特集

能越・東海北陸自動車道が
氷見市の観光産業に与えた影響と今後の課題

氷見市産業部商工観光課

1 はじめに


富山湾越しに望む立山連峰

氷見市は、人口約55,000人、面積約230平方キロメートルで、能登半島の東側付け根部分に位置しています。

市の東側の海岸線には、万葉時代の面影を残す白砂青松の長浜があり、晴れた条件の良い日には、富山湾越しに3,000メートル級の山々が連なる立山連峰の雄大な姿が望まれます。

氷見漁港には、天然のいけすと呼ばれる富山湾から四季を通じて多くの種類の魚が水揚げされ、初夏の「マグロ」、冬の「寒ブリ」、そして「氷見いわし」は広辞苑にも掲載されるほど有名です。また新鮮な魚介類の他にも、氷見牛や氷見うどん、ひみ穂波(氷見産コシヒカリ)、ハトムギ、白ねぎ、自然薯、稲積梅等の多くの特産品があり、まさに氷見市は山海の新鮮な食材に恵まれた“食都しょくのみやこ”と言えます。

さらに、日本海側随一の大きさを誇る前方後方墳「柳田布尾山古墳」や国指定史跡の「大境洞窟住居跡」、万葉の歌人大伴家持ゆかりの史跡など、歴史ロマンにあふれた地域でもあり、市内各地に温泉があり、「能登半島国定公園 氷見温泉郷」としても知られています。

このように地域資源に恵まれている氷見市では、市内の就業者約28,000人のうち飲食店、宿泊業の就業者数は4.6%の約1,300人(「平成17年国勢調査」)、また、氷見市観光協会の会員数は約170で、そのうち宿泊施設会員は約50(収容人数約2,500人)、飲食店会員は約30となっています。

2 能越自動車道の氷見インターチェンジの供用開始と東海北陸自動車道の全線開通

氷見市では、「第7次氷見市総合計画」において、「6万人定住と200万人交流の都市づくり」を掲げ、200万人交流の実現に向けて、これまで地域資源を最大限活用しながら交流人口の拡大を図ってきました。

このような中で、平成19年4月に能越自動車道が氷見インターチェンジまで開通し、平成20年7月には東海北陸自動車道が全線開通、さらに平成21年10月には能越自動車道が氷見北インターチェンジまで延伸され、氷見市と中京圏が高速ネットワークで結ばれました。

これに伴い、能越自動車道の高岡北-氷見インターチェンジ間(氷見市中谷内地内)の交通量も、順調な伸びを示しています。(図1)

図1 能越自動車道(中谷内)月計 交通量

(国土交通省北陸地方整備局富山河川国道事務所より改編)

3 氷見市の観光客の動向

こうした高速ネットワークの整備は、氷見市の観光産業にも大きな影響を与えました。

平成20年の氷見市の観光客の入込総数は、図2のとおり平成19年に比べ7.4%増加し、1,835千人となりました。これは、統計を取り始めた平成元年からでは過去最高で、このうち特に県外観光客が27.2%の増加となっています。

また、平成20年の宿泊施設利用客は、日帰り客と宿泊客の総数で460千人となり、平成19年に比べ7.7%の増加となりました。(図3)内訳では、県外客と日帰り客の伸びが大きく、県外客は前年比15.2%増、日帰り客は13.4%増となりました。

図2 氷見市 観光客の入込数

(氷見市商工観光課)

図3 氷見市 宿泊施設利用客数

(氷見市商工観光課)

一方、能越自動車道氷見インターチェンジに近い「氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館」の平成20年の来館者数は前年比21.9%増の744千人で、観光バスの台数も前年比56.1%増の6,965台となりました。観光バスを地域別でみると、図4のとおり東海地方からの台数が約3倍になっていることから、東海北陸自動車道の全線開通の効果が大きく表れていると考えられます。特に、全線開通後初の大型連休となった平成21年5月は、ETCの休日特別割引の相乗効果もあり、「氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館」では駐車場待ちの車が長い列を連ね、また、近隣の商店街でも昼食時に多数の行列ができる店も見られました。

※氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館
  氷見漁港に隣接する道の駅で、とれたての鮮魚、地元産の農産物、地酒等を販売しています。館内には新鮮な魚を使った海鮮レストランや氷見うどんの店があり、氷見ならではの食事も楽しむことができます。

図4 海鮮館 地方別にみた観光バス入込台数

(氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館)

4 氷見市における近年の取り組み

前述のとおり、「氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館」へは多くの人が訪れていますが、市全域への誘客にはなかなか結びついていない状況にあります。このため、市全域への誘客と宿泊者数の増加が課題となっており、これに関連した取り組みの中から、「まんが」と「食」、「花とみどり」に関した事例をご紹介します。

(1)まんが

まんがロード案内
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氷見市は藤子不二雄A氏の出身地であり、藤子不二雄A氏の漫画を活用したさまざまな施設などを官民が連携して整備しており、子供から大人まで楽しめるまちづくりを進めています。市の中心部を流れる湊川にかかる忍者ハットリくんのカラクリ時計から道の駅氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館までの商店街通りは、「まんがロード」と呼ばれ、忍者ハットリくんとその仲間たちなど多くのキャラクターのモニュメントが点在しています。

