特集

消費者物価指数の平成22年基準改定の概要について

統計調査課 生計農林係

1 はじめに

消費者物価指数は、総務省が、全国の世帯が購入する財及びサービス(注1)の価格変動を総合的に測定し、物価変動を時系列的に把握することを目的として、昭和21年8月に作成を開始して以来、毎月作成・公表しています。

この指数は、特定の年(西暦年の末尾が0又は5の年)を基準年にしており、最近では、平成23年8月に平成22年(2010年)を基準年とする改定が行われました。この機会に、消費者物価指数の概要や基準改定の影響についてご紹介します。

(注1)財及びサービス
 財とは、衣服、食料、家電製品などの目に見える有形の商品(購入可能な品物)のことであり、サービスとは、在宅介護料、ヘアーカット代などの目に見えない無形の商品のことである。

2 消費者物価指数について

(1)消費者物価指数とは
消費者物価指数は、ある時点(基準年)の世帯の消費支出の内容を定めてこれに要する費用を100とし、同じものを購入するための費用を基準年に対する比率で表わしたものです。
例えば、ある年に、私たちが実際に買った商品を調べて、これらをすべて大きな買物かごに入れます。米8kg、トマト970g、ビール(350ml)8缶、電気代400kWh、革靴1足、ビタミン剤1箱、バス代4回、新聞代、家賃等買うのに全部で30万円かかったとします。次に、同じものを翌年に買ったとしましょう。買物かごの中身は同じ(対象品目とそのウエイト(注2)が固定されている。)ですが、この買物をするための費用は前年と同じではありません。仮に31万円だったとすると、物価が上がったことによって、前年に比べて1万円多くかかったことになります。基準時である年の30万円を100とすると、翌年の31万円は、比例計算で103.3となります。これがある1年を基準とした翌年の消費者物価指数です。
(注2)ウエイト
 家計の消費支出全体に占める、ある品目への支出金額の割合のことである。具体的には、ある1年間に世帯で購入した個々の財やサービスごとにいくら支出したかを調べ、消費支出金額全体に対してどのくらいの割合を占めているかを計算し、個々の品目のウエイトとしている。

(2)消費者物価指数の作成
消費者物価指数の作成には、まず、対象とする品目を決めなければなりません。この品目は、世帯が購入する財やサービスのうち家計消費支出割合の大きいものから順に選びます。次に、選ばれた品目は、価格や消費量が異なり、それぞれの品目に支出される金額も異なるので、家計消費支出割合に基づいて、指数の計算に用いる各品目のウエイトを作成します。この家計消費支出割合には、家計調査(注3)の結果を用います。消費者物価指数は毎月継続的に計算されるので、一旦対象となる品目とそのウエイトが定められると、一定期間固定されることになります。
毎月の消費者物価指数の算定には、各品目の価格を、主に毎月の小売物価統計調査(注4により調査し、調査市町村別の平均価格を用いて個々の品目の指数を計算し、これらをウエイトにより加重平均して算出します。
(注3)家計調査
 世帯に毎日の家計の収入や支出を家計簿に付けていただき、その結果を取りまとめ、国民生活の実態を家計の面から明らかにするため、総務省統計局が実施している調査

(注4)小売物価統計調査
 店舗・事業所及び世帯の方々を対象に、消費生活において重要な商品の小売価格やサービスの料金を把握するため、総務省統計局が実施している調査

(3)消費者物価指数の利用
物価は、経済活動が活発となり需給がひっ迫してくると上昇率が高まり、経済活動が停滞し需給が緩むと上昇率が低下する傾向があります。このため、消費者物価指数は「経済の体温計」とも呼ばれており、経済政策を的確に推進する上で極めて重要な指標となっています。また、家計調査やGDP統計において、名目の家計消費支出を実質化する場合、国民年金や厚生年金において、実質的な給付水準に見直す場合などに、物価の動きを示す指標として消費者物価指数が使われています。さらに、日本銀行が金融政策における判断材料として使用しているほか、賃金、家賃や公共料金改定の際の参考に使われるなど、官民を問わず幅広く利用されています。

