経済指標の見方・使い方

経営分析

富山大学経済学部助教授 鈴木基史


1.はじめに

 企業が開示する財務諸表は、会計基準や関係諸法令に基づいて作成される。開示された財務諸表は、投資家や債権者などの利害関係者(ステーク・ホルダー)によって利用される。特に投資家・証券アナリストなどは、証券投資意思決定の判断のための企業分析の重要な資料として財務諸表を利用する。また企業内部の財務担当者により、企業のさまざまな意思決定を補助する目的として利用される。
 財務諸表の分析には、目標値や理論値との比較分析、時系列分析、他企業との比較であるクロスセクション分析などがある。また財務比率法によって企業の経営分析をするにあたっては、収益性分析・安全性分析・成長性分析・生産性分析などがあるが、ここでは、収益性分析におけるROAとROEに焦点をあてて解説をする。


2.収益性分析と経営効率

 収益性分析とは、投下した資本から、どれだけの利益が獲得されたかという関係をみるものである。つまり利益÷資本で計算される資本利益率という資本効率の測定が重要な指標となる。しかし単に資本利益率といっても算定しようとする比率の目的によって、分子にどのような利益概念を用いるか、分母にどのような資本概念を用いるかの組み合わせが決まってくる。資本利益率に使用される利益概念としては、営業利益・事業利益・経常利益・当期純利益などがあり、また同じように資本概念としては総資本・経営資本・自己資本(株主資本)などがある。
 以下において資本利益率のうちROA(Return on Assets)とROE(Return on Equity)を中心に、そしてそれぞれの指標の分解によって導き出される資本回転率や売上高利益率を解説することにする。

(1)ROA(総資本事業利益率)
 このROAは、営業活動から獲得された営業利益と金融財務活動から獲得された金融収益との合計額と企業が調達したすべての資本とを対比するものである。
 分子に用いられる利益は「事業利益」といわれるものであり、上述のように、営業利益に受取利息・配当金および有価証券利息を加算したものである。したがって企業の通常の事業活動がどれほど収益をあげているかを表す利益概念である。
 分母の総資本は、貸借対照表の貸方の合計、つまり債権者などから調達した他人資本と株主から提供された自己資本の合計である。なお期間の使用総資本を表すためには、期首と期末の平均値を用いることが合理的である。
 ここでなぜこの資本概念と事業利益の組み合わせが選択されなければならないのかというと、ROAは、企業サイドにたった経営の効率性を示すことに目的があるためである。企業が事業活動をおこなうために調達した資本からどれだけの利益を創出したのか判断するためには、経常利益ではなく支払利息などの金融費用控除前の事業利益を選択することに合理性があるためである。
 これらのことからROAの計算式は以下のようになる。
 ROA=営業利益+受取利息・配当金・有価証券利息/平均総資本×100

(2)ROE(自己資本利益率)
 ROE(自己資本利益率)とは、株主資本利益率という名称で、近年とくに注目されている比率である。ROAと同じように企業経営の効率性や企業の成長性をみる指標であるが、分母に株主が提供した資本部分である自己(株主)資本を用いることから、企業が自己資本からどれだけの利益を生み出したかを判断するための指標である。したがってROEは、株主の観点からの収益性を示すものである。特に近年コーポレート・ガバナンスの観点からこのROEが重視されてきている。
 分子には、税引後の当期純利益が用いられる。これは、利益処分の原資となる利益が、経常利益から特別損益項目を加減し、さらに法人税等を控除した税引後当期純利益とされるためである。ROEの場合も分母の自己資本は期首と期末の平均値が用いられる。
 ROE=税引後当期純利益/平均自己資本×100


3.ROAとROEの関係とその分解

 ROAは次のように2つの財務比率に分解できる。
 ROA=利益(事業利益)/総資本×100
利益/売上高(売上高利益率)×売上高/総資本(資本回転率)
 売上高利益率(売上マージン)は、売上高にどれだけの利益が含められているのかをパーセントで示したもので、百分率損益計算書によって得られものである。資本回転率は、総資本の何倍の売上があったかを示すもので、倍数で計算されるものである。または、総資本が1年で何回転したかを示すものでもあるので資本が回転した回数と考えることもでき、したがって、売上高によってどれだけ資産回収を早めているかという解釈もできる。
 ROAを高めるためには売上高利益率を高めるか資本回転率を高めるかの2つの方法がある。同時に両方を高めることができれば理想的であるが困難な場合が多い。たとえば、スーパーなどは、薄利多売の典型的な業種であるが、低い利益率であるが高回転率によって資産回収を早めようとするものである。また、高級品を販売する専門店などは、高利益率ではあるが低回転率であることが多い。このように売上高利益率と資本回転率はトレード・オフの関係にありどのようにバランスをとるか販売商品や企業環境によって異なってくる。
 次にROEを分解してみると次のようになる。ROEであるから利益は当期純利益におきかえることになる。
 ROE=当期純利益/売上高×売上高/総資本×総資本/自己資本
 分解からわかるように、ROEはROAに(総資本/自己資本)を乗じたものになる。(総資本/自己資本)は、財務レバレッジといい自己資本比率の逆数である。ROEを高めるには、売上高利益率を高めるか資本回転率を高めるかそして財務レバレッジを高めるかによって実現する。財務レバレッジを大きくするということは不況期に支払利息という資金調達コストの割合が高まり経営を圧迫するという短所があり、他人資本・自己資本の最適なバランスが図られなければならない。戦後日本の高度経済成長を支えた一因として財務レバレッジの大きさがあげられるし、逆にその後のオイルショック以降、財務レバレッジを下げることにより不況に耐えうる財務体質をつくってきた現実がある。
 以下に7月9・10日の日本経済新聞の「ニッポン株式会社−実力を探る−」に掲載されたグラフを示す。そこでは、財務体質の向上がROAを上昇させ、財務レバレッジは小さくなっているが企業の収益性の向上がROEを上昇させている最近のわが国企業の最近の状況をみることができる。

日本経済新聞7月10日朝刊
日本経済新聞7月10日朝刊
日本経済新聞7月9日朝刊
日本経済新聞7月9日朝刊

とやま経済月報
平成16年9月号