設備投資からみた富山県経済
―隣接各県との比較を通して―
日本政策投資銀行 富山事務所長 高橋 啓

 21世紀を迎え、富山県経済の新時代はどのようなものになるのか、そして、どのような方向に誘導するべきかについて、設備投資という窓を通してその将来を展望してみたい。


1.情報化投資の波及が期待される富山県内設備投資
 日本政策投資銀行は毎年2月と8月に全国の資本金1億円以上の民間企業(除く金融保険業)を対象に設備投資のアンケート調査を実施している。このアンケート調査の特徴は、全国の9,200社以上の民間企業から回答を得ているという集計データ範囲の広さと、都道府県別に集計・分析しているというきめの細かさである。
  直近の調査である平成12年8月調査では、富山県内に設備投資計画を有する321社から回答があり、平成12年度の設備投資計画総額は2,097億円と平成11年度実績額の4.0%増という結果を得た。全国の7.5%増と比べると幾分物足りなさは感じるものの、設備投資の増加は4年ぶりのことで、県内経済活動の活発化を示すものとなっている。
 設備投資には能力増強投資もあれば、研究開発投資、環境対策投資、合理化投資など様々な種類がある。いずれにせよ企業活動に必要不可欠な設備を建設・取得するものであり、その多寡は企業活動の活発度を測るメルクマールとなる。富山県と境を接するお隣の各県と設備投資額や業種別内訳と比べることによって富山県の相対的な経済活動の活発さを推し量ってみたい。


〈隣接4県との比較〉
 富山県と隣接する石川、岐阜、長野、新潟各県の産業分野別設備投資計画額は図−1のとおりである。

 設備投資計画額の大きさを人口規模、経済規模との相対的比較で見るために、各県の人口、県内総生産、平成12年度設備投資計画額が富山県の何倍になっているか、富山県数値を1として比較する(表−1)。人口・経済規模がほぼ同じ石川県の設備投資計画額は富山県を14%上回る水準であり、企業活動が相対的に活発であるといえよう。また、岐阜・長野・新潟の各県に比べ相対的に富山県の設備投資額は大きいということができるが、対前年増加率では富山県はいずれの県をも下回っている(表−2)。富山県の隣接4県とも、近年の設備投資活動は富山県より活発であるといえよう。

表-1 経済規模対富山県比(平成12年度)
(単位:倍)
  人口 県内総生産 設備投資
富 山 県 1.00 1.00 1.00
石 川 県 1.04 1.01 1.14
岐 阜 県 1.87 1.63 1.08
長 野 県 1.96 1.84 1.50
新 潟 県 2.20 2.16 1.88
表-2 設備投資計画額(平成12年度)
(単位:億円 ,%)
  設備投資額 対前年増加率
富 山 県 2,097 4.0
石 川 県 2,386 16.4
岐 阜 県 2,260 17.3
長 野 県 3,146 6.9
新 潟 県 3,952 40.5

 各県とも設備投資が活発化している要因は何であろうか。
 石川県は、電力(設備投資の対前年比21.0%増)、不動産(同207.9%増)、電気機械(同24.6%増)、通信・情報(同23.8%増)の各産業の投資増加が主因である。電気機械は情報通信機器関連の市場拡大に対応したものであり、通信・情報は移動体通信の新方式対応投資に着手することに伴うものであり、いずれも最近話題となっている情報化投資による増加ということができる。
 岐阜県は電気機械(同59.1%増)と電力(同24.0%増)が増加の中心である。電気機械は情報関連機器の需要増に対応した半導体関連の工場新設が見込まれることによるもので、このほか窯業・土石(同50.4%増)でも半導体関連の増強投資が行われ、通信・情報(同6.8%増)も移動体通信の基地局整備による増加が見込まれている。
 長野県も岐阜県同様、電気機械(同16.8%増)と電力(同13.7%増)が増加の中心である。電気機械は 長野県内に数多くの電子部品工業が立地しており、半導体関連の需要増加に対応した能力増強投資に数多くのメーカーが取り組むことから大幅な増加となったものである。
 新潟県は電気機械(同69.1%増)と不動産(同520.1%増)の増加によるものである。特に電気機械は半導体関連の大型投資が相次ぐことが全体の底上げに大きく寄与している。
 このように、隣接4県の設備投資増加の中心は情報化関連の投資であることがわかる。
 翻って富山県の設備投資内容をみると、増加の主因は化学、一般機械、その他製造業、不動産が中心である。化学は医薬品関連の増強投資が主であり、その他製造業、不動産とも情報化関連というものではない。しかしながら、富山県は情報化関連投資から置き忘れられたというわけではない。一般機械の増加の主たるものはデジタル化対応の事務用民生機器工場の新設であり、液晶関連の能力増強投資は11年度に大型投資が実施されている。また、新聞報道によれば、県当局の熱心な誘致活動が奏効し、今年当初から化合物半導体の大型新工場が魚津市内に新設されるとのことである。加えて、首都圏から始まった移動体通信の新方式対応投資も地方圏に波及することが予想される。
 隣接4県の設備投資は情報化関連で大幅増加となっているが、富山県においても、13年度以降「情報化」が設備投資の増加要因として期待されるところである。


