特集

地域親交
〜かみいちもんの元気雇用創出プロジェクト〜

上市町 産業課 商工観光班

 

上市町では、昨年度に上市町雇用創造協議会を設立し、町や経済団体等の創意工夫により地域経済の活性化と雇用機会の創出を図るため、富山労働局の委託を受け、県内では初めて平成24年12月より「実践型地域雇用創造事業」を実施している。

本事業は地域の実情に応じた雇用創造の取り組みをより効果的に推進するために、地域内の企業や求職者向けの人材育成セミナー等を開催するとともに、求職者の就職促進や創業に結びつく商品開発等の実践的な取り組みを複合して行う事業である。

元気な地域は、地域に暮らす人、働く人が親しく交わることで互いに呼応し、それが大きなうねりとなり様々な物事が起き上がる。地域振興には人々の親交が必要不可欠との思いから事業名を「地域親交」とした。

1 趣旨・目的


(1)町の現状
上市町は西部に富山平野が開け、東南部には標高2,999mに達する剱岳を主峰として、奥大日岳・早乙女岳等の山岳地帯を形成する自然と水に恵まれた町である。また、県都富山市と新川地区の間に位置していることから、古くから交通の要所として「市」が開かれ、栄えてきた。しかしながら、近年はモータリゼーションの到来とそれに伴う郊外への大型店の進出により、中心市街地は衰退の一途をたどっている。
平成22年の上市町の人口は21,965人で、年少人口比率(0〜14歳)は12.2%、高齢化率(65歳以上)は28.3% となっている。人口は、平成17年国勢調査時点の23,039人から一貫して微減傾向が続き、少子高齢化も進んでいる。現在の男女別に各年齢における過去4年間の傾向が今後もそのまま続くと仮定すると、平成32年10月の人口は19,617人に、また、年少人口比率は9.0%に、高齢化率は34.8% になるものと推計される。
なお、今後のまちづくり施策を考える上での重要な年齢層として、23〜32歳の層をみたところ、平成21年10月時点で2,036人と、4年間で約23.5% の大幅減となっており、今後、平成28年までさらに約17.4%減少するものと推計され、今から少子高齢化社会に向けた対策を取っていく必要がある。
中心的な産業は農林業、製造業、建設業、卸・小売業である。
農業においては、農家数が平成2年には1,682戸あったものが平成22年には1,007戸と約40%の減少、農家人口は平成2年の7,749人から平成22年の3,065人と約60%の大幅な減少をしており、後継者や担い手の育成が課題となっている。
商工業では販売額及び県内・全国シェアは共に長期的に減少傾向となっており、事業所数、従業員数も年々減少している。
表1 上市町の事業所数、従業員数の推移
  平成13年 平成16年 平成18年 平成21年
事業所数 1,155 994 1,017 1,014
従業者数 9,179 8,016 8,688 8,678
出典:事業所・企業統計調査(平成21年は経済センサス)
表2 上市町の業種別商店数、従業者数及び商店販売額
(単位:人、万円)
年次 商店数 従業者数
(飲食店を除く。)
年間販売額
(飲食店を除く。)
総数 卸売業 小売業
平成6 361 27 334 1,401 2,698,921
9 340 26 314 1,332 2,737,171
11 449 30 419 1,777 2,303,942
14 367 23 344 1,561 2,236,553
16 347 21 326 1,440 1,989,006
19 279 20 259 1,204 1,869,276
出典:商業統計調査
(2)事業の趣旨・目的
「第7次上市町総合計画」(平成23年度〜平成32年度)策定のために実施された町民意向アンケート調査(平成21年12月実施。上市町在住の町民(18歳以上の1,000人)に配布し、有効回答数427人。中高生用調査は有効回答数246人)の結果によると、上市町の「今と未来」において、下記の通り中高生は「元気がある」という回答が多いが、18歳以上の町民は今の上市には元気がないという回答が大半を占めている。
この回答は、中心市街地(商店街)の低迷を受けた率直な意見と考えられ、上市町は商業振興を主軸とした町の活性化になお一層取り組んでいく必要がある。
図1 上市町は元気があるか

