県内企業における最近の動向
(平成12年度11月16日 平成12年工業統計市町村説明会における講演筆録)
(財)北陸経済研究所 総括研究員 示森 治

1.はじめに

 20世紀は集団の時代であったが,21世紀は個(個人)の時代になると思う。つまり、21世紀は、企業、個人においても、今までの集団から個人が出て、新しい集団をつくる時代になると思う。と同時に感性の時代になるとおもう。感性の時代は「女性の時代」でもある。そして、ゆとり、清潔感、安全性、操作が簡単という女性特有の経済が今後動いていくだろう。
 近代の資本主義が崩壊し、従来の大量生産・大量消費の時代は終わり、環境保全か経済成長かという状況になっている。したがって工業統計を見ても、製造品出荷額はバブル崩壊後全く上がっていない。横ばい、もしくは若干減少し、数字的にはほとんど上がっていない。大量生産・大量消費時代が終わってしまったことから、少量・多品種のものづくりが定着して、ある程度の物しかつくれないという時代になってきたのである。
 1980年以後、日本経済は低成長となり、ゼロサム時代に突入し、一つのパイの中での取り合いになる。今までの高度成長時代では、レースの中で戦っていたので順位争いであったが、これからのゼロサム時代の経済戦争はゲームの戦いである。いわゆるトップ争いである。2位とか3位は関係ない。トップでなければだめだという時代になってきた。「勝ち組」とか「負け組」といわれるが、ゲームだから勝つ者は1人しかいない。2位でも3位でも負けである。そういう時代になってきたのである。


2.富山県経済の動向


表1 主要経済指標(対前年比%)
  鉱工業生産 新設住宅着工戸数 自動車販売台数 大型小売店販売額
全国 富山県 全国 富山県 全国 富山県 全国 富山県
H10 ▲ 7.1 ▲ 9.1 ▲ 13.6 ▲ 20.2 ▲ 12.5 ▲ 14.2 ▲ 4.4 ▲ 5.2
H11 0.8 1.6 1.4 12.1 0.3 0.2 ▲ 4.3 ▲ 6.8
H12 1月 6.1 3.0 16.8 17.1 2.5 3.2 ▲ 4.2 ▲ 7.5
2月 8.2 6.8 2.4 15.1 2.8 2.8 ▲ 0.8 ▲ 3.9
3月 4.5 4.5 ▲ 3.6 ▲ 21.4 ▲ 0.4 ▲ 3.0 ▲ 4.3 ▲ 5.5
4月 6.3 2.6 0.1 ▲ 4.0 ▲ 1.3 2.9 ▲ 4.7 ▲ 5.7
5月 7.6 9.4 ▲ 1.1 ▲ 25.3 5.6 5.9 ▲ 5.8 ▲ 8.1
6月 7.2 5.3 ▲ 1.2 ▲ 1.5 6.4 5.0 ▲ 4.6 ▲ 6.6
7月 4.2 0.1 ▲ 0.8 ▲ 10.2 ▲ 1.1 4.7 ▲ 5.0 ▲ 6.1
8月 8.4 2.3 ▲ 3.8 9.9 2.0 2.0 ▲ 6.1 ▲ 7.7
資料)北陸財務局,建設省
注)大型小売店には百貨店を含む(店舗調整後)

 富山県経済の動向については、まず住宅建設をみると、新設住宅着工戸数は、平成10年は不況の真直中だが、平成11年から所得減税の影響でよくなってきた。平成12年は1月、2月までは減税効果が続きプラスだったが、3月以後マイナスが続いている。全国的にもそうであるが、富山県の主要産業でもあるアルミ建材にも影響が非常に大きいと言えよう。
 個人消費をみると、新車販売台数は、平成11年あたりから良くなり、平成12年も上向いてきているが、大型小売店販売額は、全国も富山県も前年比マイナスが続いている。新規小売店は進出しているが、既存店が伸びていない。それに対してコンビニエンスストアは健闘しているが、ボリュームそのものが小さいので経済に与える影響はまだそれ程大きくない。


