特集

富山県の景気動向について1

日本銀行富山事務所長 工藤 治

 

1 はじめに


日本銀行富山事務所では、2018年7月公表の「富山県金融経済クォータリー(2018年夏)」2において、「富山県の景気は、拡大している」との判断を継続しました。

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富山事務所では、「富山県金融経済クォータリー(2018年冬)」(2018年2月公表)において、景気判断をそれまでの「緩やかに拡大している」から、「拡大している」に一段引上げました。

国内外経済の緩やかな拡大に伴い、県内企業では生産・売上げが増加し、人手不足感が高まる中、設備投資にも積極的に取り組んでいます。また、雇用および所得環境の改善を映じ、家計部門では消費の持ち直しの動きがみられており、所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いています。

以下では、主要項目毎に具体的な動向を確認していきます。

2 主要項目の動き


(1)個人消費

富山県の個人消費は、着実に持ち直しています。県内の小売関係の主要6業態について、最近の売上高前年比をみると、月々の振れはあるものの、前年を2〜3%上回る状態で推移しているなど、持ち直しの動きが確認できます。

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主要6業態は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター。

図表1をみると、2017年夏以降、ドラッグストアの伸びが目立っており、個人消費全体を牽引する形となっています。ドラッグストアの積極的な店舗の新設、医薬品以外の日常品や食料品販売への注力が売上高を伸ばしていると考えます。

この間、百貨店・スーパーの売上高は、概ね前年並みとなっていますが、食料品が中食3需要の高まりもあって堅調に推移しているほか、高額品にも動きがみられる等、着実に持ち直しています。

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家電販売についても、白物家電、テレビを中心に持ち直している状態ですが、本年入り後、大型店での改修等により前年を下回る伸びとなっています。

なお、2018年5月が前年を下回っているのは、上記家電販売の影響に加え、天候不順による百貨店・スーパーの売り上げの不芳によるもので、地合いとしては底堅い状態に変化はないとみており、早い梅雨明け、高温が更に消費の動きを堅実なものにすると考えています。

(図表1)小売6業態の売上高前年比推移
図表
(出所)経済産業省 商業動態統計

この間、県内新車登録台数の推移をみると、2017年前半は前年を2割程度上回る高い伸びを示していましたが、秋以降は概ね前年並みで推移しています。乗用車における新型車投入効果が乏しくなっているほか、自動車業界を巡る不祥事件が影響しているものと考えます。もっとも、軽自動車の高付加価値化(サポートシステムの搭載等)の進展に伴う人気の高まりがみられていることから、当面は、横ばい圏内で推移するとみています。

(図表2)新車登録台数の前年比推移
図表
(出所)国土交通省 北陸信越運輸局


(2)設備投資

「短観4」における県内企業の設備投資動向をみると、2014年度以降積極的な設備投資スタンスが続いています。国内外の旺盛な需要の下、工場増設や新規出店等の能力増強投資がみられているほか、人手不足に伴う省人化投資もみられ、2017年度は製造業を中心に高い伸び(全産業、前年度比+28.0%)となりました。また、2018年度は前年を1割程下回る(同▲9.6%)計画となっていますが、引き続き高水準の投資計画が続いています。

(図表3)富山県の設備投資額の前年度比推移
図表
(出所)日本銀行金沢支店

(図表4)富山県の設備投資額の推移(全産業、2003年度=100)
図表
(出所)日本銀行金沢支店


(3)生産

最近の鉱工業生産の動きをみると、国内外経済の緩やかな拡大に伴う需要の増加を映じ、振れを伴いつつも着実に増加しています。2017年度後半からは幾分伸び悩みの動きとなりましたが、今年度入り後は、再度生産水準の引き上げがみられています。

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昨年度後半の生産水準の伸び悩みについては、工場新設等による県外への生産移管等の動きがみられたほか、人員不足や部品供給制約等により生産水準の引き上げが難しい状況にあったことが要因と考えられます。
(図表5)富山県の鉱工業生産指数の推移(季節調整済、2010年=100)
図表
(出所)経済産業省

業種別にみると、とくに伸びが顕著なのは、「医薬品」、「はん用・生産用・業務用機械」です。これは、ジェネリック医薬品の普及に向けた生産の拡大、内外の工場自動化の流れを映じた産業用ロボットやスマートフォンの機能改善およびIoTを受けた半導体製造装置の需要増加といった潮流を映じたものと考えられます。

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とくに医薬品の生産水準の高さは際立っており、本県の医薬品産業のプレゼンスの大きさが表れています。
(図表6)富山県のはん用・生産用・業務用機械、医薬品の生産指数の推移
図表
(出所)経済産業省

3 その他経済指標の動向


(1)労働需給

上述の主要項目のほか、住宅投資、公共投資についても横ばい圏内で推移しているほか、企業の生産動向も活発化しており、県内景気は拡大局面にありますが、それに伴い、人手不足も進展しています。

図表7は県内の有効求人倍率(受理地ベース)の推移を示したものですが、2009年のリーマンショック以降、全国を上回る水準で上昇しており、その水準は全国でも常に上位にあります。労働需給は引き締まった状態にあり、企業の人手不足感は高まっています。

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富山県の有効求人倍率の高さは、今回の景気回復局面だけの事象ではありません。富山県が「ものづくり県」であり、国内外の需要に応じた生産を行っていることから、概ね、全国に先駆け有効求人倍率は上昇し、その水準も全国を上回っています。
(図表7)有効求人倍率(季節調整値)の推移
図表
(出所)厚生労働省

(2)企業の業況感

景気の拡大は、各企業経営者の方々の業況感、企業マインドにも表れています。図表8は、「短観」の「業況判断DI5」の推移ですが、富山県内の「業況判断DI(全産業)」は、2013年以降概ねプラス圏内で推移しており、最新の2018年6月調査では+19と、県別DIを公表した2005年6月調査以降で最も高い水準です。

(図表8)業況判断DIの推移
図表
(出所)日本銀行金沢支店

1 本稿で示された意見等は筆者のものであり、日本銀行の公式見解ではありません。

2 富山事務所では、四半期毎に県内の景気動向について判断し、「富山県金融経済クォータリー」として公表。「富山県金融経済クォータリー」については、日本銀行富山事務所のホームページ(http://www3.boj.or.jp/toyama/index.html)をご参照下さい。

3 家庭外で調理された食品を購入して持ち帰るあるいは配達等によって家庭内で食べる食事の形態。単身世帯の増加や女性の雇用者の増加等を反映して、需要が増加しています。

4 「短観」は、「全国企業短期経済観測調査」の略。四半期毎に全国の企業に対して行っている業況感や事業計画に関する調査。現在、全国では約10,000社、北陸3県では350社が調査対象先。

5 DI(Diffusion Index)とは、三択式を採っている短観の判断項目について、「第1選択肢の回答社数構成比(%)」−「第3選択肢の回答者数構成比(%)」で得られる数値。「業況判断DI」は、「良い(第1選択肢)という回答の構成比」から「悪い(第3選択肢)という回答の構成比」を引いた数値。単位は「%ポイント」ですが、本文中では単位を省略。

とやま経済月報
平成30年8月号