特集

商業統計(小売業)からみた富山の姿(1)

総合県税事務所自動車税センター(前統計調査課)山1信治

はじめに

 商業統計調査は、我が国の商業の実態を明らかにすることを目的として、「卸売・小売業」に属する事業所を対象に昭和27年に開始し、平成9年以降、5年毎に実施しています。また、その中間年(調査の2年後)には簡易調査を実施しています。

 平成19年6月1日現在で実施した商業統計調査結果をみると、富山県の小売業は、前回(平成16年)と比較すると、事業所数、従業者数、年間商品販売額、売場面積ともに減少しています。(表1)

 また、事業所数は昭和54年以降、減少傾向にあり、年間商品販売額は平成9年までは増加したものの、その後は減少しており、全国と概ね同じ動きをしています。(図1)

 平成19年調査の20年前に当たる昭和63年を100とすると、平成19年の事業所数は70.0(全国70.2)と3割の減少、年間商品販売額は111.1(同117.3)と約1割の増加となっています。

 本稿では、商業統計調査の結果を用いて、次の観点から富山県小売業の動向をみてみます。(IV 業態別の動向については、次号に掲載)

I 全国順位でみる富山
II 規模別の動向
III 販売環境の変化による動向
IV 業態別の動向

表1 平成19年商業統計調査結果:小売業
事業所数 13,079事業所  【前回比 ▲9.2%減】
従業者数 69,253人  【前回比 ▲5.6%減】
年間商品販売額 1兆1754億円  【前回比 ▲1.3%減】
売場面積 1,622,164m²  【前回比 ▲0.2%減】
図1 事業所数、年間商品販売額の推移(S63=100)

【小売業とは】
 主として次の業務を行う事業所をいう。

1個人(個人経営の農林漁家への販売を含む)又は家庭用消費のために商品を販売する事業所

2産業用使用者に少量又は少額に商品を販売する事業所

3商品を販売し、かつ、同種商品の修理を行う事業所
なお、修理料収入額の方が多くても、同種商品を販売している場合は修理業とせず小売業とする。

4製造小売事業所(自店で製造した商品をその場所で個人又は家庭用消費者に販売する事業所)
例えば、菓子店、パン屋、弁当屋、豆腐屋、調剤薬局など。

5ガソリンスタンド

6主として無店舗販売を行う事業所で、主に個人又は家庭用消費者に販売する事業所

【事業所(商業事業所)とは】
 一定の場所で、商品の卸売、商品売買の代理、仲立又は小売の業務を行っている事業所をいう。

【年間商品販売額とは】
 調査前年の4月1日から調査年の3月31日までの1年間の有体商品の販売額をいい、消費税を含む。

【売場面積とは】
 調査日現在において、小売事業所が商品を販売するために、実際に使用している売場の延床面積(食堂・喫茶・屋外展示場(植木・石材)、配送所、階段、連絡通路、エレベーター、休憩室、洗面所、事務室、倉庫、他に貸している店舗(テナント)分等は除く)をいう。

I 全国順位でみる富山

 富山県の小売業の特徴を探るため、人口当たりの事業所数及び年間商品販売額の全国順位を調べたのが表1-1です。

 この結果、富山県では、1女性ファッション関連(婦人服小売、呉服・服地小売、化粧品小売)、2住宅関連(家具小売、建具小売、畳小売、宗教用具小売、骨とう品小売、中古品小売)、3医薬品関連(一般用医薬品小売)が全国上位となっています。

 以下、平成19年の全国順位を取り上げ、その背景の一端について推察してみます。

1 女性ファッション関連

 産業分類の人口当たり事業所数は、婦人服小売業が第1位、呉服・服地小売業が第2位、化粧品小売業が第3位となっています。

 また、商品分類の人口当たり年間商品販売額は、呉服・服地が第3位、婦人服、化粧品が第12位となっています。

 富山県の女性の就業率は全国第5位(平成17年国勢調査 総務省)、共働き率は全国第3位(同)、勤労者世帯の実収入は全国第6位(平成20年家計調査年報 総務省)、勤労者世帯の消費支出は全国第1位(同)と高くなっています。

