特集

大学コンソーシアム富山の誕生と地域とのつながり

大学コンソーシアム富山 地域貢献部会長 秦 正徳

大学コンソーシアム富山の概要


大学コンソーシアム富山は、県内に所在する、富山大学、富山県立大学、高岡法科大学、富山国際大学、富山短期大学、富山福祉短期大学、富山高等専門学校から成り、平成25年4月1日に設置されました。大学コンソーシアム富山は、これらの高等教育機関の相互の協力により、研究教育等の連携を推進し、地域社会との繋がりや相互の結びつきを深め、教育研究のさらなる向上に寄与するとともに、それぞれの機関の知的資源を有効に活用して地域社会に貢献することを目的としています。この目的を遂行するために、母体となる富山県大学連携協議会の事業を引き継ぎ拡張した教育連携部会と新たに設置された地域貢献部会の二つの部会で構成されています。誕生と同時に地域とのつながりをさらに進めようと地域貢献部会を新設したのです。

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写真1 運営協議会

大学コンソーシアム富山の事業と予算を決定する運営協議会の様子です。県内の7高等教育機関の長が参集する情報交換の場でもあります。

教育連携部会では、学生・教育支援、キャリア教育、教職員の資質向上支援などの事業を実施しています。地域貢献部会では、教育研究の成果を生かした地域課題への取り組み、産学官金連携の推進などの事業を実施しています。

各部会が行っている事業の概要をご紹介します。詳しくはHPに掲載していますので、それをご参照ください。サイトは、http://www.consortium-toyama.jp/business.htmlです。

教育連携部会の事業


・FD&SD研修会

教員の授業や教育方法などの改善・向上や大学等の職員の業務改善、サービス向上のための研修会を行います。

・大学等リーダー研修会

各高等教育機関において学生会やサークル等のリーダーとして活躍する学生を対象に、課題解決手法を習得するための研修を行い、リーダーとしての資質向上を図ります。

・合同企業訪問

県内の様々な業種の企業等を合同で訪問することにより、将来のキャリア形成を支援します。

・単位互換

各高等教育機関が開講する特色ある科目を履修し単位を取得することができます。前期あるいは後期の227にも及ぶ科目を学生に開放しています。また、これらの科目とともに単位互換科目として、大学コンソーシアム富山が開講している次の3つの科目があります。

 「とやま地域学」

富山の歴史・文化、富山湾、立山連峰に代表される自然環境、そしてものづくりをはじめとする産業など、データや現地研修を通して「とやま」を知ること、そして21世紀の富山や世界の姿を展望します。

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写真2 大学コンソーシアム富山の単位互換科目

単位互換科目「とやま地域学」のひとコマです。石井知事にも講義をしていただいています。富山県の良さや文化、歴史などを伝えています。

 「災害救援ボランティア論」

阪神・淡路大震災や東日本大震災などの教訓を踏まえ、富山県の災害と防災対策、富山大学の研究者による独自の研究内容などに加えて、地域防災においてリーダーシップを発揮できる人材となるための学習機会を提供します。

 「家族と職場をめぐる法律問題」:富山県寄付講義

日常生活や職場の仕事に役立てるために、家族や職場をめぐる法律問題の重要な事柄を理解できるようになることを目標とします。

・高大連携

高等学校関係者と大学関係者の間で教育に関して様々な協議を行い、交流する機会の拡大を図るとともに、学生の学力・意欲の向上などについて意見交換を行い、高等学校教育と大学教育の教育接続について相互理解を深め、連携を図ります。

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写真3 高大連携

教育連携部会の新たな試みの一つである高大連携事業の様子です。英語教育について高等学校の教員の方々と大学の教員との交流を深めました。

地域貢献部会の事業


・地域課題解決事業

各高等教育機関がその教育研究成果を生かし、自治体等が抱える地域課題の解決策の提案を行い、自治体等とゼミなどが協働して課題の解決に取り組みます。

・産学官金ネットワーク会議

富山県内の経済5団体、富山県、高等教育機関、銀行、信用金庫が一つのテーブルに集い富山県で活躍する人材育成にかかわる事業の検討や情報交換を行う場を主催します。

・公開講座

各高等教育機関の特色を生かし、教育研究を通して得た専門分野の成果のなかにモノやヒトの視点から富山の魅力を探り、次世代に継ぐ富山の未来・人づくりについて考えてみる講座を提供します。

