特集

世界経済グローバル化時代の人材養成

遼寧省国際交流中心日本事務所代表 易 震球


 「人材」はすべての組織に求められる重要事項であります。大手企業にしろ、中小企業にしろ、すべての企業は「人材」に支えられています。もちろん、理想的な人材はすべての条件が揃っている人ですが、世の中にそのような「人材」はそう多いとはいえません。したがって、潜在的な能力を持つ人を養成して、「人材」を養成する必要があります。「人材養成」は会社の発展にとって重要な問題であり、どのような取り組みによって実施するのかを重視する必要があります。
 遼寧省国際交流中心(以後:遼寧省国際センター)では中国遼寧省人民政府と一体化して、企業の人材として役立てる研修生の育成に取り組むと共に、派遣した研修生の管理も行なっており、この事業は今後、中国が国際化を計っていく上でますます重要な位置を占めると考えております。


一、遼寧省の国際人材交流の窓口

 遼寧省の国際人材交流の窓口は遼寧省国際センターであります。遼寧省国際センターは遼寧省人民政府から要請され、国際的な人材を養成しており、遼寧省の国際交流の重要窓口として、1991年から、今日に至るまで富山県をはじめ、神奈川など15の道県に研修生を3000名余り送り出してきました。
 富山県における研修生事業は遼寧省と富山県の友好交流の一環として行なわれており、特に富山県商工会連合会においては受入機関として、大きな御協力をいただいております。派遣技術者は印刷、プラスチック加工、縫製、紡績、食品加工、電子関係、石材加工、機械組み立て、部品加工など20数業種にわたっており、現在に至るまで710名の技術研修生の交流を行なっております。
 研修生事業は、両省県の交流事業の中のモデル事業として、省県の指導者より高く評価されております。
 一昨年からは、新たに富山国際人材交流センター協同組合を通して、技術研修生の受入れも始まっており、技術交流は着実に増えてきています。一般論として研修生のイメージとして、「安い労働力だ」と思われるかもしれませんが、研修生は労働力だけではありません。遼寧省が推薦した研修生は省内各会社の優秀な職員であり、しかも、将来性を有望視されております。
 彼等は日本での研修を通して、将来省或いは国の技術レベルを高める責務を持っております。当センターの研修生は帰国した後、各職場に戻り、中堅社員や会社の責任者になる人も少なくありません。彼らは日本で習得した技術を生かして、会社の発展に貢献しております。
 また、日本で学んだことによって、日本の事情にも精通し、企業間の架け橋としても活躍しております。研修生の中には日本の元研修企業の中国進出会社の技術管理者として役割を果たすケースも多々あります。


二、日本事務所の設置

 研修生受入企業と研修生とのコミュニケーションを強化するため、当センターは2001年12月に富山で日本事務所を設立し、受入機関、企業と共に研修生を管理する体制を作り、富山県を中心に日本国内の研修生事業を展開してきました。
 日本事務所を開設するに当たり、当時省内にはいろいろな意見があり、例えば、東京、大阪、富山、神奈川などいくつかの候補地が協議されました。
 情報収集の点、交通の便から東京開設が良く、大阪は総領事館があると同時に瀋陽との直行便もあり有力な候補となりました。しかしながら、富山は東京や大阪のような好条件がないにもかかわらず最終的に決定されることになりました。
 その理由として遼寧省と富山県との間に長年の友好関係が築かれたことが大きな要因だと理解しております。
 遼寧省と富山県は1984年に友好関係を提携して以来、双方は経済貿易、文化教育、人材交流など幅広い分野で交流を行い、成果を収めてきました。官庁だけではなく、民間の交流においても盛んに行なわれており、交流の基盤は固いと考えられたからです。


三、私と富山の縁

 事務所を富山県に設置するのに際し私は大賛成しました。それはかつて私が富山県に在住した際、いろいろな方々に大変お世話になったからです。
 私は、平成11年度の一年間、交換職員として富山大学に通いながら、県国際課に勤務しておりました。私にとっては初めての海外滞在であるのに、県庁をはじめ、県国際センターの方々の御協力のおかげで、困らずに楽しく、充実した一年を過ごしました。いい思い出を多く残すことが出来ました。
 一つ印象深いのは富山県内には中国語を勉強する方が多く居るということです。若い方も年配の方もいます。
 ある時「なぜ中国語を勉強するのですか」と聞きました。皆「中国に興味を持っているから」との答えでした。県内には中国語を勉強する会が数多く存在します。中国語ネットワークの他、高岡鳩の会など多くの団体があります。それらの会の活動は活発で、歌合戦、弁論大会、花見会などを通して、積極的に中国と交流を行なっています。
 幸いにして、滞在中の一年間で多くの友達に恵まれ、県内のあちこちを回ることができました。雄大な立山をはじめ、瑞龍寺、チューリップ四季彩館などの綺麗な自然、豊かな文化を楽しみました。
 「いい人、いい味、いきいき富山」の素晴らしさを十分に感じさせていただいたといえます。そして、一年を経過した後、私は「富山県名誉大使」に任命され帰国しました。
 帰国後、私は遼寧省において研修生の仕事を担当していましたが、残念ながら富山の担当ではなかったので、いつか富山との仕事に携わりたいとずっと思い続けておりました。富山県の方々に大変お世話になったので、すこしでも早く恩返ししたかったのです。
 やっとチャンスが訪れ、2003年4月に私が日本事務所に転勤する事になり、夢が実現しました。


