特集


地理情報システム(GIS)による
子育て支援施策の可能性


富山大学人文学部助教授 大西宏治


1.少子社会化による子育て困難の発生

 現在、日本では高齢化社会の進行と並行して、少子社会化の問題が顕著になってきている。少子社会化の問題点として将来の労働力人口が減少し、労働者不足のため、現在の日本の経済力を維持できないという問題がよく指摘される。
 しかし、少子社会の進行は将来の労働力の問題だけではなく、現在の子育ての問題に直結する。ここ10年ぐらい、全国各地で専業主婦の手により子育て情報誌が盛んに作られている。子育て情報誌の発行は1980年代からはじまる。初期の情報誌は、小児科医リストや幼稚園、保育園一覧という情報が中心であった。それが90年代に入ると密室育児による母親の閉塞感という問題が一般に知られるようになり、子育てのサークルが活動の一環として、子育てに関連する地域情報を取材し、子育て情報誌が次々と発行されるようになった。このような密室育児による母親の閉塞感は何も東京や大阪の大都会だけではなく、富山のような地方でも生じる現象といえる。
 なぜならば、密室育児が発生する大きな要因の一つとして少子社会化を挙げることができるからである。子どもの絶対数の減少により、地域社会における子どもの人口密度は著しく低下した。その結果、子どもを介した親どうしのコミュニティがかつてと比べ、発生しづらくなった。かつては自然に生じた親どうしのネットワークが子育て情報の交換する際に重要な役割をはたしていた。しかし、現在では「公園デビュー」という言葉もあるとおり、母親どうしのコミュニティを形成するのも容易なことではない。また、少子化のため、一世帯あたりの子ども数も減少し、一世帯に子ども一人という家庭も増加している。
 さらに、「人口の流動性」が高まっていることも子育ての困難の要因と考えられる。家計の主たる担い手である夫の転勤・転職に伴い、子どもを連れた世帯はある日突然、見ず知らずの土地に暮らすことも珍しくはない。意志疎通もままならない幼い子どもと閉鎖された空間での孤独な子育てが繰り広げられる。近所づきあいも希薄となった現代社会では、少子化も相まって近隣に自分の子どもと同じぐらいの年齢の子どもを持つ友人を捜し当てることが出来ずに毎日を過ごすことも珍しくない。
 子どもが幼稚園や保育園、小学校に通園、通学するようになると、親どうしのネットワークが形成され、子育て不安から脱することができるが、通園前や転入直後の家庭は子育て不安から簡単には解消されないであろう。
 このような子育て不安を子育てに関連する地域情報をインターネットなど各家庭が気の向くまま容易に得られるようなしくみを作ることで軽減することができないだろうか。 
 そこで、本稿ではインターネットを介して地域の子育て情報を交換できるような地理情報システム(GIS)の可能性を提言したい。


2.富山県の少子社会化

 まず、現在の子育て困難の状況を作り出す一番の要因である少子化の富山県での傾向をここで簡単に触れたい。
図1 富山県年少人口経年変化

 図1に見られるとおり、富山県でも少子化が進行していることがわかる。特に平成に入ってからの落ち込みは激しく、現在では、15歳未満の人口割合が15%を割り込んでいる。少子化の要因は複雑かつ多様であるので、本稿ではその原因については言及しないが、行政による少子化抑止の様々な施策が行われている。しかし、現在、その傾向を充分にはくい止めることができていない。
 また、図2は平成12年国勢調査結果などを基に、富山県内市町村の15歳未満人口実数と15歳未満人口の特化係数を示したものである。ここで用いた特化係数は、富山県内各市町村の少子化が富山県全体の少子化の傾向と比べ、高いか、低いかを算出する係数である。算出方法は、各市町村の15歳未満人口を富山県の15歳未満人口割合で割ったものである。


 数値が1以上であれば、15歳未満人口割合が富山県全体よりも高く、子どもの人口割合が相対的に高い市町村を示し、1未満であれば、15歳未満人口割合が富山県全体と比べ相対的に低いことを示す。
 富山県全体でみると15歳以下人口は全体の14%である。特化係数が1を大きく下回る市町村は少ないが、特化係数が高いのは舟橋村、婦中町だけである。舟橋村の15歳未満人口割合は約21%、婦中町は約17%である。これらのまちは富山市のベットタウンとして機能し、子どもを持つ世帯が流入しやすい場所となっているものと推測される。

