富山県の消費行動とサービス産業
−富山県では形の残る「モノ」にお金をかける−
富山大学経済学部助教授 松井 隆幸

はじめに
 富山県の県民性というと、「勤勉」「堅実」「働き者」「地味」「財布のヒモが固い」といったことが思い浮かびます。このようなイメージが本当だとして、現実の消費行動にはどう反映しているのでしょうか?そして産業の立地には影響があるのでしょうか?ここでは、家計の消費が最も直接的に影響を与えると考えられる、対個人サービスを中心に分析してみます。
 富山県の特徴をみるには、人口規模が同程度で、同じく地方圏に属する他の県と比較するのがよいでしょう。ここで対象に選んだのは、まずお隣の石川県です。ただし同じ北陸地域の中の比較では不十分でしょう。そこで北陸と対照的な県民性を持つ(といわれる)九州地域の中から、人口規模の近い大分県を比較対象に加えてみました。ちなみに3県の人口は以下の通りです(表1)。

表1 対象3県の人口(1999年12月現在)
富山県 石川県 大分県
1,125,620人 1,184,476人 1,226,293人
資料)人口移動調査


1. 収入と貯蓄・消費
 それではまず、消費のもとになる家計収入をみてみましょう。「平成11年家計調査報告」によると、1世帯当たりの平均収入は、なんと富山市が全国1位、金沢市が2位となっています(表2)。

表2 県庁所在都市の1世帯あたり年平均1ヶ月間収入
   富山市 金沢市 大分市
実収入(円) 766,451 709,707 683,336
全国順位 1 2 5
資料)平成11年10家計調査報告

 これは、富山県では1世帯の中での働き手の割合が高いためだと考えられます。その背景として共働き率・女性の就業率が高いことはよく知られていますが、60歳以上の有業率も全国平均よりかなり高くなっており、「主婦もお年寄りもよく働く県」だといえます。石川県も富山県ほどではありませんが、同様の傾向があります(表3)。

表3 15歳以上15人口に占める業者の割合
   富山県 石川県 大分県 全国
有業率(%) 66.3 65.8 60.4 62.8
 うち60歳以上 11.0 10.1 10.2 8.8
資料)平成9年就業構造基本調査

 また、富山県人は、得た収入をすぐに使わずに貯金しておくという印象がありますが、この点はどうでしょう。「平成11年家計調査報告書」の県庁所在都市の貯蓄率によると、金沢市や大分市も貯蓄率が低いわけではないのですが、富山市の貯蓄率は際立っています(表4)。
 このように「すぐには使われないお金」は、どこに向かうのでしょう。教育県のイメージが強いのですが、公立学校の割合が高いため、教育費の比率はむしろ低くなっています。これに対して高いのが、耐久消費財の購入です。

表4 県庁所在都市の平均貯蓄
   富山市 金沢市 大分市
平均貯蓄率(%) 27.2 24.4 22.0
全国順位 3 14 24
資料)平成11年10家計調査報告

2.耐久消費財の普及状況
 ここで「全国消費実態調査」(1999年)の結果をもとに、3県について、主な耐久消費財の世帯当たり普及率を比較してみます。ただし、電子レンジや電気掃除機のように全国的に普及率が100%近くて地域差の小さいものや、気候風土の影響が強いと考えられるもの(例えば太陽熱温水器は九州で高く北陸で低い、ふとん乾燥機は逆)は除いておきます(図1)。


 これをみると、ここで取りあげた北陸の両県は耐久消費財の普及率がきわめて高く、とくに富山県は高いということがわかります。乗用車や応接セットの普及率で全国平均が大分県よりもさらに低いのは、住宅の狭い大都市圏で極端に低いことが影響しています。
 要約すると北陸、とくに富山県では、永く形の残る「モノ」にお金を使う傾向があるということです。付け加えれば、これらの耐久消費財の収納を可能にしている広い住宅自体が、最大の耐久消費財でもあります。


3.個人消費サービスの立地
 さて、永く形の残る「モノ」の普及が大きいということは、すぐ消える消費、つまり個人消費サービスの利用が小さいことが推測できます。「モノ」は輸送できますから、富山県で使う耐久消費財が富山県で作られる必要はありません。ところがサービスは消費する場所で供給されるのが一般的ですから(ネット社会が進行すれば事態は変わっていくでしょうが)、消費の動向が直接的に産業の立地に影響を与えます。
 「富山は娯楽が少ない」とよく言われますが、わかりやすいのが遊園地が少く規模も小さいことです。表5は遊園地・テーマパークの数と年間売上高について3県を比較したものです。数が少ないため近年の統計では売上高が秘匿対象(表のX)になっていますので、93年の値も挙げておきます(表5)。

表5 遊園地テーマパークの事業所数と売上
   事業所数 売上高(百万円)
1997(H9) 1993(H5) 1997(H9) 1993(H5)
富山県 2 3 430
石川県 5 3 4,063 2,837
大分県 5 5 9,126 9,859
資料)特定サービス産業実態調査

