特集

「特定サービス産業実態調査報告書」にみる
富山県のデザイン業の特徴


国立大学法人高岡短期大学地域ビジネス学科助教授 小柳津英知


1.産業競争力にとって重要性を増すデザイン産業とデザイナー

(1)産業競争力にとって重要性を増すデザイン政策
 まず、今後の我が国の産業競争力にとりデザインがいかに重要であるかについて、昨年6月、経済産業省製造産業局デザイン政策チームが公表した「戦略的デザイン活用研究会報告 −デザインはブランド確立への近道−」(副題:デザイン政策ルネッサンス)の内容を紹介したいと思います。
 上記の報告書によれば、1980年代後半以降欧米を中心に経営資源としてのデザインの重要性への認識が強まってきており、ブランド化を念頭に置いたデザインの創造・活用による高付加価値化、差別化を図っていくことが重要な経営戦略になっています。
 したがって、我が国が必要としているものは「ブランド確立対策」、「産業競争力強化対策」としてのデザイン政策であり、我が国が有する、研ぎ澄まされた美意識を踏まえ、デザイン力を重要な美意識と踏まえ、デザイン力を重要な経営資源の一つとして、その強化に向けたビジネス戦略とデザイン戦略の展開が必要だという事になります。
 特に、我が国の製造業の現状は戦略的なデザイン活用が不十分なこと、あるいはデザインの戦略的創造・活用について、官民双方において十分認識が共有されておらず、企業としての対策も政策的支援も十分ではない事が問題であるとされています。
 また、我が国ではそもそもデザイナーの人口が少ないためにデザイン産業の市場規模が小さく、地域におけるデザイン産業に関する産学官連携をモデル的に支援すべきであるという提言が行われています。実際、2000年前後のデザイン産業の市場規模をGDP当たりで比較すると、人口1万人当たり約14人の我が国が約0.5%なのに対し、人口1万人当たり約24人の英国では約2.8%とその6倍を占めるというものです。
 ここ数年、飛躍的に競争力を高めている近隣アジア諸国の工業製品と差別化を計るためにも、デザイン分野の充実、つまりデザイン産業の振興は今後の産業競争力の観点から非常に重要である事は誰も否定できないと考えられます。

(2)デザイナー人口の予測
 デザイン業の担い手であるデザイナーの人口が不足しているという指摘がありましたが、全ての職業の需給を踏まえた将来のデザイナー人口について予測値を紹介しましょう。産業連関表を用いた1995年から2010年までの職業別就業者数の将来予測によると、2000年以降は人口の増加が止まり、経済成長率が低く失業率が高いことなどから、就業者の総数はあまり増加せず2005年にかけて73万人増の6,504万人になり、2010年にかけては78万人減少して6,426万人になると見込まれています。
 しかし、就業者総数が減少する中にあってもサービス経済化進展の影響により「デザイナー」の人口は2005年には2000年の10.78%増加、2010年には2000年の20.2%増加の水準に達すると予測されています。これは製造業やサービス業の企業内で従事するデザイナーも増えるためで、全283職種の内、29位の伸びを示す見込みです。このように相対的にもデザイナーへの需要は高い伸びを示すと言うことができます。

図1 デザイナー人口の予測
図1 デザイナー人口の予測
注: 過去のデータは総務庁「国勢調査」職業小分類による。デザイナー人口には企業内で従事するものも含んでいる。1995年までが実績値で、2000年以降は予測値となる。
出所: 日本労働研究機構の委託による三菱総合研究所の職業別労働需給長期推計より作成


2.富山県のデザイン政策に対する評価

(1)予算額の比率から見たデザイン政策への取り組み
 ここでは富山県のデザイン政策についての評価を紹介していきたいと思います。まず、下表のように総予算額に占めるデザイン行政予算額の割合などの指標を全国順位で見た場合、デザインに対する行政の取り組みは積極的なものと評価する事ができるでしょう。

表1 富山県のデザイン行政予算割合の特徴
表1 富山県のデザイン行政予算割合の特徴
出所:経済産業省「地方デザイン行政に関するアンケート」結果より抜粋

(2)他地域から見た富山県のデザイン政策への評価
 次に表1の出所である経済産業省の「地方デザイン行政に関するアンケート」による『デザインを活用した地域産業の活性化の観点から、注目している、もしくは参考としている他自治体』の回答として、富山県は9県から対象自治体に挙げられ全国一位となっています(二位は大阪府の6県)。
 富山県を選んだ理由としては、
‘多年にわたりデザインセンターを運営し、業界に対して大きな影響を与えている’
‘デザインセンターの製造業へのデザイン支援活動が活発’
‘デザインセンターを拠点に地域に密着した事業を展開’
などとされ、他地域に比較してデザインセンター運営の具体的な活動、影響が評価されていることがわかります。


