特集

富山県産野菜の生産拡大に向けて
〜新鮮、安心・安全な地場産野菜の供給による 地産地消の推進〜

富山県農林水産部農産食品課

1 はじめに −統計からみた本県の農業−

富山県は、古くから豊富な水資源を活かした米の生産が盛んで、その品質や食味などは全国的にも高く評価され、良質な「富山米」はまさしく全国ブランドとなっています。また、本県の農業産出額に占める米の割合は71.0%(平成19年農林水産省「生産農業所得統計」)と全国で最も高く、富山県農業の基幹作物となっています。

一方、富山県における野菜の産出額(イモ類を除く)は39億円と米の1/10以下であり、昭和59年以来、全国で最下位となっています。

米、野菜の産出額(平成19年)

資料「生産農業所得統計」(農林水産省)

その背景として、県内の耕作地のうち水田が96.0%(平成19年農林水産省「耕地面積調査」)と全国トップの割合を占めていることが挙げられます。このことは、裏を返せば、本来野菜の生産に適している畑地が少ないということであり、同調査においても、本県の畑地の実面積は全国最少の2,430haとなっています。参考までに、一般的に耕作地が少ないと思われがちな東京都の畑地面積は7,780ha、大阪府の畑地面積は3,760haであり、それぞれ本県の約3倍、1.5倍の畑が存在しています。

このように、生産基盤の面から見ても本県は、米の生産に特化した農業構造であることがわかります。

2 本県での米生産の現状と野菜の生産拡大の必要性

近年、米生産を主体に取り組んできた本県にとって、農家経営は厳しさを増しています。まず、いわゆる減反政策が挙げられます。この政策は見直しも議論されつつありますが、現段階で生産調整のため約3割の水田において米以外の品目の作付けが求められています。

また、米の消費低迷に伴い米価が断続的に低下していることが挙げられます。この米価の低迷は、米生産を大規模に営んでいる農家にとって多大な影響があります。

このように、県内の農家は、富山ブランドとして確立されている「富山米」を作りたくても作れず、なおかつ作っても以前と比べて収入が減ってきているのが現状です。

生産者側でこのような問題を抱えている一方、近年の消費者(県民)の消費に対する関心は、「安心・安全」「地産地消」「フードマイレージ」などのキーワードに代表されるように、地場産の農産物を購入し、食べたいといった気運が高まっています。しかし、県内野菜流通量に占める県内で生産される野菜の割合は13%(農産食品課調べ)と低く、スーパーなどの小売店で並んでいる野菜のほとんどが県外の大産地で生産された野菜となっています。このことからもわかるように、野菜に関しては県民ニーズに十分に応えているとは言えない状況にあります。

※フードマイレージ
 食料の輸送距離。「輸入相手国別の食料輸入量×輸出国から日本までの輸送距離」で計算され、単位はトン・キロメートル。フードマイレージが高ければ、食料消費が環境に対し大きな負荷を与えていることになる。

このような県内農業の構造的な問題を考えた場合、本県で野菜の生産を拡大するためには、まず既存野菜産地の支援に加え、これまで野菜を作ったことのない(または、野菜生産の経験の浅い)集落営農組織や主穀作経営体を対象に野菜生産の振興を図り、生産の裾野を広げることが重要です。

既存の野菜産地は、長年の野菜生産で培われた栽培技術を有し、県内野菜生産の重要な役割を担っていますが、一方で、生産者の高齢化や担い手の不足など問題を抱えている産地も少なくなく、その栽培技術の継承を含め産地の活性化へ向けた支援が必要となっています。併せて、県内の農業基盤を支えている集落営農組織や主穀作経営体を新たな野菜生産者として確保するため、米を作らない(作れない)水田を有効に活用し、県内需要の高い野菜を生産し流通させることによって、米価の低迷で減少した農家所得の不足分を補い、かつ県民に新鮮な県産野菜を供給することで、生産者側(県内農家)並びに消費者側(県民)のニーズを充足することができます。

3 野菜の生産拡大へ向けた施策の展開


※クリックすると大きく表示されます

県では、米中心の本県農業をバランスのとれた生産構造にするため、これまでも野菜の生産振興に力を入れてきております。特に、各産地に対して、自らが「園芸産地マネージャー」を選定し、将来の担い手育成・生産・販売の各目標を明確にした「園芸産地ビジョン」を策定するよう促進しています。

また、ハード面の支援策としては、2「とやまの園芸ブランド産地強化事業」を平成19年度から展開してきました。この事業は、前述の園芸産地ビジョンに基づき、産地の規模拡大や品質の向上及びブランド化に向けた取り組みに対して必要な機械の導入などを支援するもので、既存産地だけではなく集落営農組織や主穀作経営体が新たに野菜栽培を始める際も活用できます。この事業により、新鮮さが活かされる「こまつな」や「ニラ」の生産が増大するなど、着実に成果が上がってきています。

「たまねぎ」の大産地化へ向けた取り組み

しかしながら、野菜の生産量についてはまだまだ少ない状況であり、さらに生産拡大を図るため、2「野菜自給力強化対策事業」を平成21年度から新たに実施し、県内需要量が多い「たまねぎ」「白ねぎ」などの大規模な産地を育成するために必要な機械の導入などを支援することとしました。現在、砺波市、南砺市では栽培面積100haの北陸最大規模のたまねぎの産地化を目指しています。

次に、ソフト面の支援策として、2野菜の生産に意欲のある方々を掘り起こし、計画的に栽培技術の習得や向上に向けた講習会を開催すること、2野菜生産に対する経営安定のため、一定の要件を満たした野菜の生産者に対し「野菜価格安定制度」を適用し、市場価格が低迷した際に補給金を交付すること、2米の生産調整で野菜を生産する農業者へ、栽培面積に応じて助成することなどの施策を展開しています。さらに、2既存野菜産地の担い手の育成確保に対する取り組みへの支援も行っています。

4 新たな流通システムの構築

従来、野菜は卸売市場に出荷するのが一般的でしたが、近年では、「地産地消」の気運の高まりによって、生産者の顔が見える直売やインショップ販売といった市場外での流通が拡大してきています。

近年増加しているスーパーの地場産コーナー

県では、これまでも生産者グループの直売所や量販店等でのインショップ販売の開設等に対する支援を行ってきたところですが、販売時期や品目・量などが限定されており店頭で安定的に地場産野菜が販売できていないことなどが課題となっていました。そこで、平成20年度から新たに市場関係者・小売業者・生産者の3者が一体となって、地場産野菜を安定的に供給するモデル的な仕組みづくりを推進し、2小売店の希望する品目や販売計画に基づく契約栽培の推進、2市場の仲介によって集荷した野菜を小売店にバランス良く配送すること、2「通いコンテナ」を活用した地場ならではの効率的な流通手段を整備すること、2小売店での地場産コーナーの新設・拡充などに対し支援を行っています。

これらにより、県内産野菜が県内小売店の店頭において安定的な価格で販売され、生産者の経営安定や規模拡大につながるよう、多様な流通体制の整備や充実を図っていきたいと考えています。

5 おわりに −野菜生産の増大へ向けて−

県では、これまでもハード・ソフト両面について、生産から流通、経営に至るまできめ細かな支援を実施してきたところですが、今後とも野菜生産が農家の収益向上に結び付き、消費者に新鮮で安心・安全な県産野菜が供給できるような施策を展開していきたいと考えています。

とやま経済月報
平成21年10月号