※表をクリックすると大きく表示されます

上市町は元気があるかグラフ

出典:第7次上市町総合計画

「第7次上市町総合計画」では「『確かな地域力』で創る 存在感あふれる上市」を町の将来像と定めている。全体として地域の産業が疲弊してきている中で、本事業を活用することにより、事業所の体力づくりへの支援、多様なビジネス展開の促進、勤労者の就労環境の向上、特産品開発の促進、潜在的な観光資源の発掘と既存観光資源の強化による商品開発、滞在型観光・交流機会の充実、そしてUIJターン等による商業・農林業の後継者問題及び人材不足の解消など、町の産業基盤の強化を図るものである。

町では平成23年に町長が観光元年キックオフ宣言を行い、観光に力を入れ始めた所であるが、振興にあたっては「ないものねだり」ではなく、町の宝を活かすことに主眼を置いている。

上市町は町のシンボルである剱岳の麓に雄大に広がる森林を有し、そこに多くの動植物が生息している。この風土が町民の日々の生活を豊かで実りあるものにしている。

このことから、地域に住む人々が地域の宝である自然環境や自然と密接にかかわる伝統・文化などの資源を探し出し、また見つめ直し磨き上げることにより、それらを観光に活かしていく取り組みを行っているところである。

この取り組みの一環として、平成24年度から環境省の地域コーディネーター活用事業交付金(現 生物多様性保全推進交付金(エコツーリズム地域活性化事業))の採択を受け、専門家のアドバイスを仰ぎながら、エコツーリズム推進法に掲げる目的に沿って、自然環境の保全、地域における創意工夫を生かした観光の振興及び環境の保全に関する意識の啓発等に取り組んでいるところである。

また、上市町出身のアニメーション映画監督、細田守氏の最新作「おおかみこどもの雨と雪」(上市町HPにバナー掲載中)には上市町をモデルに、美しい里山の情景とそこに暮らす人々が描かれており、まさに現在進めているエコツーリズムに合致した内容であることから、観光振興に際して大きな宣伝効果が期待できると考えている。いずれにせよ、長期的な効果を継続するためには、何度も観光客が足を運びたくなるような仕掛けや仕組み作りが必要不可欠である。

しかしながら、観光分野のみを活性化しようとしても部分・個別的な活性でしかないため、町全体の経済効果には繋がらない。観光分野を起爆剤に、商工業、農林業といった他の分野との連携による経済効果と雇用効果が必要である。他分野との連携で大きな雇用を生み出し、町全体の最適化を図っていくことが重要となる。