・学生による地域フィールドワーク研究助成

平成27年4月からの新事業です。各高等教育機関に在籍する学生が、富山県内の地域がもつ課題について解決方策の提言や課題解決のための、地域と一体となって行う実践的なフィールドワーク研究に対し助成します。

地域とのつながりを進める「産学官金ネットワーク会議」の立ち上げ


富山県大学連携協議会大学コンソーシアム設立準備部会では地域貢献部会の事業として、地域課題解決事業、産学官金ネットワーク会議、公開講座の3つの事業が挙げられていました。このうち、地域課題解決事業については、設置前の平成24年度に実施した自治体への課題アンケートの結果を踏まえた具体的な方針が示されていました。また、一般の方を対象とする公開講座については先行事例がありますのでイメージできます。しかしながら、産学官金ネットワーク会議については、その構成や事業内容について詳しく触れられていませんでした。そこで、地域とのつながりに直接かかわる、新たな地域貢献部会に設置されたこの会議にフォーカスを当てて、立ち上げの経過と抱負について記したいと思います。

まずは、どのような会議にするかについて情報を集めることから始めました。富山大学地域連携推進機構の地域づくり・文化支援部門の協力を得て、他府県の大学コンソーシアムの状況とこの種の会議がどのようなことを進めているかを調査しました。この調査により、他の大学コンソーシアムには産学官金連携にかかる会議は設置されていないこと、現在展開されている産学官金連携は産業振興にかかわる新技術や新製品の開発を主眼としたいわゆる理科系の連携が主であることが分かりました。

大学コンソーシアム富山では、産学官金ネットワーク会議を文化系の連携機能を主としたフットワークの軽い会議にしたいと考えました。文化系の内容といっても捉えどころがありませんので、取り組むべきテーマを絞り込まなければなりません。また、フットワークの軽い会議は、会議に出席していただける方のイメージへとつながり、それぞれの組織の全体を知り実際に動いておられる方にお願いできればと考えたのです。

文化系の連携機能として何をするかです。先に述べましたように大学コンソーシアム富山は富山県内の高等教育機関で構成されています。これらの機関の使命は言うまでもなく教育と研究です。同時に大学コンソーシアム富山は、教育と研究の向上に連携して寄与するために設置されました。この使命をよりどころとして、産学官金ネットワーク会議のすべきことの一つとして人材育成を取り挙げるのがよいと結論付けたのです。地域の活性はそこにいる人々の活動により維持されていますから、地域貢献は人づくりと捉えたわけです。

会議の幹となる産官金は、経済界、自治体、銀行だとすぐに連想できます。〔学〕は大学コンソーシアム富山の高等教育機関となります。具体的には、富山県内経済5団体、富山県、3地銀を候補として挙げることができます。自治体においては富山県内の15市町村が挙げられますがフットワークの軽さに鑑み富山県に代表していただくことになりました。ただ、この会議が地域振興と学術の両方にかかわりますので、商工労働部と知事政策局(当初は経営管理部)とにお願いすることにしました。また、〔金〕には富山県内の信用金庫は欠かせませんが、地域に密着した信用金庫は県内に多数あると知りましたので、代表する一つにお願いすることとしました。産学官金ネットワーク会議は、経済5団体(富山県商工会議所連合会、富山県商工会連合会、富山経済同友会、富山県中小企業団体中央会、富山県経営者協会)、富山県2部局、7高等教育機関、3銀行(北陸銀行、富山第一銀行、富山銀行)と1信用金庫(富山信用金庫)に参画していただく構想へと落ち着きました。

ところで、大学コンソーシアム富山の教育連携部会では主として学生を対象とした事業を進めておりますので、地域貢献部会では、社会人をまずはターゲットにしてはどうだろうと考えました。このような考えから、産学官金ネットワーク会議は、人材育成、人材活用さらに自己啓発を支援することから始めることになりました。