 女性の社会進出が進み、しっかり稼いで自分のために使うことや冠婚葬祭など人付き合いに必要なものを買ってきたことが商業統計に表れているのではないかと思われます。

2 住宅関連

 産業分類の人口当たり事業所数は、建具小売業第1位、宗教用具小売業と骨とう品小売業が第2位、家具小売業第3位、畳小売業第4位となっています。

 商品分類の人口当たり年間商品販売額は、建具は第2位、骨とう品は第4位、畳は第6位、宗教用具と中古品は第8位、家具は第9位となっています。

 富山県の持ち家率(住宅に住む一般世帯に占める持ち家世帯の割合)は全国第1位(平成17年国勢調査 総務省)、3世代同居世帯の割合(一般世帯)は全国第5位(同)、1住宅当たりの居住室の畳数(専用住宅)は全国第1位(平成20年住宅・土地統計調査 総務省)となっています。

 かつては「家を建てたら一人前」とも言われ、富山県民は蓄えを住居に係る経費に充てるなど、「家」にずいぶんこだわりを持っていることが商業統計からも読み取れます。また、富山県は現在も全仏教寺院の70%を真宗寺院が占めており、真宗王国と呼ばれるほど浄土真宗が大変盛んな地域であることもこの要因の一つであると思われます。

3 医薬品関連

 産業分類の人口当たり事業所数は、医薬品小売業(調剤薬局を除く)が第1位、商品分類の人口当たり年間商品販売額は、一般用医薬品小売が第4位となっています。

 また、富山県の医薬品生産金額は全国第4位(平成19年薬事工業生産動態統計調査 厚生労働省)、配置用医薬品生産金額は全国第1位(平成16年薬事工業生産動態統計調査 厚生労働省)です。

 “売薬さん”(配置販売従事者)は、「富山のくすりやさん」と親しまれ、得意先に薬を預けておき、後で使った分の代金をいただく「先用後利(せんようこうり)」といわれる行商商法によって、全国各地に家庭薬を届けてきました。“売薬さん”をはじめ、「富山のくすり」を担う人材の育成や医薬品の開発と品質の向上に努めてきたことが、結果に表れていると推察されます。

表1-1 産業分類別・商品分類別人口当たり事業所数及び年間商品販売額の全国順位

(注)表中 - は調査当時、産業(商品)分類されていないものである。
資料:経済産業省「商業統計表」、総務省「国勢調査」「人口推計年報」

【産業分類、商品分類とは】
 ある事業所の年間商品販売額が次のような場合

商品分類 年間商品販売額
呉服・服地 800万円
婦人服 300万円
化粧品 700万円
1,800万円

この事業所は、産業分類では年間商品販売額の最も多い呉服・服地小売業に格付けされ、事業所数1、年間商品販売額1,800万円として計上される。

産業分類 事業所数 年間商品販売額
呉服・服地小売業 1 1,800万円

一方、商品分類では商品別に事業所数が計上され、延事業所数は3となる。

商品分類 事業所数 年間商品販売額
呉服・服地 1 800万円
婦人服 1 300万円
化粧品 1 700万円
3 1,800万円

II 規模別の動向
〜小規模店が大幅に減少、大規模店は増加〜

 富山県の小売業全体の事業所数は、平成19年は13,079事業所、20年前の昭和63年の18,695事業所と比べると▲30.0%と大幅に減少しています。

 ここ20年における事業所数の動向を、従業者規模別及び売場面積規模別にみてみます。

1 従業者規模でみる

 従業者規模別に事業所数の推移をみると、全国とほぼ同じ傾向で推移しており、従業者数4人以下の小売店(平成19年対昭和63年比▲39.6%減)が減少し、5〜19人(同13.3%増)及び20人以上の小売店(同50.0%増)が増加しています。

 また、経営組織別に事業所数の推移をみると、個人経営店は減少(同▲45.7%減)、法人経営店は増加(同26.3%増)となっています。(表2-1、図2-1、図2-1a)

 これまでの推移から、4人以下の家族を中心とした個人経営の小規模小売店は、経営者の高齢化や後継者難、他小売店との競争による採算悪化などで減少したと考えられ、今後も同じ傾向がしばらく続くものと思われます。

表2-1 小売業の従業者規模別及び経営組織別事業所数の状況(富山県)
図2-1 小売業の産業分類別従業者規模別事業所数の推移(S63=100)
図2-1a 小売業の従業者規模別事業所数の推移(富山県)

2 売場面積規模でみる

 売場面積規模別に事業所数の推移をみると、全国と概ね同じ傾向で推移しており、売場面積が100m²未満の小売店(平成19年 対昭和63年比▲47.6%減)が減少、100〜1,000m²未満(同17.7%増)及び1,000m²以上の小売店(同193.5%増)が増加しています。