主な整備内容
平成4年

・忍者ハットリくんが登場する「湊川カラクリ時計・虹の橋」の整備

平成8年

・8種類の魚キャラクター「氷見のサカナ紳士録」モニュメント16体を比美町商店街に設置

平成16年

・JR氷見線などに「忍者ハットリくん列車」運行

平成19年

・比美町商店街に藤子先生の作品を展示する「氷見市潮風ギャラリー」をオープン

平成20年

・忍者ハットリくんなどのモニュメント7体や大型シール、3Dパネルを、比美町商店街のアーケードの柱や郵便ポストに設置

・忍者ハットリくんの着ぐるみを購入

平成21年

・中央町に、忍者ハットリくんなどのブロンズ像を設置したポケットパークを整備するとともに、忍者ハットリくんなどのモニュメント4体を設置

・比美町商店街に隣接し、藤子先生の生家でもある光禅寺の境内に、忍者ハットリくんなどの石像を設置

・氷見漁港内の製氷施設に、忍者ハットリくんの巨大壁画を整備

・民間事業者から忍者ハットリくんの着ぐるみ30体の寄贈を受ける

(2)食

「氷見三昧御膳」の案内
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氷見市は海、山、里の幸に恵まれており、これまでも多くの観光客が新鮮な食材を求めて氷見を訪れています。特に、東海北陸自動車道全線開通以後は日帰り客の大幅な増加に伴い、市内での昼食の需要が急増したことから、氷見の食材を使った昼食メニューの提供が望まれるようになりました。

こうしたことを受け、平成21年7月から、氷見市内の民宿、旅館、割烹、寿司屋など28店舗が、「氷見三昧御膳」と名付けた3千円台を中心とした昼膳を提供しています。この「氷見三昧御膳」は、旬の魚や農産物、氷見牛、氷見うどんなど四季折々の贅沢な味が楽しめるようになっています。

また、近年人気を集めるようになってきた「氷見カレー」は、平成20年11月に発足した「氷見カレー学会」が中心となって推進しているものです。「氷見カレー学会」は、カレーによる地域おこしに賛同した市内の飲食店により結成され、現在市内21店舗が加盟しています。「氷見カレー」は氷見産煮干を使用することが条件で、カレーライスやカレーうどん、カレーパスタ、カレーパンなどその種類もバラエティに富んだものとなっています。

「氷見ゆったりまちなか巡り」のリスト
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氷見市では、平成19年度から市街地の観光スポットや神社、仏閣を巡る「氷見ゆったりまちなか巡り」を始めています。また平成21年11月には、中心市街地の味処を巡る「食のまちなか巡り」を企画したところ、第1回目の参加者が募集定員の100名を超え、大変好評を博しました。

(3)花とみどり


氷見市海浜植物園

平成8年5月にオープンした氷見市海浜植物園では、マングローブの再現林をはじめ、ヤシ類やハイビスカスなど熱帯・亜熱帯性の海浜植物を展示しています。また、展示庭園には日本の海浜植物を4つのエリアに分類して展示し、海浜散策園では、遊歩道を散策しながら植物観察を楽しむことができます。年間入園者数は、平成17年で約32,700人でしたが、「蝶とカブトムシ」親子ふれあいまつりなどを開催した結果、平成18年には53,000人となり、さらに平成21年1月から「市民の花とみどりの活動拠点施設」と位置づけ、特別展示や企画展などの開催時以外は入園料を無料としたことに加えて、東海北陸自動車道の全線開通やETC割引効果により、平成21年10月末までの入園者数は約43,000人で、対前年同月比で31%の大幅な増加となりました。


フォレストフローラル氷見あいやまガーデン

また、平成21年4月、富山湾を一望できる丘陵地に花の西洋風公園「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」がオープンしました。これは民間事業者により整備されたもので、園内4.4ヘクタールの敷地にはフォーマルガーデンやローズガーデン、ロックガーデンなど5つの庭園が整備され、40,000本のチューリップや180種類、2,000本以上のバラなど、合計65,000株の花が植えられています。なお、オープン後7か月間の来場者数は約54,000人となっています。

5 今後の課題

図3の宿泊施設利用者数でみられるように、平成21年6月以後の市内宿泊施設利用者数は、前年度実績を割り込み、月によっては平成19年の実績を下回っています。氷見市の観光産業に大きな影響を与えた「能越自動車道の氷見・氷見北インターチェンジの供用開始」と「東海北陸自動車道の全線開通」も、時間の経過とともにその効果が薄れ、今後さらに能越自動車道が延伸していくことに伴い、氷見市が能登半島を訪れる人々の通過点になってしまうことが懸念されています。

今後の課題としては、次の3点が考えられます。

(1)氷見市の特色ある地域資源を活用し、「滞在型観光」を推進するための観光商品開発やその受入体制の整備

(2)観光情報を提供する氷見市観光協会等のホームページの充実(イベント・風景などの動画配信等)

(3)観光客に喜ばれる「おもてなし」の習得や氷見の食材を活かした料理メニューの研究・開発

平成26年には北陸新幹線の金沢までの開業が予定されており、首都圏と北陸のアクセスが大きく向上することとなります。今後、この開業に向けて、氷見市の観光産業関係者が互いに連携し、これらの課題に取り組んでいくことが求められています。

氷見市の観光・イベントの最新情報は下記ホームページよりご覧ください。

氷見市役所http://www.city.himi.toyama.jp/
氷見市観光協会http://www.kitokitohimi.com/
とやま経済月報
平成21年12月号