※1 「国民経済計算年報 平成14年版」(平成14年3月発行)による。国民経済計算年報は、平成15年版も既に発行されているが、平成14年版の数値を基に平成12年度の富山県民経済計算が推計されていることから、本稿での全国値は全て平成14年版の国民経済計算年報の数値を使用することとした。

図2 富山県内15歳未満人口

 また、市町村別の15歳未満人口の実数は、人口規模の大きい富山市、高岡市で多いことがわかる。しかしながら、15歳未満人口が全くないという市町村はなく、県内、どの市町村でも一定の子育て支援のための施策が必要であることもわかる。  
 では、子育て支援施策として、今、もっとも必要とされているものはどのようなものなのだろうか? インターネットでホームページを公開している子育てサークルや子育て支援団体に寄せられる質問に、「どこに行けば子育て仲間をつくることができるか?」というものが大変多い。  
 富山県内の様々な子育て関連の地域情報をまとめているホームページ「子育てネッ!とやま」が公開されており(http://toyama.shiminjuku.com/general/00000179/0/index.html)、インターネットを介して、様々な子育てに関連する情報を手に入れることができ、また、現在実施されている子育て支援に関してもたくさんのリンクを持ち、便利なホームページとなっている(図3)。  
 このようなすぐれたホームページがあるものの、充分には取り上げられていない情報がある。それが、各家庭の身近にある子育てに活用できる「場所」に関する情報である。このような情報をインターネットと地理情報システムを組み合わせて配信し、各家庭が子育てに活用できる身近な「場所」の情報を得ることで、そこに出かけ、そして子育て仲間を作ることができるようになるかもしれない。
図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面
図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面
図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面図3 「子育てネッ!とやま」のホームページ画面


3.子育て支援への地理情報システム(GIS)活用の可能性
  ―インターネットGIS―


 身近な子育てに活用できる場所には何があるだろうか。例えば、家の周りの公園がそうであろう。ただ、公園というものは利用者が多様であり、また、デザインもスポーツに向くものからお年寄りの散歩に向くものまで、そして地域環境の違いによっても使われ方は多様になる。  
  乳幼児をつれて午後、公園に遊びに行くと、小学生の子どもたちが元気いっぱいサッカーをやっていたなどということもあるだろう。公園それぞれは地域により個性があり、時間により、利用のされ方が異なる。また、公園デビューという言葉もあるとおり、自分の子どもを初めての公園に連れて行く際、親側の心的障壁は想像以上に大きい。そこで、身近な公園の情報がまとめられ、どの時間帯にどのような母親集団がいるのかという情報がインターネットなどで配信されていると、子育て期の多くの人たちに活用されるのではないだろうか。
 地理情報システム(Geographic Information System:GIS)とインターネットを上手に組み合わせることで、上述のような情報が配信できる。地理情報システムとは、簡単に定義すると地図情報と地域情報を組み合わせることができるシステムで、地図の表示機能やデータベース機能をもつシステムである。
 富山市のこども福祉課で発行している『晴れるといいね』という市内の保育士が調査した結果をまとめた子育て公園マップがある。富山市内の公園がどのようになっているのか、詳細に調査が掲載された非常に優れた公園マップである。しかし、どの時間にどのような集団が集っているのかという時間帯情報が少ないし、冊子体で配布のため、掲載できる情報量にも限界がある。時間帯情報や利用者情報を収集し、データベース化し、インターネットで地図とともに配信できると、より利用しやすい公園マップを提示することができるであろう。また、紙媒体と違い、更新が容易であるため、その場所の変化を反映させることが容易である。インターネットで配信することで、多くの人たちによる活用が可能となる。この運用イメージは図4である。

図4 子育て支援マップ配信システムの運用イメージ
 
 少子社会化の問題の一つとして、子育て仲間が見つからず、孤独な子育てになりがちであるというものを挙げたが、子育て仲間を見つけるための一つの可能性として、このようなインターネットとGISを活用した子育て支援マップ作成という方法もあるのではないか。  
 近年、行政や様々な企業でGISが活用されるようになってきている。よりGISが普及し、仕事の場で活用されるようになれば、その先に、GISの市民レベルでの活用も考えられるようになる。GISが子育て支援に役立つ日もそう遠くはないと私は思っている。

とやま経済月報
平成15年5月号