 1,000m²以上の大規模小売店の事業所数は、平成4年に大規模小売店舗法の改正で規制緩和がなされたことにより、平成6年調査で大幅に増加しました。

 また、平成12年の大規模小売店舗立地法の制定でさらに規制が緩和されたため、平成14年調査で再び大幅に増加しています。(表2-2、図2-2、図2-2a)

 今後の調査では、平成19年「改正まちづくり3法(中心市街地活性化を目指し、延床面積10,000m²超の大型店の郊外出店を規制)」の完全施行に伴い、大型店の出店などにどのような影響が出てくるのか注目する必要があります。

参考:大型店出店を巡る政策の主な経緯
昭和33 年 百貨店法施行 百貨店の新設を規制
昭和49 年 大規模小売店舗法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律)施行 大型小売店の出店を規制
昭和54年 大規模小売店舗法改正 規制強化(調査対象面積を従来の1,500u以上に加えて、500u以上を規制の対象とする)
平成元年〜   国内外から大規模小売店舗について規制緩和の要求
平成4年 大規模小売店舗法改正 規制緩和(これまで商工会議所(商工会)に置かれ大型店の出店を扱っていた商業活動調整協議会が廃止され、出店調整期間を1年以内に短縮)
平成12年 大規模小売店舗法の廃止、大規模小売店舗立地法の施行 さらに緩和(1売場面積1,000u超の小売店は届出制とする2休日や営業時間等に関する規制をなくする)
平成19年 改正まちづくり3法(大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法)の施行 郊外出店を規制
表2-2 小売業の売場面積規模別事業所数の状況
注)不詳とは、牛乳小売業、自動車小売業、建具小売業、畳小売業、ガソリンスタンド、新聞小売業に属する事業所及び訪問販売、通信・カタログ販売等で売場面積の無い事業所である。
図2-2 小売業の売場面積規模別事業所数の推移(S63=100)
図2-2a 小売業の売場面積規模別事業所数の推移(富山県)

III 販売環境の変化による動向
〜事業所数が半分以下になった酒屋・米屋・たばこ屋〜

 小売業を取り巻く販売環境は近年の法改正や規制緩和により大きく変わってきていますが、どのような産業が大きな影響を受けているのでしょうか。

1 酒小売業〜酒販免許制度が段階的に緩和〜

 日本酒、ビール、ワインなど酒類の販売には「酒類小売業免許」が必要であり、定められた店と店との距離、1店当たり居住人口の基準を満たさなければ新規出店は事実上不可能でした。

 しかし、平成13年1月に販売店間に一定の距離を置く「距離基準」、平成15年9月に地域ごとに人口当たりの免許枠を定めていた「人口基準」、平成18年9月には既存業者を保護する「緊急調整地域」の指定がなくなり、酒類販売は実質完全自由化となりました。

 商品分類別事業所数でみると、平成14年は1,331事業所、平成19年は1,407事業所と76事業所(5.7%増)増加し、自由化により、スーパー、ホームセンター、ドラッグストア、コンビニエンスストアなどに酒類の販路が広がっています。

 また、産業分類別酒小売業の事業所数は、平成19年で651事業所、昭和63年の1,352事業所から半減(▲701事業所減、▲51.8%減)しています。

 これらには、大型小売店舗あるいはコンビニエンスストアの進出に抵抗できず、廃業に追い込まれた酒屋やコンビニエンスストアに転換した酒屋の影響もあろうかと思われます。

 一方、商品分類別年間商品販売額は平成19年は350億3100万円で、昭和63年の504億9800万円と比較すると、3割(▲154億6700万円減、▲30.6%減)の減少となっています。(図3-1、図3-1a)

 この要因としては、法人交際費や家計支出の節減により酒を飲む機会が減ったこと、若者の酒離れや飲酒人口の高齢化などが考えられます。さらに、平成19年の飲酒運転の厳罰化(飲酒運転者への罰則強化及び周辺者への罰則の新設)も、酒小売の販売額に影響を及ぼすものと思われます。

図3-1 産業分類別酒小売業の推移(S63=100)
図3-1a 商品分類別酒小売の推移(S63=100)

2 米穀類小売業〜食糧管理法から食糧法へ〜

 昭和17年に生まれた食糧管理法では、米の小売業への参入は原則として人口1,500人に1店舗の割合で、都道府県ごとの許可制となっていました。

 このため、米の小売免許を持たないスーパーなどは、米穀店の名義を借りて営業するなど次第に法と実態が合わなくなってきていました。

 平成6年12月には食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)が成立し、米の小売は許可制から登録制となりました。人口による参入制限が撤廃され、資本金や経営状態など一定の条件を満たせば、自由に米を販売できるようになったのです。

