特集

「くすりの富山」のさらなる飛躍に向けて
〜世界に羽ばたく「薬都とやま」の実現へ〜

富山県厚生部くすり政策課

 

富山県の医薬品産業は、300年以上の歴史と伝統を有し、富山県発展の礎を築いた地場産業です。これまでに培われた高い製造・品質管理技術などを背景に、富山県は国内有数の医薬品の生産拠点となっています。富山県では、医薬品産業のさらなる飛躍のため、世界に羽ばたく「薬都とやま」の実現に向けた様々な施策に取り組んでいます。

1 国内有数の医薬品生産拠点


富山県の医薬品生産額は、平成17年4月の薬事法改正の施行に伴い、医薬品製造の完全アウトソーシングが可能となったこと等により、平成18年に前年の全国第8位から第4位に躍進した後も好調に推移し、平成25年には6,089億円(過去最高額)と、埼玉県、静岡県に次いで全国第3位を維持しています。また、人口1人当たりの生産金額は56.6万円と、全国平均の5.4万円を大きく上回り、引き続き全国第1位となっています。また、県内製薬企業による積極的な設備投資も行われており、平成26年以降も900億円を超える設備投資が行われる予定となっています。

富山県の医薬品生産金額の推移

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出典:薬事工業生産動態統計(厚生労働省)
都道府県別医薬品生産金額(平成25年)

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出典:平成25年薬事工業生産動態統計(厚生労働省)

2 薬都とやまの強み


「くすりの富山」の歴史と伝統は、今から300年以上前の江戸時代の配置薬業に始まります。質の高い薬、「先用後利」という独特の販売形態、売薬さんの薬に関する豊富な知識を通じて、人々に安心して薬を使っていただく厚い信頼関係を育み、「くすりの富山」は全国に知られたブランドとなりました。

現在では、新薬をはじめ、ジェネリック医薬品、一般用(OTC)医薬品、家庭配置薬など、多種・多様な医薬品を製造する企業とともに、薬の包装容器、印刷などの周辺産業が県内に集積しており、厳しい製造・品質管理のもとで質の高い医薬品を一貫して生産する拠点として、富山県は高い評価を得ています。

特に、貼り薬や塗り薬、目薬、吸入剤など、通常の飲み薬などとは異なる特殊な薬を、高い技術で製造する企業が存在するなどの強みがあり、富山県で生産された医薬品は、国内のみならず、海外にも販売されています。

また、薬学教育機関及び行政機関が充実していることも本県の特長であり、明治期に配置薬業者からの出資により設立された共立富山薬学校を母体とする富山大学薬学部には、日本唯一の伝統医薬学の研究所である和漢医薬学総合研究所が設置されています。富山県立大学には、バイオ工学の専門家を輩出する工学部が設置されているほか、県立高校2校に薬業関係学科が設置されています。行政機関では、富山県厚生部くすり政策課内に富山県の医薬品産業の振興を主務とする振興開発班が設置されるとともに、医薬品の開発研究や技術指導を行う全国唯一の公設研究所である富山県薬事研究所が設置されています。

写真

3 「くすりの富山」のさらなる飛躍に向けて(富山県医薬品産業活性化懇話会報告書)


「くすりの富山」のさらなる飛躍を目指し、富山県では、平成21年度と平成25年度に、産学官の有識者から構成される「富山県医薬品産業活性化懇話会」を設置し、富山県及び本県薬業界がとるべき施策展開等の方向性について議論を重ねてきました。懇話会での議論は、平成22年3月及び平成26年3月に報告書として取りまとめられています。

2つの報告書では、今後予想される課題は、1医薬品製造・製剤開発に関する企業間競争、2工場・研究所誘致に関する地域間競争、3国内医薬品市場の飽和とシェア競争の3点であるとされ、これに対する今後目指すべき方向としては、1高い製剤開発力及び関連産業が一体となった開発・生産体制を有する拠点、2確かな製造技術に基づく高い医薬品生産能力を有する拠点、3世界に通用するスペシャリティファーマの集積する拠点といった「くすりの生産拠点」に向けた取組みであるとされ、国内医薬品生産金額の日本一を目指し、さらには世界に羽ばたく「薬都とやま」の実現に取り組んでいくこととされています。

