特集

経済波及効果の測定と
結果の見方について
−はじめて計算される方へ−

統計調査課 経済動態係
とやま統計ワールド内
産業連関表の
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1 はじめに

 イベントの開催や、道路・新幹線等の建設に伴い、「経済波及効果○○億円」という試算がなされ、新聞等で取り上げられているのを目にしたことはないでしょうか。「経済波及効果」といってもそれが何を表わしているのかよくわからず、漠然と受け止めてしまっている方もいらっしゃるかと思います。また、何かイベントをする場合、企業誘致をする場合、公共投資をする場合など、自治体において、政策が有効なものか評価する一つの判断材料として求められることも多いようです。

 本稿では、経済波及効果の測定方法を紹介しながら、波及効果の金額は何を表わしているのかを見ていきます。

2 経済波及効果の測定に使うもの

 経済波及効果を測定するには、産業連関表を使います。

 ある一つの産業は、他の産業から原材料や燃料などの財・サービスを購入(投入)し、これを加工(労働・資本などを投入)して新たな財・サービスを生産します。このうち、家計・政府等(最終需要者)に対して供給されるものもあれば、他の産業に対し原材料等として販売(産出)する場合もあります。このような関係が各産業間で連鎖的につながり必要な財・サービスが供給されることとなります。産業連関表は、一定地域(通常国又は県という行政区域)の一定期間(通常1年間)におけるこのような財・サービスの産業間の取引を一つの行列(マトリックス)に示した統計表です。

 詳細については、とやま統計ワールドに掲載してある「富山県産業連関表報告書」を参照してください。

 本稿で使用する産業連関表は、平成17年富山県産業連関表です。

 平成17年というと5年前になりますが、国では産業連関表を様々な統計資料や調査結果を使って原則5年毎に作成しており、平成21年3月に平成17年表が公表されました。各都道府県でもその全国表や地域の資料を使って作成するため、最新のもので平成17年表ということになります。

 平成17年富山県産業連関表を使った経済波及効果の測定は、平成17年当時の富山県における産業構造で測定した場合、という前提になります。

3 経済波及効果の測定例

 統計ワールドでは、「第2章 産業連関表の使い方 4 波及効果分析の一例」に、実際の計算方法を掲載しています。ただ、このような計算を行うには、産業連関表の基本となる「生産者価格評価表」から作成したいくつかの計数表を使うことになり大変手間がかかります。

 そこで、統計ワールドに簡単に計算することができるエクセルファイル「経済波及効果分析ツール」を掲載しています。消費額や投資額を入力することにより、どのくらいの波及効果があるか34部門表を使って簡単に計算することができます。今回よく測定例として取り上げられる2つの事例について紹介します。

 とやま統計ワールドでは、「生産者価格評価表」について、生産活動を分類する部門数により、13部門表、34部門表、107部門表、171部門表の4つの表を掲載しています。今回使用する「経済波及効果分析ツール」は、この内34部門表を使っています。「経済波及効果分析ツール」は、こちらからもダウンロードできます。

(1)建設投資100億円

 道路、新幹線などの建設費に100億円投資する場合です。

 建設業の最終需要額が100億円増加したという仮定になります。

1 最終需要額の入力(図1)

 ダウンロードした「経済波及効果分析ツール」ファイル最終需要額入力シートの19建設の購入者価格による最終需要額(A)欄に「100」を入力します。

※購入者価格:物の場合、工場から出荷されるときの価格が生産者価格であり、生産者価格に運輸マージン、卸売・小売業の商業マージンがプラスされ、購入者価格となります。

2 県内調達率の入力(図2)

※県内調達率:物やサービスの供給が、県内生産者で賄われる割合のこと。

 建設の場合、建築物、道路等の完成物を県外から調達することがないので、県内調達率は100%であり、何も入力しなくても100%が反映されます。

3 単位の入力(図2)

 「億円」を入力

4 消費転換率の入力(図2)

※消費転換率:雇用者が受けた報酬のうち、消費に回る額の割合。通常、家計調査による消費性向(=消費支出÷可処分所得)を利用。

 いつの時点の波及効果分析かによって、それに近い年の調査結果を使えばいいのですが、今回は特にいつと限定していないので空欄のまま、平成17年の富山市の家計調査結果を使います。

5 結果の確認(図3)

 14 の入力結果が分析結果総括シートに反映されます。

 100億円の最終需要増加額(a)に対し、直接効果が100億円(b)、第一次波及効果が32.4億円(c)、第二次波及効果が26.2億円(d)、合計158.6億円(e)となります。また、最初の最終需要増加額に対する波及効果倍率は1.59倍(f)となります。

 部門別の生産額の増加額は分析結果部門別集計表シートや波及効果グラフに反映されます。

 直接効果というのは、最初の需要額のうち、どれだけ県内で調達されたかという額で、この事例の場合、県内調達率100%ですので、建設業に対して100億円、ということになります。

