特集

厚生部における人材確保対策(その1)
医師、看護職員の確保対策の推進

富山県 厚生部 医務課

I はじめに

 新しい医師臨床研修制度がH16年度から始まり、医師は大学卒業後、大学附属病院又は臨床研修病院で2年間の臨床研修が義務付けられました。その際に、誰がどの病院で臨床研修を受けるかを決める方法として、医学生と臨床研修病院との組合せを決定するマッチング制度が導入されましたが、その結果、若手医師が地方大学から離れ大都市圏に集中し、地方圏で医師の確保が困難な状況となっています。

 本県においても、急性期医療の主要な担い手となっている公的病院等において、特に小児科、産科などの診療科の医師の確保が困難な状況となっています。

 また、保健・医療・福祉サービスの担い手である看護職員については、医療制度改革による需要の増加や、福祉分野などへの職域の拡大などから、必要数の確保が困難な状況となっています。

 このような中、県では、県民の皆様に質の高い医療を提供するためには、医師・看護職員の確保を図ることが重要であると考えており、総合的な対策に取り組んでいますので、その内容について紹介します。

II 医師確保対策について

1 医師確保に関する現状・課題

(1)医師数の状況

 医療施設従事医師数については、全国、富山県とも毎年増加しており、H20年12月現在、本県では2,462人、人口10万人対で223.6人であり、全国(212.9人)を上回っています。二次医療圏別にみると、最も多い富山医療圏(271.7人)と、最も少ない高岡医療圏(178.3人)とでは約1.5倍の差がありますが、地域間格差は全国で最も小さくなっています。

医師数の推移(人口10万人対)

(厚生労働省「医師、歯科医師、薬剤師調査」)

※二次医療圏
高度・特殊な保健医療サービスを除き、原則として入院医療及び専門外来医療並びに専門的、広域的な保健医療サービスを提供する圏域。本県では、富山、高岡、新川、砺波の4医療圏を設定。
なお、一次医療圏は、身近な医療を提供する圏域。(医療法に規定はなく、本県では設定していない。)
三次医療圏は、高度で先進的な医療を提供する圏域。本県では、県全体を設定。

医師数(医療圏別、主な診療科別)

(H20年12月末現在)(単位:人)

(厚生労働省「医師、歯科医師、薬剤師調査」)

同一県内の二次医療圏間の医師数格差

(H20年12月末現在)

(厚生労働省「医師、歯科医師、薬剤師調査」)

 また、県内病院に勤務する医師数を性別にみると、若い世代で女性の占める割合が大きくなってきています。
 ※30歳代女性医師 H10年:89人(15.5%) →H20年:148人(28.1%)

富山県の病院医師数(H20年12末現在)

(厚生労働省「医師、歯科医師、薬剤師調査」)

(2)公的病院等における医師不足

 主に急性期医療を担う公的病院等においては、厳しい勤務環境も相まって、特に小児科、産婦人科、麻酔科等で医師が不足しています。

公的病院等における富山県の小児、産婦人科、麻酔科の医師不足数

(H22年4月現在)

(富山県医務課調査)

2 富山県の医師確保対策

(1)臨床研修制度の見直しと医師養成数の拡大についての国への要望

1臨床研修制度の見直し

 臨床研修制度の見直しについて、県では、知事自らが、国に対して、大都市圏と地方圏との格差是正の観点から、マッチング制度の見直しを強く要請してきました。

 こうしたことなどもあり、国では、H21年度から県別の募集定員の上限設定を導入し、研修医が特定の地域に過度に集中することがないよう配慮されましたが、依然として、格差が十分には解消されていない状況にあります。

【H21年度臨床研修マッチング結果】

(単位:人、位)

2医師養成数の拡大

 医師養成数については、全国の医学部医学科の入学定員が、S56年のピーク時には、8,280人でありましたが、その後削減され、H19年には7,625人となりました。

 このため、国に対し、これまで低く抑えられてきた医師養成数の再検討を働きかけてきたこと等もあり、国では、従来の医師数抑制方針の転換を行い、富山大学、金沢大学の入学定員の増員が実現したところです。

【参考1】富山大学医学科の入学定員の推移

(注)地域枠:県内高校出身者の入学枠
特別枠:県内での診療従事(9年間)を確約できる者の入学枠

【参考2】金沢大学に、H22年度から、特別枠(富山県分)2人分を定員増

(2)医師確保のための総合的な対策

 公的病院における医師確保については、基本的には各病院が主体となって取り組まれており、今後とも医師にとって魅力ある病院となるよう、積極的に取り組んでいただく必要があります。しかしながら、大都市圏と地方圏との格差が生じている中、各病院独自の取組みだけでは医師確保が十分に進まない状況もあることから、県としては、県全体として必要な医師の確保について、積極的に取り組んでいるところです。

