特集

平成23年度商工労働部予算のポイント

〜経済・雇用対策の継続と将来を見据えた産業の育成〜
富山県商工労働部商工企画課

1 はじめに

平成20年秋以降、米国発金融危機による世界同時不況の影響により、我が国の経済は、輸出や生産が大幅に落ち込むなど急速に悪化し、県内においても、企業倒産が増加し、雇用情勢が悪化するなど、大変厳しい状況に陥りました。

県では、こうした経済危機に対応するため、国の経済対策とも連動しながら、平成21年度予算、平成22年度予算をそれぞれ平成20年度2月補正予算、平成21年度2月補正予算と一体(14ヶ月予算)として編成し、経済・雇用対策に積極的に取り組んできました。

今回は、最近の経済情勢を踏まえた上で、平成23年度の商工労働部の予算の中から主な事業をご紹介します。

2 本県の経済情勢

日本銀行の北陸短観(平成23年3月調査)で北陸三県の業況判断指数(DI)が全産業で▲9%ポイントとなり、前回の12月調査から5ポイント改善しました。特に製造業は、▲2%ポイントと8ポイント改善し、景気が持ち直しつつある動きを示す結果となりした。また、県内の雇用情勢も、有効求人倍率が昨年3月の0.62倍から本年3月には0.86倍(全国第4位)と改善の動きが続いています。

しかしながら、本年3月に発生した東日本大震災により、被災地では多数の尊い命が失われるなど多大な人的被害が発生したほか、多くの企業の工場設備が損壊するなど大きな打撃を受けており、県内経済への影響が懸念されます。

■北陸短観(日銀金沢支店3月調査)
業況判断 12月 3月 先行き
北陸全産業 ▲14 ▲ 9 ▲15
  製造業 ▲10 ▲ 2
  非製造業 ▲17 ▲14 ▲24
全国全産業 ▲11 ▲ 9 ▲14
  製造業 ▲ 4 ▲ 4 ▲ 9
  非製造業 ▲15 ▲11 ▲18

※ 業況判断(%)=「良い」−「悪い」

■有効求人倍率の推移(富山労働局「労働市場月報」)

※表をクリックすると大きく表示されます

3 本県の産業構造

本県は、全国と比較して第2次産業のウェイトが高い「ものづくり県」です。製造品出荷額等の性質別構成比をみると、基礎素材型の業種のウェイトが高く、その中でもアルミ関連工業を主体とする非鉄金属、金属製品の特化の度合いが高い産業構造となっています。

■産業別総生産構成比(内閣府「平成20年度県民経済計算」)

※分類不能な項目があるため、
合計は100%とならない



■製造品出荷額等の性質別構成比(経済産業省「平成21年工業統計」)
【性質別構成比】
◇基礎素材型

木材・木製品、パルプ・紙、化学、石油・石炭、プラスチック、ゴム製品、窯業・土石、鉄鋼、非鉄金属、金属製品

◇加工組立型

はん用機械、生産用機械、業務用機械、電子部品、電気機械、情報通信、輸送機械

◇生活関連型

食料品、飲料・飼料、繊維、家具・装備品、印刷・同関連品、なめし革、その他



■本県の製造品出荷額等上位5業種(経済産業省「平成21年工業統計」)
順位 業種 金額
(億円)
特化係数
1位 化学 4,273 1.63
2位 金属製品 3,551 2.64
3位 非鉄金属 2,762 3.68
4位 電子部品 2,708 1.68
5位 生産用機械 1,988 1.53
総出荷額 28,682  

※特化係数=県の構成比/全国の構成比
 特化係数が1を超えていれば、その業種は、超過の大きさを度合いとして、全国に比べ相対的に特化していることになり、大きいほど度合いが強いといえる。

4 商工労働部の予算

(1) 概要

商工労働部の平成23年度一般会計予算は674億9,519万円で、昨年度当初予算に比べ、8億8,350万円、1.3%の増となっています。性質別の内訳は、商工費が612億3,151万円で前年度比+1億3,265万円(+0.2%)、労働費が60億2,236万円で前年度比+7億4,353万円(+14.1%)となっています。

平成23年度の商工労働部の予算額を前年度予算とのみ比較すると一見、大幅に伸びていないように見えますが、平成21年度当初予算452億9,283万円から大幅に増加した、平成22年度当初予算666億1,169万円(対前年度+47.0%)をさらに充実させた積極的な予算といえます。

■商工労働部予算

(2) 予算のポイント

景気は持ち直しの動きはあるものの、依然として厳しい県内経済状況に対応するため、引き続き経済・雇用対策を重点課題として位置づけ、諸施策を推進するとともに、将来の新たな飛躍・地域活性化を見据えた産業の育成に積極的に取り組むこととしています。



I 経済・雇用対策

(@) 中小企業の資金繰り支援 〜 中小企業制度融資の拡充 〜

急激な景気後退等に対応して運転資金を支援する「経済変動対策緊急融資」や、既往債務の返済が過大な負担となっている中小企業のために借換資金を支援する「緊急経営改善資金」の取扱期間を延長するとともに、新規融資枠を拡大するなど、中小企業の資金繰りを支援します。

1経済変動対策緊急融資及び緊急経営改善資金(借換資金)の取扱期間の延長

平成24年3月31日まで延長

2新規融資枠の拡大(94.2億円、融資枠380億円)