3.富山県製造業の業種別動向



 こうしたなか、北陸3県の鉱工業生産指数を見ると、電気機械が順調に上昇しており、一般機械が若干上向きという状況である。繊維工業はほとんど石川県、福井県が占め、金属製品は富山県のアルミ建材が主体であるが、生産指数は落ち込んだままである。
 繊維製品については、人件費が日本の10分の1である中国でほとんど生産し、日本へ輸出している。将来的には繊維製品の日本での製造は,現在の30%程度になっていくであろう。

(1)金属製品(アルミ建材)
 アルミ建材については、日本に大手6社(トップがトステム、2位がYKK、3位が三協アルミ、4位が新日軽、5位が不二サッシ、6位が立山アルミ)があり、そのうちの4社(三協アルミ・立山アルミ・YKK・新日軽)が富山県に集中している。
 住宅用サッシは10年3月頃が不況で非常に悪かったが、少し回復してきた。ところがビル用サッシについてはほとんど浮上していない。
 ビルサッシは、今までは公共投資で支えられていたが、公共投資もそろそろ限界にきている。頼れるのは民間だけで、その民間もおそらく2005年までのあと5年は無理で、何とか体質改善をしないと難しい。撤退するわけにいかないので、だんだん生産を縮小していかざるを得ない状況にある。

(2)電気機械
 電気機械のうち、富山県の場合は電子部品メーカーがほとんどを占める。完成品メーカーはなく、コンデンサーや集積回路、パソコン用の電子部品など電気機械に繰り込まれる部品をつくっているメーカーがほとんどである。これが絶好調であり、生産額はここ1、2年で25%増えているが、大手のセットメーカーが10%ぐらいの単価引き下げ要請をしてくるため、実際の売上高は15%増ぐらいである。そうなってくると、電子部品も繊維製品と同じで、海外で生産して国内へ輸出するという状況が出てくると思う。その場合、企業とすれば、全体としては生産額が増えるが、それは海外生産を含めた生産額で、富山県の工業統計には海外生産分は含まれないので、いずれは繊維製品と同じく生産額が減ってくることを覚悟しなければならない。

(3)一般機械
 一般機械については、富山県は工作機械と産業機械が多く、石川県は小松製作所があるので建設機械が多い。一般機械のうち、産業機械は、まださほどよくないが、今はIT関連の設備投資がかなり増えてきており工作機械だけが順調である。しかし工作機械は景気の変動に左右され、景気が悪くなると設備投資がしぼんでくる。これまで3年間、景気が良かったら、あと2年ほどして落ちるというパターンを繰り返しており、今はまだ1年目だからいいとしても、その2年後の2003年から2004年ぐらいになると、また落ちてくるだろうと見ている。

(4)化学工業(医薬品)
 医薬品については北陸では富山県の生産額が圧倒的に多いが、11年の7月〜10月がよくなったのは、たまたまコンピューター2000年問題で、クリスマス、正月になると原材料が間に合わないのではないかということで、医家向けに1月分だけを先につくったためである。その反動で1月〜3月はマイナスになっている。
 好調な医家向けの医薬品に対し、配置薬はあまりよくない。富山県の場合、医薬品の製造出荷額が2,400億円余ある中で、そのうち240億円余の1割ぐらいを配置薬が占めている。
 医家向けの医薬品は、富山化学工業を除いてほとんど新薬をつくっていない。したがって、大半の医薬品メーカーはいわゆるゾロメーカー(ゾロ;新薬(先発医薬品)に対する後発医薬品)といって、例えば武田薬品のリポビタンを下請してつくっている。

 富山県の医薬品の特徴的なものの1つに外用ハップ剤がある。この外用ハップ剤は第1世代と第2世代の2つに分けられる。第1世代は刺激型製剤のことで、いわゆる「貼り薬」であり、配置薬に入る。第2世代は経皮吸収剤(ハップ剤)のことで医家向けであり、皮膚に吸収させることによって痛みを止めるものである。ハップ剤は、全国で約1,000億円生産しているが、富山県では大手メーカー3社(リードケミカル、テイカ製薬、救急薬品工業)で200億円の生産額があり、これが非常に好調である。
 ドリンク剤は、今までは薬局だけの販売だったが、平成11年の4月からの規制緩和で、薬局以外、コンビニエンスストア等で売ることができるようになった。そのためドリンク剤の生産額が増えてきた。