人材育成の取り組みであるコラボ塾では、講師が投げかけた課題について、この会議のメンバーがグループに分かれて討論しあいながら疑問や問題点を整理したうえで、講師の回答や解説を公開の場で共有します。平成26年11月に開催した第1回コラボ塾に臨み、社会人と学生の意見交換の場とすることも意図して、グループ討論に学生も参加できるようにしました。

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写真4 コラボ塾

産学官金ネットワーク会議が開催するコラボ塾の意見交換に入る前の様子です。会議の委員が知人を勧誘して集まった方たちです。学生もいます。初対面でこれから始まる雰囲気が感じられます。2時間ほどで考えをまとめて、発表する段階では随分と打ち解けた様子でした。

人材活用支援として、富山大学が運営する人材バンク(SMART)を活用して、各高等教育機関相互の研究者交流を進め、人的資源活用を推進します。また、自己啓発支援として、各高等教育機関が開催するセミナーなどの実施時期一覧、および各高等教育機関の企業等からの相談窓口、を大学コンソーシアム富山のホームページに掲載しています。サイトは、http://www.consortium-toyama.jp/local.htmlです。

産学官金ネットワーク会議のこれらの構想は、平成25年末までに開催した担当者会議、地域貢献部会での議論を経て、平成26年2月の運営協議会で決定しました。平成26年6月には、文字通りの第1回産学官金ネットワーク会議が開催されました。大学コンソーシアム富山の地域とのつながりを進める機能を担う太いパイプとなるよう大切に成長させたいと考えています。将来の大学コンソーシアム富山の発展の礎となるようにさえ感じております。

地域貢献部会の新たな事業と課題


学生による地域フィールドワーク研究助成は、平成27年4月に始まったばかりです。大学コンソーシアム富山に参画する県内の7つの高等教育機関と富山県が出資して始めた、研究助成すなわち競争資金です。地域課題解決事業は、県内自治体からゼミへ課題を投げかける仕組みですが、こちらは、学生すなわちゼミなどから地域へ出向いていく研究に助成するものです。次の世代を担う学生と県内地域との連携を推進し、地域の活性化を高めるとともに、学生にはコミュニケーション力や課題解決力を身につけてもらうことを企図しています。富山県の魅力を肌で感じてもらって卒業後もこの地で活躍してくれることをも願っています。採択数を10件として募集しましたところ、35件もの応募があり、よい滑り出しだと感謝しているところです。学生はもとより教員の地域へのかかわりへの関心の高さが窺えます。平成28年2月には、成果発表会を計画していますので、ぜひ聴講していただければと思います。

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写真5 ゼミ生による現地調査

地域貢献部会の地域課題解決事業で、学生が魚津市のバス路線の利便性について聞き取り調査をしているひとコマです。路線を検討するうえで、生の声を反映することができたと調査結果は好評でした。学生が地元の方と直接触れ合う機会にもなり、まちが活性したと喜ばれ、思わぬ効果の発見でした。

地域貢献部会は設置されて3年目を迎え事業をさらに良いものとするために検討を進めているところです。地域課題解決事業では、自治体へアンケートと聞き取りをしました。この結果を参照してより多くの自治体から課題を頂戴できるように、予算編成の時期に連動した課題募集期間の設定、これに並行してタイムリーにゼミと橋渡しをする随時受け付け、各高等教育機関からのシーズの提示など連携し易いマッチングシステムを進めております。また、公開講座においては、たくさんの公開講座が提供されている中で、大学コンソーシアム富山が開催している公開講座と一目でわかり親しめる講座名称にしたいと考えています。大学コンソーシアム富山が県民のより多くの方々に浸透するよう努めてまいります。

同時に、各高等教育機関のメリットについてもさらに高めていこうと模索しております。大学コンソーシアム富山の事業に類似した取り組みは各高等教育機関でも独自で進めていることもありますので、それぞれの高等教育機関の力を結集して取り組むべきことを提案し、大学コンソーシアム富山が各高等教育機関はもとより皆様のお役にたてればと考えているところです。

今後とも応援をよろしくお願い申し上げます。

とやま経済月報
平成27年11月号