 第一次波及効果というのは、直接効果での生産の増加に伴う中間投入(原材料、サービス等の生産に必要な経費)の増加で誘発された、各産業の生産の増加の総額です。

 各産業へ建設用資材や電気等の需要が発生し、これらを生産するためにセメント、電気、石油製品等の生産が増加し、また、さらにこれらの生産を賄うために原材料の生産が増加することになり、他産業に次々波及して、生産が増加していきます。

 第二次波及効果は、直接効果と第一次波及効果で発生した雇用者報酬の増加で新たに生み出される消費の増加による生産の増加の総額です。

 生産額は中間投入額と付加価値額の総額であり、付加価値額は企業のもうけである営業余剰や働く人たちに払う雇用者報酬などです。その雇用者報酬により、生活に必要なものやサービスが購入されることで生産が増加し、その生産によりさらに他産業に波及して生産が増加していきます。

 このように、経済波及効果は、単にいくら県内での需要が増加したかというものではなく、それに伴う原材料の生産や、雇用者の消費から生み出される生産も含んだものということになります。

(2)観光客10万人

 県外からの観光客が10万人増加した場合です。

 まず、一人当たりいくら消費するかを予測する必要があります。

 ここでは、平成18年度に実施した「富山県観光戦略基礎データ調査」(富山県観光課)の結果から計算することとします。

<県外観光客1人当たり消費額>
宿泊費12,119円
交通費8,540円
飲食費5,034円
お土産4,654円
その他8,492円
38,839円

 これを産業連関表の34部門分類に対応させます。

 宿泊費は「対個人サービス」、交通費は「運輸」、飲食費は「対個人サービス」、お土産は「飲食料品」、その他は「対個人サービス」に対応させます。

 実際には、お土産は農産物(「農林水産業」)や衣類(「繊維製品」)、木工品(「パルプ・紙・木製品」)、おもちゃ(「その他の製造工業製品」)等、またその他についても美術館の入館料(「教育・研究」)や宅配便(「運輸」)等も考えられますが、ここでは簡単に農水産加工品やお菓子が対応する「飲食料品」、スポーツや娯楽施設、温浴施設などの入場料が対応する「対個人サービス」といった、代表的な部門で計算することとします。

 これらに来県される人数をかけたものが、計算の基となる最終需要額です。

 参考までに「2008年旅行・観光消費動向調査」(観光庁)による旅行中のものやサービスの購入額を平均したデータと、それに対応する34部門分類を表わしたものが表1です。富山に来県された方の買い物の品目ごとの額を調査したデータがないため、この全国調査結果を利用するのも一つの方法ですが、富山県での消費が考えられないものも含まれています。来県された方にアンケート調査などを行った結果を使えば富山県の特産品などの消費が反映された結果が得られるでしょう。

表1 2008年度旅行・観光消費動向調査による旅行中に消費額(1人1回あたり)

1 最終需要額の入力(図4)

 最終需要額の部門ごとに入力する金額は

飲食料品4,654円×10万人=465.4百万円
運輸8,540円×10万人=854.0百万円
対個人サービス25,645円×10万人=2,564.5百万円

 となり、これを最終需要額入力シートに入力します。

2 県内調達率の入力(図5)

 飲食料品、運輸については、産業連関表の自給率によるものとし、対個人サービスについては県内での宿泊や観光という設定なので県内調達率を100%とします。もし「お土産だから富山県産の製品にこだわって買う」ということであればお土産(飲食料品)の県内調達率を100%とすることも考えられます。

 ちなみに、ここで100%を入力しても直接効果の計算に反映されるだけで、第一次波及効果、第二次波及効果を計算する原材料等の調達率は、産業連関表による自給率が適用されます。

3 単位の入力(図5)

 「百万円」を入力

4 消費転換率の入力(図5)

 空欄のまま、平成17年の富山市の家計調査結果を使います。

5 結果の確認(図6)

 24 の入力結果が分析結果総括シートに反映されます。

 3,884百万円の最終需要増加額(a)に対し、直接効果が3,600百万円(b)、第一次波及効果が1,039百万円(c)、第二次波及効果が842百万円(d)、合計5,481百万円(e)となります。

4 おわりに

 経済波及効果の測定は、3(1)の建設投資のように最終需要額が分析の前提としてはっきりしている場合ばかりではなく、(2)の観光客の増加のように、分析の前に最終需要額の把握が必要な場合もあり、何を分析したいのか、そのためには最終需要額をどう計算するのかということを明確にしておかなければなりません。入力すべき最終需要額が決まれば、後はエクセルファイルで計算できますので簡単に経済波及効果が算出されます。(もし金額が不確定でも、1単位の最終需要の発生がどのくらいの経済波及効果を生み出すのかをみることができます。)

 産業連関表は、ある産業の需要が、その生産に伴う原材料の生産や、雇用者の消費から生み出される生産により、各産業の生産にどのくらい影響するのか知ることができる大変重要なツールです。連関表を使った経済波及効果の測定について、難しそうと敬遠せずにぜひ挑戦してみてください。

とやま経済月報
平成22年12月号