特集

地球の裏側の経済事情
〜南米初のワールドカップ、オリンピックを控えているブラジルより〜

ブラジル第3アリアンサ日本語学校教諭 大木伸宏(富山県派遣)

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野生の「トゥカーノ」(ブラジルの国鳥)。
年に数回見ることができます。
 私は、現在ブラジルに、日本語教師として派遣されています。私の勤務している第3アリアンサ富山村は、州都サンパウロ市から西(内陸側)へ約600km、サンパウロ州の西側端に位置しています。500kmほど進めば大湿地帯「パンタナール」を有するマット・グロッソ州です。第3アリアンサは、昭和2年(1927年)に富山県出身者がリーダーとして入植、開拓をした地域であり、今も多くの日系人が住んでいます。リオ・デ・ジャネイロやサンパウロとは、少し事情が違うところもありますが身近な生活事情を紹介したいと思います。

○学校について

 ブラジルにも、公立・私立の学校があります。アリアンサにある公立学校は、学費は無料です。学校には4才から通います(と言っても4才・5才は幼稚園ですが)。小学校は10才まで(5年間)、その後中学校、高校と進みます。中学は4年、高校は3年間。5・4・3システムの12年です。小・高の授業は7:00〜12:20まで。中学校の4年間は月〜木曜は7:00〜大体15:00(曜日によって多少違いがある)、金曜は12:20までの時間でプログラムが組まれます。特に中学校の1年目は、体力的に、慣れるのに苦労するようです。

3年生の時間割(小学校)
  月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
7:15〜8:00 算数 読書・文法・社会 算数 算数 算数
8:00〜8:45 算数 図工 算数 算数 算数
8:45〜9:30 情報 体育 国語(ポ語) 体育 国語(ポ語)
9:30〜9:55 休   憩
9:55〜10:40 読書・文法・社会 算数 英語 読書・文法・社会 読書・文法・社会
10:40〜11:25 読書・文法・社会 算数 読書・文法・社会 読書・文法・社会 読書・文法・社会
11:25〜12:10 読書・文法・社会 読書・文法・社会 読書・文法・社会 読書・文法・社会 図工

  第3アリアンサの小学校にはグラウンドは無く、体育は校庭で球技を中心にしています。肥満の子どもが多いと感じたのですが、運動量が少ないからかもしれません。

 また、第1アリアンサにある小・中・高校では、通路にネットを張りバレーボールをしていました。当然と言えば当然ですが、フットサルのコートはあるので、サッカーやバスケットボールはできます。大会が近いときは、選手だけ選抜してサッカーの練習をするそうです。


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第3アリアンサ文化体育協会会館
(アウモッソ(昼食会)開始前)

 私の勤務する第3アリアンサ日本語学校は第3アリアンサの文化体育協会会館(村の公民館)にあるのですが、会館には村の集会にも使う広場があり、そこではフットサルやバレーボールができます。こう見ると、第3アリアンサの環境はとても恵まれていると言えます。野球場もありますし!


 第3アリアンサから35km離れたミランドポリス市の私立学校の月謝はR$500.00(約2万1千円)だそうです。兄弟で通うと1人あたりR$300.00になるとのことです。この私立学校は、とにかく競争・競争で勉強に力を入れているそうです。午前か午後の半日のみのプログラムのようです。体育は夕方からしかクラスが無く、第3アリアンサの生徒はバスが無いため、体育の授業は受けることができないそうです。


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左が私立、右が公立の制服。
Tシャツなんですよ!

 こちらでは、音楽がありません。日本語学校では、歌の練習や自画像を描いたこともありますが、なかなか音程が取れない事に驚きました。また、自画像では鏡を持ってきているのに、全く違う絵になっていた(ストレートヘアなのに、パーマをかけているように描いていた)、ということもありました。地域によっては、小学校では図工が無く、中学校で男子は技術、女子は家庭科を学習するところもあるようです。日本では知育・徳育・体育という言葉がありますが、日本の教育システムはなかなか優れているように感じます。

○物価について

 こちらに来て、非常に高いなと思った物にはスニーカーがあります。私は、陸上競技をしていたせいか、ついつい靴に目が行ってしまいます。とあるショッピングセンターに行き、ランニングシューズを見たときには、目を疑ってしまいました。アシックス、ミズノ、ナイキ、アディダス、全部日本での価格より高いのです。

  例を挙げると、日本の定価では15,000円程度のものが、ブラジルではR$599.99となっています。1月16日現在のレート(1R$=42.79円)では25,000円程度ということです。かなり高い価格差ですね。それでも、人気モデルを欲しい人はローンを組んで靴を買うそうです。


