特集


NPOによるまちづくりの試み−体験的レポート

新潟大学法学部教授 吉田正之


1.NPOの現状

 平成15年3月31日現在、全国に10,664法人の特定非営利活動法人(以下、「NPO」と記す。)が存在する(本稿で使用するNPOに関する情報は、内閣府の開設するホームページ(http://www.cao.go.jp/)から入手した。)。NPOは、特定非営利活動促進法(以下、「NPO法」と記す。)2条および別表によって、その活動を12分野に限定されている。その別表3号には「まちづくりの推進を図る活動」がNPOの活動分野として掲げられており、現在「まちづくり」をその活動分野として掲げるNPOは全国に4,082法人(全国法人数比38.28%)が存在している。
 他方、富山県のNPO数は46法人、うち「まちづくり」を活動分野として掲げる法人は11法人(県内法人数比23.91%)にとどまっている。活動の質は、もとよりその数によって規定されるものではないが、富山県の人口とほぼ同等と思われる、人口100万人から150万人規模の地方自治体と比較しても、富山県のNPO数は少ないように思われる(表1参照)。
 筆者は平成元年4月から平成15年3月まで、富山県と人口規模が同等の山形県に在住し、山形大学人文学部において教鞭をとりながら、同僚有志とともに「山形大学バーチャル研究所 街づくり研究所」を設立し、いわゆる「まちづくり」にもかかわってきた。本稿は、筆者自身がかかわった、「まちづくり」を活動分野とするNPOについて、体験的レポートを行うものである。

表1 NPO数と活動分野(平15.3.31現在)


2.発想から準備

 本稿で取り上げるNPOは特定非営利活動法人CHAMPという。このNPOを立ち上げる発端は、山形の中心市街地の空きビル(旧松阪屋ビル)にあった。この空きビルは平成12年8月に山形松坂屋が閉店したため生じたもので、市民・行政ともにその対応に苦慮していた。その後空きビルに買い手が付き、全8階のうち1階から3階までがオーナーによるテナントが入り、4階から8階までが山形県と山形市で何らかの利用を決定することとなり、8階にJ2のプロ・サッカーチームであるモンテディオ山形を運営する「社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会」が「スポーツプラザ21」という県内スポーツ振興のための交流広場を開設運営することとなった。かねてから、中心市街地活性化に関心を持ついくつかの民間団体のメンバーが旧松坂屋ビルの利用方法について提言を行ってきたが、この機会に、交流広場を単なる広場にするのではなく、本当に市民の集まる施設にしたいという願いから、山形商工会議所青年部と七日町商店街振興組合青年会の有志が中心となり、8階フロアでスポーツカフェを営業することを提案し、その運営主体としてNPOを設立することとなった。
 旧松阪屋ビルは、nana-beansとして平成14年9月28日に再オープンされることとなり、スポーツカフェの開業とNPO設立の準備は平成14年6月頃から並行して行われた。筆者もこのころから関係者の誘いでメンバーとして準備に加わった。当初の準備はもっぱら目前に迫ったスポーツカフェの開業に精力が注がれ、NPOの設立は平成15年2月頃が目標とされた。幸いメンバーには飲食店の自営業者もおり、スポーツカフェは何とかビルの再オープンに間に合わせて開業することができた。
 スポーツカフェのある8階フロアには、交流(カフェ)スペースのほか、受付・情報提供コーナーと展示スペース、ミーティングルーム、事務室などがある(図1参照)。カフェの名称は「スポーツカフェ CHAMP」で、原則として月曜木曜を除く18:00から23:00で、日曜のみ11:30から16:00に営業している。カフェにはカウンターのほか、約80人分のテーブルといすを備え、スポーツ観戦用の画面としては、プロジェクターによる大型画面1面とTVモニター6台を備えている。平成15年6月現在、正職員1名、アルバイト3名で運営している。
 スポーツカフェはとりあえず任意団体として開業し、その後もNPO設立準備を続け、平成15年2月18日に認証を受け、3月3日に「特定非営利活動法人CHAMP」として登記を済ませることができた。定款では、まず第3条で目的を「この法人は、山形県民に対して、スポーツ振興及びまちづくりに関する事業を行い、広く地域の活性化に寄与することを目的とする」と定め、次に第4条で活動分野としてNPO法別表3号4号を掲げ、さらに第5条で活動に係る事業として「(1) スポーツ振興のための各種イベント企画と運営実施及び受託、(2) スポーツカフェの運営、(3) 各種スポーツ団体の支援・交流・育成、(4) まちづくり団体の支援・交流・育成」などを規定した。このように、NPO CHAMPは、スポーツ振興とまちづくりを2本柱とし、収益事業としてスポーツカフェを営業するものとして設立された。正会員18名、うち理事17名、監事1名で構成している。
 山形県内のNPOはそのほとんどが、無償かそれに近い活動を行うボランティア団体を母胎として設立されているが、NPO CHAMPは当初から収益事業を行うものとして設立されている点で特徴がある。