また、具体的な戦略的取組みとして、1製剤技術力等の強化と関連産業等との連携、2情報発信と企業立地しやすい環境づくり、3国際化の推進、4人材の確保・育成が挙げられています。

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表

現在、富山県及び本県薬業界では、これら報告書の内容に基づき産学官で連携した各種取組みを進めています。

(1)製造技術力等の強化と関連産業等との連携

県内製薬企業の製造管理・品質管理技術の向上や製剤開発を含めた医薬品研究開発をさらに推進していくとともに、医薬品関連産業との連携を強化し、医薬品産業と関連産業が一体となった医薬品の開発・生産体制の構築に向けた取組みを進めることとしています。


【主な取組み(施策)】
1 製剤開発・創薬研究支援ラボの整備

富山県では、平成26年度において、富山県薬事研究所に「製剤開発・創薬研究支援ラボ」を整備しました。(製剤開発や試験に関する研究を支援する機器として味覚試験装置、レーザー回析式粒子分布測定装置及びヘッドスペース分析装置などを、創薬研究を支援する機器として、インビボイメージング装置及び共焦点レーザー顕微鏡を整備。)

富山県薬事研究所

これらの設備の活用により、県内製薬企業が有する高い製剤技術力を活かした特殊製剤等の開発を推進するとともに、県内大学の学生の研修等にも活用することで、人材の育成等を図ることとしています。


2 製剤開発探索研究支援事業

富山県では、平成24年度から、県内製薬企業による新規性・独自性のある技術を活用した画期的な新製剤の開発研究やバイオ医薬品の開発研究等を対象に補助を行っており、県内製薬企業における高付加価値の新製剤の開発研究の促進を図っています。


3 富山オリジナルブランド医薬品の開発

富山県は、平成16年度から県内薬業界と共同で、富山大学和漢医薬学総合研究所に「和漢薬製剤開発分野」を設置し、歴史ある和漢薬の技術を現代に活かした新しい和漢薬製剤の研究開発を産学官で進めています。これまでに、産学官共同による富山オリジナルブランド医薬品「パナワン」及び「エッセン」(越撰)が開発されています。


4 富山県薬用作物実用化研究会
富山県薬用植物指導センター
(シャクヤク園)

富山県では、現在でも多くの配置薬に和漢薬原料が使用されており、薬用作物を用いた医薬品等を開発、製造する企業が集積しています。また、公設で全国唯一の富山県薬事研究所や富山大学和漢医薬学総合研究所等において、薬用作物の幅広い研究が行われています。富山県では、平成26年度に、生産者、医薬品メーカー及び研究者等からなる「富山県薬用作物実用化研究会」を設置し、本県の強みを活かした薬用作物の振興や関連商品の開発、医療への活用等について調査研究に取り組んでいます。

(2)情報発信と企業立地しやすい環境づくり

高い製剤開発力、製造技術力、生産能力等を有する、製薬企業と関連産業が集積している本県の特性などの情報発信を国内外に積極的に行うこととしています。また、企業に対しての立地支援、薬事に関する相談・指導体制の充実など、企業立地しやすい環境づくりを行うこととしています。


【主な取組み(施策)】
1 県内製薬企業等出展支援事業

富山県には、特徴的な高い技術力を有する製薬企業が複数存在しています。富山県では、このような企業による製造受託等を促進するため、首都圏で開催される大規模な見本市において、県内製薬企業が合同で展示ブースを設置するための支援を行っています。ブースでは、自然災害の少なさや、北陸新幹線を含む陸海空の交通の利便性、医薬品関連産業の高度な集積によるビジネス上の利便性などをアピールしています。