(A) 雇用の確保と創出 〜4年間(H21〜24)で12,300人の雇用創出と職業訓練の拡充〜

県民の雇用の安定に向け新たな雇用を創出するとともに、人材不足が課題となっている分野における人材の確保・育成を図るため、国の交付金を原資とする基金を活用した雇用対策等に積極的に取り組みます。


1ふるさと雇用再生基金事業(23億6,440万円)

安定的な雇用の創出(1年以上の雇用)

2緊急雇用創出基金事業(66億163万円)

  • 緊急雇用事業(33億997万円)
     緊急的・短期的な雇用機会の確保(6ヵ月以内の雇用)
  • 重点分野雇用創造事業(32億9,166万円)
     介護、農林水産、環境・エネルギーなど今後の成長が見込まれる重点分野における雇用の創出、地域ニーズに応じた人材の育成(1年以内の雇用)

3県内企業人材養成モデル開発事業(1億7,500万円)

新しく採用した人材の養成モデルの開発を県内企業に委託することにより、新規学卒未内定者等の雇用を確保

4離職者向け職業訓練(5億6,914万円)

離職者の円滑な再就職を支援するため、民間委託による職業訓練の定員枠の拡大(平成22年度 1,441人→平成23年度 1,682人(+241人))や、技術専門学院にキャリア・コンサルティング有資格者を配置し、きめ細やかな個別相談を実施

※キャリア・コンサルティング:個人がその適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう個別の希望に応じて実施される相談その他の支援を行うこと。キャリア・コンサルティング有資格者とは、国の技能検定試験等に合格し、キャリア・コンサルティング技能士等の資格を得た者。



U 将来を見据えた産業の育成

(@) ものづくり研究開発センターを中心としたイノベーションの創出

平成23年4月、工業技術センター敷地内に、国際水準の最先端設備を備えた、ものづくり研究開発センターがオープンしました。このセンターを企業や大学に広く開放し、研究開発プロジェクトの推進や異分野・異業種交流の促進、実践的なものづくり人材の育成に取り組むとともに、産学官連携による共同研究開発を支援することとしています。

1オープンイノベーション型先端研究公募事業(1,000万円)

企業や大学がものづくり研究開発センターの最先端設備を活用して実施する先端研究を公募

2先端ものづくり技術人材育成事業(846万円)

ものづくり研究開発センターの設備を活用した基本・応用研修や、長期インターンシップ(大学生、高専生)の実施



(A) 新たな成長分野への挑戦

新たに県内企業の次世代自動車産業への参入や医薬工連携による新商品開発を支援するとともに、医薬・バイオ、ロボット、航空機産業、環境・エネルギーなど新たな成長分野への挑戦を引き続き支援します。


電気自動車「i-MiEV」

1次世代自動車ネットワーク事業(866万円)

次世代自動車技術の集積に意欲ある企業のネットワークづくり

2航空機産業認証制度取得モデル事業(200万円)

航空機産業に参入する際の航空機部品の品質保証に有効な認証制度JISQ9100の取得に取り組むモデル企業に助成

※JISQ9100:航空宇宙産業における品質マネジメント規格。品質マネジメントシステムとして汎用的なISO9001規格に加えて、検査、管理などの点で航空宇宙産業特有の項目が追加されている。


3医薬工連携ネットワーク構築事業(700万円)

新たな医療機器、製薬機器の開発に向けた医薬工関係者のネットワークづくり

4新商品・新事業創出公募事業(2,050万円)

「次世代自動車枠」「医薬工連携枠」を新たに追加



(B)中小企業の新事業展開への支援やグローバル化への対応

中小企業の売れる商品づくりや国内外における販路開拓を支援するとともに、経済のグローバル化に対応するため、新たな物流ルートや海外市場の開拓等などに取り組みます。

1地域資源活用・農商工連携商品PR事業(180万円)

国・県認定(助成)事業者が開発した商品をアンテナショップ(東京)での試食・販売等により県内外にPR

2売れる商品づくりブランド力アップ事業(174万円)

ブランド力の強化、販路開拓を目的として、プレゼンの研修も行う実践的なセミナーを開催


海外販路開拓サポートデスク

3 販路開拓総合助成事業(1,550万円)

県内中小企業が実施する市場調査や国内外の見本市出展等の販路開拓活動に助成

4海外販路開拓サポートデスク事業(950万円)

海外経験の少ない県内中小企業等の海外販路開拓を総合的に支援するため、(財)富山県新世紀産業機構内にサポートデスクを配置

5ロシア極東ロジスティックアドバイザー事業(946万円)

ロシアとの貿易を行っている国内企業に、ロシア定期コンテナ航路やシベリア・ランド・ブリッジなど最適物流を提案

シベリア・ランド・ブリッジ

■シベリア・ランド・ブリッジ(SLB)
日本海を横断する海上輸送とシベリア鉄道との接続による物流ルート。ロシアの経済発展や日系自動車メーカー等の進出に伴いSLBへの期待が高まっている。


5 まとめ

県では、県内経済は、依然として厳しい状況が続くなか、持ち直しの動きもみられていましたが、東日本大震災の発生により、今後どのような影響がでてくるか、実態調査や情報収集を行いながら状況把握に努め、しっかりと対応していきたいと考えています。国においては、先般、平成23年度第1次補正予算が成立し、東日本大震災被災地復旧への緊急対策が実施されますが、日本経済全体を元気にするためには、同時に、被災地域以外の地域の経済を活性化していくことも重要です。今後とも経済・雇用対策に引き続き取り組むとともに、県内経済の持続的な発展のため、つねに新しい分野に挑戦し続けることが必要だと考えています。

とやま経済月報
平成23年6月号