 さらに、食糧法の改正により、平成16年4月から米穀取扱事業者(事業規模20精米トン以上)は「登録制」から「届出制」に変更となっています。

 産業分類別米穀類小売業の事業所数は、平成19年は157事業所で、昭和63年の323事業所と比較すると、半減(▲166事業所減、▲51.4%減)しました。また、年間商品販売額は平成19年は57億8800万円で、昭和63年の196億4800万円と比較すると大幅に減少(▲138億6000万円減、▲70.5%減)しています。

 一方、商品分類別で米穀類小売の事業所数をみると、平成19年は726事業所で、昭和63年の629事業所に比べ97事業所(15.4%増)の増加となりました。これは、平成6年の新法及び平成16年の規制緩和で、販売窓口(スーパー・コンビニエンスストア・ホームセンター・ドラッグストアなど)が増えていることによります。

 これに対し、年間商品販売額は平成19年は106億8500万円で、昭和63年の234億2000万円と比較すると、約半分(▲127億3500万円減、▲54.4%減)となっています。年間商品販売額の減少の要因は、米の価格低下及び米の消費量減少と考えられます。

 米の1人当たり消費量は、昭和37年度の118.3sをピークにその後は減少傾向となり、平成19年度には61.4sと半減しており、食生活・食事メニューの多様化による米の消費量の減少を裏付けています。(表3-2、図3-2、図3-2a)

表3-2 米穀類小売の年間商品販売額、米価、米の消費量の推移
図3-2 産業分類別米穀類小売業の推移(S63=100)
図3-2a 商品分類別米穀類小売の推移(S63=100)

3 たばこ・喫煙具専門小売業〜健康意識の高まりと禁煙対策〜

 たばこ小売業は、たばこ事業法第22条により、財務大臣の許可が必要とされています。

 例えば、予定営業所の所在地と最寄りのたばこ販売店との距離が予定営業所の所在地の区分毎に定められた基準距離(富山県内の市街地の場合は150m)に達していない場合は不許可となります。

 平成2年にたばこ側面の警告文が「健康のため吸いすぎには気をつけましょう」から「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」に変更され、さらに平成17年には警告文言表示が改正されました。例えば、「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります」や「たばこの煙は、あなたのりの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう」などを2面に表示するといった具合です。

 また、健康意識の高まりに伴い、いろいろな禁煙対策がとられています。

平成15年5月 健康増進法第25条による受動喫煙の防止
平成15年7月 「富山市まちの環境美化条例」施行−市内の指定地域での歩きたばこやポイ捨てを罰則付きで禁止
平成18年4月 禁煙治療の保険適用が制度化(喫煙は病気との観点を導入)
平成18年6月 JR東日本が平成19年春から新幹線及び管内を相互発着する特急列車を全面禁煙すると発表
平成20年7月 未成年の喫煙防止対策の一環として、たばこ自動販売機用成人識別カード「タスポ」導入
平成20年11月 富山県庁本庁舎の「建物内禁煙」の実施
平成22年2月 公共の場の全面禁煙を厚生労働省が自治体に通知

 国民健康栄養調査(厚生労働省)による喫煙率をみると、平成元年では男性55.3%、女性9.4%、平成20年では男性36.8%、女性9.1%となっており、それぞれ18.5ポイント、0.3ポイント低下しています。

 たばこ・喫煙具専門小売業の事業所数は、産業分類別で平成19年は262事業所で、昭和63年の569事業所と比較すると、半減(▲307事業所減、▲54.0%減)しています。

 これは、経営者の高齢化、喫煙に対する厳しい風潮など複合的な要因で閉店を余儀なくされているものと思われます。

 一方、年間商品販売額は、商品分類別で平成19年は191億8100万円で、昭和63年の170億6300万円と比較すると、約1割(21億1800万円増、12.4%増)の増加となっています。

 喫煙者が減少しているにもかかわらず、商品分類別の年間商品販売額が増加したのは、たばこ価格の上昇(例えば銘柄「ハイライト」の場合、昭和61年5月の220円から平成18年7月の290円へと31.8%増)が一因となっていると考えられます。(図3-3、図3-3a、表3-3)

図3-3 産業分類別たばこ・喫煙具専門小売業の推移(S63=100)
図3-3a 商品分類別たばこ・喫煙具専門小売の推移(S63=100)
表3-3 たばこ・喫煙具専門小売の年間商品販売額、たばこの価格の推移
とやま経済月報
平成22年4月号