2 受託製造推進等事業

県内製薬企業による製造受託等を促進するため、県外の製薬企業関係者等を招聘した講習会を開催するとともに、講習会を通じた招聘企業と県内企業関係者との交流により、県外製薬企業関係者が富山県内の製薬企業をより深く知ってもらうよう支援を行っています。


3 「富山のくすり」販路拡大事業

団体商標「富山のくすり」のシンボルマークや、イメージキャラクター「くすりん」を活用したPR活動を推進し、富山県の薬業のイメージアップとブランド力の強化を行うための支援を行っています。



「富山のくすり」シンボルマーク

イメージキャラクター「くすりん」

(3)国際化の推進

国内の医薬品生産金額は緩やかに拡大していますが、国内人口の減少傾向や国の医療費抑制策等を踏まえ、県内医薬品産業が研究開発力を強化するとともに、海外に展開して新興国市場の成長を取り込むことが重要です。このため、富山県では、平成21年10月に“世界の薬都”スイス・バーゼル地域(※)と医薬品等に関する交流協定等を締結し、バーゼル地域との交流を進めるとともに、今後の世界市場の動向を踏まえ、交流地域の拡大を図ることとしています。

また、海外の薬事制度や商慣習等の情報収集や海外企業等との技術提携を支援するなど、県内企業の国際展開を推進することとしています。

(※) スイス北西部、ドイツとフランスの国境に接するバーゼル地域は、バーゼル・シュタット州の州都バーゼル市に、世界的な製薬企業のロシュ社やノバルティス社が本社を置くなど、医薬品、化学、バイオ関連企業、研究所が多数集積し、「世界の薬都」と呼ばれるにふさわしい地域となっています。


スイス・バーゼル州政府と交流(平成21年10月)

【主な取組み(施策)】
1 富山・バーゼル医薬品研究開発シンポジウム開催事業

平成21年10月に締結された交流協定に基づき、両地域の医薬品分野における交流を一層促進するため、平成22年度より隔年で、富山とバーゼル地域で交互に合同シンポジウムを開催しています。平成26年8月には、富山県において、第3回シンポジウムを開催し、両地域の研究者が最新の研究成果等について発表し、交流を深めました。


2 県内薬業界による海外交流の支援

富山県の製薬企業の国際展開を促進するため、県内薬業団体による国際交流アドバイザーの設置に対して支援するとともに、富山県の薬業界が海外に派遣する交流訪問団に県職員が同行し、富山県の優れた医薬品産業をアピールするなどの支援を行っています。これまでに、イタリア、ベトナム、タイ、インド、インドネシア、ロシアへの交流訪問団に県職員が同行しています。


(4)人材の確保・育成

将来の医薬品産業等を担う薬剤師などの技術者を確保するため、中高生を対象とした薬剤師の仕事体験や大学生を対象とした企業セミナーの開催、インターンシップ事業など、県内医薬品産業のPRを幅広く行うとともに、医薬品の製造・開発技術に対応した技術研修、国際展開を支えるグローバル社会に対応した人材等を確保・育成するための取り組みを進めることとしています。


【主な取組み(施策)】
1 薬剤業務体験学習事業

中高生を対象に、病院、薬局、富山県薬事研究所において、「薬剤師お仕事体験」を実施し、医薬品に関する正しい知識の習得と医薬品の専門家としての薬剤師の仕事への興味と理解を深める取組みを行っています。


2 薬剤師等人材確保事業

県内製薬企業における薬剤師等の人材の確保を図るため、就職活動を行っている学生を対象とした製薬企業セミナーの開催や全国薬科大学生向けのPRパンフレットの作成・配布に対する支援を行っています。

4 世界に羽ばたく「薬都とやま」の実現へ


富山県では、今後とも、本県の強みを活かした“国際競争力を有する「くすりの生産拠点」の確立”を目指し、県内の産学官の関係者が連携して、製剤技術力や新薬の研究開発力の強化、また、本県医薬品産業の礎となった配置薬業の振興など、様々な課題に対する戦略的な取組みを着実に進めていきたいと考えています。

とやま経済月報
平成27年3月号