回復が遅れていると言われるが、東海、近畿に対して北海道、東北等の遅れがDIの分布でも表れている。
製造業は多くの地域でプラス領域に位置する一方、非製造業はマイナス領域に多くの地域が位置しており、製造業けん引型の回復となっている。
17年9月調査に比べ12月調査では、各地域とも総じて改善方向にシフト(右上領域へのシフト)しており、依然として地域格差は大きいものの、全国的にも緩やかな回復傾向を示している。特に、製造業は改善が遅れていた地域でもプラス転化するなど、これまで回復が遅れていた地域ほど改善幅が大きい傾向が窺われる。

図表6 業況判断(DI)【地域別】
図表6 業況判断(DI)【地域別】
資料:日本銀行各支店短期経済観測調査
関東甲信越のDIは現時点で公表されていないため、主要な県のDIを表示してあるが、名称は省略。

(注)短観調査先は、全国の産業構造(業種、規模)を踏まえて選定しているが、地域性を考慮せずに抽出している。したがって、地域毎にみると、必ずしも各地域の産業構造を正確に反映したものになっていないことから、各地域の計数を横並びで水準比較することは適当ではない。ただし、継続標本であり、かつ回答率が高いことから、当該地区の業況推移等を時系列で評価するなど、地域の経済動向を把握するための材料の一つとして活用できる(日本銀行「地域経済報告・地域別業況判断DI」注釈抜すい)。


3.業績、事業計画は堅調

 北陸短観12月調査(北陸計)をみると、売上高、経常利益では製造業、非製造業ともに前回9月調査から上方修正となり、前年度比で増収増益となった(製造業は4年連続の増収増益、非製造業の経常利益は前回調査の前年度比減益から一転し、2年振りの増益計画)。業種別では、一般機械、電気機械、輸送用機械等の増益率と前回調査比の改善率の高さが目立つ。また、設備投資では、製造業で高水準であった前年度(前年度比+35.6%)をさらに上回り2年連続のプラスとなったほか、非製造業でも2桁の増加となるなど、堅調な計画となった。業種別では、金属製品、一般機械、精密機械、情報通信などの伸び率が目立つ。

 今次回復局面では、売上高、経常利益、設備投資といった業績や事業計画が堅調である一方で、業況判断(DI)は漸く全産業でプラス転化したが、その水準はまだ低位にあるなど、企業マインドは総じて慎重になっている。この背景には、「いざなぎ景気」に迫る長い景気回復局面と言われているものの、原油・素材価格が高止まっていること、内外需の見通しに不安があること、および生き残りをかけ内外企業の競争が一段と激化していることなどもあって、先行きに確たる自信を持ちにくい事情があるように思われる。一方で、こうした不透明な環境にあるがゆえに、好調な企業であっても増産対応のライン増設等の投資のみならず、他社との一層の製品優位性(例:小さく、薄く、高品質)を勝ち取るための投資も積極的に行うなど、「生き残るためには不可欠な対応」としている向きが少なくないように窺われる。

(図表7)売上高<北陸計>
(前年度比、前回比修正率・%)
(図表7)売上高<北陸計>

(図表8)経常利益<北陸計>
(前年度比、前回比修正率・%)
(図表8)経常利益<北陸計>

(図表9)設備投資額<北陸計>
(前年度比、前回比修正率・%)
(図表9)設備投資額<北陸計>

以 上
 本稿で使用している計表、計数は「日本銀行金沢支店」公表資料「北陸短観」から転載(除く、図表6「業況判断(DI)【地域別】」)。
 「北陸短観」に関する詳細データは、「日本銀行金沢支店ホームページ」公表資料「北陸短観」を参照。


とやま経済月報
平成18年1月号