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八 尾 正 治


氷見市の巻(その3)

 氷見市は、上庄川流域の上庄谷、佛生寺川の十二町潟盆地、余川川の余川谷、胡桃川・雁田川の八代谷など、いくつかの地域が、下流に位 置する氷見市街を扇の要にしてまとまっている。また長汀は、氷見・阿尾・薮田・宇波・大境・女良の各漁港を待ち、それぞれ独自の文化と生活環境を保持している。地区に芽ばえた歌には、皆が声を揃えて歌い踊れる民謡調の「音頭」が多い。これらは、愛郷の心の発露そのものであり、心をなごませてくれるふるさと歌謡である。そして、明日の躍進の力を与えてくれる歌である。
 まず「八代音頭」から紹介しよう。昭和40年代半ばに作られたもののようだ。藩政時代、ここから石炭が採掘され「磯部の石炭」として珍重された。その後閉山になったが、昭和16年戦時下に入るや採掘再開され、22年頃には月産1千トンも産出したが、32年閉山になった。最初は九州の炭坑節を真似て歌われたが、のち歌詞も整えられ「八代音頭」として定着したものである。

八 代 音 頭

(1)月が出た出た  月が出た
   八代炭坑の   上に出た
   あんまり煙突が 高いので
   さぞやお月さま けむたかろ
   サノ ヨイ ヨイ  

(2)八代よいとこ  見にござれ
   山に桜の    花が咲く
   歩く下には   見えぬかい
   八代うるおす  黒ダイヤ
   サノ ヨイ ヨイ  

(3)荒山峠に    杖ひけば
   能登と越中は  目の下よ
   今にこの道   汽車が行く
   八代炭 たく  汽車が行く
   サノ ヨイ ヨイ

八 代 音 頭

(1)ハアー
   磯部・吉滝・針木の里は
   ア ナントセ
   緑豊かな    わが在所
   小滝・国見と  胡桃(くるみ)の里と
   角間も合わせて 八代郷
       (以下はやし略)

(2)能登へ山越え  ますがた山は
   荒山峠の    古戦場
   一向一揆も   謙信様の
   威光で鎮めた  景勝地

(3)磯部神社の   まわりの森は
   自然に広がる  藤の花
   角間・小滝と  国見の里も
   今は名代の   牛の里

(4)今は名所の   国見の丘は
   「夢の平」の  見晴らし台
   さあさ皆みな  来てみやしゃんせ
   八代よいとこ  夢の里

 もうひとつ、新作の「八代音頭」がある。これは池永哲朗の作詞作曲によるもので、おらが在所自慢を歌っている。昭和40年代のものらしい。

 

 八代谷は、荒山峠を越えて能登へ抜ける、古来からの重要往還道であった。  岩ガ瀬は、氷見市の南西の山間部落で、旧久目村に属する。ここに「岩ガ瀬音頭」というのがある。久々湊俊治の作詞、池永哲朗の作曲である。

岩ガ瀬音頭

(1)ハアーエー
   わしもおまえも 岩ガ瀬育ち
   あの山越えて  来やしやんせ
   ヨーイヤ サッサ
   ふるさと眺めて ひと踊り
   岩ガ瀬     ヨイトコ
   ヨイトコ    岩ガ瀬
          (以下はやし略)

(2)有磯の海から  潮の香のせて
   あゆの風さえ  しのび寄る
   緑 せせらぎ  花の里

(3)刺股(さしまた)椿 恋ものがたり
   老谷(おいだん)村には ホトトギス
   鳴いて 昔を  しのばせる

女 良 音 頭

(1)ハ、ドントコイ   ザットヒケ
   ザットヒキヤ    ドントクル
   浜の松原      どこまでつづく
   ハ ドントコイ   ザットヒケ
   ザットヒキヤ    ドントクル
   わたしやいつまで  待つのやら
   ハテ サテ サテ  待つのやら
   浜よし 松よし   サービスよし
   サァサ 行きましょ みんなで島尾へ
             (以下はやし略)

(2)昔こいしや   家持(やかもち)さまが
   浜の月夜に   ほれて立つ
   春夏秋冬    みどりのおしゃれで
   あの松 この松 あなたを待ってます

(3)松露(しょうろ) 掘りやんせ
   ほろほろほろと
   松の露やら    涙やら
   なぎさの しら波 お主の性だよ
   にげれば追います とまれば濡れます

(4)松をかこんで  みんなが踊りや
   月の影さえ   踊り出す
   踊りの広場は  松田江浜だよ
   波風ならして  おさるも踊るよ

(5)有磯海原    しら波たてば
   いきな立山   銀のみね
   海から見たかよ 立山つるぎの
   日本一の    あの晴れ姿を

 
海水浴客で賑わう 島尾遊園地

 浜方の音頭はいかに。まず海水浴で有名な白砂青松の島尾(旧宮田村)に、「島尾音頭」がある。これは、市の教育長を長く勤めた村田豊二の作詞に、富山大学の黒坂富治教授が曲を付けたものである。

 漁港を待つ宇波(旧宇波村、大境・小境・脇方を含む)に、「宇波音頭」がある。10題もある長いもので、宇波小学校に歌詞の扁額があるが、作詞者は明記してない。

宇 波 音 頭

(1)宇波よいとこ  有磯の海は
   アリヤセ    コリヤセ
   まぐろ渦巻く  青嵐
       (以下はやし略)

(2)嵐恋いしや   荒波越えて
   沖の便りを   寄せ男波

(3)波の背に背に  揺られて揺れて
   帰るお主を   松が崎

(4)君と別れて   脇方行けば
   磯の波さえ   夫婦連れ

(5)連れもつれつつ 小境行けば
   鯨 潮吹く   あぶが島

(6)島は招くよ   振袖すがた
   恋は思案の   大境

(7) 一に八幡    二に喜久理比売
   
三に厄神    守り神

(8)上は戸津宮   五十谷回り
   
ここは白川   吉野山

(9)山は豊年    あみ場は大漁
   
祝う踊りの   輪も太る

(10)太る踊りの   輪に和をかけて
    はやし寄る波  返す波

島 尾 音 頭

(1)ハアー
   女良はよいとこ 来てみやしんせ
   波の彼方に   立山仰ぎ
   手拍子よいよい 灘の浦
   (はやし)サアサ歌おう 踊ろうよ
   海方山方 手に手をとって ソレ
   輪に和をかけ 輪に和をかけ
   女良音頭(以下はやし略)

(2)姿よいとこ   潮風かおる
   つまま茂れる  あぶが島
   眺めよいよい  九殿浜

(3)中田よいとこ  白波寄せ
   湯花捧げる   道神社
   心地よいよい  遊覧船

 宇波の北、能登境の旧女良(めら)村にも、「女良音頭」がある。これは島木万四郎の作詞、山口武一の作曲である。

 
灘浦の勝景

−つづく− (富山県郷土史会長)