特集


設備投資動向調査からみた富山県経済
日本政策投資銀行富山事務所次長 吉田 守一


 富山県において、民間企業の設備投資(以下、「設備投資」という)は、県民総支出(実質)の約15%のウエイトを占めており、年々の変動が大きいことから個人消費などと並んで景気動向を左右する重要な要素の一つとされている。また企業の事業展開への意欲を示すものでもあり、地域経済の今後の姿を占うためにも重要である。本稿では、日本政策投資銀行(以下、「政策銀行」という)が定期的に実施している設備投資動向調査に基づき、富山県経済を設備投資の視点から考察してみたい。


1.はじめに

 政策銀行では、各業種・各地域における設備投資の動向を把握することを目的に、毎年2月および8月に、資本金1億円以上の民間法人企業(金融保険業などを除く)に対して、設備投資(国内における有形固定資産投資)に関するアンケート調査を実施している。

 直近の調査である2002年8月調査では、2001年度の設備投資実績、2002年度計画について約9,300社より回答を頂戴した。うち富山県への設備投資計画を有するのは322社であった。なお、本調査における設備投資額とは工事ベースの金額であり、原則として、建設仮勘定を含む有形固定資産勘定の計上額である。また集計に際しては事業部門別の回答額を業種ごとに分類・集計している。



2.最近の富山県設備投資動向

 2002年8月調査によれば、2001年度の設備投資(実績)は、全産業で前年度比20.3%の減少となり、電力を除いたベースでも23.2%減少と、製造業を中心に増加した2000年度から一転して、再び減少に転じた(図表1)。

図表1 2001・2002年度 富山県設備投資動向
(単位:億円、%)
区分 2001年度(実績)
(共通回答305件)
2002年度(計画)
(共通回答334件)
2000年度
実績
2001年度
実績
増減率
2001/2000
2001年度
実績
2002年度
計画
増減率
2002/2001
全産業
 (除く電力)
製造業
非製造業
 (除く電力)
2,137
(1,893)
1,283
854
(610)
1,702
(1,454)
948
754
(505)
▲ 20.3
(▲ 23.2)
▲ 26.1
▲ 11.7
(▲ 17.2)
1,743
(1,494)
970
772
(524)
1,721
(1,427)
850
870
(577)
▲ 1.3
(▲ 4.5)
▲ 12.4
12.6
(10.1)
(出所)政策銀行「富山県 設備投資動向調査」

 続く2002年度(計画)では、全産業で前年度比1.3%の減少、電力を除いたベースでも4.5%減少と、それぞれ2年連続で減少する計画となっている。このうち製造業は12.4%減と引き続き減少するのに対し、非製造業は12.6%増と4年振りの増加となり、製造業と非製造業では異なる動きをみせている。

 業種別動向をみると、製造業では、食品(約5.7倍)が能力増強投資、輸送用機械(20.3%増)が合理化投資などにより、それぞれ増加する一方、化学(24.0%減)が、医薬品関連中堅地場企業の投資が下支えするものの大型工場新増設終了から2年連続の減少となり、一般機械(59.1%減)が増強増設投資の一段落から3年ぶりに減少するなど、殆どの業種で減少する計画となっている。

  これに対し非製造業では、リース(5.1%減)などが減少するものの、不動産(100.6%増)が大型商業施設建設、運輸(45.5%増)が更新投資主体により増加に転じ、電力(17.9%増)も2年連続で増加する計画となっている。



3.富山県の設備投資の特徴

 富山県の設備投資の特徴としては、何より製造業のウエイトが高いことが挙げられる。例えば2001年度の設備投資(実績)に占める製造業のウエイトは55.7%と過半を占めており、全国(31.2%)や、石川県(26.1%)、福井県(23.7%)などを大きく上回っている。

 周知の通り、富山県は、「モノづくり」県として製造業の集積が厚いことが知られており、例えば99年度の県内総生産(名目)に占める製造業の割合が30.2%と全国(21.7%)に比べて高い他、産業別従業者数でみても29.5%と全国(21.3%)を上回っている。また、2000年の製造品出荷額等の業種別構成では、金属製品、電気機械、化学の順で大きい。これを特化係数でみると、金属製品は90年代を通じて低下傾向にあるものの、2000年で3.5と高い水準にある。一方、近年企業誘致に力を入れてきた電気機械の特化係数は2000年で0.7に過ぎず、全国平均に比べると集積は進んでいないことが分かる。なお医薬品を含む化学は1.7で安定している(図表2)。


