特集

法人企業に関する統計

青山学院大学経済学部教授 美添泰人


 近年の経済状況から、GDP統計をはじめとして、景気動向や失業率、物価指数などより詳細かつ正確な情報が強く要望されている。そのような中で、企業活動に関する最も基本的な統計として、事業所や企業の把握が何よりも重要である。ここでは、法人企業の統計について考えてみたい。

 まず、総務省が実施している「事業所・企業統計調査」は、5年周期で企業と事業所の対応、業種、資本金階級、従業者規模などの基本的属性が明らかにされる。
 平成13年(2001年)の結果によれば、法人企業は全産業で1,617,600企業である。
 内訳として製造業が297,614、非製造業が1,319,986となっている。なお、この対象は、株式会社、有限会社に代表される「法人」企業であり、個人企業を含んでいない数字である。

 事業所・企業統計調査は、名簿を作成することが基本的な役割であることから、業種に関する情報と従業者規模に関する情報が中心である。これから業種の盛衰や規模の変化は明らかになるが、金額情報は調査されていない。金額に関する情報は、財務省の「法人企業統計」によって入手できる。この統計は、金融・保険業を除く営利法人を対象として、各年度における確定決算の計数を調査する年次別調査と、資本金1,000万円以上の法人を対象として四半期ごとに仮決算計数を調査する四半期別調査の2つからなっている。法人企業統計で得られる基本的な情報は、売上高、営業利益、設備投資などの損益計算書項目及び資産、負債などの貸借対照表項目であり、いずれも金額に関する情報である。

 特に、営業利益は、景気動向を反映する情報として、公表のたびに注目を集めるものである。同様な指標である経常利益を見ると、全産業では1996年に27.8兆円であったものが、1997年から2000年にかけて、27.8、21.2、26.9、35.9兆円と推移している。全体として景気はある程度回復している方向に見えるが、業種や規模によって、その変化は多様である。例えば、資本金1千万円未満の法人企業では、1996年が7670億円、その後2000年までは6310、-1290、-3620、4460億円と経常利益がマイナスになる年度さえあった。この例のように、企業の業績は、業種別、規模別で大きな違いがあり、景気に対する実感も人によって異なることはよく知られているが、実は、規模と業種が同じ企業の中でも、利益率には大きな散らばりがある。

 この問題は、公表された法人企業統計の数値だけでは分かりにくいので、簡単に使える資料として「国税庁統計年報書」を見よう。2001年度の法人税課税状況から得られる結果によれば、年度中の決算を申告した約280万法人のうち黒字は28.0%、その利益は39.8兆円である一方、赤字決算は72.0%、欠損金額は23兆円にもなっている。景気低迷期であっても、高い利益率を上げる企業がある一方で、多数の企業は赤字を出していることが読み取れる。多くの企業の平均を見るだけでは、経済動向を十分に把握できないという一例である。
 ところで、読者は、以上の例で紹介された法人企業数は、統計によって違いがあることに気づかれたことと思う。それぞれの報告書から得られる2001年の数字を比較すると、国税庁は約279万、法人企業は約261万、事業所企業は約162万である。この他に法務省に登記された法人企業数として約300万という数値もある。

 税務統計から得られる企業数は、税務申告に基づくものであり、登記された法人との差は、事業を休止している、いわゆる休眠法人と考えられる。また、法人企業統計では、国税庁の法人数を名簿情報として利用しているので、調査時点の差や、対象外である金融保険業約4万法人など、概念を調整すれば税務統計と正確に一致する。

 注意すべきは、事業所・企業統計との差である。この差は、近年次第に広がってきている。詳しく見ると、小規模、非製造業で大きな差があることからも、私見であるが、原因のひとつとして調査員が調査区を巡回しても発見できないような事業所が増加していることが考えられる。マンションの1室で行われるSOHOなどの補足が困難であるという、調査担当者の嘆きもよく理解できる。近い将来、事業所・企業統計調査などでも国税庁の名簿を利用できる体制が整備されることを期待する。

とやま経済月報
平成16年12月号