1自治医科大学生の養成
  • 毎年2人又は3人の本県出身者が入学。卒業後は、県内のへき地医療拠点となる病院やへき地診療所等で勤務
2医学生修学資金の拡充
  • 将来、県内の公的病院等での勤務を希望する医学生に対し、修学資金を貸与
【医学生に対する修学資金制度の概要】
3医学生に対する医療情報の提供
  • 県内出身の医学部進学者に対し、知事から、県内での医療従事を呼びかける手紙を送付
  • 医学生に対し、県内病院等に関する最新情報を提供
4ふるさとTOYAMA医学生夏期セミナーの開催
  • 修学資金の貸与者など、将来、県内での医療従事を志す医学生を対象に、県内病院の見学(体験実習)や、他の医学生、病院関係者との交流会を開催
5初期臨床研修医の確保
  • 医学生向けの就職説明会における県内臨床研修病院との合同PR(4会場:東京、大阪、名古屋、金沢)
  • 臨床研修病院の指導医を対象とした研修会の開催
6富山大学寄附講座「地域医療支援学講座」の設置
  • 本県の地域医療を担う医師の育成を目指し、富山大学の医学生等に対する教育支援を強化するため、寄附講座を設置
7NPO富山地域医療教育支援センターへの支援
  • 富山大学の医学生に対し、本県の地域医療に関する研究・実習などの学外教育を行う取組みを支援
8総合医育成のモデル病院への支援
  • 地域医療で必要とされている、幅広い診療能力を有する医師(いわゆる総合医)を育成するための体制整備に取り組むモデル病院に対する支援
9女性医師のキャリアの維持・向上への支援
  • 女性医師の就労、キャリア継続を支援するための体制整備に取り組むモデル病院に対する支援

III 看護職員確保対策について

1 看護職員確保に関する現状・課題

(1)看護職員数の状況

 就業看護職員数については、全国、富山県ともに、毎年増加しており、H20年12月現在、本県では14,075人(看護師9,400人、准看護師3,785人、助産師352人、保健師538人)で、人口10万人対で1,278.4人であり、全国(1,036.5人)を大きく上回っています。

就業看護職員数の推移

(厚生労働省「衛生行政報告例」)

(2)病院における看護職員の状況

 採用者数(H20年度)は、募集数1,035人に対し、採用者数753人で、充足率72.8%となっています。近年は、充足率が70%台の横ばいで推移しており、また、民間病院で低くなっています。

※充足率の内訳 公的病院:75.7%、民間病院:68.4%

富山県内病院の看護職員の募集数と採用数

(富山県医務課調査)

 また、離職者数(H20年度)は613人で、前年度までは採用数を上回る傾向にありましたが、H20年度は改善したところです。

 新卒看護職員の離職者数(率)は、H20年度は11人(3.3%)で、H17年度には36人(11.6%)と、全国に比べ高い離職率でしたが、各種対策の効果などもあり、全国トップレベルまで低下しました。

富山県の看護職員の採用数・離職者数

(富山県医務課調査)

新人看護職員の離職率

(富山県医務課調査)

(3)看護師等養成施設における看護学生の状況

 看護師等養成施設の1学年は、H21年度現在、定員705人、入学者626人(充足率89%)であり、養成施設の定員増に伴い入学者総数は増加傾向にあるものの、充足率は約9割となっています。

(注)H22年度には、富山大学看護学科の定員増(60人→80人)により、総定員は725人

2 富山県の看護職員確保対策

 医療の高度化、専門分化に対応するため、看護業務は、一層多様化、複雑化しており、また、看護職員の職域は、医療機関にとどまらず、福祉施設や在宅看護へと領域が拡大しています。

 こうした中、高い知識と技術を修得し、かつ豊かな人間性を備えた看護職員を、質・量ともに確保していく必要がありますが、現状では、全国的に看護師不足が顕在化し、本県においても看護職員の確保が十分ではない状況にあります。

 このため、県民により質の高い医療・看護を提供するため、県としては、看護師等養成施設、医療機関や、県看護協会等と連携し、看護職員の(1)養成確保対策、(2)職場定着支援対策、(3)再就業支援対策の3つの柱のもと、総合的に各種施策を推進しているところです。