※参考

現在
1ブラジルレアル(R$1.00)≒43円
1年前
1ブラジルレアル(R$1.00)≒50円

 また、知人宅に行くのに、ウイスキーを持っていこうと思ってスーパーの棚を覗いたところ、日本にもある海外メーカーのウイスキーがR$106(約4,500円)。日本より高い値段でしょうか。ブラジル産のウイスキーを見るとR$9.60〜25.70(約400〜1,000円)です。

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高級酒は鍵のかかった棚の中に入っています。

 それに対してブラジルの地酒ピンガ(蒸留酒)はR$4.46(約200円)。ビール600ml(瓶)はデポジット制で、最初にデポジットの瓶代を払ってしまえば次からはどの銘柄でも購入できます。人気銘柄のものでR$1.98(約80円)。別の人気がある日本で多く飲まれているものに近い味のビールで、少し高くてR$2.57〜2.66(約110円)となっています。350mlの缶ではR$1.47やR$1.61(約60円)です。第3アリアンサにあるバール(小さい酒場)では、2010年から2011年9月頃まではそのビールはR$2.50、その後R$2.80になり、現在はR$3.00です。値上がりしたと感じますが、大瓶(600ml)で考えると日本に比べ、相当安いです。ビール好きの人には堪らないでしょうね。いずれにしても安い物と、高い物の値段がはっきりしているように感じます。


 また、不思議なことに、コーラなどの清涼飲料水はほとんど同じ値段設定になっています。日本と違うところは、1本で買っても、半ダースや1ケースで買っても、1本あたりの値段は変わらないというところです。

 ちなみに、ブラジルには、色々なサイズのペットボトルがあります。小さいものから600ml、1リターナブル、1.5リターナブル(リターナブル)、1.5リターナブル、2リターナブル、2.5リターナブル、3リターナブル。リターナブルボトルは、瓶と同じように再利用します。しかし大勢が集まるブラジルの文化では、少し小さいような気がします。今後、色々なサイズが出ると、利用する人が増えるかもしれません。

 参考までにコーラ600ml=R$2.17、1リターナブル=R$2.47、2リターナブル=R$3.83、2.5リターナブル=R$4.27です。ガラナ600ml=R$2.26、1.5リターナブル=R$1.99、2リターナブル=R$3.25、2.5リターナブル=R$3.38です。不思議なことは日本で同じ値段の清涼飲料水も、ここでは銘柄によって値段が違うところです。また、同じ銘柄の炭酸飲料水でも糖質有りが2.5リターナブル=R$3.37、糖質無しが2.5リターナブル=R$3.17です。糖質の有り無しで値段が違うのも面白いですね。これは、砂糖の価格が影響しているのかもしれません。2011年は霜や雨の影響で砂糖の収穫量が少なかったため、清涼飲料水の価格に反映しているのかもしれません。

 また、私の周囲の人は、朝食を食べずに11時に昼食をとります。3時か4時頃にはおやつを食べるそうです。最近は、糖尿病に気を付けてゼロ系(糖質無し)を飲む人が多いように感じます。私も、そのうちの一人です。


 ブラジルは2014年にワールドカップ(ブラジルではコパ・ド・ムンド)、2016年にはオリンピックを控えています。この、2大イベントを誘致することで、建築技術が向上したと言われています。しかし、マンションの価格が3倍に跳ね上がったために、売値が高くなりすぎて売れ行きが伸び悩んでいるそうです。

 また、財政難でスタジアムの建設が遅れていると言われていますが、うわさ話として、ぎりぎりまで建設をしないことで必要コストをごまかし、その分を親方がポケットに入れてしまうのではないかと言われています。それが本当であれば今まで社会・経済が成り立っているのが不思議です。以前、ホンダの方と話をしたのですがブラジルのポテンシャルは、ものすごく高いそうです。世界有数の資源大国であると同時に、世界第5位の人口からなる巨大な消費マーケットに育っています。最初に北米では無く南米にコロンブスが上陸していたら、ブラジルは間違いなく世界一の国になっていた!なんて冗談を言う人までいます。

○最低給料について

 私がブラジルに来たときの1ヶ月の最低給料はR$510でした。2011年にはR$545となり、2012年4月からはR$600の予想です。これについては、労働者側にとってはありがたいのでしょうが、雇用者側にとっては、輸送費、箱代等全て値上がりしているため、労働者・雇用者どちらにも「働く」ことに対する意識の変化が、今後一層大切になってくるように感じます。