 これをみると富山県の遊園地は数が少なく、規模も小さいのがわかります。とくに大分県との違いが顕著です。もっとも大分県の遊園地は観光都市である別府市の周辺に立地しているものが多いので(ただし別府市自身には1つのみ)、ある程度県外観光客の利用もあることが推測できます。しかし立山などを有する富山県が観光資源で極端に劣っているとは考えにくいので、上の結果は両県(あるいは両県を訪れる観光客)の消費行動を反映していると言えるのではないでしょうか。ただし後で述べるように、水族館や動物園はここに含まれていません。

 他のサービス産業ではどうでしょう。ここでは異なる地域の産業集積を比較するために「人口当たり産業集積」という指標を作成してみます。これは以下のようにして算出します。


 例えば小売業と娯楽業では図2のようになります。


 小売業に代表される日常的な個人消費サービスは、全国的にほぼ1.0周辺の値を示します。つまり人口に比例して立地している訳で、これは産業の性質から容易に推測できるでしょう。娯楽産業になると地域差が出てきて、富山県の値が低いのがわかります。3県とも1を割っているのは、周辺から日常的に人が集まる大都市圏でどうしても値が高くなるためで、図の石川県や大分県は地方圏としては低い値ではありません。
 ではもう少し細かい分類でみていきましょう。まず飲食店です。一般食堂は地域差が少ないと考えられるので、日本料理店を含めた「各国料理店」、夜の街の賑わいを表わす「酒場」についてみてみます(図3)。

※ここでいう「各国料理店」とは「一般飲食店」のうちの「日本料理店」、「西洋料理店」、「中華料理店」、「焼肉店」、「東洋料理店」をさす。「酒場」とは、「その他飲食店」から「料亭」を除いた「バー・キャバレー・ナイトクラブ」と「酒場・ビヤホール」をさす。

 これをみると、各国料理では石川県の値の高さが目立ちます。おそらく金沢市の影響が大きいのでしょう。酒場は予想したほどの差はみられませんが、富山県がやや低くなっています。ちなみに、ここに「料亭」を加えると石川県の値がさらに高くなります。

次に娯楽業の主なものをみていきます(図4)。

 「富山といえばパチンコ」のイメージがありますが、図4をみるとそれほどでもなく、むしろ大分県の方がかなり高くなっています。富山県の中で相対的に充実した娯楽ということかもしれません。全国的にみると、人口の割にこの産業が集積しているのは、愛知県を別にすれば東北と九州の両地域です。一方スポーツ施設では石川県の値の高さが目立ちます。ゴルフ場の貢献が大きいのですが、その他の施設も全般的に充実しています。
 さて、前に触れた「遊園地」は中分類では娯楽業に属するのですが、「動物園・植物園・水族館」は中分類では「教育」産業に属します。しかし両者は併設されていたり、両方の機能を持つ施設もあったりするので、分けて考えるのはあまり意味がないでしょう。そこで両者について調べたのが図5です。

 遊園地・公園はやはり大分県の値の高さが目を引きます。ところが動物園・水族館・植物園では、富山県が大分県と並んで際立った充実をみせ、この項目に限っては石川県の値が低くなっています(施設の規模は、遊園地も含めて全体的に大分県が大きい)。ただし従業者の絶対数が少ないため、娯楽産業全体の値を上げるには弱いようです。
 他に主な娯楽産業としては競輪・競馬・競艇がありますが、通常1県1種目で、種目によって現地スタッフの数が違って従業者数を利用した比較になじまないので、分析は別の機会に譲ります。

4.さいごに ― 対事業所サービスにみる富山県の特徴 ―
 さてここまで個人消費サービスを中心にみてきましたが、最後に対事業所サービスに軽く触れてみます。対事業所サービスのうち、情報サービス業(ソフトウェア業、情報処理サービス業、情報提供サービス業など)、専門サービス業(法律事務所、司法書士事務所、公認会計士事務所、税理士事務所、デザイン業など)、製造業と関連の強い道路貨物運送業についてみてみます(図6)。

 ソフトウェア業を主体とする情報サービス業は、一見すると3県とも低いように見えます。ところがこの産業は極端な大都市集中型の立地を示しますので(東京23区では、値は6近くになる)、石川県の値は地方圏では際立ったものといえます。ちなみに平成11年特定サービス産業実態調査によると、1事業所あたり年間売上高、従業者1人あたり年間売上高は、石川県と比べ富山県が大きくなっている。情報サービス業について富山県は大企業型、石川県はベンチャー型といえるでしょう(表6)。

表6 情報サービス業の事業所数、従業者数、年間売上高
   事業所数 従業者数 年間売上高
(百万円)
1事業所あたり
年間売上高 (百万円)
富山県 45 2,360 35,926 798
石川県 82 3,664 51,711 631
大分県 42 1,927 26,884 640
資料)平成12年特定サービス産業実態調査

 専門サービス業、道路貨物運送業は、製造業や建設業、他のサービス産業の企業活動に欠かせないサービス産業です。北陸両県は、どちらも地方圏としては高い値を示しています。これは製造業の集積の高さが背景にあると考えられます。

 富山、石川、大分と、もちろんどれが良くてどれが悪いというものではありませんが、消費行動に地域差があり、それが産業の立地にもある程度反映されていることは、たいへん興味深いのではないでしょうか。また、北陸以外の地域と比較してみることによって、視野が広がってくるのではないでしょうか。