特集

平成21年度商工労働部予算のポイント
〜緊急経済・雇用対策と 新たな成長に向けたチャレンジ〜

富山県 商工労働部 商工企画課

1 はじめに

米国発の金融危機による世界同時不況により輸出や生産が大幅に落ち込むなど、我が国の経済が急速に悪化しました。県内においても、自動車関連や電子機器関連産業を中心とした輸出型産業に要素部品等を多く供給している企業の生産の低下が著しく、雇用情勢にも大きな影響を及ぼしています。

このような中、相次いで打ち出された国の経済対策に呼応して、県では、平成21年度予算を平成20年度2月補正予算と一体(14ヶ月予算)として編成し、一連の対策を進めることとしました。今回は、最近の経済情勢を踏まえた上で、今年度の商工労働部の予算の中から主な事業をご紹介します。

2 本県の経済情勢

日銀の北陸短観(3月)では、北陸三県の業況判断指数(DI)が全産業で▲54となり、前回の12月調査から21ポイント下落しました。特に製造業は、▲68と過去最悪に迫る水準まで下落し、足元の経済情勢の厳しさを改めて示す結果となりました。また、県内の雇用情勢も、有効求人倍率が昨年10月の0.82倍から本年3月には0.47倍と急速に低下するなど厳しさを増しています。

■北陸短観(日銀金沢支店3月調査)
業況判断12月3月先行き
北陸全産業▲33▲54▲63
 製造業▲33▲68▲69
 非製造業▲33▲44▲57
全国全産業▲24▲46▲52
 製造業▲25▲57▲59
 非製造業▲23▲38▲46

※ 業況判断(%)=「良い」−「悪い」

■有効求人倍率の推移(富山労働局「労働市場月報」)

※表をクリックすると大きく表示されます

3 本県の産業構造

本県は、全国と比較して第2次産業のウェイトが高い「ものづくり県」です。製造品出荷額等の性質別構成比をみると、基礎素材型の業種のウェイトが高く、その中でもアルミ関連工業を主体とする非鉄金属、金属製品の特化の度合いが高い産業構造となっています。

このような産業構造を背景に、製造業の生産活動の大幅な減少は、県内経済に大きな影響を与えています。

■産業別総生産構成比(内閣府「平成18年度県民経済計算」)

分類不能な項目があるため、
合計は100%とならない


■製造品出荷額等の性質別構成比(経済産業省「平成19年工業統計速報」)
【性質別構成比】
◇基礎素材型

木材・木製品、パルプ・紙、化学、石油・石炭、プラスチック、ゴム製品、窯業・土石、鉄鋼、非鉄金属、金属製品

◇加工組立型

一般機械、電気機械、情報通信、電子部品、輸送機械、精密機械

◇生活関連型

食料品、飲料・飼料、繊維、家具・装備品、衣服、印刷・同関連品、なめし革、その他

■本県の製造品出荷額等上位5業種(経済産業省「平成19年工業統計速報」)
順位業種金額
(億円)
特化係数
1位一般機械5,5551.30
2位化   学5,2411.58
3位非鉄金属4,9813.94
4位金属製品4,2252.37
5位電子部品4,1681.69
総出荷額39,601 

※特化係数=県の構成比/全国の構成比

4 商工労働部の予算

(1) 概 要

商工労働部の平成21年度一般会計予算は452億9,284万円で、昨年度当初予算に比べ、54億8,951万円、13.8%の増となっています。性質別の内訳は、商工費が424億2,765万円で前年度比+39億5,274万円(+10.3%)、労働費が26億4,665万円で前年度比+15億7,085万円(+146.0%)となっています。

予算額が前年度に比べ大幅に伸びた主な要因として、商工費については、経済対策関連融資の預託金額の増、労働費については、国の交付金を活用したふるさと雇用再生基金事業、緊急雇用創出基金事業の実施や国から職業訓練が移管されたことにより関係経費が増加したことなどが挙げられます。

