特集

名水のまち海洋深層水のまち入善をめざして
〜海洋深層水による産業振興〜

入善町 農水商工課

はじめに〜名水の町入善〜

入善町と言えば「水」。

黒部川の水が扇状地の中を伏流水として流れ、清らかな湧水となって扇端部で自噴します。この黒部川扇状地湧水群が全国名水百選にも選ばれるなど、入善町は全国でも有数の名水の里として知られています。


北アルプスを尖頂に広がる
雄大な黒部川扇状地

その入善町が新たな「水」に着目。それが神秘の水「海洋深層水」です。

平成11年、アクアビレッジ基本構想を策定し、「水産業の振興」、「新規産業活動の振興」そして「町のイメージアップ」を3本の柱とした海洋深層水を活用した町の活性化を目指すことになりました。

平成13年12月には、入善海洋深層水活用施設が完成し、いよいよ海洋深層水の取水がスタート。「原水」、原水を1.5倍に濃縮した「濃縮水」、原水から塩分を99%除去した「脱塩水」の3種類の深層水の分水を開始しました。

海洋深層水とは?


入善海洋深層水取水イメージ図

海洋深層水とは、太陽光が届かず、表層の海水と混ざらない深さにある海水を言います。通常は200m以深の海水を海洋深層水と呼んでおり、入善海洋深層水は、海底384mの地点から延長3,308mの鉄線鎧装硬質ポリエチレン管で汲み上げられています。

その水には、大きく3つの特性があります。

第1に「低温安定性」

表層水の水温が季節によって大幅に変動するのに対し、深層水は一年を通して1〜2℃と低温で安定しています。

第2に「清浄性」

陸水や大気からの汚染を受けにくく、化学物質や汚染細菌数が少ないです。

第3に「富栄養性」

太陽光が届かない深さにあるので、光合成が行われず、表層水と比べて植物の生長に必要な窒素やリン、ケイ酸などの無機栄養塩が多く含まれています。

その他にも「ミネラル特性」や「熟成性」など、表層水とは異なるさまざまな特性を有する深層水は、入善町の新しい資源として、新たな産業の振興における呼び水として大きな期待が寄せられ、水産分野はもとより、食品や医療、健康などの非水産分野においてもこれらの深層水の特性を活かした新たな産業の創出を目指し、さまざまな取り組みが開始されました。

深層水から生まれた新たな商品

未知なる水「海洋深層水」の可能性は、取水開始当初からさまざまな分野で注目され、多くの事業者や個人が深層水を使用した新たな商品や技術の開発に取り組みました。100を超える事業者等が入善海洋深層水を利用し、現在では、これらを数多くの商品として目にすることができます。


数々の深層水関連商品

食品分野においては、ミネラルウォーターや醤油、味噌等の調味料、お菓子などが次々に商品化されるとともに、日本酒やビール等のアルコール類においては、深層水を発酵促進のために利用されました。

また、深層水のミネラル特性や清浄性に着目し、石鹸や洗顔料、化粧水、入浴剤などの美容分野においても研究が進められました。

さらに、古くから「くすりの富山」として知られる本県においては、医療・健康分野においても深層水の利用研究が進み、数多くの商品が開発されています。

現在もこれら深層水を利用した商品の開発が活発に進められていますが、深層水の利用は商品開発の枠を超え、農業分野やエネルギー分野など多くの分野への広がりを見せています。

農業分野においては、果実の糖度を上げるために利用されたり、生長を抑制し出荷調整のために利用されたりするなど、農作物の付加価値の増大を図るための利用が研究されています。

エネルギー分野においては、深層水の低温性を活かし、熱交換システムへの利用による消費エネルギーの削減や温度差発電の研究など、地球環境にも配慮した技術の開発が進められています。

深層水で高付加価値化〜入善ブランド鮮魚〜


深層水を利用した蓄養施設

海洋深層水の清浄性や富栄養性は、水産分野において大変有効であり、魚介類の蓄養や漁船の給水用にも利用されています。

海洋深層水活用施設の近くに位置する入善漁港では、漁業者が漁に出る際の漁船に深層水を給水し、水揚げされた魚介類を深層水で保存することにより鮮度を保ち、より新鮮な魚介類を提供することができます。

また、漁港内においては魚介類の荷捌き洗浄用にも深層水が使用されており、新たな漁業のシステムが確立されています。

こうして水揚げされた魚介類は、漁港施設内に設置された蓄養施設において深層水により蓄養され、1年を通して安定的な出荷や不漁期における市場への供給を見込むことができます。

こうしたさまざまな取り組みにより、深層水による高付加価値の安全で安心できる「入善ブランド鮮魚」として市場に流通することを目指しています。

全国初!深層水によるアワビの養殖


全国初となる「深層水アワビ」

さらに、平成14年には、入善漁業協同組合が海洋深層水活用施設に隣接して養殖施設を整備しました。これは、海洋深層水の特性とブランド力をフルに活用した全国で初となるアワビ養殖のための施設です。