(1)養成確保対策

ア 看護学生の確保
1看護の普及推進
  • 高校生の1日看護見学 …県内の公的病院において、看護の現場を見学
  • ふれあい看護体験 …看護週間(5/12の看護の日を含む週)に、県内病院において、看護体験等を実施
  • 看護出前講座 …看護師養成機関の教員、病院の看護師等が、小中高校等に出向いて講座を実施
2看護学生修学資金
  • 将来、県内において看護の業務に従事しようとする看護学生に対し、修学資金を貸与
【看護学生に対する修学金制度の概要】(H22年度)
○貸与枠125人(うち富大優先枠20人)
○対象者大学、短大、看護師・准看護師養成所の看護学生
○貸与額月40千円〜15千円
○返還免除県内の病院等で5年間勤務した場合、貸与額の一部を返還免除
※返還割合:1/4、1/2又は2/3(病院の規模等により異なる。)
イ 看護師等養成施設への支援
1富山大学看護学科定員増に係る看護教育施設整備への支援
  • H22年度から、富山大学看護学科の入学定員増(60人→80人)に伴い必要となる看護教育施設・設備の整備に対し支援
2富山大学看護学科における寄附講座の設置
  • 看護学生の県内定着促進、県内の看護職員のキャリアアップ支援を強化
【富大看護学科の寄附講座】

○「高度専門看護学講座」(H22設置)

  • 研究内容:継続看護教育、小児・周産期看護、メンタルヘルス

○「(仮称)在宅看護学講座」(H23設置予定)

3看護師等養成施設に対する支援
  • 養成所の運営に対する支援、教員に対する再教育
  • 看護師等養成施設の実習生を受け入れる施設の実習指導者に対する講習
【看護師等養成施設】定員725人(H22年度)

大学(1)、短大(1)、看護師3年課程(8)、看護師2年課程(1)、5年一貫(1)、准看護師課程(2)

4看護師等養成施設共同PRガイドブックの作成
  • 共同PRガイドブック「看護を学びたいあなたへ」の作成・配布
ウ 看護学生等の県内定着への支援
1県外看護学生Uターン促進事業
  • 本県出身の看護学生に対する県内病院の見学・交流会の開催、県内医療機関就職情報の提供
  • 県内病院の就職ガイドブック「あなたの夢をかなえるために」の作成・配布
2看護職員就職説明会・相談会の開催
  • 県内外の看護学生、潜在看護職員等に対し、県内医療機関の職場紹介・相談会を開催

(2)職場定着支援対策

ア 新卒・若手看護職員の早期離職の防止
1新卒・若手看護職員等に対する研修
  • 新卒・若手看護職員に対する研修会・交流会の開催
  • 新卒看護職員指導者研修会の開催
2看護職員の教育体制整備に取り組むモデル病院への支援
  • 新人、再就業者、中堅者等看護職員への教育体制の充実強化を希望する病院をモデル的に選定し、体制整備を支援
イ 看護職員のキャリア向上への支援
1認定看護師の育成支援
  • 日本看護協会の認定看護師養成課程へ派遣する病院に対し、受講料を助成
【認定看護師】
  • 認定看護師とは、日本看護協会の認定看護師認定審査に合格し、特定の看護分野において熟練した看護技術・知識を用い、水準の高い看護実践のできる者
  • 認定看護分野:19分野(がん化学療法看護、緩和ケア等)
  • 富山県の認定看護師(H21現在) 48人
2がん看護臨床実践研修の開催
  • 県立中央病院(県がん診療連携拠点病院)において、がん看護に関する最新の知見、がんに伴う症状のマネジメントなど実践的ながん看護の研修を実施
ウ 病院内保育所の設置促進
  • 医療従事者の離職防止、再就業を促進するため、病院・診療所に勤務する職員のための保育施設の運営助成
    ※県内の病院内保育所数(H21現在) 26病院(自治体立7、大学1、民間立18)
エ 助産師のキャリア向上への支援
  • 助産師外来の開設・運営に向けた研修会の開催
    ※県内の助産師外来開設公的病院(H21現在) 8病院

(3)再就業支援対策

1看護職員就職アドバイザーによる就職相談等の実施
  • ナースセンターに就職アドバイザーを配置し、就業相談・悩み事相談を実施
2職場復帰のための再就業支援研修会の開催
  • 再就業を希望する潜在看護職員を対象として、職場復帰のための研修会を開催
3潜在看護職員に対するナースセンター登録の促進
  • 登録促進カード・リーフレットを作成し、ハローワーク等に配布
4潜在看護職員の再就業受入体制を充実強化するモデル病院の支援
  • 再就業する看護職員にとって働きやすい勤務環境の整備について、モデル的に検討する病院に対し助成
5潜在看護職員就業支援専門員のハローワーク等への派遣
  • 再就業を希望する潜在看護職員に対し、ハローワーク等において、相談・助言

IV おわりに

 県では、このように医師や看護職員の確保対策に積極的に取り組んできているところでありますが、県民の皆さんが身近な地域で必要なときに安心で質の高い医療を受けることができるように、今後とも、富山大学、公的病院、県医師会、県看護協会、市町村等との連携を一層密にして、総合的な医師・看護職員の確保対策にしっかりと取り組んでいくこととしています。

とやま経済月報
平成22年7月号