■商工労働部予算

(2) 予算のポイント

現下の厳しい経済情勢を踏まえ、緊急の経済・雇用対策として、1中小企業の経営の安定化、2雇用の確保と創出に取り組むとともに、新たな成長に向けたチャレンジとして、3新たな雇用を生み出す新産業の創出と内需型産業の育成、4環日本海諸国への「ゲートウェイ」の確立、5中心市街地の活性化などに取り組むこととしています。

5 緊急経済・雇用対策

(1) 中小企業の経営の安定化 〜 制度融資の拡充 〜

昨年10月に経済変動対策緊急融資を創設し、12月には借換資金である緊急経営改善資金の対象に県制度融資以外の保証付融資も追加するなど融資要件を緩和したほか、資金需要の増大に対応して融資枠の拡大にも取り組んできました。しかし、景気の悪化が続いていることから、21年度においても、中小企業の資金繰りの円滑化に万全を期すため、次の取組みを行います。 

1小規模企業等経営支援短期資金の創設(5億円、融資枠20億円)
※(  )内は予算額。以下同じ

従業員50人以下(商業・サービス業20人以下)を対象とした短期運転資金

2経済変動対策緊急融資の拡充(60億円、融資枠240億円)

急激な景気後退等に対応した運転資金

【融資枠】20年度(当初):180億円 ⇒ 21年度:240億円(+60億円)

3緊急経営改善資金(借換資金)の拡充(9.17億円、融資枠40億円)

既往債務の返済が過大な負担となっている中小企業のための借換資金

【融資枠】20年度(当初):20億円 ⇒ 21年度:40億円(+20億円)

※ 上記13の経済対策関連融資の融資枠を、20年度に比べ100億円増額

(2) 雇用の確保と創出 〜 3年間で4,400人の雇用創出と職業訓練の拡充 〜

県民の雇用の安定化に向け新たな雇用を創出するとともに、人材不足が課題となっている分野における人材の確保・育成を図るため、国の交付金を原資とする基金を活用した雇用対策等に積極的に取り組みます。

1

1ふるさと雇用再生基金事業(14億5,628万円)

地域の求職者等を雇い入れて安定的な雇用を創出

2緊急雇用創出基金事業(9億8,091万円)

緊急的・短期的なつなぎ就業の機会を確保


■分野別雇用創出見込み(平成23年度末まで)

(人)

区分介護福祉子育て医療産業振興情報通信観光環境農林漁業治安防災教育文化その他
ふるさと28050580075135115135105240 1,940
緊急11540151056525565038560750202,460
3959020905140390765520165990204,400

3非正規労働者等総合支援センター事業(1,440万円)
※とやま自遊館内に7月オープン

求職者へ公営住宅、生活資金、就職などの情報を一括して提供する相談窓口を開設

4非正規労働者雇用安心サポート事業(333万円)

専門家による労働相談や労働局など関係機関との合同労働相談会を開催

技術専門学院 H20:356人 ⇒ H21:439人
民間委託訓練 H20:70人 ⇒ H21:410人

5緊急雇用安定対策職業訓練事業(7,338万円)

離職者対象の短期訓練コースの定員拡大など

6とやま離職者支援職業訓練事業(5,686万円)

地方の創意工夫による地域の実情にあった職業訓練の実施(一般離職者280名)


6 新たな成長に向けたチャレンジ

(1) 新産業の創出と内需型産業の育成

前述したとおり、今回の世界的な経済危機は、特に輸出型産業に大きな影響を与え、県内企業もその要素部品等を多く供給していることから生産の著しい低下に見舞われました。製造業の現場では、生産の回復に向け在庫調整が急ピッチで行われていますが、今後の県内経済の発展のためには、経済変動に大きく影響されない産業構造づくりや内需型産業の育成が必要です。このため、県では、新たな飛躍の「芽」を育てる次の事業に取り組むこととしています。

<新産業の創出>

■好調な医薬品製造業
医薬品生産額(H19)
 富山県 4,683億円(4位)
 大阪府 5,341億円(3位)

1ほくりく健康創造クラスター事業(1億5,300万円)

