特集

設備投資動向調査からみた富山県経済の今

日本政策投資銀行富山事務所長 藤田 寛


 民間企業設備投資(以下、「設備投資」という。)は、国内総支出(実質)の約15%のウェイトを占める。富山県においても実質県民総支出の約16%を占めており、毎年の変動が大きいことから個人消費などと並んで景気動向を左右する重要な要素であるとともに、その時点の企業マインドを表す指標ともされる。さらに、企業の今後の事業展開への意欲を示すものでもあり、地域経済の今後の姿を占うためにも重要である。
 本稿では、日本政策投資銀行(以下、「政策銀行」という。)が定期的に実施している設備投資動向調査を材料に、富山県経済の現状と特徴について考察を試みることにしたい。


1.はじめに

 政策銀行では、各業種・各地域における設備投資の動向を把握することを目的に、毎年6月及び11月に、資本金1億円以上の民間法人企業(金融保険業等を除く)に対して、設備投資(国内における有形固定資産投資)計画・実績に関するアンケート調査を実施している。
 なお、2003年度までは毎年2月及び8月に実施していたが、調査の一層の実効性確保等を目的に、今年度より調査時期を上記に変更している。
 各地域内、さらに各都道府県内での設備投資額を把握しているのは、政策銀行調査のみである。

 2004年11月に実施した最新の調査では、2004年度及び2005年度の設備投資計画について約8,500社から回答をいただいた。うち富山県内での設備投資計画を有するのは292社であった(これは、あくまで富山県内で実施される設備投資であり、富山県内に本社を置く会社の設備投資ではないことに注意されたい)。
 なお、本調査における設備投資額とは工事ベースの金額であり、原則として建設仮勘定を含む有形固定資産勘定への計上額である。また集計に際しては、事業部門別の回答額を業種毎に分類・集計している。


2.2004年11月調査結果とその評価

 今回の調査によれば、県内の2004年度設備投資(計画)は、全産業で前年度比20.7%増、電力を除くと20.8%増と、それぞれ4年ぶりに増加となる(図表1)。
 製造業は42.9%の大幅増で、2年連続の増加となる。業種別にみると、化学(37.7%増)が医薬品の受託生産や後発品対応などで2年連続の増加となるほか、金属製品(114.6%増)が大型工場新設により大幅に増加、一般機械(74.3%増)が自動車関連など、その他製造業(37.6%増)が合理化関連投資などにより増加となる。
 非製造業は0.1%減とほぼ横這いとなるが、電力を除くと8.5%減と引き続き減少となる。業種別にみると、通信・情報(12.4%増)がデジタル放送対応で増加に転ずるものの、不動産(40.7%減)が再開発ビルの完成や空港施設増設の一段落により引き続き減少となるほか、卸売・小売(59.0%減)が物流施設建設終了などで減少に転ずる。電力(20.5%増)は増加に転ずる。

図表1 2004年度 富山県設備投資動向
図表1 2004年度 富山県設備投資動向

 今回の調査の主たる目的は、前回調査(2004年6月実施)以降の企業マインドの変化を設備投資計画の修正状況から探ることにある。これには図表1に示した修正率(前回調査と比較した増額あるいは減額の状況を表す数字)をみる必要がある。
 全産業では5.0%の増額修正となっており、電力を除いても5.9%の増額修正となった。製造業は電気機械が減額となったものの、金属製品、化学、鉄鋼の増額により、全体では9.1%の増額修正となっている。非製造業は運輸、通信・情報が減額となったものの、不動産、リース等の増額により、全体では0.1%減と前回並みの水準となっている。電力を除いても0.2%の減額に止まっている。
 過去の調査における計画修正の傾向をみると、前年度夏の調査から回を追う毎に増額され、当該年度夏の調査でピークをつけた後、その後の2回の調査で若干減額修正されて確定する、という形が通常の年度の一つのパターンとして捉えられる(最後の段階での減額は、工事の遅れや若干の微調整によるものと考えられる)。
 しかし、景気好調時には一貫して増額修正されるパターンが出現し、逆に不況期には最初から最後まで減額が続くこともある。
 こうした過去の経験に照らすと、今回の結果は特に製造業についてかなり堅調な企業マインドを示していると思われる。非製造業も前回並みの水準を維持しており、調査時点における県内設備投資は底堅いと判断して良かろう。

 なお、今回調査では上記の通り2005年度計画についても調査しているが、現時点の来年度計画には不確定要素が強く、参考程度のデータと考えるのが妥当である。結果のみ記しておくと、全産業で前年度比16.6%減、電力を除くと8.2%減、製造業が11.9%減、非製造業が20.7%減(電力を除くと2.9%減)となっている。

 過去の県内設備投資の伸び率推移をグラフ化したのが図表2である。全体的な景気動向と、設備投資、特に製造業の動きに一定の連動性があることが見て取れよう。

図表2 1990〜2005年度 富山県設備投資増減率の推移
図表2 1990〜2005年度 富山県設備投資増減率の推移
(出所) 政策銀行 「設備投資動向調査」


 また、バブル崩壊後の1995年度を100として設備投資額を指数化すると、2004年度計画額は電力を除く全産業で76.2、製造業で85.3、電力を除く非製造業で72.4となる(図表3)。90年代後半の長い低迷期を経て、県内設備投資は絶対水準としても製造業を中心に回復してきているとみて良かろう。

図表3 富山県設備投資額指数(95年度=100)
図表3 富山県設備投資額指数(95年度=100)
(出所) 政策銀行 「設備投資動向調査」


3 設備投資からみた富山県経済の特徴

 富山県内の設備投資計画をみてまず気づくのは、製造業のウェイトが極めて高いことである(図表4)。

図表4 設備投資産業別金額・構成比比較
図表4 設備投資産業別金額・構成比比較

 他の北陸2県と比較した場合の県内製造業の投資は、金額、構成比ともに際だって多く、構成比については全国の水準と比べても非常に高いレベルにある。
 これは、石川、福井と違って県内に原子力発電所関連の投資がないことも一因であるが、化学、金属製品、一般機械といった従来から富山県産業を支えてきた伝統業種が、現在もその力を維持するだけでなく、さらに進化していることが主たる理由である。
 「ものづくり県」富山の特長、そして上記業種の強さは、県民経済計算(図表5)から認められるが、設備投資計画にもその事実ははっきりと反映されている。
 しかしこのことは、逆の見方をすると非製造業、特にサービス産業の弱さを示しているとも言える。図表4で電力を除いた非製造業の構成比を全国と比較するとこの点が明瞭になる。富山県の県内総生産が2001年度に石川県の後塵を拝するに至った原因は、低迷期にあった製造業のウェイトが高く、相対的に落ち込み幅の小さかったサービス産業の構成比が低いことによるものと思われる(図表5参照)。
 以上を踏まえ、今後の富山県の産業に求められるのは、以下の2点と考えられる。
一、 全国有数の「ものづくり県」としての強みに一層の磨きをかけること。具体的には、過去の伝統と蓄積を有する産業を、時代の要請に合わせてさらに高度化していくことが必要であり、そのためには産学官連携の推進や既存企業の中にある有望技術を適切に事業化していく仕組みを整えていくことであろう。
二、 若干見劣りするサービス産業を振興するための基盤整備を行うこと。サービス産業は都市型産業としての特色を持っていることから、都市部の集積度をある程度まで高めて行くための対策が必要であり、こうした視点からのまちづくり、地域づくりを考えていく必要があろう。

図表5 富山県・石川県 県民経済計算比較
図表5 富山県・石川県 県民経済計算比較
以上

とやま経済月報
平成17年1月号