○新幹線について

 いつだったか、将来ブラジルに新幹線(高速鉄道)が通るという話を聞いたことがあります。しかし、こちらではあまり知られていないようです。また、少し情報を知っている人が言うには、昔からずっと言っているがなかなか、とのことでした。こちらでも、ミランドポリス市の入り口に、バイオディーゼルの工場(日系)建設予定の看板がありますが、看板が掲げられてから2年位経っていますが、なんの音沙汰も無いようです。

 新幹線もそうですが、お触れがでてから、現実になるまでは、気の遠くなるくらいの期間が必要と聞いています。それでも何かトラブルが起きるかと言ったら、起きないそうです。ブラジルのお国柄と言ったところでしょうか。


 ブラジルでは、航空産業が充実していますが(サンパウロ〜リオ・デ・ジャネイロ間は1日25〜50便もあります)、長距離バスも充実しています。バス会社が、自社専用のドライブインを持っていて、休憩にそこを使うので、飲食費やちょっとしたおみやげなどの収入も、バス会社に入る仕組みになっているようです。なので、ちょっと高めの価格設定になっています。現実的には、新幹線の参入は厳しいのでしょうか?実際、グアルーリョス国際空港は霧が出るため、サンパウロ中心部から、100kmのカンピーナス空港まで新幹線ができると、そちらの方が便利になることは間違いないようなのですが・・・。


 また、路線バスも充実しています。ただ、バスが多すぎて、渡伯直後サンパウロ州警察に在留手続きに行った帰りは、バスの渋滞が起きる、おまけにどのバスに乗って良いかわからないという状況でした。この時は、ブラジル在住の松本しのぶさん(元県費留学生)と一緒に行ったのですが、現地の人でもわからないくらい本数が多く複雑な事が印象に残っています。バスを使いこなせると、いろんな所に行けるのでしょうが、私には無理でしょうね。

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専用ドライブインでの様子。多いときは10台以上並びます。
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こちらは、出動していないバス。休日などは増便するので、そのための分でしょうか?全部ヘウニーダス社1社のバスです。

○あと、面白いと思ったことについて

 ひとつは、ブラジルには『中国製』が多いことです。

 ブラジルは資源も豊富なのですが、町中の商品は意外にも『中国製』が多いのです。

 実際に、私が目覚まし時計を買いに行ったときのことです。単三電池4本を使う時計を買ったのですが、なぜか3本しか入れなくても動いています。目覚ましの音は3本だと弱かったような気がします。

 また、スーパーでマグカップを買おうと思って裏を見たら『中国製』でした。アリアンサの人に聞くと、とにかく安いから入ってくるんだ、とのことでした。


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ゴム園

 もうひとつは、「ゴム」について。ブラジルは、アマゾン地方の『ゴムの木』のイメージが強いかもしれません。実際にアリアンサ地方でも、ゴムの木を植えている人が多いです。しかも、単位が千本単位なのがすごいところです。3千本くらいで、一家を普通に養うことができるというレベルなので、日本では全く想像がつかないでしょう。ブラジルにいても想像がつきませんので。

 そのゴム製品ですが、アリアンサの人が、先日パラグアイまで行ってこられました。何をしに行ったのか聞いたところ、「タイヤを買ってきたよ」とのことでした。ブラジル国内で買うより、パラグアイで買った方が安いとのことです。

 また、ガソリンも、R$2.63〜2.90くらいもします。自国の油田があるのに、これは驚きです。こちらでは、オートバイが多いのですが、ガソリンの価格が高いことが理由だそうです。おまけに、ガソリンには20%のアルコールが混ぜてあり、そのため車のマフラーは数年に1回、交換しているそうです。実際そのせいかはわかりませんが、私も赴任して3ヶ月くらいでマフラーが落ちました。現在は、念願の新しい車が来ましたが、驚いたことに、前の車はなんと「R$6000.00」で下取りをしてくれました。日本だったら、廃車代が必要と言われると思うのですが、ブラジルには、廃車という概念自体無いようです。

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こんなのでも日本円にして約30万円で下取りをしてくれます。確か94年製です。

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映画やドラマのコピー商品
 最後に、実は、ブラジルにもコピー商品があふれています。コピー商品と言えば、中国というイメージが強いかもしれませんが、リベルダージの東洋人街に行くと映画だけでは無く、紅白歌合戦のDVDもR$5.00前後で入手することができます。安いので、ついつい購入してしまうのでしょうね。

とやま経済月報
平成24年2月号