特集

第3次産業の都市間立地差
―平成27年度国勢調査・平成28年度経済センサスより―

富山大学 経済学部 教授 松井 隆幸

 

1 第3次産業の立地―工業との違い―


工業は業種ごとに立地の偏りがあります。たとえば国産メガネの90%以上は福井県鯖江市で作られていますし、富山県の医薬品、新潟県の米菓など県ごとに強みを見せるもの、東海地方の自動車など県域を超えた集積をみせる業種もあります。

しかし第3次産業(サービス業)では異なります。メガネ屋さんは特定の県に集中せず、全国に分布しています。工業製品が輸送できるのに対し、サービス(この場合は検眼や販売・補修)は原則的にその場で消費しなければならないからです。自動車の工場が東海地方に集中していても困りませんが、理容業が集中していたら他地域の人は大変です。第3次産業は人の移動に制約されやすく、○○サービス地帯というものは成立しにくいのです(多くは○○街どまりです)。

従って第3次産業の立地を県や地域ブロック単位で分析しても、工業ほど明確な特徴は見られません。ところが都市単位で分析すると、興味深い特徴が浮かび上がります。

結論から言うと第3次産業の立地は、地域の個性よりも、都市の拠点性によるところが大きいのです。そしてそれは業種によって異なります。

2 分析方法


15年前、ほぼ同じテーマでここに執筆しました1が、今回も同じ都市、同じ指標で分析します。都市は首都であり人口900万人を超える東京(23区)、200万〜300万人台の名古屋市・横浜市、かつて九州の100万都市として並び立っていた福岡市と北九州市(現在は北九州市は100万人割れ)、約47万人の金沢市と倉敷市、約27万人の福井市と下関市をとりあげます。2つずつペアにしているのは地域ブロックや県の中心である都市、すなわち拠点性を持つ都市とその他の都市を比較するためです。東京は全国及び関東ブロック、名古屋市は東海または東海・北陸ブロック2、金沢市は北陸ブロック、福井市は福井県の中心です。東京だけは人口が突出しているため適当なペアがいません。

ここで「拠点性」とは国・地域ブロック・県などの中心としての機能、「拠点」とはたとえば企業が本社・支社・支店などを置くときに選ぶ傾向がある場所と考えます。全国企業の本社は東京に集中していますし、九州支社はたいてい福岡市にあります。そして福井(県)支社はほとんど福井市にあります。なぜなら他社の本社・支社・支店もそこにあり、他に立地すればビジネスチャンスや情報の獲得で遅れを取るからです。それに加えて、筆者は後述するBtoB3サービスの存在も大きいと考えます。

そしてここでは第3次産業の立地差を見るのに「人口当たり集積」という指標を用います。全国及び各都市の人口は平成27年度国勢調査、全国及び各都市の従業者は平成28年度経済センサスを用いました。


これは各産業が「人口の割に」どれだけ立地しているかを示すもので、全国平均並だと値は1.0になります。

3 人口当たり集積―9都市、8業種の比較―


まず小売業と、日常消費サービスである理容・美容・洗濯・浴場業です。

注)日本標準産業分類、中分類56〜61 。

どちらも各都市が1.0周辺の値を示しています。産業の性質上当然ですが、これらの産業は人口に対応して立地しています。横浜市や倉敷市のように近くにより大きな都市がある場合は値が小さくなることがあります。

次に飲食店です。


全体的にゆるやかな右肩下がりになっています。つまり人口以上に立地差があり、最初の2つよりも広域的な消費の中心であること示しています。そしてペアになった都市の間では、拠点性の大きな都市の値が大きいのがわかります。飲食店はBtoC4サービスですが、ビジネス客の影響が大きいのかもしれません。

次にBtoBサービスである銀行、卸売業、人材・建物・警備その他(具体的業種は図−6の注参照)について見てみます。

注)かつて「その他の事業サービス」として分類されていた、中分類91「職業紹介・労働者派遣業」と中分類92「その他の事業サービス業」(主に警備業、建物サービス業)の合計。

3業種とも飲食店よりも大きな右肩下がりになっています。そして拠点性の大きな都市とその他の都市との間に明確な差がみられます。BtoBサービスにとって、企業の本社・支社等へのアクセスが重要であることをうかがわせます。逆にBtoBサービスが都市のインフラとして企業の本社・支社等を引きつけている面もあると思われます。

最後にこれもBtoBサービスである「専門サービス業」と「情報サービス業」です。

注)法律・会計・税務・デザイン・経営コンサルタント等。

拠点性のある都市とその他の都市との間にさらに大きな差があります。そして両産業とも極端なまでの東京集中が見られます。情報サービス業で横浜市の値が大きいのは、拠点性ではなく東京を補完しているためだと思われます。それは東京と横浜市の間に帯状に横たわる川崎市の値の高さからうかがえます。

前稿と本稿を比較すると、15年の間にブロードバンドの爆発的な普及とBtoB・BtoC双方におけるネット利用の拡大、スマホやクラウドビジネスの台頭など第3次産業を取り巻く状況が劇的に変化したにも関わらず、その立地は基本的に変化していません。とくに上記の変化即ち空間を超えた経済活動の主役である情報サービス業がさらに拠点集中を強めていることは逆説的です。今日でもface to face情報は極めて重要なのです。

ところで、2000年以降最も成長しているサービス業は、情報サービス業ではなく老人福祉・介護事業です(表−1)。

表−1 第3次産業の平成28年従業者数指数(平成14年=100)
小売業 95
洗濯・理容・美容・浴場 94
飲食店 87
銀行 120
卸売 100
人材・建物・警備・その他 160
情報サービス 125
老人福祉・介護事業 369
注)専門サービス業は含まれる業種の大幅な変更のため比較困難。

それでは同業種の人口当たりサービス集積を見てみます。


ほぼ1.0周辺という点は小売業等と同じですが、若年人口の多い東京や福岡市の値が小さくなっています。この業種の動きは基本的に各地域の人口動態に対応していると思われますが、「最成長産業」だけに他の産業や都市の人口等への影響が強まるかもしれません。


1. 「第3次産業立地の都市別立地格差」『とやま経済月報』2004年11月。以下「前稿」と略。なお前稿で用いた「格差」という用語は「是正すべき」というニュアンスを含む。筆者は今ではここでみた特徴を平均的にならしてしまっては都市の魅力や競争力を損なうと考えているので、「格差」という用語は用いない。

2.東京・大阪市・名古屋市に続く地域ブロック中心都市である札幌・仙台・広島・福岡各市は「地方中枢都市」とも言われる。金沢市と高松市は、北陸・四国が地域ブロックとして小さいこと、しばしば東海・北陸や中四国ブロックの一部として位置づけられることから「準地方中枢都市」と呼ばれ、本稿の分析でも地方中枢都市と県庁所在地の中間的な存在であることを示している。

3.business to business の略。企業が企業に向けて商品やサービスを提供する取引。法人向け営業。

4.business to consumer の略。企業が個人に対して商品やサービスを提供する取引。個人向け営業。




とやま経済月報
令和元年11月号