特集
富山県の産業構造変化と資源消費や環境負荷への影響(T)

富山県 青木卓志
富山大学経済学部教授 増田信彦 


 
はじめに

 バブル経済崩壊後の長期不況とともに、経済のグローバル化のもとで工場の海外進出に伴う国内産業の空洞化などにより、日本の産業構造が製造業縮小の方向に変化している。「重化学工業県」と言われている富山県においても、産業構造が変化し、(名目)県内総生産で見ると、重(化学)工業の比率が1990年度の約25.0%から2000年度の約20.7%へ、10年間で約4.3%も減少している。資源多消費型で環境負荷物質多排出型の重化学工業が縮小したことや原単位の向上などにより、資源消費や環境負荷において、富山県では国全体とは異なった動きをしているものがいくつかある。例えば、この10年間で工業用水量、産業廃棄物排出量、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量が、全国では増加しているのに対して、富山県では減少していることがある。ここでは、富山県における産業構造の変化や省資源・排出物削減の推進が資源消費や環境負荷へ与えた影響などを分析してみる。


 
1. 富山県の産業構造の変化

 産業構造は労働力の産業別構成で表す方法もあるが、ここでは所得の産業別構成である県(国)内総生産(すなわち、付加価値額)の比率で表すことにする。1990年(度)から2000年(度)までの10年間の富山県と全国における製造業及び重(化学)工業の県(国)内総生産におけるそれぞれの比率は図―1のようになっている。 

図―1 県(国)内総生産における製造業及び重工業の比率の推移
(注) ここでは、社会的厚生や消費者などの観点ではなく、産業(あるいは生産者)として見るため、名目県(国)内総生産を使用している。 
 富山県では全国平均と比べて、製造業や重化学工業の割合が高くなっている。また、長期不況や工場の海外進出に伴う国内産業の空洞化などによって、この10年間に製造業の比率は、富山県では4.3%、全国では4.9%減少し、富山県においても全国においても、製造業縮小の方向へ産業構造の転換が進行していることがわかる。また、10年間で重工業の比率は富山県では4.3%、全国では3.2%減少している。製造業は重工業と軽工業で構成されるが、富山県では製造業の比率の低下が、すべて重工業の比率の低下によってもたらされている。重工業の中では、金属製品、一般機械などが大きく減少している。 
 製造業縮小の原因としては、@経済のサービス化、すなわち、消費支出が財からサービスへ変化していること、A経済のグローバル化により、安い外国製品の輸入が増えて国内生産を圧迫していること、などが考えられる。経済のサービス化については、「家計調査年報」によれば、全国において消費支出の中で財への支出は1990年の63.0%から2000年の59.0%へ、10年間で4%ほど減少している。また、製品輸入については、「外国貿易概況」によれば、製品輸入額が1990年の約17兆円から2000年の約25兆円に増加し、製品輸入比率は10年間で50.4%から 61.1%に増加している。その分、国内の製造業による製品の需要を減少させることになる。その点、サービスを生み出す第三次産業の多くは、労働が直接的にサービスを提供する必要があり、グローバル化と言っても労働の移動は自由ではないので、外国からの競争に直面することが少なく、結果として、製造業の比率の低下は第三次産業の比率の増加をもたらしている。 

 
2. 資源消費や環境負荷の要因分析

 これより、各種の資源消費や環境負荷について分析するが、その際、経済活動と資源消費や環境負荷の間を「原単位」で関係づけることにする。これは、例えば、1億円の付加価値を生み出すために、どれくらいのエネルギーを消費したり、どれくらいの廃棄物を排出するかを表す。原単位は技術進歩や省資源・廃棄物削減活動などにより向上する。また、経済活動を表すものとして、実質県(国)内総生産を使用する。実質値を使用する理由は、資源消費や環境負荷の物的単位とより密接に関係しているからである。富山県における製造業の実質総生産は名目総生産を日本銀行の製造業産出物価指数により調整している。数式で表すと次のようになる。
 W=wY,ここで、W:資源消費量あるいは環境負荷物質排出量、w:原単位、 Y:実質県(国)内総生産。これより、次の式が得られる。そこで、Δ:変化量 
 ΔW/W=Δw/w+ΔY/Y+|二次以上の微小項|・・・・@ 
 すなわち、資源消費や環境負荷の変化率=原単位向上率(通常、マイナス)+県(国)内総生産変化率。 
 次に、部門が複数ある場合には、全体の原単位は
 w=W/Y=ΣWj/Y=Σ(Wj/Yj)(Yj/Y)=ΣwjSj 
 ここで、wjは第j部門の原単位、Sjは第j部門の総生産におけるシェアを表す。これより次の式が得られる。 
 Δw=Σ(Δwj・Sj+wj・ΔSj)+|二次以上の微小項|・・・・A
 ここで、Δwj・Sjは省資源あるいは排出削減効果分、wj・ΔSjは産業構造変化分を表し、全体の原単位の変化は個々の部門の省資源あるいは排出削減効果分と産業構造変化分の合計であることを意味する。 