研究成果の商品化や販路開拓の支援等により事業化を促進

2ロボットモデル開発事業(300万円)

県内ものづくり企業の高い技術を活かした若手技術者によるロボット開発を支援

3
3ロボット技術研究交流事業(470万円)

2009国際ロボット展(東京ビッグサイト)等へ出展

4福祉系ロボット開発推進事業(1,330万円)

新たなロボット利用分野として有望な福祉ロボットの研究開発を推進


5小水力発電推進モデル事業(1,400万円)

産学官が連携した技術開発に係るモデル的な取組みを支援

6太陽光利用大容量ポリマー電池システム開発事業(300万円)

太陽光で発電した電気をコンパクトで軽量なリチウム電池に大量に蓄え、電動車椅子や電気自動車、ロボット等に活用する技術を開発

<地域資源の活用・農商工連携>

1とやま新事業創造基金(50億円)を活用した商品開発等の支援
2地域資源活用・農商工連携推進融資制度の創設(8,000万円、融資枠2億円)

■指定業種
1IT関連製造業
2医薬品関連製造業
3機械・金属関連製造業
4健康生活関連製造業

<企業立地の促進>

企業立地促進計画の指定業種に「健康生活関連製造業」を追加

食料品製造業や飲料製造業などの立地を促進


(2) 環日本海諸国へのゲートウェイの確立 〜物流拠点としての高いポテンシャル 〜

本県経済のさらなる発展に向け、今後、中長期的な経済成長が続くと見込まれる中国やロシアなど東アジアの国々と連携し、共に成長していくことが大切です。

本県と中京圏とを直接結ぶ東海北陸自動車道、過去最多となる4航路・月38便の国際定期コンテナ航路を有する伏木富山港など物流面での高いポテンシャルを活かして環日本海諸国へのゲートウェイの確立を目指します。

1ロシア・欧米・環日本海 物流・観光調査研究事業(1,100万円)

ロシア、欧米、環日本海地域との物流の活性化や観光市場の拡大等に係る調査研究

2中国環渤海地域商談ミッション事業(200万円)

自動車産業等が集積する天津市において、県内企業と中国企業の商談会を実施

■シベリア・ランド・ブリッジ(SLB)
日本海を横断する海上輸送とシベリア鉄道との接続による物流ルート。ロシアの経済発展や日系自動車メーカー等の進出に伴いSLBへの期待が高まっている。

(3) 中心市街地の活性化 〜 賑わいづくりと個人消費の拡大 〜

本県は、全国と比べ、小売・サービス業等の第3次産業のウェイトが低く、高い県民所得の割に県内の購買力が低いというデータがあります。経済・雇用情勢の悪化に伴い個人消費も減少していますが、中心市街地や商店街の活性化を推進し、消費購買力の向上を図る取組みを実施します。

1歴史と文化が薫る商店街モデル事業(450万円)

商店街が行う地域の歴史や文化を活用したモデル的な取組みを支援

2まちの魅力アップサポーター事業(9,470万円)

商工会や商工会議所等に専任サポーターを配置、商店街のイベント等の運営を補助

3商店街「にぎわいサロン」モデル事業(3,317万円)

商店街の空き店舗に情報発信拠点や住民の交流拠点を設置

4がんばる商店街支援事業<プレミアム付き商品券発行支援事業>(2,200万円)

国の定額給付金の支給に合わせたプレミアム付き商品券の発行を支援

7 まとめ

県内経済は、依然として厳しい状況が続いています。こうしたなか、国においては、事業規模で56.8兆円、うち財政出動が15.4兆円にのぼる「経済危機対策」を打ち出しました。今回の経済対策には、景気の底割れを回避するとともに有効需要を創出するための様々な施策が盛り込まれています。この国の対策を積極的に活用し、当面の喫緊の課題である経済・雇用対策に引き続き取り組むとともに、県内経済の持続的な発展のため、今後とも、新産業の創出と内需型産業の育成に努めてまいります。

とやま経済月報
平成21年6月号