特集

鉄道が地域に与える効果

 財団法人北陸経済研究所地域開発調査部
 調査担当部長 山崎正治


1-1.日本の過半数の都道府県には、すでに新幹線の駅がある

図1
図1

 図1は、新幹線の駅がある都道府県を示したものである。全部で26都道府県。つまり全国の過半数の都道府県は新幹線の駅を持っている。また黄色に塗った都道府県の人口の全人口に対する割合は72.7%、こちらは3/4近い。
 今はもう「新幹線ができれば地域振興になる」時代ではない。新幹線があることで、ようやくスタートラインに並べるのだ。

図2
図2

 図2は、各都道府県庁所在市の駅から鉄道(愛媛は一部船)を使って、一番近い百万都市までどれだけ時間がかかるかを示したものである。百万都市まで2時間以上かかる県は11県、2時間半以上の県は、たった5県しかないが、富山県は一番近い京都駅までサンダーバードで2時間40分〜50分かかっており、日本で最も大都市から遠い県の一つという不名誉な位置にある。色つきの県の中で、富山と石川以外の県にはそれなりの理由も思い浮かぶが、富山と石川県の現状はどう見ても納得いかない。一日も早く新幹線を開通させ「富山は遠い」というイメージを払拭したいものだ。


1-2.新幹線はお役に立ちます

 新幹線早期開通を祈りながら、次に新幹線が地域に及ぼす効果について見てみる。地域に与える効果を測る指標はいろいろあるが、ここでは人口がどう変化したかで測定してみよう。表1は、新幹線駅(ミニ新幹線は除く)の人口増減を見たものである。東京や大阪など巨大都市は除いてある。現役併設駅では、ほとんどの市が人口増加となっており、新設駅では増加と減少が半々となった。新設駅の場合は新幹線効果以外の要素も人口変化に影響するが、併設駅の場合は新幹線効果があると推測できる。

表1 新幹線駅併設・新設、人口規模別人口増減市数(1980〜2000年)
表1 新幹線駅併設・新設、人口規模別人口増減市数(1980〜2000年)
併設 徳山、広島、福山、岡山、相生、姫路、豊橋、浜松、静岡、三島、熱海、小田原
新潟、長岡、高崎、熊谷
小山、宇都宮、郡山、福島、仙台、古川、一関、北上、盛岡
新設 下関、岩国、尾道、倉敷、岐阜、安城、富士
東三条
白河、白石、水沢、花巻


2-1.鉄道が消えるとどうなるのか(北海道の場合)

 国鉄末期の1983年(昭和58年)から、輸送密度が低く、かつ代替交通機関が存在する「特定地方交通線」の廃止が始まり、1990年まで83線(3,157.2km)がバス、若しくは第三セクター鉄道に転換された。このうち北海道では22線(1,456.9km)が廃止され、民営化後に廃止された2線128.8kmを加えると廃止距離は1,585.7kmに及んだ。これは、北海道管内の国鉄路線の実に40.1%である。

図3 北海道のJR(旧国鉄)路線図
図3 北海道のJR(旧国鉄)路線図

 図3を見ると、以前は毛細血管状に伸びていた鉄道は姿を消し、札幌周辺と動脈部分のみが残されたような状態となっているのがわかる。これが人間だったら大変だ。
 しかし、実は人間ではなくとも、北海道では大変な事態になっている。

図4 支庁別人口増減率(1985-2000年)と現在の鉄道路線
(点線は第三セクター鉄道)
図4 支庁別人口増減率(1985-2000年)と現在の鉄道路線

 図4を見ると、国鉄時代に路線が廃止され鉄道過疎地帯となった留萌支庁と檜山支庁は、1985〜2000年までの15年間に年率1.5%を超える人口減少が起こっている(年率1.5%ということは、15年間で20%の減少となる)。
 もう少し細かい分析をしてみよう。表2は、廃止された鉄道路線の起点と終点の所在市町村とそれ以外の市町村の人口増減を比較したものである。
 北海道には212の市町村(2000年10月時点)があり、そのうち廃止された国鉄(JR)線の起点・終点所在市町村は44市町村ある。これらの市町村の1985〜2000年までの人口減少率は10%を超えており、その他の市町村の2.4%増加に比べ格差が著しい(札幌市を除いた場合は5%を超える減少となっているが、それと比較しても減少率は2倍)。
 もっとも、廃止路線の起点・終点市町村は、路線が廃止される以前も20年間で9%程度の減少を示している。鉄道が廃止されるということは、利用者が少なくなったことが原因だが、これはとりもなおさず沿線人口が減少したことを示している。結局、人口が減少したため鉄道が廃止され、その結果ますます人口が減少してしまうという悪循環に陥っているのだ。