(5)プラスチック
 プラスチック製品は種類、用途が広いが、プラスチックメーカーも二極化しており、電子部品やOA機器・IT関連、携帯電話関連の部品をつくっているメーカー、あるいは住宅設備や産業資材をつくっているメーカーは好調であるが、容器やキャップ、園芸用品、家庭用品をつくっているメーカーはそれほどよくない。ただし、プラスチック全体でみれば好調である。
 特に、携帯電話の枠をつくっているメーカーが好調である。そのメーカーの御三家がタカギセイコーリッチェル三光合成であり、三菱電機やNEC、京セラなどの電機メーカーに納品している。


4.富山県企業の経営戦略

(1)IT革命
 これまでは業種全体(産業分類でいうと中分類)で動向を見ていたが、今後は小分類、あるいは細分類まで見ないと、動向を捉えきれなくなってきている。いずれにしてもIT絡みが非常にいい。
 なぜITがいいか。それは,人類の四大文明の一つであるからだと思う。つまり人間の歴史をひもとくと、今から6,000年前ぐらいにメソポタミアで文字が発明された。それが第1の人間の文明である。2番目は、今から3,300年ほど前、紀元前1,300年に中国で本が誕生した。3番目は、1450年グーテンベルクが活版印刷技術を発明した。
 それから約500年後、1990年になるとIT革命が起こった。したがってIT革命は、人類の四大文明の1つになった。こうした中、経営戦略としてITを活用している企業が増えてきている。県内企業約700社を対象としたIT活用調査によると、8割の企業がパソコンをスタンド・アロン型(ネットワークでなく1台のパソコン単独で処理する)で利用、6割の企業が企業内で電子メールでやり取りしている(ネットワークでパソコンを接続してデータを共有している)、3割の企業で「BtoB」(企業間取引)をしている。
 また最近、県内企業においても品質管理が重要視されており,富山県の従業員50人以上の事業所(約800事業所)のうち150事業所がISO9000(国際標準化機構(ISO)が定める品質システム規格)を取得している。企業にとって、この取得は非常に大事なことである。雪印乳業の失敗は、現場の品質管理を怠ったからであり、データをきちんとしておけば事故は防げたといえる。

(2)代表的な富山県企業の取り組み
 1つめはタカギセイコーである。ホンダのオートバイのボディをつくっているタカギセイコーは、ホンダからインテックへ、インテックからタカギセイコーへと、金型の図案をCADに入るように送ってくる。CADとは製図や設計をコンピュータを利用して行うもので、データの再利用や修正が容易である。そのシステムをつくっているのは、日本へ進出しているアメリカの企業である。企業におけるIT革命は、我々が考えている以上に進んでいるのが実情である。

 2つめにニーズ重視の企業戦略ということで、直流電源切換装置をつくっているコーセルを紹介する。富山県の上場企業の中で一番好調である会社である。ファックスやパソコンの電子回路は直流で動作するようになっており、北陸電力の交流を直流にしないと動かない。直流電源切換装置とは、交流を直流に切り換える装置である。直流電源切換装置だけをつくっている会社が、今、破竹の勢いである。コーセルの技術者や営業マンは、各社の情報を収集して電子メールで管理する。東芝に回っている営業マンもおればNECに回っている営業マンも、その営業情報を一括して管理しているのである。

 3つめにニッチ隙間分野でオンリーワンを目指した光岡自動車である。大企業がやれない分野ということで光岡自動車は、スクーターか自動車かわからないような車を37万円でつくり、日本で10番目の自動車メーカーになった。運輸省とかけ合い、車検不要で時速50キロまで走れる車をつくった。いまは中古車ディーラーだが、そのうち自動車メーカーになっていくかもしれない。そういう元気な企業もあるということで話を終わりたい。