 
3.水使用量

 ここでは、都市用水と言われる工業用水と生活用水を考察する。

(1)工業用水

 「工業統計表」の工業用水量(淡水)と実質総生産(製造業)から、富山県と全国の工業用水量原単位を計算してみると、図―2の実線のようになった。富山県は水が豊富なため、工業用水量原単位が全国平均よりかなり高くなっている。また、富山県の工業用水量は1990年から2000年の10年間に約13.5%減少しているが、全国では同期間に約3.5%増加している。@式を使って、この違いをもたらした要因を調べてみると、全国の場合、製造業の増加率が約10.2%、原単位の向上率が約6.7%で、工業用水量が増えているのに対して、富山県では、それぞれ約5. 0%、 約18. 5%で、工業用水量が減少していることがわかる。富山県では工業用水量原単位が高く、それを改善する余地があるので、その向上率が高く、また、製造業の伸びが小さいので、工業用水量が減少しているものと考えられる。 
 以上は使用量としての工業用水量であるが、実際には工業用水のリサイクルがずいぶん進行しており、新規の淡水補給量はその10年間に、全国では約7.7%、富山県では約14.5%減少している。図―2の点線は全国と富山県の補給量の原単位を表す。 

図ー2 工業用水(淡水)の原単位の推移



 

(2)生活用水

 家庭や業務などで使用される生活用水は、節水意識の向上にもかかわらず、生活水準の向上や第三次産業の成長などにより、10年間に全国で約3.9%、富山県で 約5.5%増加している。 
 ここでは、生活用水を使う非製造業部門と工業用水(補給量)を使う製造業部門の二つがあるものとし、それらの合計である都市用水の原単位変化がどのような要因の影響を受けたか、その内訳をA式により調べる。その結果は、図―3のようになった。全国に比べて富山県は節水効果分、産業構造変化分、従って、全体の原単位のすべてで減少量が大きくなっている。また、全国でも富山県でも節水効果分が産業構造変化分よりずっと大きいことがわかる。 

図ー3 1990〜2000年都市用水原単位変化量の内訳



 

4.廃棄物

 産業廃棄物は1990年と2000年の間に、富山県では約7.1%減少し、全国では約2.9%で増加している。また、一般廃棄物は廃棄物削減活動にもかかわらず、第三次産業の拡大などにより、富山県と全国においてそれぞれ3.1%、3.8%増加している(図―4参照)。産業廃棄物と一般廃棄物は異質であるが、ここでは廃棄物と経済活動の関係を調べるために、それらの合計としての総廃棄物排出量を計算してみると、総廃棄物が富山県で約6.6%減少し、全国で約2.9%増加している。また、総廃棄物排出量の県(国)内総生産に対する原単位を計算してみると、図―5のようになり、富山県の原単位が全国平均より大きくなっていた。 

図ー4 産業及び一般廃棄物排出量の推移

図ー5 総廃棄物の原単位の推移


 ここで、総廃棄物が富山県で減少し、全国で増加している要因を@式により分析すると、全国の場合、国内総生産が約14.0%増加し、原単位の向上率が約11.1%で、合わせて約2.9%増加している。それに対して、富山県では県内総生産が約9.5%増加し、原単位の向上率が約16.1%で、合わせて約6.6%減少している。ここでも、富山県では排出原単位が大きいため、原単位向上の余地があり、また県内総生産の伸びが小さいこともあって、総廃棄物排出量が減少しているものと考えられる。 

この続きは平成15年12月号に掲載される予定である。

 
とやま経済月報
平成15年10月号