表2
表2


2-2.鉄道が開通するとどうなるのか

 図5は、東急新玉川線と田園都市線が開通し、鉄道空白地帯から解消された「横浜市青葉区」の人口推移を見たものである。この沿線は、「金曜日の○たちへ」というテレビドラマで一躍有名になった地域で、大規模な団地が造成され、駅前にはオシャレなショッピングモールができている。

図5 横浜市青葉区の人口推移
図5 横浜市青葉区の人口推移

 鉄道開通以前は5万人に満たなかった地域が、鉄道の開通、都心との直通運転の開始、横浜市内との連絡線の開通などにより、6倍近くに人口が増加してしまった。なお、現在の青葉区は1994年に緑区が分割されて誕生しているが、さらにその緑区も1969年に港北区が分離してできており、このことからもすさまじい人口増加がうかがえる。もともと人口が増加していた横浜市ではあるが、鉄道が開通しなければこれほどの人口増加はなかったし、テレビドラマの舞台になることもなかったはずだ。
 しかし、鉄道が開通すれば人口が増加し町に活気がでるわけではない。国鉄時代、いわゆる政治路線と呼ばれるいくつもの路線が建設され、またそれを引き継いで第三セクター鉄道として開業した。中には、北越北線や智頭急行のように高速新線として多くの特急(というよりほとんど特急)が運行されている路線もあるが、それらも含め沿線市町村では、鉄道効果による人口増加は見られない。逆に人口減少が加速しているところもある。結局、街自体に求心力がなければ鉄道の恩恵に預かることはできない。しかし鉄道が消えれば確実に町の活力が衰える。鉄道の建設・廃止にあたっては、鉄道と地域が持つこの危うい関係を認識しなければならない。


3.さて、富山県は?

 2000年国勢調査によると、富山県における自家用車通勤・通学者の割合は72.0%で、山形県に次いで堂々の第二位となっている(ちなみに東京都は11.6%、全国平均は44.3%)。また1999年のパーソントリップ調査では、自動車利用の割合が72.2%(1km未満の移動でもほぼ半分が自動車)で、通勤通学に限らず、買い物やレジャーなど日常生活の隅々まで自動車のお世話になっている。
 この結果、図6のように、県内の鉄道やバスの利用者は、自動車の普及にともなって減少の一途をたどっている(JRは特急など長距離輸送も含んでいるため減少率が小さい)。30年の間に、私鉄の利用者は1/4に、バス利用者に至っては1/7程度に落ちており、これでは民間の運輸事業者の経営が厳しいのもうなずける。近年山間部などの過疎地で民営バス路線の廃止がおきている。また幸い線路は残ったものの、万葉線や富山港線は民間事業者が撤退し、行政主体の第三セクターが面倒を見ることになった。今や公共輸送機関は「公的」輸送機関になりつつある。
 こういった状況の中、一部には「バスや鉄道はなくてもいいのではないか」といった極論も出ている。確かに日常生活のほとんどを車に頼っている人には、税金を投入して公共輸送機関を守る必要性はないかもしれない。しかし、公共輸送機関を必要とする人は現にいるし、あなたも、いつか突然、自動車の運転ができなくなるかもしれない。環境面の問題もある。特に鉄道は、一度線路をなくしてしまうと復活するのが大変難しい。

図6 富山県内の鉄道・バス輸送人員と自動車登録台数の推移
図6 富山県内の鉄道・バス輸送人員と自動車登録台数の推移

 富山県は、地方の県には珍しく、私鉄や路面電車が多く残っている。観光客は駅を降りてバスと路面電車がある場合、ほとんど電車を使う。行き先と経路がはっきりして時間が読めるかららしい。路面電車が残された全国の都市は、いずれも特徴のある「街の匂い」がする。21世紀は鉄道を大切にするまちづくりをしたいものだ。具体的には、
前述したように鉄道を「公的」輸送機関と位置付け、欧州諸国のような公的助成を図る。
富山市においては、富山港線の路面電車化以外にも、高山本線や地鉄上滝線へ路面電車を乗り入れるなど「LRT王国とやま」を目指す。
高岡市においては、新高岡駅へのアクセスをはかるため、万葉線を氷見線、城端線に乗り入れる。
北陸新幹線開通後の北陸本線は上下分離方式を採用し、新駅を設置するとともに速達性を図る。
巨大SCの駐車場をパーク&ライド駐車場として利用するなど車と鉄道の結節機能を高める。
などが考えられる。
 なお、上の提案の詳細は、私が所属している「富山県交通政策研究グループ」が発表した2回の報告書に掲載してある。興味のある方はグループのホームページを一度ご覧いただきたい。

とやま経済月報
平成16年11月号