2.富山県内設備投資の長期的動向
 20世紀最後の10年は日本経済にとっては「失われた10年」という論者もいる。この10年間の富山県の設備投資動向を振り返ってみたい。
 日本政策投資銀行の設備投資アンケート調査は常に共通回答会社ベースで設備投資額の増減分析を行なっているが、毎回回答企業の顔ぶれが少しずつ異なることから、毎年の調査結果(設備投資回答額)を単純に時系列で比較することはできない。このため、長期的な傾向を把握するため、ある年度を100として以後毎年度の増減率を乗じて算出した「設備投資指数」を代替指標としている。

〈石川県・福井県との比較〉
 10年前の平成2年の設備投資額を100とした場合の全国と北陸3県の設備投資指数推移は図−2のとおりである。基準とした平成2年(1990年)は設備投資のピーク期で、その後のいわゆる「バブル景気」の崩壊による景気後退に伴い、全国の設備投資は大幅に減少を続けることになる。その後平成7〜8年度にかけて一時的な回復を見せるが、アジア経済の後退や金融不安などから再び減少に転じ、平成12年度に至ってようやく回復し始めたところである。
 北陸3県の動向は概ね全国の動向と同じような動きを示しているが、富山県は製造業の設備投資ウエイトが高いことから、景気動向に敏感に反応し、落ち込み幅が大きいことが見て取れる。特に、平成9年度以降の減少幅が大きく、石川県、福井県がいち早く平成11年度に全国水準を超えたのに対し、富山県は平成12年度に4年ぶりに増加に転ずる見込みであるにもかかわらず、いまだに全国水準を大きく下回っている。
 最近3カ年の業種別設備投資指数をみてみると(表−3)、製造業、特に県内の主力産業といえる金属製品と電気機械の設備投資水準の低さが際立っている。平成の初期に大型投資を行なったものの、その後の内需の低迷などから設備投資水準は減少を余儀なくされている姿が見て取れる。
 情報機器関連の生産設備増強の動きで、石川県の電気機械産業の設備投資が活発化していることは先述したが、石川・福井両県の平成初期の電気機械設備投資額は相対的に少なく、それぞれの設備投資指数は石川県が166.0、福井県が199.4(いずれも平成2年度=100)と10年前を大きく上回る水準となっている(なお、平成12年度の各県電気機械産業の設備投資計画額は、富山県:264億円、石川県:385億円、福井県:308億円である)。電気機械も製品分野は多岐にわたり、最近は情報機器関連製品の需要の伸び率が高く、また、製品によっては海外生産にシフトする動きもあるなど、簡単な総括はできないが、石川・福井両県の電気機械産業の競争力は着々と強化されているものと思われる。
 富山県の製造業の中では、製薬産業を含む化学産業の設備投資は比較的コンスタントに推移しており、ほぼ平成初期のピーク時水準に達しているといえる。また、非製造業の設備投資額は比較的安定的に推移している。このなかで目に付くのは、通信・情報産業の水準の高さである。平成12年度の設備投資指数は699.6(平成2年度=100)と極めて高く、この10年間で飛躍的に県民の情報・通信インフラが整備されてきたことがうかがえる。

表-3 富山県の主要業種別設備投資指数(平成2年=100)
  平成10年度 平成11年度 平成12年度
全産業 66.9 55.4 57.6
製造業 49.1 39.9 44.8
  化  学 81.7 76.6 95.8
  金属製品 34.5 25.3 25.1
  一般機械 60.1 29.6 69.2
  電気機械 23.2 29.8 26.3
非製造業 104.6 88.8 83.3
  不動産 25.0 66.9 90.2
  電 力 160.5 85.1 75.2
  通信・情報 738.3 660.1 699.6 
  リース 76.2 64.4 69.5

