特集

富山Uターン起業〜20代地方起業家の挑戦〜

有限会社スカイ・アイティー 代表取締役 東海裕慎


有限会社スカイ・アイティー 代表取締役 東海裕慎 今回は私、東海裕慎が起業(独立)について語ります。
 第1章では、私が起業をするまでの経緯を説明します。第2章では、私も使用した最低資本金規制特例制度についての簡単な説明や、富山県の状況をお伝えします。また、法人成りの私が感じたメリットについて話します。第3章では、私がやってきた仕事獲得方法を暴露します。最後に第4章では、これから起業を目指す方に私なりのアドバイスを書いてみました。参考にしてみてください。


1.起業への挑戦

 私が起業するまでの経緯を簡単に説明します。
 1998年、地元ソフト開発会社である株式会社ユーコムに入社しました。その採用面接のとき、社長に「私は将来独立します。」と宣言した覚えがあります。ということは私は学生の時から起業の思いがあったのでしょう。
 ユーコムで、私はシステム開発業務の一通りの知識を学ぶことができました。プログラミングから始まり、テスト方法、設計書の書き方、プロジェクトの運営方法を学び、最後の1年間は営業として、見積から納品、請求書までのビジネス業務も学びました。
 約4年後、私は約束どおり?に社長に「独立しますので、退職します」と宣言しました。社長は「まだ早すぎるんじゃないの?」とおっしゃっておられましたが、起業する決意は固く、2001年12月にユーコムを退職しました。
 でも、自分でも不思議なことに本当に独立を決意したのは、社長に相談するほんの3ヶ月前ぐらいだったと記憶しています。もしかしたら、もっと短いかもしれません。その3ヶ月の間に、私なりに起業について勉強しました。まず、周りの友人に独立している方はいなかったので、すべて雑誌や本で学びました。雑誌や本はキレイごとで成功物語ばかりでした。ここで薦められる本は正直ありません。もっと、具体的な営業方法や失敗物語が読みたかったのです。私に成功物語に出てくるような特別なセンスなんて持っていないと思っていましたから・・・。よって、雑誌等で基礎知識を学び、後は生の現役社長の声の方が有効だと考えます。きちんと礼儀を忘れず、"先生"という気持ちを持てば、快く教えてくださると思います。

 退職後、幸運にもすぐユーコムからお仕事をいただき、2002年2月に地元富山県氷見市にUターンいたしました。
 富山での事業スタートです。


2.最低資本金規制特例制度について

 まず、この制度について簡単に説明したいと思います。
 最低資本金規制特例制度は1円から会社設立が可能な制度です。
 通常、株式会社は1000万円、有限会社は300万円の資本金を用意して初めて会社設立ができます。しかし、この制度を利用すると理論上1円の資本金から会社設立ができてしまいます。但し、条件として設立後5年以内に株式会社なら1000万円、有限会社なら300万円に増資しなければいけません。増資できなかった場合でも、合名会社や合資会社として組織を運営することができますが、信頼が大事なビジネスにおいて、それは避けなければいけないと思います。何としてでも増資した方が賢明でしょう。
 現在、日本ではこの制度を利用しての会社設立が1万件を超えたと言われています(平成16年3月19日現在※1)。しかしながら、富山県では26件(平成16年1月31日現在※2)となっています。ものすごく少ないですよね。
 これは堅実を好む県民性の問題につきると思います。決して富山県には起業家をサポートする施設・団体が少ないとは思えません。充実しています。インキュベータ施設をはじめ、各種団体、商工会、これらを多いに利用すべきだと私は思います。

 ちなみに私もこの制度を利用して、会社設立を果たした一人です。
 私の場合は高岡法務局で法人登記したのですが、当時は高岡管轄で有限会社設立3件目、しかも、自分で登記する人は初めてだったそうです。そのためか、係の方も私といっしょになって書類の書き方を丁寧に調べていただきました。その甲斐あって、無事、平成15年5月15日に法人成りをいたしました。高岡法務局の方には、この場を借りてお礼いたします。本当にありがとうございました。

 また、私はこの約1年間最低資本金規制特例制度を利用した法人として事業活動してきましたが、資本金の額はあまり重要視されないみたいでした(私の場合は資本金100万円)。あくまでも、ビジネスの相手として信頼できるかどうかにつきるとみなさんおっしゃっています。ですので、最低資本金規制特例制度がネックになることはまずないと思っていただいても間違いありません。
 現在は、1円起業のノウハウ雑誌も充実してきました。どんどん法人登記にチャレンジしてみてください。但し、ビジネスを続けていくなら、5年以内には絶対増資しなければいけません。そこを忘れないでください。

