特集

農業経営体の法人化等の推進について

〜農業経営の基盤強化に向けた取組み〜
富山県農林水産部農業経営課

1 農業法人とは

農業法人とは、法人格を持つ農業経営体の総称です。県では、今後も富山県農業が発展していくよう、将来を担う農業経営体の法人化を推進しています。


農業法人

農業法人には、根拠とする法律により「農事組合法人」と「会社法人」の2つがあります。さらに「農事組合法人」は、「農業の経営を行う法人」と「共同利用施設(※1)の設置を行う法人」に、「会社法人」は、その出資や権利等により、「株式会社」「有限会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」に分かれます。

「農業経営体」が法人になる場合には、自らの経営展望に照らして、農事組合法人、あるいは会社法人のいずれかから適した形態を選択することとなります。


なお、この法人が農地を取得するには、その構成員や役員などについて一定の要件を満たした農業生産法人であることが必要です。

法人化している農業経営体数の推移(農林業センサス)

2010年世界農林業センサスの結果によると、富山県内で法人化している農業経営体数は433経営体で、前回比38.3%増、このうち、農事組合法人は209経営体で前回比113.3%増、会社法人は124経営体で前回比25.3%増となっています。

2 法人化のメリット

法人化することには、社会的信用力が増すことや経営の継続性が高まること、経営管理が強化されることなどのメリットがあります。また、制度上でも各種の優遇措置が講じられています。

(表)法人化によるメリット
区分 摘要
経営上 社会的信用力の向上
  • 財務諸表の作成の義務化により、金融機関や取引先の信用力が向上
  • イメージの向上により、商品取引や従業員の雇用等が円滑化
経営の継続性の向上
  • 農家の後継者でなくても、構成員、従業員の中から意欲ある有能な後継者を確保することが可能
経営管理の強化
  • 経営責任に対する自覚を促し、経営者としての意識改革を促進
  • 家計と経営が分離され、経営管理が徹底(ドンブリ勘定からの脱却)
経営発展の可能性の拡大
  • 幅広い人材(従業員)の確保により、経営の多角化(※2)など事業展開の可能性が広がり、経営の発展が期待できる
農業従事者の福利厚生面の充実
  • 社会保障の充実、労働保険の適用による従事者の福利厚生の増進
  • 労働時間等の就業規則の整備、給与制の実施等による就業条件の明確化
制度上 税制面での効果・優遇措置
  • 定率課税の法人税の適用
  • 役員報酬等を経費として差し引くことが可能
  • 欠損金の繰越控除が9年間に延長(青色申告法人に限る)
  • 農業経営基盤強化準備金(※3)について、集落営農組織では法人化して認定農業者(※4)となることで活用可能
集落営農組織での農地等の所有等
  • 任意の集落営農組織が法人化することで農地の所有や利用権(※5)設定等が可能
制度資金
  • 農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)等の貸付限度額の拡大(認定農業者に限る)
地域 次代を担う新規就農者の確保
  • 初期費用や経営能力・農業技術を持たない非農家出身者などが、農業法人に就職することで、地域で新たな農業者を確保

なお、これらのメリットを農業経営の継続・発展のために活かしていくためには、積極的な経営努力を行っていくことが重要であり、法人化はそのための基盤を整えるものとして理解する必要があります。

法人化することによって、消費税の納税負担の発生や、管理コストの上昇、農業相続人に対する相続税納税猶予制度の取り消しとなるケースがあるなどの点にも留意して、経営の発展に併せて法人化に取り組むことが大切です。

3 県における取組み

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県では、平成19年に制定した「富山県農業・農村振興計画」に基づき、意欲ある担い手の育成と次代につなぐ生産体制の構築を目指すため、

  • 集落営農組織などの法人化
  • 農業法人の経営の多角化(※2)
  • 農業経営体の規模拡大
  • 農地の流動化の推進、担い手への農地集積
  • 園芸作物などの導入による経営の複合化(※2)
  • 経営感覚に優れた農業経営者の育成
  • 融資制度の活用
  • 新規就農者の確保・育成
などへの支援に取り組んでいます。

法人化を推進するための県の取組み

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農業経営体法人化支援事業
 県では、集落営農組織や認定農業者(※4)等が、法人化に向けた合意形成活動や法人化を行う際の負担を軽減するため、必要となる事務処理経費などを支援しています。
 予算額:720万円(H23年度)
 事業費:1組織あたり60万円
 補助率:3/4(県1/2、市町村1/4)

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法人化説明会
法人化説明会
 県担い手育成総合支援協議会では、毎年、農業経営の法人化を志向する農業者や集落リーダーに対して、法人化の意義や、メリット・デメリットなど、設立にあたっての留意事項や手続きなどの説明会を開催し、法人化の手助けを行っています。また、法人化する経営体に対して個別支援も行っています。

農地流動化促進対策事業
 農業法人等の農業の担い手が、利用権(※5)設定により農地を借りることで、経営規模を拡大することを支援するために、集積した面積に応じて促進費を交付しています。
利用権設定率
 富山県は全国のなかでも、利用権設定による農地流動化が進んでいます。
 予算額:2,050万円
 促進費:10千円/10a など

4 むすび

農業・農村は、農業所得の大幅な減少、担い手不足の深刻化、非効率な農地利用、農山漁村の活力の低下といった厳しい状況に直面しています。

このような状況のなか、国では担い手の育成・経営の安定のため、水田経営所得安定対策が講じられてきましたが、平成23年度より、新たに、農業者戸別所得補償制度(※6)が本格実施されることとなりました。

しかしながら、どのような政策が行われることとなっても、主役は農業者です。将来にわたって経営の継続・発展をしていくためには、農業を取り巻く情勢の変化や国内・海外の他産地との競争に対応することのできる、経営感覚の優れた農業経営体であることが必要です。

富山県は今後とも、農業経営体の法人化及びその経営の発展を支援していきますので、法人化等を検討されている方はお近くの県農林振興センターへぜひご相談下さい。



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(※1) 共同利用施設
農業者が共同して利用する農林水産物の生産、加工、販売に必要な施設(米の乾燥・貯蔵施設、野菜の加工施設、鶏卵の集出荷施設など)
(※2) 経営の多角化・複合化
農産物の生産以外の「直売」や「農産物加工」に取り組むことを経営の多角化という。また、農業経営体が主として生産している農産物以外に新たに他の農産物の生産に取り組むことを経営の複合化という。
(※3) 農業経営基盤強化準備金
担い手が、国の交付金や補助金を農業経営の発展のため計画的に積み立てた準備金。税制上優遇措置を受けることができる。
(※4) 認定農業者
効率的で安定した魅力ある農業経営を目指し、農業経営改善計画を作成して、市町村の認定を受けた者。計画の達成のための融資等の支援を受けることができる。
(※5) 利用権
農地を使用する者が、農地の所有者から(有償・無償にて)認められた、農地での耕作やそこで収穫された農作物の販売などを行う権利。
(※6) 農業者戸別所得補償制度
販売農家や集落営農組織などに対し、米・麦・大豆などの販売価格と生産費との差額を交付することで、農家の経営を支援する国の制度。
とやま経済月報
平成23年6月号