3.運営の現状

 スポーツカフェは、NPOの重要な収益部門であり、8階フロアを利用した各種イベントにおいても重要な役割を果たしている。
 スポーツカフェの開業準備中メンバーはそれぞれ既存のスポーツカフェを見学している。筆者も仙台にあるベガルタ仙台関連のスポーツカフェを訪れてみた。試合のない平日の午後であったが、立地の問題もあり、比較的広い店舗に数名の客、それでも厨房、フロアに人を配置しなければならず、これを毎日続けることに不安を感じていた。
 実際に営業を始めて見ると、モンテディオ山形の選手などの協力を得て開くイベント等には、彼らの人気によりかなりの集客を望めるのであるが、そういうものがない場合にビルの最上階にまで人を呼び込むことの難しさが改めて感じられた。
 個人客には期待できないことから、同フロアにあるミーティングルームを利用した会議や集会後の打ち上げや、映像ソフトを持ち込んでもらって店内で上映会をしながらの貸し切りパーティーなど、団体客の利用によりカフェ自体の営業はこれまで何とか持ちこたえることができた(表2・図2参照)。


表2 売上高・来客数

図2 売上高・来客数

 他方、スポーツ振興とまちづくりに関する事業としては、フリーマーケット、国際交流イベント、FMコミュニティー放送のサテライトスタジオ、サッカー指導者講習会、モンテディオ山形の選手・監督等とファンとの交流パーティーなど、様々な活動を行っている。


4.希望的展望

 NPOとしては、これまでスポーツカフェの運営を軌道に乗せることに多くの精力を注いできた。スポーツカフェについては、昼間営業の問題等もあり、未だその運営は安定しているともいえないが、関係者の努力によりまずまず売り上げを伸ばしているようにも思える。これからは、収益事業以外のNPO本来の活動にますます力を注いでいくことになる。すなわち、スポーツ振興とまちづくり事業である。まちづくりという言葉は昨今よく使われているが、その意味するところは広く、様々な内容を含みうる。スポーツ振興事業にしてもしかりである。NPO CHAMPの物的・人的資源を利用していかなる事業展開が可能か、現在トライ・アンド・エラーの途中である。しかし、当然ながらわれわれ現有メンバーの力には限界がある。実はその限界を破ることができるかもしれない仕組みを定款に組み込んでいる。正会員とは別にサポート会員というカテゴリーを設けたことである。このサポート会員という制度を利用して会員にNPOの外からアイデアや労力を持ち寄ってもらい、NPO CHAMPの事業として始め、その事業がうまく成功するとスピン・アウトしていくというシステムを構築することはできないかと考えている。この仕組みは今のところ単なるアイデアの段階であるが、うまく制度化することができれば、最近取り上げられることの多い、いわゆるコミュニティー・ビジネスのインキュベーターの役割をもNPO CHAMPが果たすことができるのではないかと夢想している。
 NPO CHAMPは収益事業を営むNPOとして山形県内では注目されているが、各位のご支援により何とか運営を続けている。今後は、できるだけ収益も確保しながら、NPO本来の目的である「スポーツ振興およびまちづくり」を積極的に展開し、地元のために役立てればと願っている。

とやま経済月報
平成15年8月号