3 消費者物価指数基準改定について

(1)基準改定の趣旨
人々が購入する財やサービスは、新しい商品の出現、嗜好の変化などによって時代と共に変化していくものです。ある特定の年を基準とした消費支出の内容(消費者物価指数の基礎となる品目とウエイト)を長い期間固定すると、これが次第に人々の消費の実態と合わなくなります。このため、一定の周期で、指数算出の基礎となる品目とそのウエイトを見直す「基準改定」が必要となってきます。
今回は、平成23年8月に、指数基準時を平成17年から平成22年に改定しました。
(平成17年=100→平成22年=100)

(2)主な改定内容
1 品目の改定
消費者物価指数の対象となる品目は、家計調査の結果を用い、世帯が購入する財やサービスのうち家計消費支出割合の大きいものから順に選びました。今回、追加・廃止された主な品目は表1のとおりで、この結果、平成22年基準指数に用いる品目数は、588品目(沖縄県のみで調査する5品目を含む。)となりました。また、追加・廃止の理由として考えられるものを例示すると、次のとおりとなります。
  • 紙おむつ(大人用)の追加⇒ 高齢化の進展
  • メモリーカードの追加⇒ デジタルカメラや携帯電話の普及
  • 音楽ダウンロード料の追加⇒ 音楽デジタル配信の普及
  • 速達の廃止⇒ 電子メールの普及
  • フィルムの廃止⇒ デジタルカメラの普及
表1 平成22年基準において改定した主な指数品目
表1図
2 ウエイトの改定
平成22年基準の消費者物価指数の計算に用いるウエイトは、家計調査の結果を用い、家計消費支出割合(平成22年の品目別消費支出金額)に基づいて作成しました。ただし、生鮮食品は、品目ごとに月々の購入数量の変化が大きいため、平成22年の品目別消費支出金額のほか、月別購入数量(平成21年及び平成22年の平均)に基づいて、月別に品目別ウエイトを作成してあります。
平成22年基準及び平成17年基準のウエイト(全国及び富山市)は表2のとおりとなりました。平成22年基準のウエイトの改定における特徴と、考えられる理由は、次のとおりです。
  • 自動車等関係費のウエイトの増加
    エコカー補助金(平成21年4月~平成22年9月)及びエコカー減税(平成21年4月~)により、自動車購入が増加
  • 通信のウエイトの増加
    携帯電話の普及が一段と進み、携帯電話通信料が上昇
  • 教養娯楽用耐久財のウエイトの増加
    アナログ放送から地上デジタル放送への移行(平成23年7月まで)や家電エコポイント制度(平成21年5月~平成23年3月)により、テレビ購入が増加
  • たばこのウエイトの減少
    たばこの値上げや健康意識の高まりにより、たばこ購入が減少
表2 平成22年基準及び平成17年基準のウエイト
(全国及び富山市,1万分比)

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表2図

消費者物価指数は「総合」「食料」などの大分類、「穀類」「家賃」などの中分類、さらに「パン」「めん類」などの小分類、「あんパン」「ゆでうどん」などの品目へと細分化されます。特に、「食料」「住居」「光熱・水道」「家具・家事用品」「被服及び履物」「保健医療」「交通・通信」「教育」「教養娯楽」「諸雑費」は10大費目と言われています。
3 指数の時系列比較
5年ごとに基準改定が行われると、平成17年基準による指数と、平成22年基準による指数の間には、連続性がないことになります。
しかし、消費者物価指数は、もともと時間の経過による物価の動きをみるものですから、基準年に関わらず、過去にさかのぼって比べる必要があります。そこで、指数の時系列比較が可能となるように、平成17年基準による過去の指数を平成22年基準に合わせて換算した、接続指数を公表しています。
また逆に、基準時が平成17年となっている他の指数との比較が可能となるように、平成17年基準指数は平成23年12月まで作成・公表し、その後、平成27年基準指数公表前までは、平成22年基準による指数を平成17年基準に合わせて換算した、換算指数も公表しています。(図1)
なお、平成17年基準よりも前の基準で算出されている指数についても、比例計算により、平成22年基準による指数と、相互の連続を確保できることになっています。
図1 接続指数と換算指数
図1図

