はじめに

 学習障害(Learning Disabilities; 略してLD)ということばをきいたことがありますか? 10年ほど前には、この障害はほとんど知られていませんでした。現在でも、まだ一般的には決して正しく理解されているとはいえず、学校の中で、学習や生活につまずきを抱えている子どもも少なくありません。 今回は、学校での通常の授業では学びにくいLD児について取り上げ、LD児の抱えている学習上の困難さを理解し、子どもにとってわかりやすい支援のあり方について、考えていきましょう。

鉛筆のイラストプロフィール

水内先生の写真

富山大学人間発達科学部講師

岡山大学教育学部卒業、広島大学大学院教育学研究科博士課程前期修了および博士課程後期単位取得退学。
広島大学大学院教育学研究科附属幼年教育研究施設教務補佐員を経て現職。
専門分野は、特別支援教育学、幼児教育学。
主な研究テーマは、幼稚園・保育園における統合保育の方法、LD児の学習支援など。
著書として、『特別支援教育とこれからの養護学校』(ミネルヴァ書房、分担執
筆)、『特別支援教育の理論と方法』(培風館、分担執筆)。
※プロフィールは講座開催当時のものです。


鉛筆のイラスト講座の内容

ピンのイラスト教室で気になる子どもは40人学級に2人

調査結果の図 平成14年度に文部科学省が示した調査結果(※1)によれば、小学校・中学校において、学習面で著しい困難を示す子どもが通常学級のうちに4.5パーセント、行動面で著しい困難を示す子どもが2.9パーセント、トータルで実に6.3パーセントも在籍しているということがわかってきました(図1)。この調査は、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症の学習面や行動面での特徴を項目として示して、それに該当する子どもがいるかを学校の先生にたずねたものです。

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ピンのイラスト学習障害(LD)の子ども

教室のイラスト LDとは、「Learning Disabilities」の頭文字をとったもので、日本語にすれば「学習障害」となります。ここで、文部科学省の示す学習障害の定義を見てみましょう。
『学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。(文部科学省,1999)』(※3)
 ちょっとわかりにくいですね。簡潔に言うと、LDの子どもとは、
・知的な遅れはありません。その多くは通常の学級で学習しています。
・読むこと、書くこと、聞くこと、話すこと、計算すること、物事を順序立てて考えること、のうち、いくつかが苦手です。
・それは、本人の努力不足や、親のしつけが原因ではありません。
・みんなと同じ通常の勉強の仕方では、なかなか理解できません。
 となります。

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ピンのイラスト気になる子どもの支援のポイント

計算の図 ここで、あるLDの子どもに対する具体的な教育的支援の例を示します。
 図2は、計算につまずきのある子どもの計算の様子です。情報を短期間記憶しておくことが苦手で、結果、計算の途中でマイナスの記号が抜け落ちたり、桁がずれて計算していることがあります。問題が少ないスペースにいくつも提示され、途中の式を書いていく十分なスペース、そして回答を記入する欄の具体的な提示もないため、本人の特性とあいまって、計算の手続きに沿って考え正しい答えを導き出すことは、とても難しい状況です。図3は、保護者がこの子どものために作成した計算の手順表です。この手順表を用いてひとつひとつの手順を追っていくとともに、途中の式を書く欄を十分にとり、また回答欄を罫線のあるものにしたことで、計算の間違いは確実に減っていきました。
 図4は、文章を作成することがとても苦手な小学生に、取り組ませた課題です。日記や作文などは、事実の羅列でしかなく、書くことそのものにもとても嫌悪感を抱いていた子どもでしたが、こうした本人の興味に合わせた教材を工夫することで、保護者もびっくりするような文章を書くことができました。 


原稿用紙の図 イラストの図  

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ピンのイラスト気をつけて!こんなことばがけしてませんか?

  普段、子どもに接している保護者の方や学校の先生は、何気ない会話や子どものやる気を高めようとすることばがけで、子どもを追い詰めていることもあるのです。ここでは、支援する上での禁句や禁じ手について考えて見ます

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ピンのイラスト学校が楽しくなるような支援を

先生と生徒のイラスト  学習に困難を持つ子どもは、「学校=単なる勉強の場」であっては、決して楽しいものではありません。こうした子どもが、正しい理解と適切な支援がなされなかったために、学校に不適応を起こし、不登校や非行といった二次的な問題を起こすことも少なくありません。LDの子どもが、学校生活を楽しく送ることができるためには、勉強以外のことでもなんでも聞いてくれる先生との信頼関係、遊んだり話し合える友達、そして部活動や趣味など勉強以外のことで活躍できる場、の3つが保障されることが重要です。

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ピンのイラスト子どもを信じることが大切

  相談や検査は、決して子どもに何か診断名をつけるためにだけに行われるのではなくて、子どもの得意な点とか、不得意な点を明らかにした上で、どのような支援が効果的かを考えるために行われます。  重要なのは、子どもの学習や行動上の問題というのが、決して親のしつけが悪かったとか、本人の努力不足によるものではないということ。そして、どの子どもも正しい理解と適切な支援とがあれば、伸びる子どもなんだと信じてあげることです。

