特集

第3次産業立地の都市別立地格差
―平成12年国勢調査、平成13年事業所・企業統計調査より―


富山大学経済学部教授 松井隆幸


1.サービス経済化

 第3次産業の伸びが工業を上回り、経済に占める第3次産業の量的比重が高まることを、一般にサービス経済化といいます。表1をご覧下さい。

表1 産業別従業者数の増減
(単位:%)
 81-8686-9191-9696-2001
全産業(非農林漁業)5.510.54.6-4.2
工業3.55.6-8.3-13.9
(素材)-4.34.3-7.9-14.0
(電気機械)31.39.8-12.0-10.6
(自動車)14.715.5-5.3-7.1
運輸・通信-0.58.85.9-3.6
(鉄道・道路旅客)-12.8-11.92.1-10.0
(道路貨物)17.724.811.2-1.8
卸売6.38.60.2-14.8
小売3.54.413.5-0.7
飲食店8.813.76.44.3
金融・保険5.615.3-5.2-16.1
不動産13.329.61.2-1.3
生活関連サービス9.57.610.54.9
娯楽23.635.021.9-8.7
情報・広告サービス70.577.4-4.326.8
対事業所専門サービス16.727.213.4-0.5
その他の事業サービス39.244.932.123.1

出所)『事業所・企業統計調査』
注)「素材」は木材・木製品、紙・パルプ、化学、石油・石炭製品、プラスチック製品、ゴム製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品。「生活関連サービス」は洗濯・理容・美容、駐車場、その他生活関連サービス。「娯楽」は映画を含む。「対事業所専門サービス」は、専門サービスから個人教授所と著述家・芸術家を除いたもので、設計・デザイン・会計・法律など。

 日本ではオイルショック後、まず素材型工業の雇用吸収力が低下します。そして90年代に入ると、それまで日本の工業を牽引していた電気機械と自動車の雇用も減少に転じます。長期不況に加えて、前者は主としてコスト競争力を求めて東南アジアや中国へ、後者は貿易摩擦を契機として北米等へ生産の一部が移転したためでしょう。
 私はモノづくりの重要性が低下したとは思いませんが、少なくとも量的には雇用が第3次産業にシフトしています。ところがよくみると、第3次産業でも業種によって大きな違いがあります。例えば鉄道・道路旅客は、モータリゼーションを反映して減少を続けています。金融や不動産も、バブル崩壊に伴って90年代には雇用吸収力を低下させています。
 これに対し大きな増加を見せているのは、娯楽業を除けば対事業所サービス(表の水色部分)です。対事業所サービスの顧客は個人ではなく企業であり、その増加は企業のアウトソーシングによるものです。企業が、例えばソフト開発、システムオペレーション、警備、ビル・メンテナンス、広告、設計などを外部企業に発注することが増えた結果が、対事業所サービスの増加です。
 サービス経済化を「個人需要がモノからサービスへシフトする」と説明することがありますが、私はこの説明は一面的過ぎると思います。対事業所サービスにとって、工業は依然として重要な顧客だからです。
 さて、これら第3次産業はどのような立地を示すのでしょうか。


2.工業との立地の違い

 工業が地域的に大きく偏った立地を示すことはよくあります。例えば福井県は日本のメガネ生産の90%以上を占めています。ところが、メガネ屋さんの90%が福井県に集中することはありえません。
 これは工業製品が輸送できるのに対し、サービス(この場合検眼やメガネの販売・補修)は原則的にその場で消費しなければならないからです。自動車の工場が東海地域に集中していても困りませんが、理容業が集中していたら他地域の人はたいへんです。サービス産業の立地は人の移動範囲によって制約されやすく、○○サービス地帯というものは成立しにくいのです。
 従って第3次産業の立地を県や地域ブロック単位で分析しても、工業ほど明確な特徴は見られません。ところが都市単位で分析すると興味ある様々な特徴が浮かび上がります。結論からいうと、第3次産業の立地は、地域の個性よりも拠点性を反映した都市階層によるところが大きいのです。そしてそれは業種によって大きく異なります。


3.第3次産業の人口あたり集積―全国編―

 ここでは首都であり人口約800万の東京(区部)、200万〜300万の名古屋と横浜、100万の福岡と北九州、45万の金沢と倉敷、25万の福井と下関をとりあげます。2つずつペアにしているのは、地域ブロックや県の中心である都市、すなわち拠点性を持つ都市とその他の都市を比較するためです。東京だけは、人口が突出しているため適当なペアがありません。
 ここで「拠点性」とは、国・地域ブロック・県などの中心としての機能を持つことを示します。「拠点」を「企業が本社や支社・支店などを置く時に選ぶ傾向がある場所」と考えると分かりやすいでしょう。東京・大阪企業の九州(ブロック)支社はたいてい福岡市にありますし、福井(県)支店はほとんど福井市にあります。
 そしてここでは、下の「人口あたり集積」という指標を用います。