3.「特定サービス産業実態調査 デザイン業編」にみる富山県デザイン産業の特徴

(1)富山県のデザイン産業の主要データ
 上記でみたように、富山県のデザイン政策は他地域から高く評価されている事がわかりました。そこで、ここでは、そのような富山県のデザイン産業自体(サービス業)の特徴について「平成12年度 特定サービス産業実態調査報告書 デザイン業編」(経済産業省 平成14年1月)のデータから見ていきたいと思います。

表2 富山県のデザイン産業の主要データ
表2 富山県のデザイン産業の主要データ
出所: 「平成12年度 特定サービス産業実態調査報告書」経済産業省 平成14年1月のデータより筆者作成

 富山県と全国のデザイン産業に関する主要データは表2のようになっています。
 これによると富山県内にはデザインに携わる事業所数(単独事業所+本社+支社の合計)が59存在し、全国の2.2%を占めています。
 1事業所当たり年間売上高の全国平均比は60%、従業者1人当たり年間売上高の全国平均比は67%と全国平均をかなり下回っています。これは事業所総数や従業者数の全国比に較べて年間売上高の全国比が低いことから生じていますが、全国の年間売上高に占める東京都の割合が約36%、大阪府の割合が約17%となっているように、売上が大都市に集中している事などが影響しており、富山県のデザイン産業に競争力が無いという意味ではありません。

(2)富山県のデザイン産業の従業者と年間売上高の規模別構成比の特徴

表3 デザイン産業従業者規模別事業所数と構成比
表3 デザイン産業従業者規模別事業所数と構成比
出所:表2に同じ

表4 デザイン産業年間売上高規模別事業所数と構成比
表4 デザイン産業年間売上高規模別事業所数と構成比
出所:表2に同じ

 富山県の従業者規模別構成比を見ると、全国に比較して「10人以上」の構成比が少ない事がわかります。また、年間売上高規模別構成比をみると、「5千万円以上」の構成比が少なく、これらの事が1事業所当たり年間売上高と従業者1人当たり年間売上高を低くしている要因と考えられます。したがって、全国に比較して大規模な事業所が相対的に少ないという事が特徴と言えます。
 
(3)富山県デザイン産業の年間売上高構成比の特徴

表5 デザイン業務の業務種類別年間売上高と構成比
表5 デザイン業務の業務種類別年間売上高と構成比
出所:表2に同じ
注: (1)インダストリアルデザインは機器、家具、スポーツ用品、住宅設備のデザイン部門、(2)クラフトデザインは陶磁器、ガラス、木材、漆、金属、紙、布製品などのデザイン部門、(3)ジュエリーデザインは装飾品、身辺細貨品などのデザイン部門、(4)パッケージデザインは商品個装を主とするもののデザイン部門、(5)グラフィックデザインはポスター、装丁、カタログ、パンフレット、包装紙などのデザイン部門、(6)サインデザインは標識、看板、シンボルマークのデザイン部門、(7)ディスプレイデザインは展示構成、店舗・店頭装飾、ウィンドーディスプレイなどのデザイン部門、(8)インテリアデザインはインテリアの構成と装飾のデザイン部門。

 富山県全デザイン事業所のデザイン業務の業務別年間売上高構成比を見ると、「グラフィックデザイン」が66.1%で最大を占めており、全国に比較して「マルチメディア」、「クラフトデザイン」の割合が高いという特徴を示しています。「マルチメディア」は将来その市場規模の拡大が見込まれており、これらから、この分野の売上はさらに拡大する事でしょう。一方、「インダストリアルデザイン」では全国の構成比よりもかなり低く、全国に占める富山県の構成比を算出すると0.4%に過ぎません。今後、デザイン力によって高付加価値化が望まれるこの分野の開拓の検討が望まれるのではないでしょうか。

表6 契約先産業別年間売上高と構成比
表6 契約先産業別年間売上高と構成比
出所:表2に同じ

 デザイン業務の契約先産業別年間売上高構成比を見ると、富山県では「製造業」が35.5%で最大を占めており、次いで「他のサービス業」が21.3%となっています。全国に比較して「公務」の構成比が3倍以上高く、「卸売・小売業、飲食店」や「その他の業種」が低い特徴を持ちます。

 冒頭に述べたように、製造業を中心にデザイン政策の重要性がますます高まり、デザイナー全体の需要も拡大していきます。富山県のデザイン産業は、従来の行政の支援を有意義に活かし、さらなる成長を実現するチャンスが到来しているのではないでしょうか。

とやま経済月報
平成16年5月号