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ピンのイラスト心配な時はご相談を

  もし学び方や行動上の問題ということが、気になる場合には、私のところでは、LDの子どもさんを含めて、教育相談、あるいは、個別指導、それから、小集団の社会的なスキルの指導といったことも行っておりますので、一度ご相談いただければ、いいかと思います。

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鉛筆のイラスト参考資料

ピンのイラストLDの子どもの理解と支援を考える参考文献
(番号は、本講座中の引用・参考元を示しますのでご活用ください。
なお<PDFファイル>の閲覧については、Adobe Acrobat Readerなどのソフトがインストールされている必要があります。)
(1)文部科学省(2003)通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査:調査結果.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301i.htm
(2)文部科学省(2004)小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案).
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/01/04013002.htm
(3)文部科学省(1999)学習障害児に対する指導について(報告).
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/03110701/005.pdf <PDFファイル>
(4)尾崎洋一郎ほか(2000)学習障害(LD)及びその周辺の子どもたち―特性に対する対応を考える―.同成社.
(5)尾崎洋一郎ほか(2001)ADHD及びその周辺の子どもたち―特性に対する対応を考える―.同成社.
(6)竹田契一ほか(1997)LD児の言語・コミュニケーション障害の理解と指導.日本文化科学社

鉛筆のイラストQ&A

ピンのイラスト LDの傾向が見られる児童(小6)への学習面でのアプローチについて

※実際に子どもさんを見ないとなんともいえないのですが、あくまでご質問の文章から受けた印象への対応についてお答えさせていただきます。

【Q1】 引き算がよくできません。しかし、掛け算九九は暗記しているので、掛け算の筆算はできます。イラスト
【A1】 足し算は、具体的操作をして、眼前から消えることがないので、比較的わかりやすいです。しかし、引き算は、その式の意味するところを含めてわかりにくいですね。例えば、“11−2”の場合、よくある指導法は、おはじきなり、タイルなりを11個と2個ならべて、2個分相殺することで理解を深めようとします。しかし、それだとわからない子どももいるようで、こうしたときは、まず引き算の式を以下のように定義づけます。 「“11−2”は、りんごが11個あってそこから2個たべちゃうことだね。」 そして、11個のおはじきを用意し、そこから2個消すのです。 何が前述のものと違うの?と思われるかもしれませんが、相殺する意味がわかりにくいのと、それを空間的な処理により頭の中で「消す」ことが理解しにくいのです。 計算はだめだけど掛け算の九九は暗記できてるよ、という子どももLDの子どもの中には多いです。しかし、実用できるかというと単なる暗記なので使えないことがしばしばです。 しかし、このお子さんは少なくとも、掛け算の筆算で、九九を応用できており、桁数が増えた掛け算にも対応できそうなのはすばらしいことです。あとは、掛け算を実生活の中でどれぐらい活かせるかだと思います。たとえば、3人に4個ずつ飴を配ると、飴はいくつ必要か?といったことに、3×4がきちんと使えるかということです。 6年生ともなると、基礎学習の底上げに力を入れることに限界を感じ始めるころかもしれません。そうしたときに、成人になったときに必要な力は何か、という考え方もぜひ取り入れて、実生活に使える算数の学習も導入されるといいかもしれません。

【Q2】 国語に関しても、読解力が極端に低く、長文問題では、正解がまずありません。 また、「目がない」「鼻が高い」「耳をすます」などという体の一部を使った表現がわからないようです。
イラスト【A1】 こうした、言外の意味を教える慣用句は、理解に難しいことがLDの子どもに よくあります。書かれているような問題形式ではそれを用いる前後の文脈がないのでよけいにわかりにくいと思われます。「目がない」よりも「○さんは、ケーキには目がない」で、さらに 「○○さんは、ケーキが大好きで、ケーキを見ると食べたくてしかたがない」このことを「○○さんは、ケーキには目がない」というんだよ。 というように、まるで英単語を教えるように、解説と使用例をていねいに教える必要があります。 人間は、ことばを使う動物として進化しましたが、その中で実際のことばとその裏側にある意味まで含めてコミュニケーションすることになりました。しかし、裏にある意味や比喩がわかりにくいのがLDを含めた軽度発達障害児です。生活経験の中で、あるいは学校の学習の中で知り、自然に身につくことを、「具体的かつ丁寧に何度も教えなければ身につかない」子どももいるのです。できれば、指導の際に、ロールプレイをしてみるとより定着が進むかもしれません。
イラスト

【Q3】 LD児かどうか判断するには、専門の先生に診てもらう以外ないのでしょうか? 
【A1】 診断は、専門家が行います。現在のシステムでは、学校においてこうした気になる子どもがいると、学校でさまざまな資料(学習の様子やテスト、簡単なチェックリストなど)で子どもの情報を集め、それを元に、県の専門家チームに図られ、そこで複数の専門家が協議し、診断と今後の支援方針を決定します。ですから、保護者の同意も当然必要です。大学では、障害の確定診断はしませんが、気になる子どもの相談も行っています。