人口あたり集積= i市のj産業従業者/i市の人口

全国のj産業従業者/全国の人口

 
 これは各産業が「人口の割に」どれだけ立地しているかを示すもので、全国平均並みだと値は1.0になります。
 まず小売業についてみてみましょう(図1-1)。

図1-1 全国・小売
図1-1 全国・小売
注) 平成12年『国勢調査』、平成13年『事業所・企業統計調査』より算出。
以下の図もすべて同じ。

 これをみると、どの都市も1.0周辺の値を示しています。それはこの産業が、ほぼ人口に対応して立地していることを示しています。産業の性質から予測できる結果だと思います。図の横浜市のように、近くにより大きな都市(東京)がある場合は、その影響で値が小さくなることがあります。

図1-2 全国・飲食店
図1-2 全国・飲食店

 次に飲食店をみてみます(図1-2)。まず人口の大きな都市ほど値が大きくなっていることがわかります。つまり、人口以上に立地差が大きいということです。そして、同程度の人口では、拠点性のある都市の方が値が大きいのがわかります。小売業よりやや広域的な消費の拠点を示すといえるでしょう。
 卸売業や対事業所サービスでは、この傾向がはるかに顕著になります(図1-3、1-4)。人口による差も大きくなりますが、拠点性のある都市とその他の都市との差がきわめて大きいのがわかります。ちなみに「その他の事業サービス」とは、ビル・メンテナンス、警備、人材派遣、商品検査など多様な対事業所サービスを含んだ産業中分類です。
 ここで残念なのが「専門サービス」という中分類です。ここには会計、設計、デザインといった典型的な対事業所サービスと、学習塾、スポーツクラブ、お稽古事などの個人教授所が同居しています。そのため公開されている資料では、都市単位で対事業所専門サービスだけを分離した分析ができないのです。

図1-3 全国・卸売
図1-3 全国・その他事業サービス


図1-4 全国・その他の事業サービス
図1-4 全国・その他情報サービス

 ちなみに金融・保険業は、上の飲食店と卸売やその他の事業サービスの中間的な特徴を示します。これは、お金を集める業務は対個人サービス、貸す業務は対事業所サービスとしての側面が強いからでしょう。
 最後に情報サービス注1です。

図1-5 全国・情報サービス
図1-5 全国・情報サービス

 まず目につくのは、極端なまでの東京集中です。そして拠点性を持つ都市とその他の都市との差が、いっそう顕著になっています。横浜市の値が高いのは、拠点性を持つためではなく、東京の集積を補完していると考えられます注2
 この結果は、ソフト開発やシステム・オペレーションを主な業務とする情報サービス業にとって、顧客企業の本社・支社などとの接触が重要であることを物語っています。これは、日本のソフトウェア産業が企業ごとのカスタムソフト中心であり、パッケージソフトの比重が小さいこととも関係があるでしょう。
 さて人口あたり集積の図と、表1を見比べて下さい。近年の伸びが大きい対事業所サービスで、都市間格差がとくに大きいのがわかります。近年のサービス経済化と、東京一極集中、札幌・仙台・広島・福岡といった地方中枢都市の成長、地方工業都市の地盤沈下といった現象が大きく関連しているのは間違いないでしょう。それを示す例として、福岡県の二つの都市、日本最大の地方工業都市であった北九州市と、九州ブロックの中心都市であり、第3次産業の集積の高い福岡市の人口の推移を示したのが図2です。

図2 北九州市と福岡市の人口推移
図2 北九州市と福岡市の人口推移


4.第3次産業の人口あたり集積―北陸編―

 それでは県都以下の、より小さな都市ではどうなっているのでしょう。ここでは北陸3県を題材にみていきます。小売業は人口あたり集積の差が小さいので省きますが、参考までに石川県についてだけみてみます。

図3 石川県・小売
図3 石川県・小売

 金沢市から珠洲市まで、やはり1.0周辺の値を示しています。それでは飲食店の人口あたり集積を、北陸3県についてみてみます。都市はすべて左から人口規模順に並べています。

図4-1 富山県・飲食店
図4-1 富山県・飲食店

図4-2 石川県・飲食店
図4-2 石川県・飲食店

図4-3 福井県・飲食店
図4-3 福井県・飲食店

 全体として右肩下がりであり、人口の大きい都市ほど人口あたり集積も大きいのがわかります。注目すべきは、高岡、魚津、七尾、敦賀、小浜といった県内の部分的な地域の中心に比較的高い集積が見られる点です。卸売業ではこの傾向がよりはっきりしています。