サケ・マスの北洋漁業など古くから漁業の盛んなこの地域においても、漁業者の高齢化や後継者不足により漁業は衰退傾向にありました。

しかし、この深層水を活用したアワビ養殖事業は、衰退する水産業の活性化のための新たな起爆剤となり得る取り組みとして現在、注目されています。

天然のミネラルが豊富に含まれた深層水で養殖されたアワビは、肉厚、かつ、やわらかな歯ごたえが特徴で、高付加価値の商品として大変人気があり、今後も「安全・安心・良質・高付加価値」の入善ブランド水産物として、さらなる養殖技術の確立や販路拡大とブランド化に期待がかかるところです。

深層水企業団地から新たな産業を

平成17年には、深層水取水施設に隣接して約14,000m²の面積を有する「入善海洋深層水企業団地」の造成が行われました。

この企業団地は、深層水を活用する新たな産業の立地促進や起業支援のために整備され、専用管により深層水を直接利用することもできます。


深層水から製造された天然塩「入善の塩」

高速道路や国道などの主要交通施設からの距離など、立地条件の良好さもあいまって、さらなる深層水の活用が期待される中、同年には、立地第1号企業として深層水から天然塩を製造する製塩会社が立地しました。

その製塩法は、旧来の直煮法を基本に改良した低温真空蒸発という方法により生産しています。

「当社の塩は料理の味を引き出すと言われます。特に最近、焼肉店ではタレよりも塩が人気で、当社の塩を肉に振ると『ジワッと他の塩とは溶け方が違う』と評判はうなぎのぼりです」と語るのは、代表の田村勗(つとむ)さんです。できあがった塩は、舐めると口の中にサーッと浸透し旨味が広がると言います。

このミネラル豊富な深層水から製造された「入善の塩」は、新たな入善海洋深層水ブランド商品として全国で販売されています。

また、平成21年には無菌包装米飯の製造・販売会社が操業を開始しました。

この会社では、海洋深層水の低温性に着目し、製造段階で高熱が発生する工場内の冷却用に深層水が利用され、深層水で冷却された水が施設内の配管を循環しています。


工場内の冷却用にも
深層水は利用されている

このことにより、工場の冷房に係るコストの大幅な削減が見込まれ、工場機能の効率化を図るとともに、自然との共生や環境への配慮を実現するなど、企業活動に大きな効果をもたらしています。

これも、深層水による産業振興のひとつの形として、大変有意義な利用方法と考えられます。

このように深層水の特性は、さまざまな分野で利活用され、産業の振興に大きな効果をもたらしています。

また、これらの企業立地は、新たな産業の創出のみならず、この不況下において地元での新規雇用を創出するなど、地域経済の活性化においても大きな効果をもたらしており、まさに、海洋深層水は、当町の経済活動の活性化の一翼を担っていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

こうしたことから、この企業団地はさらなる深層水活用の拠点として、そして入善海洋深層水ブランドの発信拠点としても、今後ますますの発展が期待されています。

おわりに〜深層水のさらなる利用と可能性に向けて〜

このように海洋深層水は、その特性とイメージからこれまでにさまざまな分野において研究・開発が進み、利活用されているものの、まだまだ注目され始めてから日が浅く、未知なる可能性を秘めた資源です。今後もさらなる研究が進められ、深層水の成分とその有効性が解明されるとともに、新たな利用の可能性が発見されるものと期待されます。


入善海洋深層水活用施設

入善町においても、より一層の利活用の促進を図るとともに、企業や大学等とも連携し、その可能性を少しずつ解明していく必要があります。

また、町では、「深層水利活用促進支援事業」を創設しており、深層水の利活用による新たな商品開発や生産、事業化に向けた調査研究に対して支援を継続しています。

このように地道ではありますが、確実な事業の継続が、これからも新たな産業の創出と振興のための一助となると確信しています。

海洋深層水による産業の振興は、まだまだ始まったばかりと言えるでしょう。

【お知らせ】

今年も「入善海洋深層水ふれあいデー」を開催します。

日時:平成21年7月19日(日)午前10時から

場所:入善海洋深層水パーク(富山県下新川郡入善町下飯野251-1)

たくさんのイベントと深層水関連商品で、皆様のご来場をお待ちしています。

また、毎月第3日曜日は「深層水無料デー」です。

日頃のご愛顧と、より多くの皆さんに入善海洋深層水に親しんでいただくために、深層水(原水、濃縮水、脱塩水)をお一人様20Lまで無料で分水しています。

料理の味付けやコーヒー、お茶、お風呂などにも。皆さんのアイディアで、もっと深層水を身近に感じてください。

この機会にぜひ「入善海洋深層水」をご利用ください。

名水のまち 海洋深層水のまち 入善
入善町公式サイト
(入善町のホームページが開きます)
富山県下新川郡入善町入膳3255
入善町 農水商工課
tel:0765-72-1100 fax:0765-74-2108
とやま経済月報
平成21年7月号