図表2 富山県 製造業出荷額特化係数

(出所)経済産業省「工業統計表」より政策銀行作成
(注)従業員4人以上の事業所による集計

 しかしながら、こうした製造業中心の構造が設備投資の水準低迷の主な要因となっている。例えば、96年度を100として2002年度(計画)の指数をとると、非製造業が電力の投資削減の影響を受けつつも67にとどまっているのに対し、製造業は48と半減しており、製造業設備投資の先行きが懸念されている。そこで以下では、これまでの製造業設備投資の動向を振り返り、89年以降の設備投資拡大局面(89〜91年、95〜96年、2000年)で何が牽引したかを整理し、今後の回復に向けた示唆を得ることとしたい(図表3)。

図表3 富山県の製造業設備投資動向の業種別寄与推移

(出所)政策銀行「富山県 設備投資動向調査」

(1) 89〜91年度
 バブル期の景気拡大を背景に、県内の工業立地件数が年間100件を超えるなど工場新設や能力増強投資が活発化した(2001年の工業立地件数は30)。なかでも富山県の主力産業である金属製品(アルミ建材など)の積極的な設備投資姿勢が目立った。しかし、バブル経済崩壊後、金属製品は設備投資を大きく減らしており、単年度でみれば集約化投資や更新投資などがあるものの、総じて低調に推移している。

(2) 95〜96年度
 90年代後半になると、金属製品に代わって、設備投資増減に対する電気機械の寄与が目立つようになった。特に95年度は半導体製造工場の新設が全体を大きく押し上げた。また、化学は景気循環の影響を受けにくい医薬品の設備投資を中心に90年代を通じて安定的に推移してきたが、この時期は能力増強投資に加えて改正GMP対応投資などが活発化した。

(3) 2000年度
 パソコンや携帯電話などいわゆるIT関連の需要拡大を受けて、富山県でも99年度より電気機械が大幅増に転じ、液晶関連の大型投資や電子部品メーカーの増強投資などが行われた。電気機械の設備投資は翌2000年度も続伸し、また化学では大手医薬品メーカーによる大型能力増強投資や、中堅医薬品メーカーによるOEM供給対応投資などが全体を牽引した。

注※ GMP(Good Manufacturing Practice)医薬品の製造管理・品質管理基準
94年に厚生省令が改正され、「製造所のGMP体制が整っていること」が「製造業の許可を取得するための必要要件」となった。


4.今後の展望

 このように、電気機械の寄与が拡大しており、富山県の設備投資動向は他地域同様IT製品の需給動向に大きく左右されるようになってきている。

 一方、図表4で富山で事業を営む企業(ただし資本金1,000万円以上の企業)の設備過剰感をみると、電気機械と化学の業種が牽引役となって設備投資が増加に転じた2000年度前後も含めて、製造業では総じて高止まりしていることが窺われる。


図表4 県内企業の設備過剰感(「過大」−「不足」社数構成比)の推移

(出所)財務省富山事務所資料より政策銀行作成
(注) 調査対象の範囲:富山県内に所在する金融・保険業を除く資本金1千万円以上の法人企業
2003/3及び6は見通し

 さらに、工業立地のボーダレス化に伴い海外への生産移転(国内の新規工業立地の低調)がいっそう進展し、社会の成熟化(少子高齢化など)に伴い将来の需要増への期待が落ち込んでくると、今後IT関連製品が循環的な調整を終えたとしても、電気機械以外の業種では投資マインドは回復せず、富山県の設備投資全体として増加基調に転ずるには至らない可能性がある。

 このような環境変化を踏まえれば、今後は、地域経済を支えるために必要な付加価値を生む産業を域内で確保すべく、薬品製造技術といった地域独自資源の活用や産学行政協動(大学発ベンチャー)体制強化など富山県を拠点とする企業が他地域とは異なる特徴を発揮出来るような「環境」づくりの実践と戦略的な対外PRがより一層重要になってきているといえよう。

以上


とやま経済月報
平成15年1月号