図5-1 富山県・卸売
図5-1 富山県・卸売

図5-2 石川県・卸売
図5-2 石川県・卸売

図5-3 福井県・卸売
図5-3 福井県・卸売

 私は2002年6月のとやま経済月報で富山県と石川県の通勤圏を分析しましたが、上にあげた県内部分地域の中心都市は、周辺町村の通勤の中心でもありました。その時は福井県には触れませんでしたが、小浜市は小さいながら若狭地域の通勤の中心です。
 七尾市や小浜市の場合は、県都からの交通アクセスの弱さが集積の一因になっていると思われます。交通アクセスの改善に伴いより大きい都市に産業集積が吸収されることをストロー現象と呼びますが、その逆の現象といえるでしょう。
 その他の事業サービスではどうでしょう。やはり県内部分地域の中心に集積が見られます。七尾市と敦賀市の値が高いのは、これに加えて非破壊検査業・産業用設備洗浄業など原発関連サービスの影響が推測できます注3

図6-1 富山県・その他の事業サービス
図6-1 富山県・その他の事業サービス

図6-2 石川県・その他の事業サービス
図6-2 石川県・その他の事業サービス

図6-3 福井県・その他の事業サービス
図6-3 福井県・その他の事業サービス

 最後に情報サービス業ですが、かなり異なる特徴が見られます。

図7-1 富山県・情報サービス
図7-1 富山県・情報サービス

図7-2 石川県・情報サービス
図7-2 石川県・情報サービス

図7-3 福井県・情報サービス
図7-3 福井県・情報サービス

 全体的な値が卸売やその他の事業サービスと比べて低いのは、図1-5でみたように、東京や地方中枢都市への集中が著しいからです。その中で相対的に、県都への集中が目立ちます。そしてそれに続くのは、県内部分地域の中心都市ではなく、県都に近接した松任市や鯖江市です。これらは図1-5の横浜市と同様に、県都の集積を補完していると考えられます。つまりこの業種は、県内第2拠点を必要としない、県都一極集中型の産業であるといえます。
 最後に、南隣の岐阜県を題材にして、大都市圏に属する県の特徴をみてみましょう。スペースに限りがあるので、その他の事業サービスと情報サービスのみをとりあげます。やはり左から都市の人口規模別に並べています。

図8-1 岐阜県・その他の事業サービス
図8-1 岐阜県・その他の事業サービス

図8-2 岐阜県・情報サービス
図8-2 岐阜県・情報サービス

 その他の事業サービスをみると、県都の値が大きいこと、飛騨地域の中心である高山市が人口の割に高い値を示していることなど、北陸と共通の特徴がみられます。ところが情報サービスでは異なります。部分地域の中心である高山市の集積が低いことは同じですが、県都の岐阜市を含めたほとんどの都市の値も低くなっています。
 これは、図1-5でみた名古屋市の集積の影響が県境を越えて及んでいることによると思われます。大都市圏ならではの特徴でしょう。大垣市の値が比較的高いのは、日本最大の情報産業団地であるソフトピア・ジャパンの影響があるのかもしれません。


5.終わりに―第3次産業立地のこれから―

 2では、第3次産業は工業と違ってその場で消費しなければならず、「○○サービス地帯」は成立し難いと述べました。しかしこれはインターネット社会の展開とともに変わりつつあります。いやそれ以前に電話を利用したサービス、すなわちコールセンターの地域的偏在が始まっています。それどころか、アメリカのコールセンターがインドに立地するなど、「国際分業」すら急展開しています。
 さらにブロードバンドの普及につれて、ソフトウェア、音楽、動画などのネット配信が容易になり、ネットを活用した金融・保険業も台頭しています。対事業所サービスでも、ソフトウェア、設計・デザイン、広告、人材サービスなどでインターネットの利用が拡大しています。バンガロール(インド)のような、国際需要に対応したソフトウェア産業の大集積地すら形成されています。
 それでは3〜4でみてきた立地構造は崩れるのでしょうか。私は、少なくとも急速に変わることはないと思います。それは第一に、face to face情報、すなわち対面接触による情報が依然として重要だからです。表情や声のトーンを変え、身振り手振りを交え、紙やボードに略図を書きながらのやりとりをネット上で行なうのは、現状では困難です。おそらく将来も、face to face情報の重要性が消滅することはないでしょう。
 また日本の場合は、国・地域ブロック・県の各レベルで、同一の都市が政治・経済・金融・研究開発・教育などの多重的な中心になっていることが多いのです。企業にとってここを離れるのは、ビジネスチャンス、情報や人材の確保の面でかなり不利になってしまいます。個人にとっても同様でしょう。
 「3〜4でみてきた日本の都市階層や第3次産業の立地は、ネット社会の展開とともに変化する。ただしごくゆるやかに。」というのが私の予想です。皆さんの予想はいかがでしょうか。

注1:「情報サービス」は平成8年事業所・企業統計調査から中分類で「広告業」と分離された。表1では時系列比較のため、分離せずに扱った。
注2:東京と横浜の間に位置する川崎市の値は、横浜市よりさらに高くなっている。
注3:北陸経済研究所「北陸の対事業所サービスの集積形態」『北陸経済研究』1989年6月号、p23。

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とやま経済月報
平成16年11月号