4 消費者物価指数(富山市)への基準改定の影響について

(1)基準改定による影響
基準改定によって、消費者物価指数が、どのような影響を受けるかについて、実例を見てみましょう。富山市の平成22年と平成23年のそれぞれ1月から7月までの消費者物価指数(気候等により価格変動が大きいため、「生鮮食品を除く総合」を用いる。)を表3にまとめてみました。平成17年基準による指数は左表のとおりでした。これに対して、平成22年基準による指数は右表のとおりとなります。基準年が異なると、指数はもちろん、それぞれの月の前年同月比も異なってきました。特に、3月から7月では、平成17年基準では、前年同月比は上昇していますが、逆に平成22年基準では下落しています。
表3 富山市消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)
表3図
(2)基準年により指数が異なる原因
表3をもう少し細かく見てみましょう。7月を例にとりますと、平成17年基準では、平成22年の指数は97.7、平成23年は99.2で、前年同月比は1.5%、平成22年基準では、平成22年の指数は99.9、平成23年は99.6で前年同月比は-0.3%となっています。ここで、なぜ前年同月比が1.8ポイント(1.5%→-0.3%)も減少したのか考えてみたいと思います。2つの基準による、10大費目別前年同月比は、表4のとおりです。
表4 平成17年及び平成22年基準による10大費目別前年同月比
(平成23年7月)

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表4図
ご注目いただきたいのは「教養娯楽」です。前年同月比は、平成17年基準では0.7%、平成22年基準では-6.9%と、7.6ポイントの減少となっています。「教養娯楽」の中には、テレビが含まれています。テレビについては、皆さんが実感しておられるとおり、価格が大きく下落しています。一方で、デジタル放送への移行(平成23年7月まで)や家電エコポイント制度(平成21年5月~23年3月)の影響により、多くの世帯で購入が増えました。これによって、平成22年基準における、消費全体に対するテレビのウエイトが大きくなったと思われます。このような事情が重なり、平成22年基準では、テレビを含む「教養娯楽」の前年同月比が大きく下落し、「生鮮食品を除く総合」の前年同月比の下落も大きくなりました。

(3)基準改定のメリット
平成23年3月から7月までの消費者物価指数については、平成17年基準で見ると、前年同月比で上昇していたように見えましたが、平成22年の消費生活の実態を基礎にした基準では、実は下落していました。
このように、5年ごとの基準改定は、物価動向を見守るうえで、大変重要だということが、ご理解いただけたでしょうか。

5 おわりに

消費者物価指数の公表については、総務省では原則、毎月26日を含む週の金曜日に公表しています。公表内容は、東京都区部の当月中旬速報値と全国の前月分です。また、12月分及び3月分公表時には、年平均指数及び年度平均指数をそれぞれ公表しています。県の公表スケジュールも同様です。例えば、11月は26日が土曜日ですので、その週の金曜日である11月25日に平成23年10月分が公表になります。総務省統計局ホームページ(http://www.stat.go.jp/data/cpi/index.htm)ほか、とやま統計ワールド(http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/cpi/index.html)にも掲載していますので、ぜひご覧ください。

物価の動向は、我が国の経済活動と密接な関係があることから、消費物者価指数は経済政策を推進する上で極めて重要な指標となっています。また、国民年金や厚生年金などの物価スライドや、賃金・家賃・公共料金改定の際の参考に使われるなど、官民を問わず幅広く利用されています。デフレ脱却などのニュースの中で取り上げられる機会が増え、最近ますます注目を集める消費者物価指数について、本稿をきっかけに理解や興味を少しでも深めていただければ幸いです。

物価統計の精度維持・向上のためにも、消費者物価指数作成の基礎となる小売物価統計調査及び家計調査に、皆様のご協力をお願いいたします。


参考資料
総務省統計局
「平成22年基準 消費者物価指数の解説」
「消費者物価指数のしくみと見方―平成22年基準消費者物価指数―」
とやま経済月報
平成23年11月号