資源管理型漁業の推進について

〜小型魚の保護、漁獲制限等への取組み〜
富山県農林水産部水産漁港課

1 富山県漁業の概況

富山県の沿岸では多様な漁業が営まれており、その漁獲量は、年間約2万トン前後で安定して推移しています。本県で最も盛んな漁業は定置網漁業(※1)で、長さ100km程度の海岸線に約150の漁場が所狭しと並び、その漁獲量は沿岸漁業の80%以上を占めています。定置網漁業では対馬暖流を生活の場とするブリ(※2)、イワシ類、アジ、サバ、スルメイカ、ホタルイカ、カワハギ類、フグ類、サワラなどの回遊魚が多く獲られています。

また、定置網に比べれば漁獲量は少ないものの、小型底びき網漁業では富山湾が全国唯一の漁場となっているシロエビをはじめホッコクアカエビ(※3)、ズワイガニなどが、刺網漁業ではヒラメやカレイ類などが、かごなわ漁業では深海にすむベニズワイガニやバイ類が獲られています。

富山県の沿岸漁獲量の推移
(富山県農林水産総合技術センター水産研究所資料)
富山県の沿岸漁獲量の推移グラフ

これらに加え、沖合・遠洋漁業も行われており、日本海沖合海域ではイカつり漁業、北海道から房総半島沖ではサンマ棒受網漁業、北洋ではサケマス流網漁業が、さらに、太平洋、インド洋、大西洋の遠洋ではマグロはえなわ漁業が行われています。

本県の沿岸、沖合、遠洋を合わせた平成20年の総生産量(属人)(※4)は4万7千トンで、平成20年の総生産額(属人)は158億円です。なお、漁業センサス(平成20年)の調査結果では、富山県内の漁業経営体384経営体のうち、沿岸漁業に分類されるものが9割以上の357経営体で、経営体から見た富山県の漁業は、少数の経営体による生産量・額の大きな沖合・遠洋漁業と、規模が様々で多数の経営体による沿岸漁業で構成されていることが分かります。

漁業経営体の経営体階層別構成比(2008年漁業センサス)
漁業経営体の経営体階層別構成比グラフ(※5)

2 資源管理の必要性と現在までの取組み

漁業については、漁場の環境を保ち乱獲を防げば、持続的に生産が続けられる優れた特徴を持っています。

富山県の沿岸漁業の根幹をなす定置網漁業の漁獲量は、昭和の終わりから平成の初めにかけて1万トン台にとどまる年もありましたが、平成6年以降は1万5千トンを割ることなく安定して推移しています。また定置網以外の漁業においても、経営体数が減少しているものの、漁獲量はここ10年程は比較的安定して推移しています。

しかし、水産白書21年度版によれば、日本周辺の漁業資源は4割が低水準にあると指摘されており、本県の漁獲量が近年安定していても、今後とも安定するとの保証はないことから、資源管理の取組みを着実に進めることが重要です。

このことから本県漁業者においては、法律や規則に基づく資源管理に加え、下表に示す自主的な資源管理に取り組んできました。下表の魚種の漁獲量が現在まで安定していることから、これらの取組みは一定の成果をあげてきたと捉えることができます。

富山県における自主的資源管理一覧
魚種名 計画策定年度 内  容
マダイ 平成5年 全長13cm未満小型魚再放流
ホッコクアカエビ 平成5年 小型底びき網、かごなわ漁業の網目拡大、休漁日設定
ベニズワイガニ 平成10年 年間漁獲限度設定
ツバイ(バイ類) 平成15年 かごなわ漁業の網目拡大、小型個体再放流
ヒラメ 平成15年 全長25cm以下の小型魚再放流、刺網漁業網目拡大
シロエビ 平成20年 資源低下の兆候があるとき曳網回数、出漁日数、出漁隻数等の削減等

3 むすび

水産物は野生の生き物ですから、自然環境の変化で資源量が減ってしまうこともあり、その際には資源管理を強化する必要があります。幸い本県では、近年漁獲量が安定して推移していることから、現在行っている資源管理は概ね適切と判断できますが、今後とも漁獲や資源の動向に注意を払いつつ、資源管理を行っていくことが重要と考えています。

しかしながら、本県漁業の根幹を成す定置網漁業の主な漁獲対象は、広域に分布する暖水性の回遊魚のため、これらに対する資源管理は、富山県のみでできるものではありません。他の地域との連携が必要で、広域的な資源管理体制の確立は、富山県のみならず、日本の漁業全体にとって重要な緊急の課題と言えます。


【ミニ知識】
 ―富山県で行われている主な漁業―

富山県で行われている主な漁業イラスト


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(※1) 定置網漁業
定置網は今から400年以上も前に氷見で、それもわら縄で作られたのが始まりです。
定置網を大きく分けると、水深のある海域で大規模に行われる大型定置網とごく沿岸で行われる小型定置網、主に北海道でさけを専門に狙うさけ定置網に分類されます。北海道から北日本で行われる大型定置網は主にサケを、西日本ではブリを中心に操業が行われます。小型定置網には、回遊魚を中心にさまざまな魚が入ります。
(※2) ブリ
ブリは成長するにしたがって名称が変わります。
(関東)
ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ
(関西)
ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ
(富山)
つばいそ、こずくら、ふくらぎ→がんと(はまち)→にまいずる→ぶり(こぶり)→さんかぶり→おおぶり
(※3) ホッコクアカエビ
ホッコクアカエビは農林水産省で使用している標準和名であり、一般には、アマエビ、ナンバンエビの名で使用されています。
(※4) 総生産量(属人)
富山県内の漁業者が生産した数量の数値であり、富山県以外の漁業者が富山県の港に水揚げした数値を含みません。
(※5) 沿岸漁業層・中小漁業層・大規模漁業層
沿岸漁業層は漁船非使用、無動力漁船、船外機付漁船、動力漁船10トン未満、定置網及び海面養殖の各階層、中小漁業層は動力漁船10トン以上1,000トン未満の各階層、大規模漁業層は動力漁船1,000トン以上の各階層を総称したものです。
とやま経済月報
平成23年5月号