3.富山県内企業の動向
 富山県内の設備投資は誰が行なっているのであろうか。富山県内に事業所を有している企業であることは当然であるが、そのすべてが富山県内の企業とは限らない。図−3は、北陸3県について本社所在地別の設備投資構成比を示したものである。これを見ると、富山県内設備投資のうち県内企業の割合はほぼ5割であり、北陸3県の中では県内企業の比率が最も高く、県内企業の頑張りがうかがえる。また、県外企業も、東京本社の企業と大阪・石川本社の企業の割合がほぼ拮抗し、まさに富山県は東日本と西日本の接点であることがよくわかる。
 石川県は県内企業と富山本社の企業の設備投資がほぼ同じ割合になっており、設備投資に関して石川県との関係は富山県の出超となっている。同じく、福井県の設備投資は大阪本社の企業が主体を担っていることがよくわかる。設備投資に関しては、福井県は関西圏の圏域に組み込まれているとも言えようか。
 富山県内設備投資の総体としては県内企業、県外企業のバランスはほぼ半々であるが、業種別には表−4の通りバラツキが見られる。ここ10年にわたって堅調な設備投資を行なってきた化学、情報・通信などは県外企業のウェイトが高く、流通革命が叫ばれている卸・小売の設備投資も県外企業によるものが主体である。

表-4 設備投資額県内企業比率
(単位:%)
  平成12年度
全産業 48.0
製造業 38.8
  化 学 13.9
  金属製品 40.4
  一般製品 54.8
  電気機械 42.7
非製造業 61.1
  卸・小売 18.2
  電 力 75.8
  通信・情報 16.8
  リース 44.6

4.設備投資からみた富山県経済の今後の展望
 富山県は新産業の重点分野としてIT産業とバイオ産業の振興に取り組む方針であると聞いている。両産業とも21世紀のリーディング産業と目されているもので、国際的にも技術開発競争が活発化しており、地域経済浮揚の切り札として期待している地域も多い。地域資源の活用と、経済活動の活性化を通じての地域波及効果も大きく、富山県の方針は誠に時宜を得たものと言える。
 富山県の設備投資に関するこれまでの分析を通して、21世紀の富山県経済の活性化の観点で大事と思われる点を提示してしめくくることとしたい。
 IT産業の場合、IT機器の製造は電気機械産業が中心ではあるが、その素材は多様な産業が供給している。12年8月のアンケート調査によれば、情報化関連の設備投資は電気機械にとどまらず、窯業・土石(LCD(液晶ディスプレイ)用ガラス、光ファイバー)、非鉄金属(シリコンウェハー)、一般機械(デジタル対応事務機器)、精密機械(半導体製造装置)、その他製造業(液晶部品)など多くの産業分野にわたっている。
 岐阜県では電気機械の設備投資のみならず、このような素材産業の設備投資も活発化している。長野県においては多様な電気機械、精密機械などの機械加工工場が存在し、各種情報機器関連部品の一大生産基地となっている。1社あたりの設備投資額はそれほど大きくないものの、多数の企業・工場の集積により設備投資の大きな盛り上がりとなっている。部品や原料の供給工場が近くにあることが企業立地の決定要因となる場合もある。情報関連機器の素材生産分野まで視野に入れて富山県内の既存産業を見直してみるとともに、多様な情報関連産業を振興するという視点からIT産業に取り組んでみることも重要だと考える。
 バイオ産業は、国家プロジェクトレベルの先端技術開発が話題となっている。研究開発は医学、薬学、化学などの分野のみならず、情報工学までをも含む総合科学であるが、実際の生産活動はどれだけ充実した生産設備と優秀なオペレーターが存在するかにかかってくるものと思われる。富山県内には数多くの化学工場、製薬工場が立地し、コンスタントな設備投資が続けられているところである。加えて、数多くの地場製薬メーカーが存在する。バイオ産業の振興にあたっては、県外企業の工場のみならず、地場製薬メーカーの生産設備の集積を生かす工夫が望まれるところである。大学など研究機関の技術蓄積と地場企業の技術力を活用する共同研究の試みも開始されており、県内企業の設備投資の形で結実することを期待したい。
 また、近年、情報・通信インフラの整備が進んでおり、特にCATV網の整備は県西部を中心に官民双方で熱心に取り組まれている。CATV事業者8者の全県ネットも構築されており、この情報インフラを医療・福祉分野に活用する研究も始められている。今後は情報・通信インフラの整備と併せて、それらのインフラを活用する情報サービス業の振興も重要になろう。

(図表の出典)  設備投資額:「平成12年8月 設備投資動向調査」日本政策投資銀行
人口:平成12年3月末現在。「住民基本台帳人口要覧」総務庁
県内総生産:「平成9年度 県民経済計算」経済企画庁



日本政策投資銀行〈http://www.dbj.go.jp/