特集

中小企業の経営安定を支える金融対策

富山県商工労働部経営支援課

1 はじめに

本県経済の現状については、在庫調整の進展を背景に生産面で下げ止まりの動きが見られるところですが、中小企業の経営環境は、米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発した金融資本市場の混乱、100年に一度の未曾有の危機ともいわれる世界同時不況、原油・原材料価格の乱高下など、めまぐるしく変化する社会経済情勢の下で、きわめて厳しいものとなっています。

こうした状況を踏まえ、相次いで打ち出された国の経済対策にも呼応して、県では、中小企業の資金繰り支援に万全を期すべく、積極的な金融対策に取組んできました。

2 原油・原材料価格の高騰の影響

原油価格は、中国やインド等の新興国における需要増加や産油国の政情不安、さらには世界的な資金のダブつきによって、投機資金が原油市場に流入したことなどにより、平成19年7月には1バレルあたり70ドルを突破し、平成20年初めに1バレル当り100ドルとなり、7月には147ドルと史上最高値を更新しました。

また、原油ばかりでなく、原材料の価格も高騰し、中小企業の収益に多大な影響を及ぼしています。企業間競争が激化するなかにあって、原材料・資材コストの増や、資材調達や納入時の輸送コストの増を、製品価格に転嫁することが困難な状況となり、企業収益の圧迫に繋がっています。

県内企業においても、原油・原材料価格の上昇が収益を圧迫している企業の割合は9割以上となり、価格への転嫁が「困難」「できていない」とする企業が7割以上を占めていました。(平成20年6月調査)

加えて、平成19年6月の改正建築基準法の施行に伴い、建築着工が大幅に減少したことにより、建築関連業種における業況悪化が顕著となっています。

図1 県内企業の原油・原材料高による収益への影響

図2 県内企業の原油・原材料高の価格への転嫁状況


(原油・原材料高及び雇用動向に関する調査(平成20年6月実施))

★県の対応 「原油価格等の上昇・建築着工の減少に伴う緊急融資」の創設

こうした状況を踏まえ、平成19年12月に、

1原油・原材料価格高騰により経営上の影響を受けた中小企業者、

2建築着工の大幅減少により業況が悪化している建築関連業の中小企業者の資金繰り支援のため、他県に先がけて「原油価格等の上昇・建築着工の減少に伴う緊急融資」を創設しました。

(1)対象要件

1売上げ減少
(最近1ヶ月の売上高減少率 前年同期比△10%以上)

2原油仕入れ価格の上昇
(原油仕入れ価格上昇率  前年同期比+20%以上等)

(2)融資限度額

8,000万円(H20.10.1〜) ←6,000万円(H19.12.5〜)←5,000万円(従来)

(3)融資利率

年1.90%以内

(4)融資期間

7年以内

○本緊急融資の利用実績(H19.12.5〜H20.10.30):243件、約35億円

3 リーマン・ショックと世界同時不況

サブプライム問題はさらなる波及を見せ、平成20年9月の米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻以降、世界的に信用収縮が広がり、世界の主要株式市場では記録的な株価下落が続くなど金融資本市場の混乱により、世界経済は大恐慌以来といわれる金融危機に発展しました。

この金融危機は、実体経済にも深刻な影響を与えており、米国の消費減退による世界的な対米輸出の急減を受け、世界貿易が急速に後退するなど、世界同時不況を引き起こしています。また、こうした金融資本市場の混乱やアメリカ経済の景気後退などを背景に、急激な円高が進み、わが国経済ひいては地域経済や住民生活に対して深刻な影響を及ぼしました。

★県の対応

「経済変動対策緊急融資」の創設
「緊急経営改善資金」(借換資金)の拡充

こうした急激な景気の悪化により、経営環境が厳しさを増している県内中小企業者の資金繰りを支援するため、平成20年10月末には、国の緊急保証制度の実施にあわせ、次の緊急金融対策を実施してきました。

また、資金需要の増大に対応するため、平成21年1月には46年ぶりに1月議会を開会し、1月補正予算において、新規融資枠の大幅拡大(144億円)にも取組み、資金供給の円滑化に万全を期しました。



4 平成21年度中小企業金融対策の拡充

日本銀行が4月1日に発表した日銀短観によれば、企業の景況感は全国的に急速に悪化しており、北陸地域は全国の状況よりも一層悪化している厳しい状況となっています。

最近の本県の景気については、悪化のテンポは緩やかになっているものの、依然厳しい状況となっています。また、企業の雇用情勢については、4月の有効求人倍率が0.46倍に低下するなど、さらに厳しさを増しています。

図3 企業の景況感の推移(日銀短観)

※2009年6月は3月調査の先行きの数値

業況判断(%)=「良い」の社数構成比−「悪い」の社数構成比


県内企業の今後の資金繰りについても、売上・利益の減少、借入返済が過大であるなどの理由から、苦しくなると予想した企業が約5割を占めています。(平成21年2月調査)

図4 平成21年3月の資金繰り状況


(県内経済実態調査(平成21年2月実施))

このため、平成21年度当初予算においては、小規模企業の資金繰り円滑化のための短期運転資金を創設するとともに、経済変動対策緊急融資・緊急経営改善資金(借換資金)を含めた経営安定3資金で新規融資枠300億円を確保しました。これは、平成20年度当初融資枠の1.5倍にあたります。

また、5月からは、経済変動対策緊急融資の融資利率・保証料率を合計で0.5%引き下げ、厳しい経営環境にある中小企業への資金繰り支援をさらに強化したところです。

さらに、6月補正予算では、緊急経営改善資金(借換資金)の新規融資枠を100億円拡大したところです。

【経営安定3資金】 融資枠300億円を確保(6月補正予算+100億円)

【融資実績と効果】

緊急融資・借換資金の融資実績は、これまでに4,890件、646億円(H21.6.12まで)の実績がありました。

図5 緊急融資・借換資金の融資実績の月別推移
富山県の倒産件数・負債総額の状況

また、県内の企業倒産の状況を見てみると、本年の1〜5月の倒産による負債総額は、前年同期と比較すると、244億円から107億円(△137億円、△56.1%)となり、前年同期の1/2を下回る大幅な減少となっています。

こうしたことから、経済変動対策緊急融資や緊急経営改善資金は、県内中小企業の資金繰りと経営の安定に大きな役割を果しているものと考えています。

5 おわりに

本県の経済は、依然として厳しい状況にありますが、今後とも県内経済情勢を見極めながら、国の経済対策とも連携して、元気とやまの創造を担う中小企業のニーズに応えられるよう、円滑な資金供給に努めてまいります。

とやま経済月報
平成21年7月号