社会変革と企業経営
(株)アイバック代表取締役社長
新総合計画国際交流研究会委員 小沢伊弘

マスプロから個別化へ

 今世紀最後の年である西暦2000年を迎え、変革の潮流は、規模及び速度を益々増大することが予想される。金融改革、流通革命等、社会全体が地球規模で大きく変革することは、もはや確実な事実と考えられるが、社会が変革するということは、我々自身、又は、企業そのものが変革しなければ、新しい時代の中での繁栄はありえないと言うことであろう。

 急激な科学技術の発展、とりわけ情報技術の進化がもたらす変革は、産業革命が社会にもたらした以上のものになるのではないだろうか。それは、単に、社会構造、産業構造の変革といった現象的な側面のみならず、我々の価値観そのものを変えてしまう。表面的な小手先の変革ではなく、考え方、理念といったことを含んだ社会観、人生観、職業観そのものが変革すると考えられる。

  物自体の良否より、個人の得る満足の度合いがより重要になる。この満足の度合いは、個人個人の生きがいといった、より複雑な尺度によって定義されるが故に従来のマスプロ的な発想では、対応が不可能である。

情報革命の影響

 情報革命は、地域、国といった境界を超え、より個人の自由に基づいた活動を可能にする。この個人個人のニーズを基盤に経済活動が展開されていく。始めに全体ありきではなく、個人をベースとした社会といった様相が強くなるであろう。

  企業においては、この個人個人のニーズに対応しなければ存続は不可能となる。これが個客化の時代であり、そこにおいては、個別化のみならずスピードが求められる。別の言い方をするなら、柔軟性と生産効率の向上が、企業の存続において大切な要件であり、新しい時代に向け、すべての企業が努力しなければならないところであろう。

 旧来の国際的、国家的な制度や秩序は、時代に対応出来なくなりつつある今、規制廃止を含め、よりフリーな社会の形成がなされ、そのような社会においては、自己責任が原則であり、自助努力の度合いによる格差が顕著になっていく。

  個人の経済格差のみならず、企業においても勝ち組と負け組とに二分されることになる。行政だのみ、親企業、もと受けだのみといった姿勢ではなく、自社の責任において独自な努力を展開しなければならない。個人においても年功序列といったことでなく、個人の能力が問われることになる。

 独自の理念、ビジョン、方針の確立と実行が重要となる。また、その確立においては、経済性のみの追求でなく、同時に社会性といった企業倫理の確立も大切な課題である。フリーな時代は、自己責任、自助努力に基づいた発展が可能ではあるが、それは単に何でもありではなく、社会における有用性がより厳しく問われることになる。

 また、情報革命は、情報の開示を前提としたより公正な社会形成へとも繋がっている。企業内外において対話(コミュニケーション)による相互理解に基づいた情報共有が重要となる。顧客、取引先、社内の情報共有の体制が社会に公正に受け入れられるための条件といえる。

 グローバル・スタンダードとは、アメリカン・スタンダードではなく、誰にでも理解できる論理性に基づいたスタンダードの確立である。従来の取り引きで確立してきた実績に替わり、しっかりとした情報共有の体制と論理性をベースとしたスタンダードが求められる。

産業構造の変革

 以上のような変革は、産業構造そのものの変革も必須なことにする。上下の関係から、対等のパートナーシップに基づいた運営が不可避となる。パートナーシップ形成においては、相互の理念、方針等の理解をベースに戦略の共有が必要条件となる。旧来のヒエラルキーを基盤とした系列的関係ではなく、対等な立場と相互理解に基づいた産業形態が大切になる。

  従来の元受け、下請け的な関係、又は、親子的関係では、企業活動は、難しくなるであろう。体格の大きさではなく、個々の理念、ビジョン、方針に基づいた独立した企業間での、戦略的パートナーシップの形成が重要な課題である。

 消費者のニーズ変化は、単なる物やサービスそのものの質以上に、個々のニーズの充足、つまり個々の活動全体への満足度へと大きくシフトしてきていると考えられる。利便性、個々のテーマ、値頃感ある価格、個々が必要とする品質の4つのポイントがキーであろう。

  利便性においては、個々が必要とするタイミングである。いかに品質の高い製品やサービスであっても、個々のニーズのタイミングを外してしまうなら、その製品は、その個人にとって何の価値も有しない。産業そのものが、個々の消費者ニーズから始まることになる。これは、従来の始めに物ありきといった形態から、始めに個々のニーズありきといった考え方の上に成り立つことになる。これは、産業全体が、物やサービスの提供といった考え方から、ニーズへの対応といった考え方にシフトするこになり、益々産業のソフト化を推進することになる。緻密な情報とその分析、活用を中心に産業形態が成り立つことになる。

新世紀に向けた発展のために

 個々の企業運営においては、益々スピードある対応力が求められる。同時に、産業全体としても、同じことが必要になり、系列に代表されるような融通性のないピラミッド型の構造では、必要な対応力は生まれない。状況に適応したパートナーシップの形成による対応が大切である。このパートナーシップの形成を可能にするには、パートナーとなりうる個々の企業の強み(コアーコンペテンス)が必要であり、自社のコアーコンペテンスを明確に定義付けし、その情報が他と共有できることが重要となる。

 現在、話題になっているERP(エンタープライズ・リソース・プランニング、会社全体の経営資源の計画的な活用、業務管理をはかるコンピュータのソフトウェア。)やSCM(サプライ・チェイン・マネジメント、販売店における受発注とメーカーの生産部門とが直結した製販一体化システム。受注データを入力すると、関係する全セクションが瞬時にデータを共有し、最適な調達・生産・配送へと動く仕組み。)は、自社の強み(コアーコンペテンス)を明確にするための方法であり、又、パートナーとの迅速な共同体制を可能にする方法である。

  また、品質保証のためのISO9000シリーズ(国際標準化機構(ISO)の定める、工業品や管理体制等の国際規格。)や受発注のためのCALS(電子取引支援システム。製品の開発・設計・発注・生産・流通・保守にわたるライフサイクル全ての過程で、文書・図面等の製品情報をコンピュータ・ネットワーク上で、電子データとして企業間が共有するシステム。)は、基本的には、企業内外の迅速且つ正確な情報共有のベース構築のための道具であろう。決して、従来のような認可のための規格ではないと考えなければならない。すべては、情報共有のためであると言っても過言ではないと考える。

 情報革命においては、いかに迅速、且つ正確であり、融通性ある情報共有の体制を構築できるかが、企業のスケールを問わず最も重要な存続、発展のための課題である。実績から論理性へ、系列からパートナーシップへ、提供から対応へ、命令からコミュニケーションへ、地域共同体からグローバル・ネットワークへ、といった大きな変革が産業そのもの大きな変革をもたらすと同時に、情報革命は、価値革命へ進化していくであろう。