2 重点分野


(1)重点分野の設定
本プロジェクトの推進にあたり、観光、商工業、農林業を重点分野として設定した。各分野において、地域社会及び地域経済への関わりを深めるとともに、地域のネットワークを形成し、地域を地域全体で経営する。このことにより、地域に暮らす人々が誇りと幸せを感じる「健康な地域」を生みだし、地域産業の振興、観光客の誘客及びUIJターン希望者の誘致へと繋がるものと考える。
以下、分野ごとの動向と今後の施策の方向性を示す。
(2)重点分野に係る産業の動向と今後の見通し
【観光分野】
当地には、かつて富山の奥座敷として賑わいをみせ、今も各地から涼を求め、夏の風物詩「大岩そうめん」を食しに多くの人が訪れる景勝地「大岩」や名水百選に選定され、万病に効く名水として全国的に名高い「穴の谷霊水」など県内有数の観光地が存在している。しかしながら、近年は観光客数の減少が著しく、これに加え旅館の老朽化などにより宿泊施設も減少し、夏場などの一定の時期にはまだまだ需要はあるものの、観光客の動向は通過型となっており、また、町内大手の温泉旅館・ホテルに宿泊したとしても、行き先は県内の別の観光地であるなど、観光客離れとともに町内での観光客の消費落ち込みが顕著となっている。
観光客により長く町内に宿泊・滞在してもらうために、これまでの観光地だけではなく、町にある観光資源を掘り起こし、魅力あるものへとブラッシュアップしていく必要がある。また、昨今の観光客の動向は団体旅行から個人旅行へ、物見遊山型から体験型へと変化してきていることから、これに対応していくために観光の在り方そのものを見直すとともに、他とは差別化された本町ならではの観光を創出していくことが肝要である。
具体的な施策として、地域にある素材をプログラムとしてまとめ、滞在・体験型観光商品を開発する。加えて、エコツーリズムの推進と連動し、プロガイドの育成と組織化を支援する。
【商工業分野】
工業では、繊維、医薬品関連企業に加え、製造業を中心として高度な技術力を有する企業が多数立地している。近年は、景気の低迷や燃料費の高騰などの厳しい経営環境が続いている。
建設業は、公共事業や住宅需要の減少により、事業規模の縮小傾向が続いている。
商業・サービス業では、近隣市町へ大型店が進出し、価格、品揃え、サービスに関する競争の激化や購買力の流出が進んでいる。町全体の年間商品販売額が10年間で3分の2に縮小するなど、多くの事業所が厳しい経営状況におかれている。
工業は、地場産業の活性化につながる企業誘致を推進するとともに、既存の企業が高度な技術やノウハウを活かしつつ、付加価値の向上や販路開拓、新分野の研究・開発などの精力的な取り組みが求められる。
建設業は、県や関係団体と連携しつつ、本業の安定に努めるとともに、異業種への進出も視野に入れた企業力の強化が必要である。
商業・サービス業は、中心市街地の商店街に賑わいを取り戻すため、広域から顧客を獲得することができる優れたビジネスモデルを開拓していくことが求められる。少子高齢化がさらに進み、域内マーケットが縮小していくと考えられることから、観光振興により交流人口の増加を図り、農業、工業と連携した特産品の開発や観光客向けの料理メニュー、お土産品づくりなど、新たな事業展開、積極的な起業を進める。
【農林業分野】
農業は、経営耕地面積の約6割強、産出額の8割以上を稲作が占め、他に大麦や大豆、里芋、白ねぎ、なす、りんご、生乳、肉牛、鶏卵その他幅広い営農体系による農業生産が行われている。兼業農家率は9割以上と高く、農業への就業依存度が極めて低くなっている。
町では、生産の近代化をめざして、農道や用・排水路の整備等を進めてきた。近年は、機械の共同利用等による農作業の省力化や収益向上を図るため、集落営農組織の育成と複合経営による経営の安定化を図るとともに、認定農業者や営農組織等を中心に農地の集積を誘導し、担い手の経営規模の拡大と農地の保全に努めてきた。しかし、年々農家数、農家人口は減少しており、農業の高齢化、担い手の問題は懸案事項である。都市農村交流や地域ぐるみの農村環境改善等の取組を促進し、地域での理解を深め、体験農業、特産物の開発、販路拡大等を通じた新たなビジネスの展開、6次産業化が必要である。
良質な農産物の安定生産の推進や生産者と消費者との連携、地域における意欲的な担い手への農地の集約を図るとともに、集落営農組織の強化、新規就農者の受入れ体制づくり等に努め、農業に興味のある方に就業機会を提供していく。
林業については、森林資源は豊富にあるものの、木材価格の低迷等により林業生産活動が低下し、手入れの行き届かない森林が増加している。しかし、森林は木材の生産機能のみならず、水資源のかん養、生物の多様性の保全といった公益的機能を有しており、適正な管理・経営を促進することが求められる。森林の整備の過程で発生する間伐材の有効利用や、観光分野でエコツーリズムを推進していくにあたって、里山保全や林業体験や指導を通じて林業振興に努めていく必要がある。

3 おわりに


以上の重点分野の動向と施策の方向性を踏まえ、本プロジェクトでは企業や事業主向けの啓発的なセミナーを開催するほか、各分野における人材育成を行うために、日本エコツーリズム協会によるガイド研修、デザインやマーケティングを学ぶ研修、加工特産品開発研修、そして女性のためのプチ起業塾など、多彩なメニューを展開しているところである。

また、実践メニューとしては豊かな自然資源から生まれる特産品や農林業産品を活用した上市ならではの商品を開発する「市のまち復興・魅力創出事業」、地域にある素材を体験型旅行商品としてまとめ、その商品を扱うプロガイド組織の構築・ガイドの生計安定を支援する「ガイド+αの仕組みづくり事業」を行っている。

これら事業と並行して商品の販路確保、求職者の就職支援、創業支援を行うとともに、企業間の連携を目指すことにより、内外の交流促進と地域産業の育成と雇用の拡大を図り、平成26年度までの事業期間において140名の雇用創出を図ることを目標とし、関係者が精一杯日々の業務を行っているところであり、今後の動きと成果に注目していただきたい。

とやま経済月報
平成25年8月号