 以下、私が体験した生の法人メリットをご紹介します。
(1) 仕事のキャパシティ(容量)が増えた
 フリーのプログラマ時代は、私と妻の2人分の仕事しかいただけなかったものが、法人となりさらに信用を得たことによって、より多くの仕事を任せていただけるようになりました。
(2) 優秀な人材を採用することができた
 以前は自宅の2階で事業をしておりました。さすがに職を探している方はそういう場所で、しかも個人事業に就職しようとはなかなか思わないですよね。
 現在は事務所を借り、法人になったことで優秀な人材を確保することができました。
(3) マスコミからの取材が増えた
 最低資本金規制特例制度を利用した田舎の20代起業家、これだけでも対マスコミにはウケがいいようです。うれしい誤算でした。
 増資するのをためらってしまいますね。5年間ぎりぎり待とうかな(笑)


3.東海流仕事獲得方法

 私なりの仕事の獲得方法について、ここで暴露したいと思います。あくまでも私の仕事獲得方法です。正直、運もありました。運だけかもしれません。これから起業する方に適切かどうかはわかりませんが、今後の参考になれば幸いです。

(1) 地元商工会からの受注
 私は独立する前に、まず地元氷見商工会議所へ相談しました。富山へUターンして起業したい旨を伝え、氷見市内企業の現状や今後の方向などを説明していただきました。
 また、コンペにも参加させていただき、見事仕事をいただきました。

(2) 以前の勤務先からの受注
 前述いたしましたように私は株式会社ユーコムに勤めておりました。同じ業界、同じ業務内容で独立してライバルにもかかわらず、パートナーとして認めてくださり、仕事をいただきました。現在もいいお付き合いをさせていただいております。
 
(3) 地元SOHO団体のきっかけで知り合った企業からの受注
 私の仕事の人脈は以前の勤務先の社員以外は0(ゼロ)に等しいくらいでした。また、独立した友人や近い世代の親戚もいません。なんとか人脈を広げたいと思い、私みたいな起業している方が集まった富山県SOHO協議会※3に入会いたしました。そこで、多くの経営者の方と知り合いになり、複数の方から仕事もいただけるようになりました。

(4) 趣味で知り合った方からの受注
 独立する以前、私はあるチームから自動車レースに参戦していました。現在はそのチームのホームページ作成に携わっております。また、レース参戦時のスポンサーであるオイルメーカからWebシステムの開発を依頼されました。違う意味で趣味が仕事に生かせた例だと思います。これもありでしょう。

(5) 自社ホームページを見た企業からの受注
 まさにインターネットの力だと思います。県外の企業からホームページ作成依頼を受けました。

(6) チラシを見た企業・個人からの受注
 開業のお知らせとして、地元新聞紙に折込チラシを入れました。数件お問い合わせをいただき、そのうち地元企業の1社からシステム開発を依頼されました。独立したての得体の知れない若者にですよ。本当にうれしいことです。私も今度は逆の立場として起業家を支援していきたいと思っています。

 以上です。よくある起業ノウハウの本に出てくる営業方法よりも、実感が湧いたでしょうか。これから起業される方も自分なりの仕事獲得方法を見つけ出してください。


4.これから起業を目指す方への心構え

 今、独立を考えていらっしゃる方に私なりの雑誌には出ていないアドバイスをしたいと思います。
 まず、この以下の点について、全て「ハイ」と答えられますか?
(1) 家族が独立に対して理解してくれていますか?
(2) 独立したい業界について、3年間学びましたか。または、人に自慢できるほどの知識をもっていますか?
(3) いざというとき仕事面でバックアップしてくれる方はいますか?
(4) 休日がなくなってもいいですか?1年中働けますか?
(5) 一生事業を続ける覚悟ができていますか?
(6) 社員の責任は、自分の責任だと言い切れる自信がありますか?
(7) なんといっても負けず嫌いですか?
 これらのうち、1つでも「ハイ」と答えられない場合は、まだ独立するのをやめてください。それくらい、本当は独立というのは厳しいものです。全てが「ハイ」になり、100回考えても挑戦する勇気がある場合は、独立しましょう。全てが「ハイ」でも不安要素は星の数ほどあると思います。独立する前に全部解決する必要はありません。ある程度、見切り発進は必要だと私は思います。結果は後からついてきますから。
 最後に「成功しているイメージ」を常に頭に描いてください。そうなれるかもしれない・・・。

※1 経済産業省報道発表
 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0005056/

※2 最低資本金規制特例について(中部経済産業局)
 http://www.chubu.meti.go.jp/venture/new_page/shihonkin.htm

※3 富山県SOHO協議会ホームページ 
 http://www.soho-toyama.gr.jp/index.html


〜あとがき〜

 最後に今回、このような寄稿の機会を与えてくださいました「とやま経済月報」様、また、社名や当時の状況を開示することを快く承諾していただきました株式会社ユーコム社長 今牧良子様にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。
 最後までお読みくださった読者の方、独立する際はいつでも私までご相談ください。微力ながら、貴方の独立を応援したいと思っております。

とやま経済月報
平成16年5月号