四、研修制度と国際人材養成

 事務所は研修生を始め、留学生など人材派遣、育成の仕事を担当しています。県庁からの応援をいただき、大変心強く感じると同時に多くの友人からも協力をいただき、仕事は順調に展開しております。
 日本の研修制度は発展途上国の技術者を養成し、同時に中小企業を支援するために作られた制度であります。お互いにメリットがある素晴らしい制度だと考えております。
 現在では、安い労働力の感覚で研修生を受け入れる企業が段々少なくなる一方、海外進出戦略の一環として人脈を作り、人材を育成するために研修制度を活用する企業が増えております。
 中国は「世界の製造工場」と言われるように、現在各国企業の注目を浴びています。日本をはじめ、外国の多くの企業は率先して中国へ進出しました。その中には成功の例もたくさんありますが、失敗の例も少なくありません。
 日系企業の失敗例は欧米系企業より多いようです。失敗の理由はいろいろとありますが、人材不足がその理由の一つだと思われます。中国は、日本のように、学校教育では英語を第一外国語として実施しています。日本語を勉強する人は東北三省にはいるのですが、他の省には殆どいないようです。
 一般的に技術者が日本語を理解することは難しく、通訳が技術を理解して説明することも難しいのです。すなわち、技術と言葉を両方理解できる人材が少ないという問題点があります。しかしながら、中国に進出する日本企業はこのような人材をもとめています。それを満たすためには自社養成しかないと思います。
 そのため、研修制度を生かして、このような人材を養成する方法が今後中国進出の有力な方法となると思われます。
 研修制度で基礎がある技術者を受け入れ、三年間で技術、日本語、企業管理体制などをしっかり勉強させて、会社に貢献できる人材を養成することができ、且つ中日企業間の交流チャンスも沢山生まれると思います。
 私は去年一時帰国した際、友達に頼まれて通訳をしました。中国側が瀋陽市の自動車会社で、日本側は機械加工会社でした。日本企業に対し自動車バックドアマシンの修理を依頼する契約締結の件です。瀋陽市の会社は6000人いる大きい会社で、日本側の会社は30人しかいない小さい会社でした。
 この日本会社を推薦したのは瀋陽市の自動車会社の商務部副部長で、八年前に研修生として、その日本会社で一年間研修を受けた人でした。研修後、昇進して外国企業との商談窓口を担当しています。彼は研修会社の状況、技術レベルなどをよく理解しており、同時に『お世話になった会社を推薦するのはごく自然なことである』との思いから、商談が非常にスムーズに成立しました。
 このようなケースは、この他にも沢山あると聞いております。


五、おわりに

 遼寧省は中国の東北地方にあり、中国の重要な重工業省を担っております。人口は約4200万人で、面積は14.5万平方キロです。主な産業は石油精製業、食品加工業、金属加工業、機械設備製造業があり、生産額は全国において高い比率を占めております。
 遼寧省は中国工業発展の歴史に重要な実績を残しており、例えば、中国における初めてのジェット飛行機は遼寧省で作られたものですし、初めての1万トン級貨物船も遼寧省で建造されたものです。又、初めての250トンのクレーンも、初めての工作機械も遼寧省から誕生したものです。中国で最初の高速道路は瀋陽市から大連市まで取り付けられました。去年10月に成功した有人宇宙飛行の飛行士、設計士共に遼寧省出身です。このように遼寧省は中国の発展に大きな貢献をしております。
 しかし、遼寧省の多くの企業は市場経済導入に伴い、設備老朽化、人員過剰などの問題を抱えているので、競争力が弱くなり、経営不振に陥ってしまい、遼寧省の発展も遅くなりました。そこで、中国政府は国家政策として「旧工業基地振興政策」を打ち上げました。遼寧省を始め、東北三省において、停滞の著しい旧来型の国有企業を民間と外国資本導入により、市場メカニズムに適応した近代的企業に改革するなど、設備更新、新しい技術導入を通して、地域全体を再生させようと図っています。
 その具体的政策として遼寧省内には二つの基地をつくることになりました。ひとつは瀋陽市を中心とした「機械・装置加工基地」で、もう一つは鞍山市を中心とした「原材料生産基地」です。先進的な設備を導入し、新しい技術者の養成を行なうことを目的としています。
 「旧工業基地振興政策」は中国の東北三省だけではなく、日本をはじめ外国の企業に対しても魅力的な政策であり、国内外の企業にとってビジネスチャンスも広がるのではないかと期待されています。
 遼寧省には技術労働者が豊富に存在し、日本語が出来る人材も全国で一番多いと言われております。
 その中から優秀な人材を選んで、養成してこれから遼寧省、或いは中国へ進出する足がかりとして生かすことが出来れば、企業ならびに両国にとって有意義なことになるのではないかと考えております。

※ マイクロバスの後部ドアを作る機械のこと

とやま経済月報
平成16年10月号